13話 外で食事をしましょう
「ふう、さすがに疲れたぁ」
あれからりんねえの探索術を頼りに、片っ端からゴブリンを倒していった。私は色々魔法を試しながら、りんねえは突いたり切ったり叩いたりと色々槍の使い方を模索していた。スキル覚えるだけでここまで使えるんだね、便利だ。ウルゴさんはというと、私たちが色々試すたびに色々な表情を浮かべていて、最後にはもう参加を悟ったような顔になっていた。
「そういえばさ、依頼ってゴブリン十匹討伐だったよね……」
そろそろ百匹いくかなという所で依頼の事を思い出した。
「「…………」」
どうやらりんねえもウルゴさんも忘れていたようだ。ちょっと夢中になりすぎたね。
「よ、よし。んじゃ飯食って切り上げるか」
「ん? もう帰るなら街でたべてもいいんじゃない?」
「まぁそれもありだが、どうせならこういう事も経験している方がいいだろう。それに何が起こるか分からんってのが冒険者だからな。いざという時に対処出来るよう食える時に食っておいた方がいい」
「なるほど」
たしかにそう言われるとそうだね。お腹すいている時に襲われたりすると大変だしね。
「それじゃあ、出る前に買った黒パンと干し肉だ。食べてみろ」
ウルゴさんに渡されたパンと干し肉をみる。もう触っただけで硬いって分かるよ。これを食べるのかぁ。あ、さすがのりんねえも渋い顔をしている。よし、こういうのは思い切りが大事だ。そう思い黒パンに齧りつく。
「〜〜〜っ! か……かたひ……」
は、歯が痛い。想像以上に硬かったよ。うぅ、これ食べれるの? 干し肉の方も……パンほど硬くはないけどしょっぱい。うん、美味しくないね。あ、ウルゴさんがにやにやしながらこっち見てる。
「う〜、ウルゴさん」
「はっはっは、そんな目で見るな。冒険者になるなら慣れておかんとあとがきついぞ」
「かたいよ〜、しょっぱいよ〜」
りんねえが涙目になっている。こういう食事に慣れていない私たちにとったらかなりきつい物がある。
よし、それじゃあ、私が買った物を出してみようか。できれば温かいままでいますようにっと。
目をつぶりながら収納術で目の前に街で買っておいたスープを出す。恐る恐る目を開くと湯気が出ているスープがそこにあった。
「き、狐の嬢ちゃんそりゃあいったい……」
やった、成功だ! ふふふ、驚いてる驚いてる。一緒に買ったサンドイッチも出して……完璧だ。
「ウルゴさんたちから離れた時に屋台で買っておいたんですよ。私のユニークスキルだったら、もしかしたら時間を止めて仕舞えるんじゃないかと思って。どうやら成功のようです!」
ちょっと胸を張りながら答える。りんねえは目を輝かせている。
「さすが、さすがはーちゃんだよ、素晴らしいよ!」
「いやいやいや、おかしいだろ! 普通のアイテムボックスだと食べ物なんか入れたら普通に腐るぞ!」
「そこはほら、ユニークスキルですから」
「はぁ、嬢ちゃんたちといると驚き疲れるわ……」
そんなため息つかなくても。
まぁ、いいか。それよりも食べよう。さっきから良い匂いがしてお腹が限界にきてるよ。
「それじゃあ、いっただっきまーす」
りんねえが嬉しそうにほおばる。私も、温かいスープを飲んでみる。おぉ、美味しい。中に入っているお肉もよく煮込まれていて柔らかいし、野菜も甘みも出てるし当たりだねこれは。
「ん〜っ、美味しい!」
「まさか外でこんな食事が食えるとはな」
「外で調理とかはしないんですか?」
「あまりせんなぁ、するとしてももっと簡単な奴だ。ここまで手のこった料理はまず無理だな」
道具とかもいるだろうし、やっぱり難しいんだね。しかしこれが成功したおかげで、今後の食事事情は明るくなるね。美味しいは大事だよ。
「よし、じゃあ腹が膨れた所でそろそろ戻るか」
「「はーい」」
食後の休憩を取った後、ウルゴさんに促され街へ戻る。
「そういえば、ウルゴさん。ゴブリン倒している時に何か考え込んでましたけど、何かありました?」
「ん、あぁ……ちょっとゴブリンの数が多い気がしてな。近くに巣があるかもしれんと考えていた」
「巣、ですか。あった場合はどうするんですか?」
「さすがに俺らだけじゃあ無理だから、ギルドに報告して複数のパーティで討伐しにいく事になるだろうな」
なるほど。確かに聞いてる限りだと数がすごそうだし、三人だけだと厳しそうだね。私の魔法で一掃……しても失敗した時が怖いね、やめておこう。
ウルゴさんと話していたら先頭を歩いていたりんねえが立ち止まった。
「りんねえ?」
「ゴブリンがこっちに向かってくる……数二十以上!」
「んな!」
「っ! ――我らに戦の祝福を――」
二十!? 反射的に強化魔法をかけるが、まさか本当に巣が? と考えていると茂みからゴブリンが飛び出してきた。とっさにその場から飛び退き、飛びかかってきたゴブリンにりんねえが斬りつける。
「倒れない!?」
今までのゴブリンだったら一撃だったのになんで?
「気を付けろ二人とも。ゴブリンナイトかマジシャンがいるかもしれねぇ。やつらの指揮下に入っているゴブリンは強化される!」
そういうことなんだ。だから一撃で倒れなかったんだね、厄介だ。
「とりあえず開けた場所へいくぞ。ここは見通が悪い」
ウルゴさんに言われ見通しの良い場所まで走っていく。
「りんねえ、追ってきてる?」
「うん、もうすぐここに来る」
りんねえの返事を聞き、臨戦態勢を取る。すると茂みから普通のゴブリンを連れて、剣と盾をもった一回り大きいゴブリンと杖を持ち、帽子をかぶったゴブリンが現れた。
あれが、ゴブリンナイトとマジシャンか。
「まさか、嫌な予感が当たっちまうとはな。気を付けろ、ここの強さだけじゃなく、連携もしてくるぞ」
連携もしてくるのか、本当に厄介だね。でもある意味良い機会かもしれない。ここでこういう戦闘にもなれておいた方がいいかもしれない。
「ウルゴさんなら余裕で倒せます?」
「数が数だから余裕とまではいかんが……問題ない」
よし、じゃあここはウルゴさんに甘えるとしようかな。
「それじゃあ私がマジシャン、りんねえがナイトの方を相手にするのでウルゴさんは危なくなった時に援護お願い出来ますか?」
「まかせろ、嬢ちゃんたちは思う存分やれ。しかしこの状況でそんな考えができるか、実践が少ないとは思えんな……」
「りんねえもそれでいい?」
「おっけーだよ! ただのゴブリンだけだと物足りなかったからね、暴れるよ!」
りんねえの返事を合図に、ウルゴさんが後ろへ下がり、私たちはそれぞれのゴブリンを見据える。それじゃあ頑張りますか!
「氷よ貫け、氷針」
避けた!?
とりあえず数を減らそうとゴブリンめがけて撃ったけど当たらなかった。むむむ、やっかいだ。氷針をよけたゴブリンがそのまま襲ってきたけど、強化魔法のおかげで難なく避ける。
マジシャンの方を見ると……やばい、なにか詠唱してる。中断させたいけどゴブリンが邪魔で近づけない。あぁもう邪魔だ!
「敵を縛れ、地縛。そしてそのまま、切り裂け、風刃」
目の前をちょろちょろしていたゴブリンの動きを止め、風刃で切り裂く。うん、やっぱり地縛は動き回る敵に便利だね。そのままマジシャンに攻撃しようと思ったが、一足遅く魔法が完成しマジシャンの上に火の玉が出現していた。
やばい、さすがにあれに当たったら無事じゃあすまないね。向こうは火だから……。
「包み込んで、水泡」
大きな泡で自分を包み込み、マジシャンの火の玉を防ぐ。
ふーっ、危ない危ない。うまく防げて良かったよ。それじゃあ今度はこっちの番。少し大きめの氷針をマジシャン目がけて撃つ。避ける気配がなかったからこれで勝った! と思ったらマジシャンの目の前に火の壁が出現した。
「防がれた!?」
むぅ、小癪な。やっぱり一節だと厳しいか。ちょっと派手になるけど仕方ない。
「稲妻よ、敵を貫く槍となれ、雷撃槍」
ツインベアを倒したものと同じ魔法をマジシャン目がけて放つ。轟音とともにマジシャンを貫き、最後に残ったのはこげたマジシャンの死体だった。
「ふぅ、終わった。さて、りんねえの方は……」
りんねえの方をみると雑魚はもう倒され、ナイトと一騎打ちになっていた。
ナイトの方はうまく盾でりんねえの槍を防ぎ、剣で反撃している。が、りんねえの方も軽い身のこなしでそれを避け、ナイトの後ろに回る。
「ていやぁぁ!」
後ろに回られた事でナイトの反応が少し遅れ、盾で防ぐ事ができず槍に貫かれた。そのまま崩れ落ちたので、どうやら無事倒せたみたいだ。
「りんねえ、お疲れ様」
「はーちゃんもお疲れ!」
りんねえとハイタッチしお互い笑い合う。無傷で倒せたので、上出来だね。
ちなみに後ろで控えてもらっていたウルゴさんは――――
「俺の出番は……ねぇのか……」
――――とちょっともの足りなさそうな顔をしながらつぶやいていた。