表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第4部 帝国進撃編
74/88

第74話 魔石とマナとシリョクの関係を


──ツカサ──




「うう゛~暑い~」


 港町を出てしばし。俺達は当初の目的──マックスの預かった王様からの手紙を皇帝に渡す──を果たすため、帝国の首都。帝都を目指して歩いている。


 街から街へ行く時は、手形なんかを見せたり審査があるみたいだけど、俺達には特使任命されたマックスがいる。

 ゆえに、他の街への出入りも楽勝。街から街への移動も楽チン!


 ……そう、思っていた時期も、俺にはありました。



 カッ! と擬音が聞こえるほどに輝く太陽は、荒野にその光をなんの遠慮もなく降り注いでいる。



 街に入る時の審査とかは特使の特権でどうにでもなるみたいだけど、この、街から街へ行くのがこんなに大変だなんて!



「砂漠って、こんなに暑いのかよ~」

 俺以上にへばっているリオが、背中を丸めながら悪態をつく。


 頭に砂避けの布(+帽子)をかぶり、同じく白い布で体をガードしているが、降り注ぐ太陽の熱気には勝てないらしい。


 頭にかぶる帽子の上には、太陽の光をエネルギーに変える、装飾化した聖剣ソウラキャリバーの姿もある。

 ちなみに俺もマックスも、同じように砂避けプラスだ。


「想像以上に暑いのはわかるが、リオ、ここはまだ砂漠ではない。砂漠はむこうに見える大きな砂の海のことだ。ここはただの、荒野にござる」


「じゃあ、砂漠はここよりもっとひでえってことか~」


 手で目の上にひさしを作りながら、マックスが指差した砂漠を見た。

「マジかー」



 俺達が今歩いているのは、岩と土がむきだしになったところに作られた街道だ。

 街道。といっても、多くの人が行きかって踏み固められただけのしろものだけど。


 目指す帝都は、近くに見える砂漠の先にある。

 もちろん最短距離はその砂漠をつっきることなわけだけど、この砂漠はこの国。いや、下手するとこの世界最大の砂漠かつ難所として名高いらしく、実際に踏破すればその名は伝説に残るほどの場所なんだとか。


 その名もナニム砂漠。

 この『ナニム』ってのはこの地の言葉で『なにもない』とか『無』を意味しているらしくて、砂以外なにも存在しないといわれている、マジでヤバイ砂漠らしい。


 別名をつけるなら、間違いなく死の砂漠。とつくレベルの砂漠らしい。


 そんな地獄の砂漠ごえに挑戦なんて、観光気分の俺には挑戦する気にもならないアクティビティだった。

 もちろん、俺が選ぶのはご遠慮してのんびり街道を歩いく、帝都を目指すぶらり旅の方だ。


 なもんで俺達はラクダもつれていないし、砂漠は遠くから見るだけのつもりだ。



 しかし、実物の砂漠はとんでもないな。まさに砂の海。見える一面が砂なんてのは、島国日本じゃ考えられない光景だ。


 つーか、見てるだけで暑くなってくる。

「……見てるだけで暑くなってくんな」


 俺の思いとリオの言葉がシンクロした。



『この砂漠は、かつてそこにあった魔法帝国の領土の三分の二をしめるほどの広さがあります』


 暑さにげんなりしているリオの気を紛らわすためなのか、ソウラが口を開いた。

 暑さから気を紛らわすため、俺達もそれに耳を傾ける。


『この範囲は、かつて魔法帝国の魔法都市が繁栄していた場所であり、崩壊と共に、その範囲がすべて砂に還った結果なのです』


「マジかよ。魔法帝国ってそんな広かったのかよ。つーか、そんな広い範囲砂に変えたのかよ」


『はい。大地のマナを吸い尽くした結果、魔法で作られたモノはすべて消え去り、マナを失った大地は砂となりました。マナを失った大地は生命もなにも育める状態ではなくなり、生命はおろか、マナを失った大地の欠片。砂しか存在しないことから、ナニム砂漠と名づけられたのだと聞きました』


 死の砂漠ってよく聞くけど、比ゆ表現じゃなくてマジな話だった。


 降った雨は即座に深い砂の大地に吸いこまれ、大地に栄養はなく容赦のない太陽の熱を遮るものはなにもない。

 それどころか砂はフライパンより熱く、夜は冷蔵庫より冷える。


 生命の住める環境ではない、まさになにもない砂漠。



『あれから五百年。魔法帝国崩壊から七百年経っているはずですが、以前とまったくかわりがありません。この大地に再びマナが戻るのは、まだまだかかるようですね』


 ソウラがどこか感慨深く呟いた。



 ある意味、人間によるとんでもない環境汚染の結果なんだな。この砂漠。

 魔法ってすげーけど、すげーなりのリスクがあるんだな。


 といっても、今はこのマナを使いつぶす形の魔法体系は廃れて、使ったあとまた魔力がマナに戻る循環型の魔法式が主流になってるから安心みたい。



 女神様にお願いすればついでに直してもらえるかもしれないけど、人が自分でやったことだから、手は出さないとか言われるオチのような気もする。



「へー。まるで一回来たことあるみてーだな」


 ソウラの言葉に、リオが言う。

 あ、確かに。



「ふっ。当然にござるな」


「マックス!? お前なにか知ってんの!?」

 唐突なマックスにリオが驚いた。


「うむ。お前でも一度は聞いたことがあるはずだ。聖剣の伝説にうたわれた、巨竜との最終決戦の地。それがこのナニム砂漠にござるぞ!」

 ばばーんと、無意味に両手を広げるマックス。

 このあっつい中、君だけは元気だね。


「え? そうなの?」


『はい。それが私がこの地を知っている理由です。広大にしてなにもない砂漠は、他に被害は出ませんし、太陽の光を遮る場所のないこの地は、私の力を最大限に発揮するのに適した場所です。マナもありませんから、巨竜も周囲から魔力を得ることはかなわずと、決戦に相応しい場所でした』


「そう。聖剣伝説を知る剣士ならば、一度は行ってみたい憧れの地にござります」


 あー、あれか。日本でいうところの関が原の地見物とか、そういうノリかな。

 いわゆる、聖地巡礼ってヤツだね。



『行ったところで砂に埋もれたジャガンゾートの死骸があるだけですよ。そもそも、行くのはお勧めしません。決戦は魔法帝国の首都があった地。砂漠の中心で行われました。黄金竜を従えた私達でも帰還はギリギリでした。軽い気持ちで行けば、間違いなく砂に飲まれて命を落とすでしょう』



 異世界の聖地巡礼は命がけかー。


「それは残念にござります」

 マックスがしょぼーんとした。


 ところで、生き物がいないってことは微生物もいないってことなのかな。てことは、死骸を分解するヤツもいないってことで、その砂漠で死んだらどうなるんだろう。

 干からびてミイラになるだけなのかな。骨になるのかな。ちょっと気になる。


 なんで、聞いてみた。



『ナニム砂漠で死んだらどうなるか。ですか?』


「そ」



『実はよくわかっていません。ナニム砂漠で死んだものは、砂に飲みこまれ、そのまま砂の下に沈んで行くのです。その体がどうなるのか。それはその地に行ったものしかわかりません。死んでいますから、地獄、天界に行った者に聞いてもわかりませんし』


 つまり、わからないと。

 気になるけど、確かめに行ったら間違いなく命がないからどうしようもないな!


『ちなみに、砂に飲まれなければ、普通の砂上と同じ結果になると思います。大地のマナは失われていますが、空中は別ですからね』


 ほうほう。


『なので、帝国の氏族には死者をナニム砂漠に流し埋葬する。という埋葬法があるそうです。彼等は、マナなき大地に死者を送れば、その肉体は朽ちることはなく、永遠に保存出来ると考えているようですね』


 そんな文化もあるんですか。

 色々勉強になります。



「あ、ならおいらも一つ質問」


『なんですか?』


「砂漠の範囲は全部砂になっちまってんだろうけど、その外。こっち側は普通に残ってるわけじゃん」


『はい』


「なら、南の島みたいな遺跡は残ってないのか?」


『今度こそ、お宝が欲しいってことですね?』


「そういうこと!」


 んー。いい笑顔だ。

 マックスは、こいつは。と苦笑してる。


『もちろん、崩壊を免れた遺跡は多くありました。あの島のように、完成前に放置されたところもあったでしょう。かつてはその遺跡を専門に探索し、魔法帝国の遺産を探す専門の職業もあったそうです』


「おおー!」

 リオが期待に目を輝かせる。


『魔法帝国の遺産に使われた魔法は消耗型のタイプであり、循環型に移行した後の時代より高い威力をほこっていました。魔法帝国並に乱用しなければ世界に大きな影響もありませんでしたから、強い力を持つ遺産は需要も多かったようです』


「うん。うん!」

 リオの目がさらに輝く。



『ですがそれは、私が以前この地に来た時。五百年前の時点ですでに趣味や道楽の地位になっていました。あの時点で遺跡の探索はほとんどし尽くされていましたから、今はさらに。でしょうね。島のような発見は期待しない方がいいと思いますよ』


「やっぱかー」

 がっくりと肩を落とした。


 まあ、そりゃそうだよな。新しく作る人もいないんだから、あるトコ全部探したらもう終わりだ。


「そりゃ見つかってないとこもあるだろうけど、ぜってー探す労力に見あわねーよな……」


『まさに趣味と道楽です』


「だよなー。あー、なんか希望がなくなった途端、暑さ思い出したー」



「ふてくされたところで現実は変わらんぞ」


「うっせーよ」


 そう言いつつ、リオはアゴに滴る汗を拭う。

 この暑さに、げんなりしているようだ。


 安定していた気候の王国に比べ、砂漠の国の気温は容赦がないので、初めての異国となるリオには辛いのだろう。



「少し休憩しようか」


 ちょうどよく日影を作ってくれている大岩があったので、そう提案した。

 反対意見は、なかった。



 皆で日影に座り、ほっと一息。

 意外にマックスも、この暑さに参っていたようで、ふーと一息ついている。


 のんびり休憩する俺達の前を、荷馬車が一台通り過ぎて行く。

 砂漠でなく荒野の街道だから、やっぱり荷物を運ぶのに馬が重宝されているみたいだ。



 俺は水筒をとりだし、リオに手渡した。


「さんきゅ」


 礼をいい砂避けの布を外し、リオはそれを喉を鳴らして飲む。


「はー。生き返るー。ツカサは?」


「いや、俺は平気」


 戻された水筒を受け取り、ふたを閉め、そのままカバンへしまう。


「ふーん、ツカサ、けっこ余裕あるね」


「確かにな」


 自分でも意外だ。


 でも、砂漠の気候で平気な理由に心当たりがある。


 こんな言葉を聞いたことはないだろうか? 砂漠で旅をする時、最も適した格好は、スーツだと。

 今俺は、学校指定の制服。ブレザーを着ているから、そのフル装備は実質スーツと同じと言っていい。


 信じてはいなかったけど、実際これがいい感じに作用しているのではないだろうか。


 あと、日本の蒸し暑い夏に比べれば、砂漠地方は湿度が少なくからっとしているので、肌にまとわりつくようなムシムシ感はなく、不快度も少ないというのも大きいだろう。


 それが、俺が今余裕のある答えだ。

 単純に俺に体力がついてただけって可能性も捨てきれないけど。


 まあ、余裕があるのはいいことだから、それでいいとしよう!



 ひひーんっ!!



「っ!」


 突然馬が怯えて泣くような声が聞こえた。

 方向は、さっき馬車が進んだ方だ。



「おうおう、ここを通りてえってんなら、通行料払ってもらおうかぁ?」

「だ、誰がお前等なんかに!」


 そして、声が聞こえた。

 どうやら、街道にはつきものの奴等のお出ましのようだ。


「マックス!」


「お任せあれ!」


 俺の言葉を聞いた直後、マックスは飛び上がるように立ち上がり、岩陰から飛び出し、道の先へ駆け出していった。

 俺とリオも、少し遅れてそのあとを追う。


 日影になっていた岩陰から道に出て、その先へむかった。



「ふん。他愛もない」


 現場に到着すると、すでに十人ばかりの盗賊を懲らしめ、地面に這いつくばらせているマックスの姿があった。

 それどころか、怯える馬まで「どうどう」となだめている。


 さすがサムライマックス。圧倒的じゃないか!



「いやー。ありがとう。君達のおかげで助かった」


 馬車の荷台から、襲われそうになっていた荷馬車の主人が顔を出した。

 頭にターバンを巻いた、商人風のおっさんだ。


「今日の売り上げを奪われていたら、もう生きていけないところだった。君達にどれだけ感謝しても足りないくらいだよ」


「いやいや、困った時はお互い様にござるよ」


 マックス、照れる。


「では、拙者達は……」



「おおっと、待ってくれ。このまま君等を行かせたんじゃ、なんの礼にもならない。ええと……」


 おじさんは馬車を振り返って見るけど、めぼしいものはなにもないようだった。

 あるのはさっき言った、売上金のみ。


「……」

「……」

 全員、沈黙。


「そうだ! せっかくだ、夕飯をご馳走しよう! いや一晩泊まっていってくれ! 歓迎する!」


「いや、拙者達は……」



「いや、マックス。このご好意、受け取っておこう」


「ツカサ殿……」


 今日の予定ではこのまま先の街に行ってそこで宿を探す予定だったけど、せっかく誘ってくださったのだから、そのご好意には甘えておきたい。


 俺はわりと平気だけど、暑さになれないリオは早めに休息した方がいいと思うしさ。

 たまには俺も、他人気づかえるってとこを見せておきたいし!



「俺達はこの国に来て日が浅い。この気候に慣れるまで無理はしない方がいいと思う」


「わかりもうした」


 俺の言葉に、マックスはうなずいた。



「ありがとう恩人達! さあ、馬車に乗ってくれ。ウチの村は、すぐ近くさ!」


 わーい。

 お言葉に甘え、馬車に乗りこむのだった。


 そして、思う。


 次からは、余裕ぶらないで、次の街へむかう馬車とか用意してもらおうと……!




──マックス──




 拙者達は助けた者の好意に甘え、一晩世話になることにした。


 素直に受け入れられたのは、自分でもこの砂漠の気候を舐めていたと感じたからである。

 我等には王の手紙を皇帝に届けるという使命があるが、そうして焦って無理をすれば、逆に疲れから体を壊し、余計に時間が掛かる。


 このような基本中の基本にさえ頭が回らぬとは、拙者も無事に見えて、実は暑さに思考力が落ちているという証拠でもあろう。


 拙者達は出稼ぎでほぼ空となった馬車の荷台にお邪魔をし、彼の村まで行くこととなった。


 道中世間話として村のことを聞いたが、彼の住む村はかつて魔法帝国の遺跡が発見され、大いににぎわったことがあるそうだ。

 話題の遺跡にリオが興味を持ったが、すでに発掘も終わり、めぼしい物はすでにないと聞くと、一瞬にして興味が失せたようだ。


 一応最近まで見つからぬ遺跡もあると希望を持ったようだが、本気で遺跡を探す気などはなさそうである。


 他にもこの地にどんな動物がいるのか。植物が生息しているのか。なにが流行りなのかなど、他愛もない話をし、村への到着を待つのだった。



 村に到着する。

 街道から外れた、小さな村だった。


 村から外れたところに、遺跡と思われる小高い丘のようなものが見え、その中腹にぽっかりと開いた穴が見えた。

 どうやらあそこが、遺跡への入り口らしい。


 小さな村らしく、宿はなく、住人も十人いるかいないかの、本当に小さな村だった。

 その村の中でも、大きめな家の前で馬車は停まる。


 どうやらここが、彼の家であり、この広さならば我等三人が増えても十分なスペースがあるように見えた。


 ただ……



「到着した。が、ちょっとばかし待っていてくれお客人。今家の中は客を入れられるような状態じゃないんで、少しだけ片付ける時間を!」


 御者台から飛び出し、拙者達を拝んでから、そう言った男は家の中へかけこんで行った。

 確かに予定になかった急な来客。しかも男の一人暮らし(来る途中聞いた)とくれば、なにが転がっているかわからない。


 拙者もツカサ殿も、なにかを察し、ここは大人しく片づけが終わるのを待つこととする。

 これぞまさに、武士の情け!


「……」

「……」

「……」


『……』

『……』

『……』


 ただ、待つだけというのは、非常に手持ち無沙汰である。



「……あ」


 外を見ていたツカサ殿が、なにかに気づいた。

 


「悪い、二人とも、ちょっとここで待っていてくれ」



 ツカサ殿はそう言い、そのまま馬車から降りて村のはずれ。ひいては遺跡の方へと行ってしまった。


 あまりのことに、拙者達二人はなんの反応も返せなかった。


「……」

「……」


「……ちょっとおいらも行ってくる!」


 馬車を飛び出したのは、リオの方だった。



「あ、こら!」


 ツカサ殿が待てと言ったであろうと口にしかけたが、正直言えば拙者も同じように行きたかった。

 だが、先に行動に移したのはリオの方だ。


 こうなったら拙者も! といきたいところであったが、馬車に誰もいなくなっては片づけが終わった彼に失礼だと思ったし、馬車もこのままにしてはおけない。

 拙者はツカサ殿が去った方に手を伸ばし、断腸の思いで待機することを心に刻む。


 ツカサ殿。拙者、これでよかったのですよね!

 むしろ、ツカサ殿のお言葉を破ったリオをお叱り下さい!



 しかしまさかこの時、地下であのようなことが起きようとしていたとは、拙者はおろか。ツカサ殿以外誰も、想像していなかった……っ!




──ツカサ──




 村に到着し、お片づけが終わるまでの手持ち無沙汰の時間を潰すため馬車の後方から外を見ていた俺は、気づいた。


「悪い、二人とも、ちょっとここで待っていてくれ」


 そう二人に声をかけ、俺は馬車を飛び出す。


 慌てて走り、その場所を目指す。

 俺が見間違いをしていなければ、間違いなくそれは遺跡に走りこんだ!


 ここに来る前、俺は聞いてしまった。

 そして、目の前にそれが現れた。


 なら俺は、走らなければならない!

 確かめなければならない!



 砂漠に住んでいるっていう、砂漠ウサギってヤツを!



 そう。たわいもない世間話の中で、おっちゃんは言っていたのだ。

 この砂漠に面した荒野には、この環境でも毛皮をもっさもさ生やしたウサギがいると!


 しかもその毛皮は、好事家にはたまらない品物であると!

 ゆえに捕まえれば、高値で売れると!


 高値で売れるってのは俺にとってどうでもいいことだが、砂漠で暑いというのにわざわざ毛皮を纏うという、その心意気。この世界、魔法があるから、こんな場所でも理不尽はわりとまかり通る。不思議な力でなんとかしているのかもしれないけど、興味深いじゃないか!


 決して、いつも通りモフモフ具合を楽しみたいってわけじゃあない。


 そう。知的好奇心。これはあくまで、そんな不思議な生物がいるなら見てみたいっていう、知的好奇心なのだ。

 まあ、知的好奇心を満たすためちょーっとばっかし触って見たりするかもしれないけど、あくまでそれは学術調査のためだからね。勘違いしないでよ!


 単なる砂漠にウサギというミスマッチに対する、知的な好奇心だから!



 ──ちなみにだが、地球にも砂漠に生息するウサギはいる。という事実があることをここで伝えておく。



 もちろんだが、俺が最初にその影を見たところに到着した時すでに、それはその場にいなかった。


 素人の俺が野生のウサギを追い回すなど、そもそも不可能。

 だが、例え姿が見えずとも、こちらには生体レーダーを兼ね備えた心強い仲間がいるのだ!


「オーマ」

『おうよ。言わずとも、もう捕捉済みだぜ』


 さすが頼れる俺の相棒!

 残念だったなこうさぎちゃん。お前はもう、俺から逃げられない!


 いつ片づけが終わり、迎えが来てしまうかわからない。

 早いトコ目的を達成し、この知的好奇心を満足させなくては!



「じゃあ、ナビを頼む」

『おうよ! まずは、そこの遺跡へ入ってくれ!』


 俺はオーマの指示に従い、魔法帝国時代に作られ、今はもう発掘しつくされたという遺跡に足を踏み入れた。


 人の手で掘られた穴を進むと、その先は真っ暗。

 前の南の島で見た、キラキラピカピカな壁とは違い、何百年もの時間が経過した、ボロボロの遺跡だった。


 どうやら、機能は完全に停止してて、あかりなんかも完全にないようだ。


 俺はこんなこともあろうかと用意しておいた懐中電灯をオンにして、先へ進む。

 オーマの指示に従い、ずんずん奥へ。


 発掘が終わっているわけだから、罠があるわけがない。

 だから俺は、安心してターゲットであるこうさぎちゃんを追うことだけに集中出来た。


 右へ曲がって左へ曲がってちょっと戻って、正直頭の中に描く遺跡の地図はさっぱりになった状態で……



『ついたぜ』



 多分、遺跡の一番奥のところ。

 その行き止まりの壁で、オーマがそう言った。


 ついたって、オーマ。ここ、壁しかないぜよ?


 どういうこっちゃと、壁をペタペタ触ると、ごごっ。と小さな音を立て、壁が動きはじめた。


 おおっと、隠し扉!


 そうかい。こうさぎちゃんはこの中ってわけか。

 さすが小動物。小さな隙間があれば、人には行けない場所へもするする入れちまうってわけだ。


 そこに逃げこめば、危険は安全。それで大丈夫って安心したってわけだな。

 だが、残念。いくら逃げようと頑張っても、俺はそこへ追っていっちゃうのさ!



 ぴかあぁぁぁ。



 って、ん?

 ゆっくりと壁が回転扉のごとく動いて行くと、その隙間から眩いばかりの光が漏れてきてるのが見えた。


 どうやらこの先はまだ、遺跡として生きてるみたいだぞ。

 リオに教えたら小躍りするかも。


 こいつは行幸!


 さらに幸運なのは、これで懐中電灯はしまえて、両手が使えるようになるってことだ!


 両手が使えるってことは、ダブルもふもふも使えるってことなんだぜ!



 俺はゆっくりと開く扉を前に、懐中電灯をカバンにしまう。


 青白い蛍光灯のような光が完全にこちらの部屋も照らし、壁のむこうが姿を現す。


 隠し扉の先には、物置ほどのサイズの部屋があった。

 壁は相変わらずボロボロ。部屋の真ん中に、あかりとなる光る物体が浮いている。


 すげえ。照明が浮いてるよ。

 さすが魔法のある異世界。



『あ、相棒。こいつは……』


「しっ」

 オーマの言葉を遮った。


 この中にいるとわかっている以上、これ以上のナビは必要ない。

 下手に音を立てると、ターゲットは逃げてしまう。


 ここは静かに部屋に入り、目視して、がっちりキャッチするだけ!



 俺は音を立てないよう、ゆっくり、抜き足差し足をしながら、部屋の中へ入る。



 自分の影が視界の邪魔をしないよう、中央に浮かぶあかり球の真下へ移動する。

 これで、影に隠れてわからなかった。なんてことはない!


 さあて、どこに隠れたのかな。こうさぎちゃん。



 狭い部屋の中、もう逃げ場は……



「ツカサ!」



 なっぱぁ!?


 背後から、リオの声がした。


 こうさぎちゃんを捕まえるため、息を潜め音も立てぬよう部屋に入り、全神経を床の方へむけていた俺。


 そんな状態で、完全に予想外の方向から声をかけられたら当然驚く。

 むしろ驚かないヤツなんているわけがない!


 驚いちゃってもしかたがない。誰もがそう思い。そうなっても仕方がないときっと理解してくれるはずだ!


 だから、これから俺がやっちゃったことを、責めちゃいけない。

 いけないと、俺は思う!


 そう。驚いた俺は……



 ぱんっ!



 びっくり体を跳ねさせ、動いた手が思わず裏拳になって、部屋の中を照らすひかり球にぶつかっちゃったんだ。


 んで、さっきの軽い音が鳴って。

 部屋、真っ暗になった。


 つまり、リオの望んだお宝っぽい光の球体。



 壊しちゃったんだ……



 だってしょうがないよ。

 ビックリしたんだもん。


 しょうがないよ。

 しょうがない、よ、ね……?



 ま、まあ、すぎたことは仕方ない。

 いきなり声をかけてきたリオも悪い。


 そう。俺はあそこで待っててと行ってここに来た。

 約束守れないリオが悪い。


 そして宝を壊した俺も悪い。どっちも悪いということで、なあなあで処理しよう。

 ソレが一番!



「ツカサー?」



 ソウラの光がこっちに近づいてくる。

 つまり、リオがこっちに迫っていた。



 リオが来ちゃったから、この中にいるだろうこうさぎちゃんを探し、捕まえることも出来ないだろう。

 そりゃ探すことは出来るけど、一番の目的をリオの前でやるわけにはいかないから。


 ああそうさ。秘密にしていたけど、知的好奇心なんて言ってたけど、結局俺は、砂漠ウサギを撫でまわしたかっただけさ。

 砂漠ウサギの毛並みを味わいたかっただけさ。

 笑えよ!


 そして、俺が撫でリストであるというのは、オーマ以外には秘密だ。

 だってぬへぬへ笑って小動物を撫で回す姿なんて、他の人には見せられるわけがない!


 だからここは、きっぱり諦める。

 撫でようとしてターゲットに逃げられるというのは、撫でリストの宿命みたいなもの。


 ダメな時は縁がなかったときっぱりと諦める。


 それが、撫でリストの心得だ!



 ソウラの光が、俺の姿を照らした。



「あ、やっぱツカサだ。さっき急に光が消えたけど、どうしたの?」



 この言葉を聞いた瞬間、俺は神はいると思った。

 いや、実際この世界神様いるけど。


 リオは、ここに宝があったことに気づいてない!

 俺が懐中電灯とか消したと思ってる!


 なら、ここで素直に言わなきゃ、なにもがっかりさせない!


 俺は、心の中でガッツポーズをとった。


 黙っていればバレない!

 決して俺の罪悪感からじゃない。リオをがっかりさせないためだ。


 いいね?



「いや、急に声かけられたから、ビックリしてさ。あそこで待ってろって言ったろ」


「あ、ごめん。でも、気になってさ。どうしたの?」


「それに関しては、もう終わったことだから気にするな。あまり待たせるとマックスに悪いから、戻ろうぜ」


「んー。わかった」



 ふー。完璧に誤魔化せた。

 リオは俺を疑ってもいないようだ。



(……ツカサ、またなんか一人でやったなー)



 もちろん、リオがなにを思ったのか、俺は知る由もない!




──ソウラ──




 リオとツカサ君を追いかけ、ちょうど仕掛け扉が開いていくところで彼に追いついた。


 部屋の奥がなにやら明るい。

 ひょっとすると、まだこの遺跡の中で探索されずに残っていた隠し部屋あったのかもしれない。


 そう思った瞬間。私は絶句する。


 その中になにが封印されていたのかに気づいたからだ。

 周囲からはわからぬよう、厳重に封じられていたそれが見えた瞬間、今、この地がどんな状態なのかを理解してしまったから。


 今、まさにこの場は非常事態。

 きっとツカサ君の腰にいるオーマも、私と同じく絶句していることでしょう。


 それを知るものが見たら、誰もが絶句する。

 そんな状況なんですから!



 私の知覚に飛びこんできたその代物。


 小部屋の中に浮かぶ、光る石。

 強力な魔力を生み出す力を秘めたソレ。



 その物の名は、『魔石』



 それこそが、魔法帝国繁栄の礎となり、崩壊のきっかけを作った究極の魔道具!

 魔法を発動させるために必要な魔力の元となる、万物に宿りしマナを吸収し、蓄え続ける、大地を殺す過ちの道具がそこにあったのだから!


 魔法帝国崩壊から七百年。

 その崩壊の連鎖にまきこまれず、これは誰にも見つからず、誰にも気づかれず、この地のマナを吸い続けていたんです。


 魔法帝国の崩壊は、この魔石を大量に、そして一気に使用したことにより、大地からマナが急激に失われたことに端を発します。

 しかし、数がなければマナは問題ないのかというと、そうではありません。


 魔石は、その小さな体に、ほぼ無尽蔵にマナを溜めこむことが可能なのです。

 それが一つだけでも放置されれば、長い年月をかけそこのマナを吸いつくし、ナニム砂漠と同じ死の大地を生み出すのに繋がるのです。


 あれからもう七百年。

 私にマナを感じる力はないけれど、それだけの時間ずっとマナを吸い続けたとすれば、そこに集束されたマナはかつての巨竜クラス。下手するとそれを超える力があってもおかしくはない。


 なにより、それだけのマナが吸われていたとすれば、今すぐにでもこの地のマナが枯渇し、大地の崩壊がはじまっても不思議ではない……!


 事態は一刻を争う。

 しかし、一歩でも取り扱いを間違え、魔石に刺激を与えれば、そのマナは魔力へと変換され、巨大な魔法爆発が引き起こされる。

 マナの吸収はそれで収まるが、その破壊は先日いた港町一帯。いや、下手をすると海をこえ王国にまで届くほどかもしれない……!


 それを引き起こさぬよう、薄皮一枚一枚をはがすかのごとく、魔石の構成を一つ一つ丁寧にはがしてゆかねばなりません。


 私の力をもってしても、それを行うのにどれだけの時間がかかるか。

 オーマの力を借り、マリンも連れてきて、一ヶ月……? 一年。いや、下手をすると何十年の年月がかかってしまう!


 その間にも魔石はマナを吸収し続ける(霊的にリンクしているため、ここから動かしても無駄)

 このサイズの魔石の吸収速度と大地のマナの総量を考えれば、残された時間は少ない。絶対に間に合わない……!


 魔石を見た瞬間。


 私はそれを確信した。


 だから、絶句してしまった。



 私にとれる方法は二つ。


 奇跡の時間に望みをかけ、魔石の構成を一から崩してゆくか、私の力で魔石をおおい、魔力大爆発を最小限の被害で食い止めるか……!

 後者を行えば、確実に私もただではすまない。


 リオとの旅も、そこで終わってしまう可能性も高い。


 だが、それをしなければ、もう一つのナニム砂漠がこの場に生まれてしまう……!



 ツカサ君がこの場を一直線に目指した理由もよくわかる。

 君は、この異常事態にいち早く気づき、どうにかするためここに来たのですね。


 伊達に、世界の理が崩壊しようとしていたのに気づいただけないわ。


 でも、さしものサムライでも、あなたは魔法使いではない。

 門外漢のあなたに、この最大級の魔法災害をとめることは出来ない。


 ここはやはり、私が……



「ツカサ!」



 ……っ!


 私が決断をくだそうとした瞬間、リオがツカサ君に声をかけてしまった。


 次の瞬間。



 私は、信じられないものを見る……



 リオの声に、ツカサ君の腕がびくっと跳ね上がった。

 まるでビックリ驚いたかのような動きで、その手の甲が、魔石に当たる……


 マナとは、万物に宿る神秘の源。魔力を生むために必要な代物というだけでなく、人の体にも宿る、命の根源。

 魔力を発せずとも、マナとマナがぶつかれば、小さいながら反応が生まれ、結果、魔石の崩壊と、魔力の暴走が起きてしま……



 ぱんっ。



 軽い音と共に、魔石が粉々に砕け散った。

 それと同時に、ツカサ君のいる小部屋に、闇の帳が落ちた。


 起きたのは、それ、だけだった。



 ……え?


 絶句の次は、唖然。


 なにが起きたのか、わからなかった。


 今、間違いなくツカサ君は、魔石に触れてしまったわよね。

 魔石はマナを吸収する。だから、マナを持つ人が触れれば、そのマナは魔石に吸収される。


 そこに衝撃が加われば、マナ同士が反応し、魔力が発生して……



 同じことをもう一度考えても、そんなことは欠片も起っていなかった。

 魔石が砕け、なにも起きない。


 それはつまり、魔力は発生しておらず、マナは一切消費されずに器が壊れ、万物のあるべきところ。大地に帰依しているという証でもあった。


 わけがわからない。

 唯一わかるのは、あのビックリした動きは、声をかけられて驚いたからと、言い訳するための演技だったということ。


 あの子、確実にすっとぼける気だわ!

 いつものように!


 ってそんなのわかっても意味がないっ!


 あんな乱暴なやり方で、どうしてなにも起きないの!?

 どうしてこんなに簡単に、この地方を救えるの!?



 生身で魔石に触れ、マナを刺激せず、その器だけを壊す。

 そんなの、体にマナを宿すこの世のものには不可能な話だわ。


 この世のものである限り、体にマナは宿り、触れればなんらかの反応が生まれてしまう。


 それが出来るとすれば、マナを持たない、この世のものでない存在か、マナを完全に体内に封じこめ、外界と隔絶出来る者しかない。



 そんなこと出来る人なんて……って、ん?



 ……マナを、体の内と外で、隔絶する?


 マナを、ゼロにする……?



 ──っ!?



 その瞬間。私の中で、ある仮説が生まれました。


 ある光景が、私の中で思い出される。

 それは、女神ルヴィアを復活させる旅の中の光景。


 あの六ヶ月の間に見た、聞いた、オーマとマックス君との、サムライ訓練。

 サムライの力の源とされる、『シリョク』と呼ばれる力の使い方。その説明。


 ソレとコレとが今、私の中でかちりとはまったのです!



 なんてこと。


 この仮説が本当なら、彼が魔法使いでないのに魔石を容易く砕き、マナとマナを反応させず大地に還すことが出来たのも。サムライの技が魔法の通じぬ存在に通じたのさえ説明がつく!


 そうか。だからツカサ君は、誰よりも早く、この地の異変に気づけた……!


 その仮説を当てはめて考えれば考えるほど、ぴたりとピースがあうかのように説明がつく。

 私の考えは、仮説から確信に変わってゆく!


 私の導き出した答え。



 それはすなわち、私が『マナ』と呼ぶ万物全てに宿る世界の力の源は、サムライが『シリョク』と呼ぶ力と同じものということ!



 マナもシリョクも、世の理を無視し、不可能を可能とする力の源である。

 マナもシリョクも、万物に宿るといわれている!


 ツカサ君は、『フウジン』と呼ばれるシリョクを体内に封じ、一見するとシリョクがないかのような状態に出来る奥義が使えるという。

 マナ=シリョクであるなら、それが使えるなら、ツカサ君の体内のマナをゼロとし、魔石という器のみを破壊することが可能になる!


 心を無にし、自然と一体化し、その力を自在に振るうという到達点があると聞かされた時、なぜマナと結びつかなかったのだろう。

 それこそまさに、神秘の源。世界に宿るマナを自在に操ることと同義だったというのに!


 すなわちサムライとは、魔法使いでいうところの真理の扉にたどりついた存在ということ。

 その扉を、開け放った存在ということ!


 それは、魔法使いにとって、一つ上の存在となる領域。


 サムライとは、生身でそこにたどりついていた存在だったのね。



 そしてこれの領域の違いが、サムライの技が魔法を効かぬもの。『闇人』に通じた理由。



 魔法使いの使う魔法とは、魔力を素にして世界の理を書き換える技法だ。

 その魔力は、マナを変換して生み出される。


 つまり、マナ→一部を抽出し魔力に変換→魔力をもちいて魔法を使う。というプロセスだ。

 しかしサムライは、マナ(シリョク)→技と、マナそのものを力の源としている。


 魔法使いはマナの一部(魔力と呼ぶ部分)しか使っていないのに対し、サムライはマナ全てを力に変えているということになる。


 サムライも魔法使いも、同じように竜巻や雷、炎を放ちながら、結果が変わるというのは、その根本の質が違うから。

 魔法の通じぬ存在にサムライの技が通じるというのも、より深い位置にある力を使っているからと推測が立つ!


 だが、その根本が同じであるから、究極の到達点は、世の理を制御するというところにたどりつく……!



 この確信は、私の中を衝撃と共に駆け抜けた。


 確かにオーマが、サムライソードは私達インテリジェンスソードとは同じじゃないと主張するわけね。

 表層は同じでも、その中身は大きく違うわ……


 これは、とんでもない発見だわ。

 世の魔法使いが、飛び上がって驚くほどの。


 あとで、マリンにも教えておかないと。


 魔法使いがサムライの下位存在と知って落ちこむかしら?

 いいえ、違うわね。このに気づけば、きっと目を輝かせ、好奇心と野望の炎を目に宿らせるわ。



 これは、一つの光明なのだから。


 圧倒的な存在であるサムライと同じ領域に、魔力を操る私達も立てるという証でもあるのだから!


 この事実は、人も、魔法使いも、更なる高みがあるという証明に他ならない。

 これはいわば、魔法使いの新たな道が開けた、進化の兆し!


 確かに今は、サムライにおよばないかもしれない。

 でも、見ていなさいツカサ君。


 この確信で、聖剣の勇者はあなたの背中をはっきり見据えたわ。

 聖剣は確かに完成された存在だけれど、それを使う勇者は違う。この事実を踏まえ、更なる進化が望めるんだから!


 待っていなさいツカサ君。

 リオと共に、あなたに追いついてみせる!



 リオとツカサ君が合流し、また一人でなんかやったなとリオが思っている横で、私はそう、心に誓うのだった。




──オーマ──




 いやはや。相棒の危険を察知する嗅覚はおれっち以上過ぎていやんなっちまうぜ。


 村についてすぐ、相棒はそれに気づいた。

 そしてすぐに行動に移した。


 おれっちの方も、相棒のこの行動があってはじめて、なにかある。と感じて注意深く周囲を観察し、この場のシリョクがなんかおかしいって気づけたのさ。


 ちょっと気づくのに遅かったら、相棒に指摘されやっと……なんてこともありえたが、さすがにそいつは回避出来たぜ。

 おれっちでさえ集中してコレなんだから、サムライ初段で自身のシリョクしか操れねぇマックスにゃこの小さいがとんでもねぇ異変に気づけなかったようだ。


 いや、サムライ十段の相棒だから気づいただけで、並のサムライやカタナにゃこの危機は気づけなかっただろう。


 なんせこの時、この大地にはまだシリョクは満ちてんだからな。



 シリョクの喪失ってのは、突然やってくる。

 当然シリョクがなくなるってのは、場にシリョクがゼロになった時だ。

 その供給量を消費が超え、場にあるシリョクがゼロになった瞬間、やっとそこにシリョクがないって気づくもんなのさ。


 だが、シリョクがある限りは、その場にシリョクがあると感じられちまう。

 なんせその時まで、シリョクはその場にあるんだからな。


 あるからこそ、見える者にも異変は気づかねぇ。


 なくならねえ限り、そこにあるんだからよ。



 相棒は別として、今回おれっちもこの異変に気づけたのは、地の底からシリョクを吸い上げ、集めまくる装置(魔石)があったからだ。


 そう。そいつがシリョクを吸いまくり、その隠蔽を超えて、違和感を覚えるほどのシリョクを発していてた。おかげでおれっちも気づけた。


 それでも隠蔽から漏れ出たシリョクは少量で、そう簡単にゃ気づけるようなもんじゃなかった。

 相棒でさえ、正確な位置はおれっちに任せたくらいだからな。


 さすがに、事態がわかりゃ、サーチの正確性はおれっちのが上よ。



 正確な場所へ、相棒を案内した。



 そいつの場所は、魔法帝国が作ったて遺跡の一番奥だった。

 どうやら、滅んだ魔法帝国が残した厄介な遺産てヤツのようだ。


 相棒は隠し扉を前にして、おれっちが指示をする前にあけちまった。

 おれっち以外には開け方を解析出来ねぇだろう、複雑な手順の解除だってのに、迷うことなくな。


 隠し扉が開き、中に隠蔽されていた『ソイツ』を見た瞬間、おれっちは、ヤベェと思った。


 事態はおれっちの想像を超えていた。


 シリョクを集束するってぇ装置に集まっていたその量。

 魔法帝国は、ちょっと前に話題になったアレだ。その崩壊と、放置された時間。そして吸収した量から考えれば、この地のシリョクが枯渇するのは、もう目前だってのが導き出された。


 崩壊は、すぐそこに迫っている。

 時間はもう、ない……!


 現物を見て、おれっちが思わず絶句するのも当然てもんだろ。

 もう一つの、小さなナニム砂漠が出来上がる瞬間が目前に迫ってやがったんだから。


 早くして、どうにかして還元してやらなきゃならねえ。



『あ、相棒。こいつは……』


「しっ」

 相棒はおれっちの言葉を遮り、なんでもないように部屋へ入っていく。


 こともなげ。そんな様子がぴったりな態度で。

 崩壊の時が迫ってるってのに、相棒は欠片も焦っていなかった。


 その圧倒的な立ち姿に、おれっちの不安は一瞬で霧散していく……



 だが。


 だがよ。


 その解決法は、さすがのおれっちも予想外だった。



 ぱんっ。



 おれっちに目玉があったら、多分飛び出していただろうぜ。


 そりゃ、相棒は『フウジン』をもってシリョクをすべて身体のウチに封印し、そのシリョクを完全にゼロとすることが出来る。

 そうすりゃ、シリョクの塊となったその装置をぶっ壊しても、シリョク同士はぶつからず、中のシリョクは反応しねぇ。


 下手な儀式をしている時間もねぇ。あのタイミングでやれたのは、間違いなくあの方法だけ。

 そいつはわかる。相棒にしか出来ねぇ解決法だってのも。


 だが、それをあの一瞬で決断して実行するんだから、ホントとんでもねぇお方だよ。



 ちょっとでも制御をミスりゃ、ここいら一帯が死の大地に変貌しちまうってのに、あれほど冷静なんだからよ。



 しかも、片付け終わったら、そんなのあったかってくらい、いつも通りだ。


 やり方も、いつも通りすっとぼけられる方法で、リオのヤツはなにが起きてたのかすらわかってねぇだろう。

 一応ソウラのヤツが察してるみてぇだから、あとでリオのヤツに教えるかもな。


 まあ、相棒に問いただしたところで、いつも通りはぐらかされるだろうけどよ。


 この地を崩壊の危機から救ったってのに、誰からも見返りを求めねぇ。

 どこに出しても恥ずかしくない、聖人のような方だぜ。



 だからおれっちは、あとでこっそりマックスの方にも伝えておくぜ。

 今回の顛末、この場でなかったことにしちゃぁいけない偉業だからな。


 マックスに伝え、しっかりキッチリ、相棒の偉業として後世に伝えてもらわなきゃなんねえ。


 それが、相棒の弟子と、相棒の相棒の務めってヤツだぜ!



 そんでこの後、助けたおっさんに一晩世話になり、おれっち達は改めて帝都に向けて出発したってわけさ。




──アミラルォット──




「ここか……」


 俺は今、あの方の命を受け、港町近くにあるすでに発掘を終えたはずの魔法帝国の遺跡へやってきていた。

 数日前、その村にサムライの一行が宿泊したという話のある村のだ。


 サムライが宿泊したとされた日、あの方がある反応を感じとったのが、俺がここへ派遣された理由である。



 俺はあの方と直通となった通信水晶と、暗闇を照らす魔法のライトを持ち、遺跡の中を進む。


 遺跡の最奥。

 そこには、かつて発掘調査の際には記されていなかった部屋があった。


「どうやら、未発掘の区分があったのは事実のようですね」


 通信水晶からこちらをのぞくあの方にもよく見えるよう、開かれた小部屋をうつす。



『ここに隠された部屋があった。ならば、この場に魔石が現存していたのも間違いない』


「……サムライ殿に持っていかれたということでしょうか?」


『いや、持ち去られてはいない。破壊されたのだ』



 さもありなん。

 あの方の言葉を聞き、俺はそう思う。


 魔石。

 それは、帝国臣民ならば誰もが知る究極の魔具。我等が前身、魔法帝国崩壊の原因となった、大地さえ食らいつくす悪魔の道具。

 その危険性を考えるなら、サムライが破壊するのは当然の判断だろう。


 魔法使い以外にとって、あれはただ大地を朽ちさせる、危険な道具でしかないのだから。


 俺としても、サムライ殿が破壊してくれたというのには、心の中で感謝している。

 文献によれば、かつて発見されたいくつかの魔石は、その処分に大変な手間と時間がかかったというのだから。


 時に大爆発を引き起こし都市を一つ消滅させたり、担当魔法使いのマナを吸い尽くし、あげく小ナニムと呼ばれる小さな砂漠を生み出したことさえあるからだ。


 人の手にあまるそれを労なく処理してくれたというのは、こちらとしてもよいことだろう。



 だが、あの方の考えは違う。

 魔石があれば、あの方の野望をかなえる力と出来ると考えているからだ。


 確かにあの方ほどの魔法使いならば、マナを吸い尽くされず、暴走させることなく魔石を使いこなせるだろう。

 どこかの大地を犠牲にすることとなるかもしれないが……


 まあ、魔石はすでに失われたのだから、そういった心配を俺がする必要はないのが幸いか。



『……ふふっ』



 水晶のむこうで、あの方が笑う。



「ルォットー」

「はい」


『お前に、新たな任務を与えよう』


「はっ!」


 俺は水晶を高く掲げ、その命を受諾するため膝をついた。

 いかなる命でも忠実にこなしてみせよう。


 その忠誠を見せるためだ。



『──』

 しかし、この命令は、流石の俺も、一度どういうことか聞き返してしまった。


「え? は?」



『もう一度言おう。この場に魔石があったのは間違いない。わらわは今回の件で、その魔石の痕跡を感じる術を得た。それを使えば、この地に眠る魔石を探すことが出来よう。ゆえに、貴様に命ずる。この地に眠る魔石。命をかけて探し出すのだ!』


 どうやら俺の聞き間違いではなかったようだ。


『今まで大地の力を溜めこんだ魔石があれば、サムライにも対抗出来る。わらわのため、必ず探し出すのだ。よいな!』



「ははーっ!」



 俺は改めて、水晶を掲げたまま頭を下げる。

 その命、必ず実現させましょう。


 それが例え、大地を一つ死滅させることとなろうとも……っ!!



 こうして俺の新たな使命。魔石探しがはじまった!




 おしまい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ