14話 求婚されました
ゴブリンナイトとマジシャンを無事倒した後、予定通りギルドに戻ってきた私たち。あれからは特に大きな戦闘はなく平和だった。
ただ、ウルゴさんが帰りながら――――
「なんだあの魔法。あの詠唱でなんであんな威力がでるんだよ……」
「倒せるとは思っていたが無傷とは……ありえねぇ」
「もう嬢ちゃんたちだけで巣も討伐出来るんじゃねえか……?」
――――などなど、ぶつぶつ言っていた。さすがに二人だけで巣を討伐するのは無理じゃないかな。
ギルドに着くと、イメリアさんが別のパーティーと話をしていた。そういえば、まともに他のパーティって見た事無かったね。人族とエルフと犬と猫の獣人の4人パーティかな。
「あれは宵の風か」
「宵の風って?」
「あぁあいつらのパーティ名だ。いつもあの4人で行動しているCランクのパーティで、最近良く活躍しているな」
へぇ、Cランクってことは結構強いんだね。見る限りバランスもよさそうだ。
ウルゴさんの話を聞き、じっと見つめているとエルフのお姉さんが振り向きこちらを見た。あれ、すごい目を見開いて驚いている。どうしたんだろう?
とりあえずイメリアさんの所へ行き、依頼の報告する。
「ただいま、イメリアさん」
「ただいまー!」
「あ、おかえりハスナちゃん、リンちゃん。その様子だと無事終わったようね」
「無事とは言いがたいですが……依頼は終わりました」
うん、怪我とかは無いけど、色々あったからね。
「えっと、このお二人は?」
「あぁ、そういえばお互い初めてだよね。えっとこっちの二人が最近登録した冒険者のハスナちゃんとリンちゃん。まだ子供だけど、それなりに強いのよ。で、こっちの四人がパーティ宵の風」
「ご紹介に預かりました、宵の風のオルランドと申します」
おぉ、すごい丁寧な人だ。どうやらこの人がリーダーみたいだね。
「で、こっちがメンバーのカリナにキャロ、クーランドです」
「キャロだよ、よろしくね!」
「クーランドだ、よろしくな嬢ちゃん」
「か……カリナよ。よろしく」
キャロさんは明るく元気そうな人だ。クーランドさんは……初対面でこういうのは良くないかもだけど、ちょっとチャラそうだ。カリナさんは、なぜかさっきから様子がおかしい。入ってきた時も私たちのほうを見て驚いていたし。どこかであったことあったっけ?
「ハスナです、よろしくお願いします」
「リンです、よろしく!」
りんねえが挨拶すると、さっきのチャラい……じゃなかった、クーランドさんがりんねえの前まで来て膝を突いた。え、いきなり何してるのこの人。
「りんちゃん……だったね?」
「え、えっとそうだけど」
りんねえも戸惑いながら答える。そりゃいきなりこんなことされたら戸惑うよね……って、え? なんでりんねえの手を掴んでるの!
「りんちゃん……いや、リン。俺はお前に一目ぼれをした。結婚してくれ!」
「あんたはまたいきなり、なにやってんのよ!」
「がふっ!」
あ、キャロさんにはたかれ沈んだ。
というか、いきなり求婚って何なのこの人。しかもまたって事は他にもしたことあるの? こんな人がりんねえに近づくなんて……ちょっと……釘をさしておかないと、ね。
「キャロ、いきなりはたくな! それで、リン返事はどう……だ……ろう……か……!?」
おぉ驚いている驚いている。そりゃ起き上がって見上げた先がりんねえじゃなくて私だもんね。
「えっと、ハスナちゃん。そのものすごく冷たい目は何かな……?」
「クーランドさん」
「はいぃぃぃ!」
自分でもビックリするぐらい冷えた声が出た。まぁいいか、りんねえに近づく者には容赦はしない。
「りんねえに近づくなら……潰します……よ?」
「すんませんっしたぁぁぁ!」
青い顔をしながらクーランドさんが下がっていく。よし、排除完了。
「あのクーランドを一発で退けたぞ!」「なにもんだあの娘」「ちっさいのに迫力がすげぇ……」「あぁ! その冷たい目で見ながら俺を罵ってくれ!」
なんか、周りの冒険者から驚きの声が上がってきた。クーランドさん、今まで何してきたの……。あと、最後の人には近づかないでおこう、鳥肌立ったよ。
「すげぇな、嬢ちゃん」
「こんなことですごいと思われても……」
いやほんと、まったく嬉しくないよ。というかこんな事で目立ちたく無かったよ。
「なんかごめんね、うちの馬鹿が迷惑かけて」
「いえ、大丈夫です。りんねえは大丈夫?」
「ふぁ!? あ、うん大丈夫」
さっきまで固まっていたりんねえがようやく戻ってきた。
「えっと、そろそろいいかな」
「あ、ごめんなさいイメリアさん」
「ハスナちゃんは悪くないからいいのよ。悪いのはこの馬鹿よ」
「すみません、うちのクーが。いつも注意はしているんですが、なかなか直らなくて。これさえなければ優秀なんですが……」
「そうなのよね、腕だけは無駄にあるからね」
「えっと、ご苦労様です」
「というか、こんな話しに来たんじゃねえ」
「あぁ、報告だったよね。ゴブリン十匹倒せたんだよね?」
「十匹どころか……ゴブリンが百十四匹にゴブリンナイトとマジシャンが一匹ずつです」
「ひゃ、ひゃくじゅうよんひき? それにナイトとマジシャンって……」
やっぱり驚いてる。ちょっと調子に乗って狩りすぎたよね。と思っていたら、イメリアさんが急に深刻な顔をして考え込んだ。
「そういうことね……ちょうどいいから両方奥の部屋まで来てくれる?」
「両方っつー事は、そっちもか?」
「えぇ、その通りです。ウルゴさんたちが来るまで、その話を色々していました」
どういうことだろう。もしかして、オルランドさんたちも会ったかな? という事はゴブリンの巣があるのはほぼ確定になになりそうだね。
イメリアさんに連れられ、奥の部屋へ入っていく。
「それじゃあ、もうなんで集まってもらったかは分かっていると思うけど、ほぼ間違いなくゴブリンの巣があるわ。宵の風にハスナちゃんとリンちゃん意外にもにも見かけたという報告があったの。それであなたたちには巣の破壊をお願いしたいの」
「僕らはそれは構いませんが、そちらのお嬢さんたちもですか? 強いという事ですが、それでも最近冒険者になられたようですし、ゴブリンの巣は荷が重い気がしますが……」
「あぁ、それなら心配いらねえ。嬢ちゃんたちは無傷でゴブリンナイトとマジシャンを倒している。見た限りじゃあまだまだ余裕ありそうだし、問題ないだろう」
宵の風の人たちが驚いた様子でこちらを見ている。若干一名違う意味でりんねえの方を見ていたので、釘を刺しておこう。あ、目をそらした。
「無傷……ですか。それはすごいですね。こう言っては失礼かもしれませんが、やはりその見た目だと信じがたい部分がありますね」
「あー、なんだ。こいつらに限っては常識からかけ離れているから気にしない方が良いぞ。正直この程度で驚いていたら体が持たん」
ウルゴさんからの評価が酷い。確かに色々やらかしたかもしれないけどその言い方は酷いよ。
「ウルゴさん……か弱い女の子に対してその言い方はないと思います」
「か弱い……? はっ」
鼻で笑ったよこの人。とりあえず強化魔法入りの一撃を入れて沈めておく。
「この失礼な人は放っておいて話を進めましょう」
「え、えぇ……そうね。それじゃあ明日一日で巣の場所を調べてもらうから、あさっての朝また集まってちょうだい」
「明日一日って、そんなにすぐ見つかるものなんですか?」
「えぇ、そう言うのに長けた人たちがいるのよ。だからあさってに備えて、明日はゆっくり休んでね」
へぇ、色々な人がいるんだね。
話もまとまり、解散しようとしたらすごい熱い視線を感じた。こちらを見ていたのはエルフの、えっとたしかカリナさんだったかな。
「どうしたのカリナ? そういえば、今日は全然しゃべってなかったけど、体調でも悪い?」
「もう、もう我慢できない……」
ぼそぼそとつぶやきながら震えている。本当に体調が悪いのかな。だったら私の回復魔法でましになるかも。そう思いカリナさんに近づく。
「大丈夫ですか? もし良かったら回復魔法かけますが……わぷっ!?」
え、なに!? 急に抱きしめられた! って、ちょっとほおずりしないで、耳も触らないで。あ、だめ、尻尾は、尻尾は人に触られると……
「ちょっと……カリナさん……だめ……尻尾は、ふわ、あぁぁぁ……んぅ!」
「はぁもう可愛い、可愛いわハスナちゃん! このちっちゃな体にさらさらの銀髪。ピコピコ動く耳にふわっふわの尻尾。あぁもうすべてが可愛い! もううちに引き取りたい、えぇそうだわ! 私はハスナちゃんと一緒に暮らすわ、そして幸せになるわ!」
「ちょちょちょ、ちょっとまって、カリナあんたどうしたの! とりあえず落ち着いて、ハスナちゃんを離してあげて!」
「キャロ、あなた……私からハスナちゃんを奪うつもり?」
「奪うつもり……? じゃないわよ! そもそもハスナちゃんはカリナのものじゃないから! あんたらも、ぼーっと見てないで引き離すのを手伝え!」
な、なんでもいいから、早く助けてぇぇぇ!
「ごめんなさい」
ようやくあのカオスな場が元に戻った。カリナさんもやっと冷静になったようで、深々と頭を下げて謝ってきた。私? 私は今りんねえの後ろに隠れてるよ。尻尾もさっきからぼわっとなったまま戻らないよ。
「カリナ、本当にどうしたの? いつも冷静なあんたがあんなことするなんて」
「だって、だってハスナちゃんが可愛かったんだもん」
「だもんって……なんでちょっと幼児退行してるのよ」
「もともと可愛い物を愛でるのが好きだったんだけど、冒険者になってからは中々愛でる機会がないし、ずっと我慢していた所にハスナちゃんが現れて、色々……弾け飛んだわ!」
拳を握りしめて、力強く言い切ったカリナさん。もう最初の知的で冷静なお姉さんってイメージが崩れ去った。
「こんなカリナを見たのはじめてだよ……」
「あぁ、俺もだ」
宵の風の男性陣はまだ驚きを隠せないみたい。
「ハスナちゃん。さっきはごめんね、急にあんなことして。もうあんなことが無いようにするから、できれば……これからも仲良くしてほしいな」
カリナさんが私の方へ近づき、そう言いながら手を差し出した。それを聞き、私もおずおずとりんねえの後ろから顔を出す。
「えっと、もういきなりあんなことしないなら……大丈夫です」
そう返事をして、差し出された手を握る。落ち着いていたら、優しそうなお姉さんだし大丈夫かなっと思っていたら、その思いを裏切るかのように手をがしっと捕まれた。え、なにこれ。
「大丈夫! 次からはちゃんと許可を取って抱きしめるから!」
前言撤回、だめだこの人。