16話 ゴブリンジェネラルと戦います
「ねぇ、ウルゴさん、あれがゴブリンジェネラル?」
「あぁそうだ」
「どう見ても、ただのゴブリンがでっかくなっただけに見えるんですけど……」
そう、ゴブリンナイトみたいに盾や剣を持ってるわけでもなく、マジシャンみたいに杖や帽子をかぶってるわけでもなく、ただただ普通のゴブリンを大きくしただけだった。ゴブリンジェネラルとか言うから、見た目もすごいのかと思ったけど期待はずれだったよ。
「大丈夫だハスナ、ジェネラルをはじめて見た冒険者はみな同じ事を言う」
だろうね、これは誰も予想出来ないよ……。
「だが見た目に惑わされるなよ、こんななりでもジェネラルだ。ナイトやマジシャンとは比べ物にならんぞ」
と言われても、この見た目だと力が抜ける……。だめだだめだ、気持ちを切り替えないと。
さて、ここまでの大物は始めてだし、りんねえとも一緒に戦ってみたいからここは一つ、連携して倒してみようかな。
「ウルゴさん、最初は私たちだけでやらせてもらえませんか?」
「別にかまわんが……危なくなったら手を出すぞ」
「ありがとうございます」
りんねえを向くとうなずいてくれた。よし、どこまで出来るか試してみましょうか。
「私が引き付けるからはーちゃんは魔法でドカンとよろしく!」
そう言いながら、りんねえがジェネラルへと向かっていく。裏へ回りながら攻撃しようとしてるけど、図体に似合わず動きが早く、なかなか攻撃が通っていない。ただ、りんねえに翻弄されて私の方まで注意が言っていないみたい。それじゃあドカンといきますか!
「稲妻よ、敵を貫く槍となれ、雷撃槍」
りんねえがジェネラルから離れた隙を見て、魔法を打ち込む。これなら――――
「防がれた!?」
――――雷撃がやんだそこにはジェネラルが斧を掲げて立っていた。どうやらあの斧で防いだみたい。熊だってこれで倒せたのに……さすがジェネラル。
さっきの攻撃で私の方もマークされてしまい、威圧される。見た目ただのゴブリンでも、あの巨体で睨まれると、ちょっと怖い……。
「はーちゃんは狙わせない!」
りんねえが私の方へ来ないようジェネラルへ次々と攻撃を与えていく。でもやっぱり防がれてるね。でかいのになんであんなに素早いの!
「りんねえ、今から動きを封じるからその隙に!」
「りょーかい!」
「敵を縛り、動きを封じて、地縛封」
りんねえに伝えた後、魔法を発動する。ジェネラルの足元から伸びた土がジェネラルを絡めとり、動きを封じる。その隙を突き、りんねえが飛び上がり顔を切りつける。
「たぁぁぁ!」
「グギャアア!」
片目をつぶした! けどジェネラルが叫びながら暴れ始め、その拍子に地縛封が解けてしまう。これでもあんまりもたないなんて……!?
「りんねえ危ない!」
地縛封が解けた衝撃で着地したばかりのりんねえがジェネラルに吹き飛ばされた。
「あぐっ!」
ある程度衝撃は殺せたみたいだけど、すぐ立ち上がれていない。あのままじゃあジェネラルに……。
「氷よ貫け、氷針」「切り裂け、風刃」
少しでも時間を稼ごうと、連続で魔法を放つ。がどれも斧でかき消されてしまった。だめ……このままじゃ……。
私の時間稼ぎもむなしく、りんねえ目掛けて斧を振りかぶる。りんねえもまだ立ち上がれていない。
もうダメだと思ったその時、りんねえの前に人影が、ってウルゴさん! うそ、さっきまで隣にいたのに。
「安心しな、リン」
そう言いながらウルゴさんが振り下ろされた斧を大剣で受け止めていた。
「ゴブリンよぉ、うちの嬢ちゃんたちに…………手ぇ出してんじゃねぇぞ!」
そういいながら、斧を受け止めていた大剣をそのまま振り抜き、ジェネラルを吹き飛ばしていた。うそ、ちょっとかっこいい。ウルゴさんなのに。
「おじさん……?」
「おう、大丈夫か?」
そんなやり取りをしながら、ウルゴさんがりんねえを抱えて下がってきた。
「おじさんってこんなに強かったんだね。奥さんに尻にしかれる、つっこみのうまいただのおじさんだと思ってたよ」
矢継ぎ早に話すりんねえ。顔がちょっと赤いから……あれは照れ隠しだね。なら私も乗っておこう。
「私も、ギャグ担当できっと戦闘でもやられやくなんだろうな、と思ってました」
「おいこら、嬢ちゃんたちの中で俺はどういう存在なんだ!」
「「……弄られ役?」」
ウルゴさんが精神的に沈んだ模様です。だって、ウルゴさんだしね。でも本当に、さっきのはちょっと……かっこよかったかな。
「と、とりあえずその話は後からじっくり聞かせてもらうとして、まだジェネラルは死んでないぞ」
そうだった。あまりのことにすっかり忘れてた。あぁ、思い出したら、ジェネラルに対して怒りがわいてきた。
「ふふふふ……」
「お、おい狐の嬢ちゃん、どうしたんだ……すごい顔になってるぞ」
「あわわわわ、はーちゃんがぷっつんしちゃってるよ!」
ジェネラルの元へとゆっくりと歩いていく。ゴブリンの分際で、りんねえを傷つけるなんて、どう料理してくれようか。
「ウルゴさん、大丈夫ですか!?」
うしろからオルランドさんの声が聞こえてきた。どうやら合流してきたみたいだね。でもそんなことは関係ない。ジェネラルは起き上がり、私へと向かってくる、がもう遅いよ。
「敵を縛り、動きを封じて、地縛封」
まずは動きを止める。これだけじゃあまだまだ甘いね。もっと動きを封じないと。
「凍れ凍れ、そして蝕め、氷雪像」
ジェネラル周辺の温度が一気に下がり、頭以外を凍らせさらに動きを止める。
さて、とどめはどうしようかな。雷撃槍は防がれたし、せっかくだし初めての三節いってみようか。ジェネラルは動けないから、ゆっくりとイメージし、確実にしとめる。
「天より来る稲妻よ、敵を貫く槍となり、その身を打ち滅ぼせ、雷神槍撃」
空を割る光が走ったと思ったら、轟音とともにジェネラル目掛けて稲妻が落ちる。ふふふ、これなら確実に……って、わわわわ! やばい威力強すぎて、吹き飛ばされる!
「おっと、大丈夫ですか?」
「え、あ、はい……」
吹き飛ばされた私をオルランドさんが受け止めてくれた。こうあらためて近くで見るとイケメンだよね、って何考えてるんだ私。とりあえずおろしてもらってジェネラルのほうを見ると、まだ息が合った。うそでしょ、あの威力の魔法を食らってまだ死なないとか、さすがにしぶといね。
「止めは私が……!」
りんねえが槍を構え、ジェネラルを見据える。目を閉じ深呼吸をしたと思った瞬間、もう目の前から消え、ジェネラルの首元へと移動していた。
「一乃型、一閃」
掛け声とともに、ジェネラルの首を一撃で切り落とし静かに着地した。え、なにあれすごい。あんな技はじめてみた……。
「りんねえ、さっきのは?」
「なんだろう、このまま負けたくないって思ったらなんか覚えた。動きも頭の中に入ってきたから簡単だったよ」
「なんか覚えたって……」
まぁりんねえだし、きっと気合いだ! とか言うんだろうね。
「気合だよ、はーちゃん!」
ほらね。
「気合で覚えられるようなもんじゃねぇだろ、あれは!」
つっこみのウルゴさん復活。でも近くで大声出されるとびっくりするよ。不意打ちだったから尻尾がぶわってなっちゃったよ。
「でもりんねえですし、深く考えるとダメですよ」
「そうそう、考えすぎはダメだよおじさん。ノリと勢いが大事なんだよ!」
「なんでおれが駄目だしされてるんだ……俺がおかしいのか?」
ウルゴさんが宵の風に助けを求める。
「大丈夫ですよ、私たちもまったく理解できてないのでウルゴさんの考えが正常です」
ちょっと、それは私たちがおかしいって事なのかな。……おかしくない……よね?
「でもジェネラルの頭を一撃で落とすなんで、クーはできる?」
「いや、無理だろ。さすがにあの大きさだと骨が折れるぞ」
「それにあの魔法、私があの威力を出そうと思ったら全魔力使い切りそうだし、詠唱だってどれだけかかるか……」
「たしかに、ハスナさんの魔法もすごかったですよね。あの短時間で三連続、しかも最後の魔法はあの威力……先ほどの広場でもすごいとは思っていましたがここまでとは……」
どうしよう、オルランドさんたちの話を聞いていたらやり過ぎた感がすごい。たしかに、りんねえのことで思いっきりやっちゃったけど、こんなことになるとは。
「ねえ、ウルゴさん」
「なんだ」
「やっぱり……やりすぎちゃったかな?」
「あったりまえだ! とりあえず譲ちゃんたちは常識を覚えろ!」
「「や、やっとおわった……」」
りんねえといっしょにぐったりと倒れる。
ウルゴさんからは強烈な、オルランドさんからは丁寧な、カリナさんからは身の危険を感じる説教をこんこんと受けてしまった。ほぼ無傷でゴブリンジェネラルを倒してここは褒められる所だったはずなのに、なぜこんなことになったんだろう。これが調子に乗った者の末路なんだね……。
「さて、それじゃあ回収するか」
思う存分説教をしてすっきりした顔のウルゴさんが、そう言いながらジェネラルの方へと向かう。
「回収ってこんなに大きいときはどうするんですか?」
さすがにこのまま持って帰るわけにはいかないだろうし、どうするんだろう。
「大体はその場で部位ごとに切り分け、アイテムボックスに入れて持って帰るな。普通はこの大きさのままだったら入らんからな」
アイテムボックスって大きさの制限もあるんだ。そう考えるとやっぱり私の収納術は便利だね。とりあえずさっき説教されたばっかりだから、ウルゴさんにだけこっそりと聞いてみる。
「私のユニークスキル使うのは駄目ですか?」
「あぁ、そうか。それがあったな。使うのは問題ないが、前話していたカモフラージュになるものは持ってるか? まぁ、あいつらにならバレても大丈夫だろうがな」
「一応腰にポーチ付けてますが……」
そういいながらウルゴさんにポーチを見せる。
「じゃあ頼む。ジェネラルをここで解体するのは骨が折れるからな。魔物がよって来ないともかぎらんし」
たしかに、この大きさだったら日が暮れそうだね。さすがに疲れたからもう帰りたい。
ジェネラルに近づき、ポーチに仕舞うフリをしながら収納術でジェネラルを仕舞う。戻ってくると予想通り、オルランドさんたちがぽかんとしていた。
「ハスナさん、さっきのは……?」
一番早く我に帰ったオルランドさんが聞いてきた。
「えっと、私たちを育ててくれたおじいさんから受け継いだ魔道具です。どこかの遺跡で見つけたらしく、どんなものでも仕舞えるらしいです」
即興で理由付けをして誤魔化す。まぁ、ウルゴさんが言ったとおりオルランドさんたちになら言っても問題なさそうなんだけどね。ただ、今日はほかにも色々やっちゃったしまた今度にしておこう。
「なるほど、魔道具ですか……。それだけの性能なら親しい人以外には見せない方がよさそうですね」
「はい、もうウルゴさんに釘を刺されてます。オルランドさんたちなら大丈夫だと思って今回は使いました」
「そうでしたか、しかしもうそこまで信用してもらえるとは、うれしいものですね」
オルランドさんがうれしそうな顔をする。うぅ、ちょっとだましてる所があるから罪悪感が……。
「ハスナちゃんがそこまで信用してくれるなんて……。ここはもう一押しかしら……」
なんかカリナさんが怖いことを言っている気がするけど聞かなかったことにしよう。
「さて、それじゃあ狐の嬢ちゃんのおかげで楽できたことだし、帰るか」
「私はがんばりすぎてもうお腹がペコペコだよ……」
「はっはっは、色々やらかしてはくれたが、ここまでスムーズに終わったのは譲ちゃんたちのおかげだ。帰ったらぱーっと食うか! 俺のおごりだ」
「さっすがおじさん、太っ腹!」
「ウルゴさん、ありがとうございます」
「それじゃあ私たちもお願いしますね」
「さっすがウルゴの旦那」
しれっと混ざるオルランドさんたち。なかなかやるね。
「おい、おれが奢るのは嬢ちゃんたちだけで……」
「オルランドさんたちは仲間はずれですか……?」
「うっ」
オルランドさんたちを援護すべく、悲しそうな顔をしながら上目使いでウルゴさんを見る。
「仲間はずれ……ですか……?」
「だぁぁぁぁ! もう全員俺のおごりだ! これで文句ないだろ!」
その言葉にみんなでガッツポーズをする。
よし、それじゃあ帰ったらいっぱい食べよう!