10話 どうやらおかしいようです
私が倒した黒クマとりんねんが倒した白クマを回収し終わった頃には、もう日が暮れ始めていた。ちなみに、薬草はりんねえが8個集めてたので全部で14個になった。勝負には負けたのでちょっと悔しい。
依頼の報告をしにギルドに戻ると、イメリアさんとウルゴさんがカウンターで神妙な顔をしながら話し合っていた。何かあったんだろうか?
「薬草取ってきました」
「あ、おかえりハスナちゃん。じゃあ取ってきた薬草を見せてくれるかな?」
「ちょっと取りすぎちゃって全部で14個になったんですけど……」
「それなら、あふれた分はギルドで買い取るから大丈夫。依頼分と薬草4個買取で……銀貨2枚と銅貨40枚ね」
はじめての依頼で稼いだお金だ。前の世界でも自分で稼いだ事は無かったからちょっと嬉しい。
「ありがとうございます。それで、何かあったんですか? 難しい顔をしてましたけど……」
「あぁ、嬢ちゃんたちが出た後にツインベアを見たって連絡があってな。しかもそれが嬢ちゃんたちが薬草を採りにいった森だったから心配してたんだよ。あ、その様子じゃあ出会わなかったみたいだな」
ツインベアって……もしかして私たちが倒したクマ?
「ツインベアってどんなのなんですか?」
「黒いクマと白いクマの二匹だ。大体同じ所で二匹発見されるからツインベアって名前になったらしい。Cランク相当の魔物だから、討伐隊を出すまでしばらくあの森は出入り禁止だろうな」
「えぇ、そうですね。ギルドでも早めに対処します」
やっぱりあのクマだったみたいだね。でもCランクって……。そんなに強くなかったと思うんだけど、子供とかだったのかな。
「あの……多分そのクマに会いました」
「な、本当か!? 無事だったのか! ……ってさっき確認した所だったな。ということはうまく逃げられたのか」
「いえ、倒しました」
「「……は?」」
二人とも口を開けて驚いてる。うーん、そんなに驚く事なのかな。
「いやいや、Cランクの魔物だぞ! それを嬢ちゃんたちが……」
「うーん、そんなに強くなかったけどなぁ」
「私も戦った感じではそんなに強いとは思わなかったけどね。とりあえず仕舞ってあるので見ますか?」
「仕舞ってるって、そういえば聞きそびれていたけどウルフもどこかから出していたわね。ここじゃまずいから、奥の部屋まで来てくれる? ウルゴも来てちょうだい」
「おう、分かった」
イメリアさんに連れられてウルゴさんと一緒に奥の部屋に入る。
けっこう広い部屋だ。どうやらここで解体などをしているみたいだ。血の跡とか残ってるし。この広さなら二匹出しても大丈夫だね。
「じゃあここで出してくれる?」
イメリアさんに言われて二匹のクマを出す。おお、部屋の中で見るとでかく見えるね。
「これなんですけど、まだ子供だったりします?」
「いやいや、こんなでかい子供がいるか! ってか本当に倒したんだな……。どうやったんだ?」
「私は魔法で、風で吹き飛ばした後雷でどーん」
「私は拳で! 避けながらひたすら殴ってたら倒してた!」
私はたんたんと、りんねんは胸を張って答えた。あれ、二人が固まってる。
「どうしました?」
「いや、あまりの事に頭が追いついていなかっただけだ。その答えだとそれぞれ一匹ずつ倒したのか?」
「そうだよ」「そうですよ」
「嬢ちゃんたちは良く分かってないみたいだから説明するとだな、Cランクの魔物ってのはCランクのパーティで倒せるぐらいって事なんだ。もし一人で倒そうと思ったらBランクじゃないと厳しいんだよ」
なるほど、魔物の基準ってそういう考え方なんだ。
「「と、いうことは?」」
りんねえと一緒に仲良く首を傾げる。
「Cランクどころか冒険者になりたてのFランクの嬢ちゃんたちが、ソロで倒すのはありえねぇって事だ!」
どうやら私たちはおかしいみたいだね。
「嬢ちゃんたちを育てたじいさんっていったい何者なんだ。明らかに異常だぞ……」
じいさん……ってそっか、そう言う設定だったね。あぶない、忘れる所だった。
「強さを比べる相手がいなかったので良く分からないんですが、そんなに異常です? そもそもまともに戦ったのって今回が始めてですし」
「始めてっておい……。そもそも嬢ちゃんぐらいの年で冒険者になるって時点で異常だしな。基本成人してからだぞ」
「そうね、居たとしても受ける依頼は採取系とかお手伝い系で討伐をする人は見た事ないわ」
そんなに異常なんだ……。ということはユニークスキルもなのかな。なんか聞きづらいけど、聞いておかないと後々大変な事になりそうだし……。
「じゃあ、ユニークスキルも珍しかったりします?」
「ユニークスキルっていやあ、持ってる奴が数えるほどしかいないっていう特殊なスキルだが……まさか持ってるのか?」
「えっと、はい持ってます……。私もりんねえも、2つずつ」
やっぱり言ったのはまずかったかな……。ちょっとイメリアさん、驚きすぎてすごい顔になっちゃってるよ。女の人がそんな顔しちゃだめだよ。
「ごめんなさい、私の耳がおかしくなったのかな。2つ持ってるって聞こえたんだけど」
「あってますよ、やっぱりおかしいですか?」
「おかしいに決まってるだろ! なんかもう今日一日で一生分驚いた気がするわ。嬢ちゃんたちは化け物か……」
「ちょっとおじさん! 女の子に向かって化け物は酷いよ!」
りんねえがものすごく怒ってる。さすがに化け物呼ばわりはね、私もウルゴさんを睨んでおく。
しかしこれだとあまり知られない方がいいのかな。
「すまんすまん、ついあまりの事に……な」
「ちなみにクマを出したり仕舞ったりするのがそのユニークスキルなんですけど、知られるとまずいですか?」
「まずいどころじゃないわよ! そうね、さすがに何もない所から出すのはまずいから……適当な袋を用意してそこから出す振りをした方がいいかな。アイテムボックスはあるし、性能は聞かれてもおじいさんから受け継いだものなのでって言って誤摩化したら多分大丈夫かしら」
「冒険者同士はあんまり詮索しないから、そんな所で大丈夫だろう」
「分かりました。ユニークスキルの事は言わないようにします」
「おう、それがいい。ばれると厄介な事になりかねんからな」
厄介な事って……いや、聞かない方が良さそうだ。
「そういえば、このクマも買い取ってもらえるんですか?」
「ええ、大丈夫。もともと討伐依頼を出す予定だったし、それも考慮して……金貨5枚って所ね」
金貨5枚ってことは……50万!? え、さっきもらった銀貨がかすんじゃうよ!
「ちょ、ちょっとイメリアさん! 金貨5枚って多くないですか!?」
「そうでもないぞ、普通なら装備や道具なんかの経費がかかるからな。CやBランクにもなると防具一式揃えただけでそれぐらいの金額かかったりするしな」
イメリアさんの代わりにウルゴさんが答える。
うわぁ、装備ってそんなに高いんだ。そう考えると冒険者もお金かかるんだね。
「お肉はとっておいた方がいい?」
「お肉?」
「高ランクの魔物の肉は高級食材だからな。食べたいならおいてもらえばいい」
「高級食材! 食べたい! イメリアさん、とっておいて!」
高級食材と聞いてりんねえがすぐに飛びついた。そういう私もちょっとよだれが出そうになった。どんな味なんだろう。
「じゃあ、お肉の分を差し引いて、金貨4枚ね。お肉は後日渡すから取りに来て」
「ありがとうございます」
手渡された袋はずっしりしていた。これで当分の生活は安心出来る。おいしいお肉も手に入ったし熊様々だね。
「よし、お腹も空いたし宿屋に戻ろうよはーちゃん」
「うん、そうだね。それじゃあイメリアさん、ウルゴさん、ありがとうございました」
「おう、気いつけて帰れよ」
「またね、リンちゃん、ハスナちゃん」
宿屋に着きりんねえが勢いよく扉を開ける。
「エリンさん、ただいまー!」
「あいよ、おかえり。初めての依頼はどうだったんだい?」
「ちゃんと成功したよ!」
「そうかい、ならよかったよ」
エリンさんが笑顔で迎えてくれた。さすがに熊のことは黙ってたほうがいいよね。
「じゃあご飯にするかい?」
「うん、エリンさんのご飯は美味しいから大盛りでお願い!」
「嬉しい事言ってくれるねぇ、すぐ用意するよ」
空いてる席を見つけて、りんねえと一緒に座る。あ、りんねえが机に突っ伏した。耳と尻尾もへんにゃりしてる。空腹の限界かな。
「うぅ、ここにきたら一気におなかすいたよ。この匂いは反則だぁ」
「だね、私ももう限界だよ」
お昼食べてから結構動いたから、おなか減るもの早いね。あーだめだ、私もりんねえと一緒に机に突っ伏す。
「おまたせ、相当おなかすいているみたいだね。たくさん食べな!」
「はーちゃん!」
「りんねえ!」
勢いよく体を起こし、りんねえと目を合わせて頷きあう。さぁ食べるぞ。
「「いただきます!」」
「あー美味しかった」
「まんぞく、まんぞく」
ご飯を心行くまで楽しみ、部屋に入りベッドに転がる。もう動けない。
「ね、はーちゃん。今日は一緒に寝ない?」
一緒か……出会った頃はよく一緒に寝てたよね。懐かしい。
「うん、いいよ」
「じゃあさっそく……とうっ!」
りんねえが勢いよく私のベッドに飛び込んできた。もぞもぞしながら体勢を直して、私と向き合う形に。
「それにしてもすごい一日だったねー、夢みたいだよ」
「だね、お昼寝から覚めたら異世界だもんね」
「しかもお互い耳と尻尾が生えたしね」
そう言いながら一緒に笑いあう。本当にすごい一日だったなぁ。気がついたら森の中だし、魔法使えるようにもなるし、冒険者にもなるし、極め付けにあんなでっかい熊も倒したし。前の世界にいたときには考えられないことばかりだよ。
「でも、こんな非常識なことになっているのに不思議と不安はないんだよね。りんねえと一緒だからかな」
「私も。はーちゃんと一緒なら不安なんて吹っ飛んじゃうよ」
手を繋ぎながらまた笑いあう。きっと一人なら今頃森の中で泣いていたんだろうな。まだ始まったばっかりだけど、きっとりんねえと一緒なら頑張れる。
「それじゃあおやすみ、りんねえ」
「うん、おやすみはーちゃん。また明日も頑張ろう」
明日はどんな事が起こるんだろう。そんなことを考えてちょっとワクワクしながら、眠りに落ちていった。