18話 ギルドマスターに会います
部屋の中に入るとそこには、金色の長い髪を持つお姉さんが笑みを浮かべて立っていた。
「いらっしゃ~い、よく来てくれたわね~」
力が抜けるようなほわわんとした声で出迎えてくれる。想像していたのと正反対だよ。実は秘書さんとかで、ギルドマスターは他にいるとか――――
「あらあら、ちゃんと私がギルドマスターよ~」
――――って心の中を読まれた!何で……。
「なんで心の中が読まれたって顔をしているわね~、ふふふ、なんででしょう~」
ま、まさか心の中を読むユニークスキルとか……! そうなると私たちが隠していることも……って考えちゃダメ!
「あらあら、うふふ~」
「っ!」
「おいケリー、いたずらするのはその辺にしておけ。狐の嬢ちゃんの顔がすごいことになってるぞ」
いたずら……? というか、ウルゴさんに言われてはじめて顔がこわばっていたことに気が付いた。
「あら、ごめんね~。あまりにも可愛かったからついね。心配しなくても大丈夫よ、心の中なんて読めないから。はじめて私を見る人はみんな同じ事を考えるからそれでよ~」
そ、そういうことだったのね。びっくりしたぁ。
「それにしても~、話には聞いていたけど実際見てみると本当に可愛いわね~!」
「あわわ」
「わぷっ」
ケリーさんが笑みを浮かべながら近づいてきたと思ったら急に私とりんねえを抱きしめてきた。顔をケリーさんの胸にうずめる形になっている。すごく大きくて、やわらかい……。って思ってる場合じゃない。だんだん苦しくなってきたけど、がっちりホールドされて抜け出せない。
「「んー!」」
「ケリー、そろそろ離してやれ。二人とも苦しそうだぞ」
「あら、ごめんなさいね~。ついはしゃいじゃって~」
ウルゴさんのおかげでやっと開放された。ちなみにケリーさんを山とすると、りんねえは丘、私は平原……って自分で思ってて悲しくなった……。
「とりあえず立ち話もなんだし、みんな座って頂戴~」
ケリーさんに促されてソファに座る。
「それじゃあ改めて、セルカークのギルドマスターをやってるケリーよ。よろしくね~」
「リンです、よろしく!」
「ハスナです、よろしくお願いします」
「それじゃあ早速だけど、まず今回の依頼について報告をおねがい」
依頼の話になったからか、急にケリーさんの雰囲気が変わった。さっきまでほわわんとしていたのに。
報告のほうは私とりんねえでして、ウルゴさんが補足する感じで一通り説明した。
「なるほどね、宵の風の報告とも一致しているから問題ないわね。それにしても、本当に二人だけでジェネラルを倒したの……」
「あぁ、途中リンが危なくなったから助けに入ったが、攻撃をしていたのはこの二人だけだな」
「そう、ツインベアを倒したって聞いたときも凄い子がやってきたと思っていたけど、ここまでなんてね。それで…………貴方達は何を隠しているのかしら?」
そう言われてドキッとした。さっきの冗談だったやり取りとは違う、本気の問い。
「どう……して……?」
「おい、ケリー……」
「ウルゴは黙ってなさい。どうしてか、ね。ウルゴからも貴方達の生い立ちは聞いているわ。それでも今回の報告を聞いていると、まるで力を隠しているような……いえ、貴方達でさえ自分の力を把握し切れていない、そんな感じがするわ。そうなると、おじいさんに教えてもらったっていう話に違和感を感じるの」
じっとケリーさんに見つめられる。どうしよう、本当のことを話す? でもそれで捕まったりしたら私もりんねえも……。
「わ、私は……」
「はーちゃんをいじめないで!」
りんねえがケリーさんから私をかばうように抱きしめた。
しばらくにらみ合いが続いた後、ふっとケリーさんの雰囲気が柔らかくなった。そして立ち上がって私達のほうへ近づき、柔らかく包み込むように抱きしめてきた。
「怖がらせてごめんね。でも心配だったのよ。特にハスナちゃんが常に丁寧な言葉遣いで、周りから一歩引いて信用しすぎないようにしている感じがするの。きっと昔何かあって信用するのが怖くなったのね」
私達の頭を撫でながらやさしく話しかけてくる。そして言っていることは全部あたっている。どうしてこの人は……。
「これでも母親だからね、貴方みたいな子供がそんな考えになることが心配なの。だからね、少しずつでもいいから歩み寄って欲しいし、隠していることも私が力になれるのなら力になりたいと思ってる。いっそ、私のことをお母さんって思ってくれてもいいのよ?」
「おい、ケリー!」
「いいじゃない、こんな可愛い娘なら大歓迎よ~」
ケリーさんに抱きしめられ、とても温かくて懐かしい感じがする。りんねえの方を見ると笑顔で頷く。
「この人ならきっと大丈夫だよ、はーちゃん」
今日初めて会ったばかりだけど、大丈夫だって私も思う。だから、話してみよう。私達の秘密を。
「じゃあ聞いてください……」
ケリーさんに抱きしめられたまま、ぽつりぽつりと話していく。
「ぐすっ、急に知らない世界に飛ばされるなんて、なんてかわいそうなの!」
「あ、あの、私達は大丈夫ですから、ね。よしよし」
どうしてこうなった。
さっきまで私が慰められていたはずなのに、気が付いたら私がケリーさんを慰めてるよ。自分で言うのもなんだけど、さっきまでシリアスな雰囲気だったのに……。
「さすがケリーだな」
「……いつもこうなんですか?」
「あぁ、ケリーの真面目は数分しかもたん。そして普段のケリーはどんな雰囲気でもぶち壊す」
なにそのシリアスブレイカー。ある意味最強じゃない。
「ぐすっ。何かあるとは思っていたけど、ここまでだったなんて……。本当に大変だったわね」
「りんねえと一緒だったので大丈夫です。それにしても、結構突拍子のない話だと思うんですが、信じるんですか?」
「貴方達が嘘をついていないことぐらい分かるつもりよ。それに例が無いわけじゃないからね~」
「そうなんですか?」
なにそれ。ということは他にも別の世界からやってきた人がいるんだ。
「異世界人の召還魔法があったはずだ。だか相手の合意がないと呼び出せないから、嬢ちゃんたちみたいに問答無用でいきなりってわけじゃないな」
合意がないとダメなんだ。問答無用が普通だと思ってたよ。
「じゃあどこかで同じ世界の人と会えるかもしれないんだね!」
「といってもそう頻繁に使うものじゃないからな」
りんねえがしょんぼりした。
さて、異世界人って話が割りとすんなり受け入れられたから、あとはユニークスキルのことも聞いてみよう。
「もう一つ聞きたいんですが……」
「なになに、何でも聞いて~。むしろすべてをさらけ出しちゃっていいのよ~」
すべてをさらけ出すって……。泣き止んだ途端にいつもの調子に戻ったケリーさん。
「ユニークスキルのことなんですが、今三つもっているんです」
「三つ!? 前聞いたときは二つって言ってなかったか!?」
そう、前までは二つだったんだけど、ジェネラルを倒した際にもう一つ覚えたんだよね。ちなみに私が狐の複合魔術でりんねえが猫の回復術。
「ジェネラル倒したら覚えました」
「私もだよー」
「覚えたって、そうぽんぽん覚えられるようなもんじゃねぇぞ……」
「ちなみにどんなものなの?」
「私は狐の収納術、狐の鑑定術、狐の複合魔術でそれぞれ大きさ量問わず収納できる。色々なものの情報が分かる。複数の属性を混ぜられるです」
「わたしのは猫の索敵術、猫の観察眼、猫の回復術で敵を見つけられる。敵の弱点が分かりやすくなる。傷や状態異常の回復が早くなる、だよ!」
「どれも聞いたことが無いわね~。それに効果も凄いわ~」
「ちなみに私のほうは副次効果でユニークスキル覚えるたびに尻尾が増えます」
尻尾を三本にしてみせる。う~ん、やっぱり邪魔だね。
「何の意味があるんだよ!」
「でもこれは……とっても気持ちがいいわ~」
「ちょ、ケリーさん。尻尾は、尻尾はだめぇ!」
あわてて尻尾を一つに戻す。危なかった、本当に何でこんなに敏感になってるの!
「あぁ、もったいないわ~。でも、いきなり呼ばれたと思ったらそれだけのユニークスキルに強さを身に付けられるなんて、謎だらけね~」
「でもこの力のおかげでここまでこれましたし、それにこの世界に呼ばれたのも、ケリーさんみたいにいい人に出会えたので……その……悪くは無いかな、と」
うわぁぁぁ。なに言っちゃってるの私。ついぽろっと恥ずかしい事言っちゃったよ!
「あぁなんて可愛いの! もうだめ、我慢できない。うちにもって帰るわ~!」
「もって帰るな!」
「あらウルゴちゃん、私と殺る気?」
「おいまて、ちょっとまて、正気に戻れ、やる気って絶対違う意味で言っただろ!」
「大丈夫よ、手加減はするわ」
「そういう問題じゃねぇよ!」
「ダメだよ! はーちゃんは私のだよ!」
「お前も混ざってくるんじゃねぇ!」
私の一言で大変なことに。どう収拾付けよう。あと私を物扱いしないで……。
「はぁ、はぁ。まったく、ケリーのは冗談にならん……」
冷や汗をかきながらぐったりしているウルゴさん。
「もう、ちょっとしたお茶目じゃない~」
「お茶目ってレベルじゃなかったぞ……」
お疲れ様、ウルゴさん。しかし、ここまで焦らせるなんて、ついこのほわわんとした雰囲気で忘れるけど、ケリーさんギルドマスターだもんね。
「そういえば、ケリーさんって強いんですか?」
「あらあら、私は見た目どおり、か弱い女性よ~」
「どこがだ。狐の嬢ちゃん、だまされるなよ。こう見えて『腹黒魔女』『暗黒の微笑み』なんて二つ名で呼ばれて恐れられているんだぞ」
あ、暗黒の微笑みとか……。このほわわんとした笑みを浮かべながら大量の敵をばったばったとなぎ倒すケリーさんを想像しちゃったよ……。これは恐ろしい。
「あらあらあらあら~。う・る・ごちゃ~ん。面白い冗談ね~………………………………死にたいのかしら?」
一瞬にして部屋の空気が変わる。そして私もりんねえも耳をたたみ尻尾がぶわっとなる。だめだ、ケリーさんには逆らわないでおこう。