17話 宴会です
「「いただきまーす!」」
私たちは今、若葉亭にいます。
あの後すぐギルドの方へ向かい、ゴブリンの巣討伐完了の報告をした。みんな無事だったことに、報告を受けたイメリアさんは喜んでいた。ただみんな疲れていたので今日は軽く説明をして、後日詳しく話すことに。私もりんねえも魔法の使いすぎと動きすぎでお腹が限界だったんだよ。
「これはうまいな」
「えぇ、本当に美味しいですね。しかし、ツインベアを倒したのがまさかハスナさんたちだったとは」
そして今私たちの前に並んでいるのは、最初の依頼で倒したツインベアのフルコースだった。
若葉亭で宴会をすることに決まったとき、ツインベアのお肉を持っていたことを思い出した。エリンさんに相談したら大喜びで調理をしてくれ、どうやら料理人からすると、高ランクの食材で料理できるのはとても嬉しい事らしい。
さて、お待ちかねのフルコース。一品目は軽くあぶり塩胡椒で味付けしたシンプルなもの。お肉がちょうどいい歯ごたえで噛むたびに旨みがあふれ出す。あぁ幸せだ。
「最低限の味付けだけだから、お肉の旨みが際立つわね」
「ですね、噛めば噛むほど旨みがでます」
二品目は甘辛いタレで香ばしく焼いた、ご飯がほしくなる一品。タレを焼いた食欲をそそる香り。そしてお肉の甘みとタレの甘みのコラボでお口の中が幸せです。
「っかぁ~! このタレがたまらん!」
「この濃い味付けがいいねぇ!」
最後の一品は、お肉を野菜を煮込んだスープ。もともと作ってあった野菜スープにツインベアをいれ、少し味を整えて煮込んだだけ。そんなに時間が掛かっていないのに、もうお肉が柔らかく味がしみていた。スープの方にもお肉の旨みが溶け出し、最高の一品だ。
「はぁあったまる」
「「もう幸せ……」」
美味しすぎてりんねえの顔がとろけてる。きっと私もこうなってるんだろうな。ウルゴさんとクーランドさんはお酒を片手にまだまだ食べている。オルランドさんとキャロさん、カリナさんはゆっくりと味わって食べていた。
「本当に美味しいわね」
「Cランクのお肉とか、大体売ってしまうから食べる機会少ないのよね」
「ですね。食材になる部分は結構いい値になりますからね」
そう、Cランクぐらいなら良く食べるんじゃないかと思うけど、冒険者は大体お金にしてしまうらしく食べる機会は少ないみたい。
でもこんなに美味しいなら私はお金にせずに食べたいなぁ。私の収納術だったら腐らせずに保管できるから色々集めてみるのも面白そうだね。
みんなも大体食べ終わり、のんびりとしていたらウルゴさんたちの所になにか黒いものが運ばれてきた。なんだろう?
「ウルゴさん、それは?」
「これか? これはツインベアの肝だな。酒飲みにはちょうどいいおつまみだが、子供にはまだ早いぞ」
む、そういわれると気になって食べたくなってしまうじゃない。
「お、おい」
ウルゴさんの皿から一つ奪い取り食べてみる。さて、どんな味……か…………!
「っっっ~~~~~!」
「あっちゃぁ、食べちまったか」
苦い、苦い! な、なにこれ苦すぎる! み、水は、水はどこ!
「ちょ、嬢ちゃんそれは!」
テーブルにあった水の一気に飲む……! って今度は喉が……熱い……。
「それは酒だ! お、おい大丈夫か?」
ふぁ、おさけ、それでのどがあついんだ。
「だ、だいじょうぶれしゅ」
あわわわ、かおがぽかぽかであたまがふわふわしてきた。
「はーちゃ……」
「おい、だいじょう……」
「ハスナさ……」
あぁだんだんみんなのこえがとおく……
「も、もんだいないれしゅ……よ……」
「ぅん……」
あれ、ここは……ベッドの上? 昨日はたしか若葉亭で宴会をして……あぁそっかお酒飲んじゃって倒れたのか。
やっと状況を把握でき、とりあえず起き上がろうとすると――――
「っ~!」
――――すごい頭痛が襲ってきた。なにこれ、これが二日酔いってやつなの……。まさかこの歳で経験するなんて。
「うぅ、ガンガンするぅ」
りんねえはまだ寝てるみたいだからとりあえず着替えて先に下りる。
「あら、おはよう。その様子だと二日酔いになったみたいだねぇ」
「おはようございます……。分かりますか?」
「耳も尻尾もペタンとなってつらそうな顔してるから丸分かりだよ」
あぁ、たしかにペタンとなってた。いつも通りにしよう、と思ったらまた頭痛がしてあきらめた。
「はいよ、お水飲んだら少しましになるよ」
「ありがとうございます」
エリンさんからお水を受け取り一気に飲む。あぁ美味しい。
「お、もう起きたのか。大丈夫……じゃなさそうだな」
「はーちゃんおはよー」
ウルゴさんとりんねえが一緒に降りてきた。
「頭が痛くて大丈夫じゃないですよぅ」
ぽろっと弱音が出てしまった。でもこれは無理だ、痛すぎる。
「まぁしばらくしたら直るから我慢しろ。しっかし急に倒れるからびっくりしたぞ」
「うぅ、だってまさかお酒だとは思わなくて……。飲んだのも初めてだったし」
「初めてか、そりゃあぶっ倒れるわ。あの酒けっこうキツイやつだったしな」
通りで喉が熱いわけだ。焼けるかと思ったよ。
ウルゴさんと話していたらエリンさんが朝食を持ってきてくれた。けど、あの黒い物体はまさか。
「はい、朝食だよ。あと昨日の残りのツインベアの肝、これ二日酔いに効くからたべな」
ツインベアの肝……だと……。 あの苦さももう一度なんて……
「苦さを我慢するか、頭痛を我慢するか、二つに一つだな」
「………………食べます」
頭痛には勝てなかった。
頭痛も治まり、昨日の報告をしに三人でギルドへ向かうことに。
ギルドに入るとすでにオルランドさんたちが集まっていた。
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます。ハスナさんは大丈夫……ではなさそうですね」
オルランドさんもウルゴさんと同じ反応をした。
「あぁ、見事に二日酔いになってたぞ。今は治まっているが、治すためにツインベアの肝を食べてたから気分が悪いんだろう」
「それは……災難でしたね」
「あれは私も苦くて苦手だよ……」
「その苦味がいいんじゃねえか」
「ハスナちゃん大丈夫? お姉さんがなでなでしてあげようか?」
オルランドさんが苦笑いし、クーランドさんがキャロさんに肝の良さを語っている。カリナさんはぶれないね、離れておこう。
「そういえば、そっちはもう報告終わったのか?」
「ええ、ちょうど先ほど終わりました」
どうやらもう終わったらしい。結構早く来たと思ったんだけど、オルランドさんたちの方が早かったんだね。
「あ、そこの二組こっちに来て」
入り口近くで話し込んでいたらイメリアさんに呼ばれたので、オルランドさんたちと受付の方へ向かう。
「揃ってる内に報酬を支払うわ。今回はゴブリンジェネラル討伐ということで金貨二十枚、それと素材の買取になるんだけど……昨日何も持って帰ってこなかったって言うことは今回もハスナちゃん?」
「はい、そうです」
「じゃあ奥の部屋で出してくれる?」
イメリアさん言われ、前と同じように奥の部屋で仕舞っていたゴブリンたちを出す。ゴブリンにナイトにマジシャン、そして最後にジェネラルを出す。さすがにこの部屋で全部出すと圧巻だね。全部出し終わり振り替えるとみんな引きつった顔をしていた。
「すごい光景だな……」
「本当に全部入ってたんですね……」
「あのポーチ、私もほしいわ」
「私はハスナちゃんが欲しいわ」
「……なにさらっとすごいこと言ってんのよ! うっかり流すところだったわ……。そろそろ自重しないと本当に嫌われるわよ」
ほんとだよ。この流れで言うとは思わなかったよ。キャロさんに忠告されてやっと気付いたのか、カリナさんが青ざめた顔でこちらを見てきた。
「は……ハスナ……ちゃん……?」
いや、そんな捨てられた子犬のような目で見られても。
「…………」
見られても……
「………………」
みられ……
「……………………」
「変なことさえしなかったら嫌いにならないですから、その目で見るのはやめてください……」
折れたよ。あんな目でじっと見つめられたら折れるしかないよ……。あ、すごい笑顔になった。なんでこんなに気に入られたんだろうね。
「ほんとにこのダメエルフがごめんね、私からもよーく言い聞かせるから」
「はい、お願いします……」
もうキャロさんに期待するしかない。って、こんなやり取りしている間にイメリアさんの査定が終わってたみたい。
「ええと、そろそろいいかしら。買取の方は全部で金貨十枚ね」
「十枚ってすごいですね」
「状態が良い物が多かったからね。特にジェネラルがばらされていないのが大きいのよ。普通ならこんな状態で運ばれないからね」
たしかに、あのまま運ぶのは無理だろうね。
さて、肝心の割り振りだけどこういう時ってどうするんだろうね。
「んじゃ、全部で三十枚だから十五枚ずつだな」
やっぱり頭割りじゃなくてパーティごとになるんだね。
「いえ、それは貰い過ぎですよ。ジェネラルを倒したのはそちらですし」
ウルゴさんが金貨を渡そうとするとオルランドさんがそれを断った。
「そっちがもう片方のゴブリンを殲滅したから、こっちもジェネラルに専念できたんだ。俺たちだけの手柄じぇねえよ」
「そうそう、みんなでがんばったから成功したんだよ!」
「分かりました。それじゃあ頂きます」
りんねえの後押しでオルランドさんが受け取ってくれた。
「じゃあ後の十五枚は譲ちゃんたちにだ」
「いやいや、それだとウルゴさんの分がないじゃない」
「いやいや、飯奢ると言っておきながら、結局譲ちゃんたちにツインベアの肉出してもらったからな。その分だ」
そういえば、そんな事言ってたね。意外と律儀なんだ。
「そういうことなら有難く貰いますね」
「おう、遠慮なく持っていけ」
「よし、ちゃんとまとまったみたいね。報酬の分け方でよく揉めたりするけど、あなたたちなら心配いらなかったわね」
イメリアさんがほっとしている。たしかに、こういう複数パーティでの別け方は揉めそうだよね。今後こういう事があったときは気を付けよう。
「それじゃあ僕たちはこれで。今回は色々いい体験が出来ました。また機会があればよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、いい経験が出来ました。またお願いします」
今回初めてパーティでの戦い方を見れたから為になったよ。常識も教えてもらったし。
「またね、ハスナちゃんにリンちゃん」
「リン、次合うときはもっと男を磨いてくるぜ」
「私はハスナちゃんのパーティに入るわ!」
「だからさっき自重しなさいって言ったばっかりでしょうが!」
キャロさんに引きずられていくカリナさん。本当に最後までぶれなかったねあの人。
「カリナをあそこまで狂わせるとは……恐ろしいな」
「私もあんなカリナ初めてみたわ」
「はーちゃんだから仕方ないよね」
え、私のせいなの!? りんねえも肯定しないで!
「さて、それじゃあ報告を聞こうかしら、と言いたい所だけど……ギルドマスターがあなたたちに会いたいっていってるのよ」
「ギルドマスターがなんで?」
ギルドマスターに呼ばれるとか、厄介なことに巻き込まれそうな予感が。
「そもそもハスナちゃんたちの年齢で冒険者っていうのが珍しいし、その上ツインベアとゴブリンジェネラル討伐だからね」
「ちょっと目立ちすぎたな」
「会わないと……だめ?」
「ダメね」
望みをかけて聞いてみたけどダメだった。会うしかないのか。
「観念して行って来い」
「行って来いって、ウルゴさんは来ないの?」
「俺はギルマスが苦手なんだよ……」
「あ、ウルゴも呼ばれているわよ」
「なんでだよ、おい!」
「最近呼ばれても来ないじゃない、今回来なかったらお仕置きらしいわよ」
うわ、ウルゴさんの顔が青ざめてる。ウルゴさんにお仕置きって、いったいどんな人なの……。
「それじゃあついて来て」
イメリアさんに連れられ、二階に上がる。
「どんな人だろうね」
りんねえは楽しみみたいだ。ギルドマスターだから、怖いのかな。それもと強そうな人?
「ギルドマスター、連れて来ました」
イメリアさんが部屋の扉をノックし、声をかける。
色んなギルドマスター像を思い浮かべていたけど、返ってきた声は――――
「はぁ~い、どうぞはいって~」
――――予想を裏切る、ほわわんとした声だった。