表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第4部 帝国進撃編
72/88

第72話 過去を知る人


──ツカサ──




 色々あったけど、ついに来ました南の帝国。

 船から港に降りて、すぐ思ったのは別の国にやって来たということ。


 今までいた王国とは建物のつくりがまったく違う。服装が違う。


 すっごくわかりやすく、ざっくり説明すると、砂漠の国だ。


 緑が少なく、熱がこもらない工夫のされた建物。

 ターバン巻いて、暑さ対策のされた個性的な服装。


 洞窟の奥には金銀財宝の他に魔法のランプとかが置いてありそうな雰囲気がある。


 まさに、別の国にやってきた。そう実感するほど、違う国の光景だった。



 じっ。



 港に降り立ち、おおー。と新たな世界の光景に感嘆の声をあげていると、そんな俺達に注がれる視線があることに気づいた。

 この俺でもわかるくらいなんだから、かなりの注目度なんだろう。


 確かに俺は制服ブレザーで、隣のマックスはコスプレ感マックスの格好だけど、決して……変だわ。

 王国ではサムライかぶれの格好をした人はたまにいたけど、それでもその格好は悪目立ちしていた。その格好のまま異国に来れば、さらに目立つのは当然だろう。

 王国でも目立たなかったリオもこっちじゃ浮いて見えるほどなんだから、俺とマックスはさらに浮きまくり、目立ちまくりに決まっている。


 三者三様。共通点もない組み合わせもバラバラ。こんなのがひさしぶりに来た船から降りてきたら、そりゃ悪目立ちもして注目も集めるってもんですわ。


 視線の理由にも納得し、俺達は荷の積み下ろしをはじめた医者船長一行にこれまでの礼を言い、ひとまずの目的地。伝説の大海賊、キャプテン・エルダートの研究者がいるという場所を目指し、歩き出した。


 彼等とは、ここでお別れだ。荷が改めて積まれたら、サンスナンナへ戻るのだから。


 もちろん、港で商船団の人達ともお別れした。


 彼等とは港に入ってすぐ。海の上でむかえに来た帝国の方に船ごとひきとられたので、別れの挨拶はほとんどできなかった。

 こっちは帝国の人だから、また会う機会もあるかもしれないけど。



 ただ、この時、俺は浴びせられていた視線の本当の意味に気づいていなかった。

 冷静に考えてみれば、サンスナンナでも悪党達が問題になっていたのだから、異国のこっちでさらに問題を起こしてないわけがないわけだよな……



 じっ。

 じじー。


 周囲からの視線が気になりつつも、俺達は教えてもらったキャプテン・エルダートの研究者がいるってところに到着する。


 ついたそこは、この街の区長の館だった。


 どうやらその区長その人が、エルダートの研究者その人らしい。



「ヨウコソ。ワタシ、この街の区長ネ。アナタ達こと、キャプテンから早馬ウケ知てましタ。ワタシがエルダート研究第一人者ネー」



 帝国側の船長からの紹介状と、マックスの特使という肩書きのおかげで、その区長さんにあっさりと会えた。

 なんか、すげぇ口調怪しいけど。

 区長だけに……!


 ……自分で思って恥ずかしくなってきた!



「ヘイ、皆サン。ワタシ暇ですガ、ハヤクお宝見たいネ。ハヤクハヤク」


 なぜか両手でターバンをぺいんぺいんと叩いて揺らしながら言ってきた。

 叩かれた反動で、無意味にターバンがたゆんたゆんと揺れる。


 ターバンてあんなに揺れるもんなの? 気になって話しに集中出来ねぇ。



「そんなにせかすなよ。ほら、ここにあっから」


 俺がたゆたゆ揺れるターバンに目を奪われている間に、リオは腰にある魔法の袋から南の島で見つけた宝箱を取り出した。


 にゅーっと出てきた箱をマックスがキャッチし、それをささえ、床に運ぶ。

 どすん。と重そうな音を立て、ふかふかな絨毯の上に宝箱が置かれた。



 ぴたりっ。


 たゆんたゆん揺れたターバンの揺れが止まった!



 宝箱を見た区長は、動きを止め、驚きに目を見開いている。


 その視線は、宝箱の正面に描かれたエンブレムに注がれていた。



「こ、この紋章。この海賊旗。コレ、確かにエルダート海賊団、モノ!」


 驚きの中、ターバンをごそごそあさり、片目につけるルーペを取り出し身につけ、宝箱を念入りに調べはじめた。

 そこ、物も収納出来るんだ……



「おお。おおー!」


 見て、調べが進むにつれ、区長が感嘆の声をあげる。

 見れば見るほど、喜びが増えるというような声だった。


 念入りに調べた宝箱からがばっと顔を挙げ、喜びに満ちた笑顔が俺達にむけられる。



「コレ、凄いヨ! 間違いナク本物! 中身、期待出来ル!」


 本命となる宝箱の中身を見るため、いそいそとそのフタに手をかけた。


 その膨らむ期待を見て、リオがバツの悪そうな表情を浮かべた。


「いや、期待させて悪いんだけどよ……」



「おおー!」

 パカッと宝箱を開け、中身を見た区長はリオの忠告とは裏腹に、喜びの声をあげた。


 それはまるで、中身が金銀財宝のお宝だったかのような反応だった。


「スバラシイ!」


「へ?」


「コレもソレも、ドレもスバラシイ!」

 中身を見て、区長は目をキラキラと輝かせる。

 ついでにターバンもたゆたゆ揺れる。


「す、すごいの?」

 リオには区長が目を輝かせている理由がわからないようだった。


 確かに宝箱の中身は金銀財宝ではなく、古いだけの私物のようなものだ。普通に考えれば、そこに価値なんてない。

 でも、いわゆるマニアや研究者には、歴史的価値という不思議な価値が生まれたりするのだ。

 俺もよくわからないけど、そういうモノに金を出す人は、どの世界にでもいるのである。


「スバラシイ。トテモスバラシイ! これデ、エルダートの人となりヤ趣味、性癖ナド、わかる大事な資料。知らないヒト見ればガラクタかもデスが、ワタシ見ればお宝! お宝!」


「そ、そうなんだ」


 むしろ、そのテンションにリオはヒキ気味だ。

 正直俺も、ここまでのテンションはよくわからない。



「わかる。拙者にはわかるにござる。その気持ち!」


「え? わかんの!?」


 感涙する区長に共感して同じく感動の涙を流すマックスを見て、リオが驚く。

 俺も驚く。



「むしろリオ、貴様なぜわからん! それをツカサ殿の私物と置き換えてみよ! 拙者、ツカサ殿の私物ならば、全財産。大枚をはたいてでも手にいれる所存にござるぞ!!」


「~~っっっ!!」



「え? ちょっ?」


 なんでリオも確かにー! なんて驚きの顔なんで浮かべてんの!?

 俺ちっともその気持ちわからないよ!


 この場だと逆に俺の方がおかしいみたいだけど、俺、おかしくないよね!



「コレだけノ私物あれバ、ワタシ夢叶うネ!」


「それは、いかような?」


「エルダート博物館、作ル! ワタシ集めたエルダート私物展示シ、世界の皆にエルダート、どんな性癖アッタ知てもらう! これ、ワタシ夢ヨ!」


「そ、それはすばらしい! 尊敬する方の軌跡を永遠に残す。それは人類の歴史において、とても重要なことにござるな!」


「その通りヨ!」



「……」


 意気投合する二人を尻目に、俺はあることを心に決めた。


 絶対、俺のだってわかるブツは世に残さないようにしよう。と。


 心にそう、刻むのだった。



 絶対絶対、俺博物館なんて作らせねーからな!




 ──伝説のサムライ。


 最強にして無敵と言わる彼についてわかっていることは驚くほどに少ない。

 幾度にもわたり世界を救ったと言われているが、その数でさえ正確な回数はわかっていないとさえ言われている。


 様々な伝承、伝説、憶測を交えたサムライエピソードは多く存在しているが、多くは真偽不明であり、サムライが本当に関わっていたかもわからない代物ばかりである。


 その原因の一つとして、そこにサムライがいたということを証明する品物がないのだ。

 物証を求め、その足跡やエピソードを調べれば調べるほどその存在は霞み、実在したのかさえ疑わしく思えてしまうほどだ。


 彼──ひょっとすると彼女かもしれない──が確実に使ったという品物がなければ、直筆のサイン一つさえ残されていない。

 まるで、意図的に残さなかったかのようにだ。


 唯一記録に残る直筆の手紙は、ジョージ・クロスと呼ばれる裏社会のボスに送られた物のみである。

 その大事な品も、本人が黙読したのち、手下達の目の前でそのまま焼却されてしまい、世に存在していない。


 なにが書いてあったのか。それは当人同士にしかわからない……


 そもそもそれさえ、懇意であったと喧伝するクロス一家が勝手に言い出した捏造だという説さえある。



 調べれば調べるほど、伝説のサムライは突然この世界に現れ、役目を終え、そのまま幻のように消えてしまったかのようである。

 後世、その実像さえ定まらぬ原因は、それが理由である。


 何故サムライがこうも頑なに自身の足跡を残さなかったのか。その理由はわかっていない。


 一説によれば、ミステリアスであればあるほど、伝説は語られてゆくからだという、自己プロデュース説や、自身の遺物を巡って戦争が起きるのを恐れ、処分した説、むしろ後世の評価など欠片も気にしていなかった説など、様々な説が唱えられているが、その答えが確定する日がくることはないだろう。


 時にそれが原因で、サムライなどは存在しなかったという説も生まれるが、その存在がなければこの世が存在していない事件が幾多もあり、その存在そのものは決して否定出来ないのも事実である。


 歴史の中で、わざわざ国を救ったのが、国とはなんの関係もない人間だと捏造する理由がどこにあるというのだ。

 多くの文献から、伝説のサムライが実在したということは間違いないのである。



 なにより、サムライが実在したということを証明する唯一にして絶対の物証が残されている。


 その手におさまり、幾多の悪を滅ぼしてきた相棒。

 刀と呼ばれる、サムライの武器。


 それが、彼を祭るサムライ神社に祭られているからだ。

 女神ルヴィアによって建てられたといわれるその神殿に御神体として捧げられたその刀は、千年の時を経てた今を持ってもその輝きは衰えず、多くの者にその存在を確信させている。


 それは、同時期に活躍したとされる聖剣ソウラキャリバーと同じく眠りについていると言われており、万一目覚めることがあるなら、サムライの真実が明かされるとさえ言われている。

 しかし聖剣同様、その刀が目覚めるということは、すなわち世の危機ということであり、そのような事態はやってきていない。


 もっとも、その刀が目覚めたところで、サムライの真意がわかるのかは、不明なのであるが……



 サムライがその足跡を残さなかった理由。

 そこにはきっと、我等凡人には想像もつかぬほど、深い思慮があったに違いない──




──ツカサ──




「た、大変です!」

 宝箱の中身を見て、区長とマックスが大盛り上がりしていると、大慌てで部屋に飛びこんでくる人がいた。


「何事ダネ?」

 声に反応し、今までマニアの顔をしていた区長が、きりりと真面目な区長の顔に変わった。

 たゆたゆ揺れてたターバンの動きもシャキっと止まる。


「また、あいつらがっ!」

「むう、マタか」


 区長がため息をついた。


「何事にござるか?」

 マックスが聞く。


「んー、ムウ。街の問題を、客人の君達に言ていいものカ……」

「ですが区長、かの国から来た彼等なら、なにか知恵を貸してもらえるかもしれません!」


 悩む区長に、かけこんできた人が進言した。


「ムウ……」


「かの国。王国に関係があることにござるか? ならば、是非、是非聞かせていただきたい! 我が友の悩みは、拙者の悩みでもある!」

「おお、トモダチ……!」


 二人は固い握手を交わした。


「……いつの間に友達になったんだよ」

『さっき、なんだろうなぁ』


 二人のやり取りを見ていたリオとオーマが、どこか呆れたように呟いた。


「なれば、オ話するヨ。アナタ達、サムライ、知てマスカ?」

「むろんにござる!」


 力強く拳を握るマックスが俺の方を見たけど、俺は紹介するなと、首を横に振った。

 ダメ。絶対。


 マックスしょんぼり。


「こちらにも、その勇名届いてるヨ。アイツ等、その異名恐レ、この街逃げてきた、奴等ネ。この街で徒党組み、好き勝手してるノネ」


「なんとっ!」



「あなた方も、ここに来るまで、感じたはずです。街の者達の視線を。それは、奴等の仲間がまた現れたと思ったからです」



「サンスナンナから帝国に逃げてきた奴等か」


 ああ、そいつらか……


 リオの呟きに、街の人達の視線の本当の意味に気づいた。

 サンスナンナで起きてたことが、ここでも起きてるってことか。


 そりゃ、王国から来た俺達は、あれほど注目されるわ。


『逃げてきた先で迷惑かけるとか、ふてぇヤロウどもだな』

「まったくにございます。帝国ならば、サムライは来ないとたかをくくったのでしょう」


 オーマとマックスが、やれやれと肩をすくめた。



 サンスナンナの港と同じく、サムライの噂を恐れた悪党が新天地へ旅立ち、そこで悪さをしているってことか。

 俺は本物のサムライじゃないけど、一応の関係者として、どうにかしてやりたいなんて思ったりもする。

 でも、ただの高校生の俺に、なにが出来る……?


 あっ……


 俺はぴん。とひらめいた。



 そいつ等はサムライに怯えて逃げてきた。

 なら、サムライがここにいるとわかれば、みんなここから逃げ出すんじゃないか?


 根本的な解決にはならないけど、集団でいる奴等も散り散りになるだろうから、今の状況よりはきっとマシになる。

 ひょっとすると、悪さを諦めるヤツも出てくるかもしれない。


 少なくとも、やる価値はある気がする。



 ただ、それをやるには大きな問題がある。

 それは、この地にサムライが現れたと示せる実力はこの俺にまったくさっぱりないってことだ。


 そもそも俺はオーマって刀を持ってるだけのなんちゃってサムライだからな。

 さて、問題だ。どうすれば、サムライここにありと……



 ……あ。


 ぴんとひらめいた。マークツー。



 いるじゃないか。本物のサムライ!



「マックス」


「はいっ! 見せつけるのですね。サムライが、この地に来たと!」


 どうやらマックスも、俺と同じくこの地にサムライが来たと示せば、事態は解決出来ると思ったようだ。

 なら、話は早い。


「ツカサ殿がこの地に来たからには、まだ悪事を働こうとする気さえ起きなくなるに違いありません!」

『御意!』


 マックスの言葉に、その相棒。腰におさまる刀のサムライソウルも答える。



「いや、マックス。この地にサムライありと示すのは、君がやるんだ」



「……はい?」


「オーマから聞いたけど、マックスはまだ、自分をサムライだと名乗っていないんだって?」


「はいっ! 拙者など、ツカサ殿に比べればまだまだひよっこにございますから!」


「いいや。違う。君はもう刀を手にした。俺がおらずとも、立派に女神様を復活させた。マックス。君はもう、立派なサムライだ!」


「な、なんですとー!? いやいや、ツカサ殿。拙者がサムライを名乗るなど、まだまだ早いにござりますよ! おこがましいにござります!」


『いいや。そんなこたぁねえさマックス。お前はもう、立派なサムライだ。相棒のいないこの半年のこともしっかり見てたおれっちも保証するぜ』


「オーマ殿……」


『それに、サムライになったからって、相棒から学べねぇわけじゃねえんだ。サムライ初段として、さらに精進すりゃあいいんだよ』

 オーマ、ナイスフォロー!


「そういうわけだマックス。今から君も、立派なサムライだ。いいね!」


「は、はい!」



「というわけだから、サムライになった最初の仕事として、その存在をこの街で示して欲しい。出来るね?」


「もちろんにございます! その使命、命にかえましても!」

『御意にっ!』


 マックスがやる気満々になった。

 よしよし。これで、これからサムライのこと。イコールマックスでいける! 完璧じゃん?



「トモダチ、サムライ?」


「その通り。拙者達は、噂のサムライ一行にござる! お困りのこの一件、拙者が見事解決してみせよう!」

 マックスが得意げに、どんっ! と胸を叩いた。


「ソレ、心強い! お願いデキル?」


「むろんにござる! では、その現場に案内してもらえるか?」


「は、はい!」


 マックスの迫力に圧倒されたかけこんできた人は、うなずき、その場へ案内するため、走り出した。



「では、拙者達もまいりましょう!」



 そのあとを追い、俺達もその現場へとむかう。

 さあ、マックス。サムライここにありと、君が示して、俺の分の注目も、立派に集めたまえ! そうすれば俺は、より安全に旅が出来るからー!


 にひひっ。




──リオ──




 やる気満々のマックスを先頭(案内の人より先にいて指示をもらってる)においら達はその騒ぎのところへ到着した。


 そこは、階段状に観客席があり、一番奥に舞台のある青空ホールだった。

 そこで、おいら達がよく知る服装のヤツと、この街の服装の奴等が争っていた。


 どうやらそこで起きていた祭りの一幕に因縁をつけ、台無しにしているようだった。


 サムライを恐れて逃げてきたくせに、この街に溶けこもうとせず、その服装を捨てられねぇとか、なに考えてんだか。

 サムライは恐れているけど、それ以外は恐れてないってことか?


 ふざけた奴等だ。



「では、ツカサ殿、行ってまいります!」


「ああ。任せた」


「任されもうしたー!」


 ツカサ公認となり、サムライとなったマックスの初陣がはじまった。



 マックスはホールの柵に足をかけ、勢いよくそこから跳ぶ。


 二十人以上が乱闘しているその舞台にむかって。



 だんっ!


 激しい音と共に、舞台の中央に降り立つ。

 わざと激しい音を立て、乱闘の連中すべてから注目を集め、ついでにその手を止めさせるのに成功した。


 注目を浴びる中、ゆっくりと立ち上がり、その腰から刀。サムライソウルを引き抜く。



「遠からん者は音に聞け、近くばよって目にも見よ!」



 しゃらん。と、サムライソウルを勢いよく引き抜き、その刃を天高くかかげた。


「かつ目せよ。そして理解せよ! この地の悪を滅するため、サムライが来たと!」

『御意っ!』


 きらん。とサムライソウルの刃が太陽の光を反射し、美しい刃紋を輝かせた。



 輝く刃が煌いた瞬間、暴れていた悪党だけでなく、この街の奴等も大きくざわめいた。

 サムライの格好しているマックスを見ても大きな驚きは見せなかったけど、刀そのものは違うみたいだ。


 やっぱ、あのダークシップを沈めたという力の象徴は、それだけで畏怖の対象になるらしい。

 サムライの活躍は、国を超えて伝わっているみたいだな。


 いや、ダークシップは多くの国を沈めてきたから、それを倒した存在のことなら知ってて当たり前かもだけど。



 あとで聞いた話だけど、この帝国でもサムライは英雄のあつかいなんだそうな。

 ダークシップがこの地方に現れ、そこから『闇人』が降り立って暴れていた際、王国と同じくダークシップを目指すサムライが現れ、助けてくれたことがあるらしい。


 そのサムライはダークシップを墜落させるサムライと合流するため南側からダークシップを目指していたみたいだけど、その一団とは合流することはなく、『闇人』の侵攻をおさえて帝国内で命を落としたんだとか。


 おかげで帝国の被害は少なく、十年経って戦争を仕掛けようなんて気になるくらいに戦力を蓄えられるきっかけになったんだろうな。

 ったく。なにが幸いするかわかったもんじゃないね。


 まあ、その活躍により、刀の輝きしか知らない帝国の奴等もサムライに尊敬の念を抱いているみたいだけどさ。


 だから、サムライの威光は、この帝国でも十分通用するってわけだ。



「王国より逃げこみ、この街に迷惑をかけし貴様等! その貴様等を、今から拙者が成敗してくれる!」


 マックスがサムライであることを宣言し、暴れていた元王国在住悪党の奴等に刀を突きつけた。



「ふ、ふざけるな! テメェがサムライなわけあるか!」

「そうだそうだ! そんなの、ハッタリだ!」

「こんなところに、サムライがくるわけねぇ!」


 悪党どもはマックスの名乗りを全否定する。

 そりゃ認めるわけがない。


 認めちまったら、それこそ今すぐ逃げなきゃいけないんだから。


 突然現れたマックスに目標を変え、悪党どもが一斉に襲い掛かった。



 前後左右から一斉に襲い掛かる悪漢。

 普通に考えりゃ、これだけ一斉にかかられれば、勝ち目なんてない。


 だが、ツカサには劣るとはいえ、相手は一応正式にサムライになった、マックスだ。



 にっ。



 圧倒的不利というのに、マックスはかかったといわんばかりに口元を緩め、腰にあったもう一本の剣。サムライの刀とは別の、愛用するロングソードの方も鞘から引き抜き、二刀流の構えをとった。


 二本の剣を持った両手を大きく広げる。

 あ、おいら、あの構え知ってる。


「見てくださいツカサ殿。これが拙者のサムライアーツ! サムライ大旋風にございます!!」


 マックスがその場で回転をはじめた。

 刹那。



 ゴッ!!



 マックスを中心に、小さな竜巻が起きた!

 昔ツカサが刀の一振りで巨大な竜巻を作り出したもんだけど、マックスは二本の剣と自分を回転させることで、それに似た技を放てるようになったんだ!


 多人数を一度に相手にする時、こいつはとても心強い技だ。



 竜巻の大きさは、両手に持った剣を広げたサイズでしかないけど、今の状態なら街の奴等を巻き込まない丁度いいサイズだった。

 マックスにむかって一斉に飛びかかった悪党どもはその竜巻にまきこまれ、弾き飛ばされた。


 マックスの計算か、悪党仲間にぶつかったり、舞台の床に叩き付けられたりして、次々と戦闘不能となってゆく。


 いきなり魔法でない竜巻が現れ、一瞬にして数を減らすことになった悪党だけでなく、街の男達もその光景に驚きを隠せない。

 皆その竜巻を見つめ、唖然とする。


 その動揺、隙を、マックスは見逃さなかった。


 小さな竜巻の中からマックスが飛び出す。

 唖然とする悪党達を、各個撃破しはじめた。


 竜巻はマックスがいなくなってもしばらく残っていた。


 ゴウゴウと風が吹きすさみ、場の視界を遮る。

 さらにそうして吹く強い風により、周囲の奴等も身動きがままならないだろう。


 竜巻の音に混じって、なにかを叩く音と、倒れる音がこっちまで響いてきた。



 戦いは、あっさりと終わった。



 竜巻が消えると、舞台の上で暴れていた十数人の悪党どもは全員床に倒れていた。

 あの短い時間で、マックスが全員殴り倒したのだ。


 舞台にあがらず、被害を免れた悪党どもが、目をむいて驚きの表情を見せた。



「ほ、本物だ……」

「に、にげろー!」

「本物のサムライがやってきやがった!」

「もう、おしまいだー!」


 一瞬にして優勢だった戦況が覆され、勝てないと悟った悪党どもは、大慌てで逃げ出しはじめた。



「逃がすと思うか! 街の者よ! 拙者はこの街に加勢する! 逃げる悪党どもを、捕まえるのだ!」


「おおー!」

「追え、逃がすな。捕まえろー!」


 マックスの言葉に、街の男達(警備隊らしい)ははっとなり、逃げる悪党どもを追いかけはじめた。


 マックスも追い、この乱闘に加わった悪党どもは、一網打尽にされることになる。



 争いは、終わった。


 舞台で暴れていた奴等は縄をかけられ、どっかへ連れて行かれている。

 多分、衛兵とか警備隊の詰め所の牢屋だろう。


 マックスもそれを手伝い、一人の悪党を捕まえ、後ろ手にロープをかけ、歩いていた。


 しかもその悪党は、女だった。

 こんなところに出てくるんだから、実行部隊じゃなく、けっこう偉い地位にいるヤツなんだろう。


「ふん」


 ふてくされているその人が、鼻を鳴らす。

 ふてぶてしい態度だ。


「……ん?」


 でもおいらは、その人に心当たりがあった。


 心当たりというか、この人、おいら、知ってる!



「ちょっ、ちょっ、ちょっ、マックス!」


 慌ててマックスに駆け寄る。


「む? どうした?」


「ちょっとその人、そのつれてる人、よく見せて」



「な、なんだいあんたは?」


 その人を、じっと見る。




「や、やっぱり。姐さん。アネッサの姐さんじゃないか!」


「……っ! リオ、あんた、リオかい!?」


「そうだよ姐さん! おいらだよ!」


 おいらをみたその人は、驚きの声をと共に、名前を呼んだ。

 やっぱりそうだ。アネッサ・ネッサ。この人、おいらの知ってる人だ!


「むっ? 二人は知り合いなのか?」


「ああ。おいらのいた街に住んでた人さ。何度か世話になったんだ。けっこう前に、まっとうな仕事をするって言って、街から王都の方へ出てったんだけど……」


「まっとうな仕事……?」


「……」


 おいらの言葉で、姐さんは明後日の方を向いた。



「どうやら、まっとうな仕事とやらは諦めたようだな」


 まあ、ここにいるって時点で、ね。



「うるさいんだよ。ウチ等みたいなヤツがまっとうに生きるなんてのが、土台無理だったんだよ。どこに行っても同じなのさ! あんただって同じだろ。ここにいるってことはさ!」


「ううん。違うよ姐さん。おいらは……」


 ちらりと、マックスの方を見た。

 ちなみにツカサは、まだこっち来てない。

 ツカサが居れば、そっち見たよ。


 それで、姐さんはすべてを悟ったのか、目を見開いてマックスを見た。


「リオ、あんた、サムライの、仲間に……?」


「うん。おいらは今、まっとうに生きてる」



「……そうかい。そいつは、よかったね。ウチとは、大違いだよ。ウチは結局、このザマさ」


 おいら達から視線を外し、自嘲するように肩をすくめた。


「もう、潮時みたいだね」


「その通りだ。諦めよ。今度こそ心を入れ替え、まっとうに生きるのだ」



 マックスが姐さんの背中を押し、他の悪党と同じ場所へ連れて行こうとする。



「……なあ、マックス」


「どうした?」


「姐さんに、協力頼めないかな?」


「協力だと?」


「今回捕まえた奴等がここで悪事を働いてるヤツ等全員じゃないだろ? なら、姐さんに協力してもらって、なんとかして一網打尽にするとか、なにかしてもらえないかな?」


「リオ、あんた……」


「そうすりゃさ、姐さんの罪も少しは減らしてもらえるだろ? ダメかな?」


「ダメ、というわけではないと思うが……」



「そ、そうさリオの言うとおりさ。なにか、手伝わせておくれよ! そうだ。戻って残った仲間を自首させるよ! ここで大人しく罪を償えば、やり直せるだろ!」


「……」


「ウチ等はサムライを恐れてここまで逃げてきた。サムライが来たとわかりゃ、すぐに逃げる。ここでウチが戻って抵抗は無駄だと説得すりゃ、血も流さず、平和的に解決できるってもんだよ!」


「そうだぜ、マックス!」



「待て、リオ。気持ちはわかる。が、今、お前は冷静ではない。何年もあっていない友人に出会えたのは嬉しいのだろうが、その友人が昔と同じとは限らんのだぞ」


「……うっ」


「いきなりの改心など、この場を切り抜ける嘘と考えるのが道理だ。この場合、仲間と共に逃げるという可能性の方が高い。普段のお前ならば、当然のように疑い、口にする言葉だ」


「うぅ……」

 言い返せなかった。

 マックスも、昔の友人じゃ苦い思い出がある。


 かつて、共にサムライを目指したダチが、悪に染まって妖刀と呼ばれる悪い刀を作り出し、辻斬りまがいのことをしていたという経験(第19話参照)が……


「一度、冷静になれ。自分が、どんな無茶を言っているか」


 マックスに諭されちまった。

 でも、マックスの言ってることは正しい。


 冷静にならなくとも、おいら達の手から逃れて逃げるための方便だって考えた方が筋が通る。



 だけどさ、信じたいじゃないか。



 マックス。お前は知らないかもしれないけど、姐さんは、根は悪い人じゃないんだ。

 生まれた場所があんな場所だったから、悪いことをしなきゃ生きていけなかっただけで。


 姐さんには、あの街に居た頃何度か助けられたんだよ。


 おいらを女と知って、同じような境遇に陥らないようにと知恵を貸してくれた。

 母さんが死んで、おいらが街の悪党どもに道具として使われず、なんとか一人で生きてこれたのも、姐さんの教えがあったからなんだ。


 だから、街を抜け出して、まっとうに生きるって聞いた時は、おいらも母さんも、むしろ嬉しかったんだ。



「確かに、マックス。お前の言ってることは正しいよ。でもさ、おいらは、姐さんにチャンスをあげたいんだ。おいらは、ツカサと出会って道を外さないで済んだ。姐さんも今、おいらと会ってやり直す機会を得た。それを、信じちゃダメか?」


「信じたい気持ちもわかる。だが……」



「いいんじゃない?」



「っ!?」

 後ろから、声がかかった。


 その声の主は……



「ツカサ殿!?」


 ……遅れてやってきた、ツカサだった。

 ツカサの一言で、場の雰囲気が変わる。



「話は聞かせてもらったよ。マックスだってさ、信じて、そうなってくれた方がいいと思ってるんだろ?」


「それは、その通りにございます。かつて拙者には出来なかったことゆえ、それが現実のものとなるのなら、どれほどよいか……」


「なら、まずは信じよう。じゃなきゃ、それさえ実現しない」


「ツカサ殿……。わかりもうした!」


 ツカサの説得に、マックスがぐっと我慢して理解を示してくれた。



「聞いたか、女よ!」


「ああ。聞いたよ」



「拙者は、お前を信じたのではない。リオを信じたのだ。リオを信じ、お前の仲間達を自首させると信じた。それを、決して裏切ってくれるな!」


 その時は、わかっているな。と、刀に手をかけた。



「わ、わかってる。わかってるよ! ちゃんと説得して、全員であんたらのところへつれて行くから!」


「なら、よし!」




──アネッサ──




 アジトの近くに戻ってきた。

 さすがに、一人で。じゃない。リオと、ウチラをぶちのめしたサムライ。ついでにおまけのもう一人に連れられてだ。


 さすがに、あのまま一人で逃がしてくれるなんて甘いことはなかったよ。


 サムライ一行だけなのは、警備隊をつれてくれば説得の時間などもらえず、そのまま一網打尽にされるからだ。

 今頃警備隊は、トッ捕まえた仲間を尋問してこのアジトがどこにあるのか聞きにかかっているころだろう。


「ここからはウチが一人で行く。あんたらが来たら、話をする前に蜘蛛の子を散らすように逃げられちまうからね」


「むう」

 サムライはしぶしぶでだが、承知してくれた。

 背中に視線を受けながら、ウチは一人アジトへむかう。



 ホント、アマちゃんだねあの子は。

 こんなにあっさり解放されアジトに戻れるとは思わなかったよ。



 昔から、そうだった。ウチの言うことだけは、ホイホイと聞いてくれた。


 そりゃ、あの子の母親には世話になったし、ウチのように女ということを利用して生きるやり方を、あの子にはさせたくなかったってのもちょっとはあった。

 その恩が、こんなところで帰ってくるとは思ってもみなかったよ。


 感謝するよリオ。あんたのおかげで、ウチはここから逃げられる!



「……」



 だってのに、なぜかウチの心は晴れなかった。


 もう視界にいないってのに、あの子の笑顔が頭にちらつく。

 さっき見たあの子の顔も、昔、ウチのあとをついてきた笑顔もだ。


 あの子は、貧民街に生まれたガキとは思えないほど、綺麗な顔で笑うヤツだった。

 ひねてはいるけど、それでもまっすぐに、ウチを見ていた。


 あの掃き溜めから抜け出して、まっとうに生きようなんて思ったのも、あの子の視線があったからだ。


 まっとうに生きるとあの子と約束して街を出たあの時。あの時は、一時の気の迷いじゃなく、本当にそう出来ると信じてた……



「……なんで、こんなことになっちまったんだろうね」



 思わず、口に出た。


 街から出て、健全に生きていく道はいくつもあった。

 でも、あの子の視線がないのをいいことに、そっちの道へ行くことを拒絶して、楽な方へ楽な方へと流れた。


 いつしかウチは、まっとうに生きるなんて約束忘れて、どん底まで落ちて、サムライに怯えて逃げ回ってる……


 結局ここでまた、あの子を裏切って、別の場所で悪事を働いて、さらに下まで落ちる。

 きっと、これから一生、あのサムライに怯えて生きなきゃならない。


 落ちるところまで落ちたと思ってたのに、さらに下があるってのかい……



 そう考えたら、足が止まった。



 いや、違う。

 サムライから逃げるとか、さらに悪事を働くとか、そういうのじゃない。


 背中に注がれる、まっすぐなその視線が、ウチに突き刺さるのがわかる。


 ウチは、あの子。リオをまた裏切るのが、怖いんだ……


 それを認めないために、言い訳を重ねたんだ。



「……」


 それに気づいて、愕然とする。



 結局、そういうことだったんだね。


 ウチはまた、間違いを起こすところだった。

 逃げ場なんてないのに、また、逃げようとしてた。


 でももう、それも終わりにしないとならないね。

 ウチはもう、あの子は裏切れない!


 そんな汚い背中、あの子には見せられないよ!



 ウチは一度後ろを振り向き、あの子を見た。

 あの子は前と変わらず、ウチの背中を、まっすぐ見てた。


 勇気をもらった。


 今度こそウチは、まっとうに生きるんだ!


 これはきっと、女神様が与えてくれた、最後のチャンス。

 そのために、あの子をつかわしてくれたに違いない!



 ウチは意を決し、仲間を説得するため、アジトに足を踏み入れた!




「で?」


 アジトの中には、残りの仲間達が集まっていた。

 すでにサムライが来たことは知れ渡っていて、ウチをふくめてあの広場に行った全員が捕まったものだと思い、浮き足立っていた。


 ほとんどの奴等が心が折れかけ、これなら説得も容易かと思ったんだけど、一人だけ反応が違った。


 それは、ウチと付き合いが最も長い、この一団を纏めるボスの男だった。


 この男、強くはないけど、抜け目がない。


 いち早く王国の時勢に気づいて帝国のこの街に来て、ここに逃げてきた奴等を束ねて今の一団を作り上げた。

 今がどんな時なのか、その流れを読むのが上手く、悪事を重ね、ここまで来た。


 だからこそ、ウチの提案に乗ってもう今の生活は無理だと悟り、乗ってきてくれると思ったが、違った。


 椅子に座り、ウチがサムライが迫っていると言ったあとだというのに、まるでウチの提案など聞く必要はないというような一言を発したのだ。



「ウチの話聞いてなかったのかい? サムライがそこまで迫ってるんだよ。このまま逃げても、待ってるのは破滅だけだ。せっかくの慈悲を無碍にしようってのかい!?」


「そ、そうだぜおかしら。ここで降伏しときゃ、まだやり直せる。サムライの提案を蹴ったとなりゃ……」

 近くにいた仲間が、それを想像し、ぶるると震えた。


 そうだよ。これはサムライからの提案でもあるんだ。これに乗らず、逆らったらどうなるか。それがわからないわけじゃないだろ!



「ふっ。ははははは。お前等は、本当にダメな悪党だな」



 だってのに、こいつは笑って立ち上がった。

 仲間達も驚き、ただその姿を見ているしか出来ない。


「ピンチってのはぁ、チャンスに変えるためにあるって知らねぇのか? 今がまさに、その時だってのに、気づかねぇのか?」


「それは、どういう……?」



 ウチにも、仲間達にも、こいつの言ってる意味がわからなかった。

 今、この状況のどこにチャンスがあるっていうの?



「サムライってのは本当にお優しいお方だよ。俺等みてぇなクズにも情けをかけてくれるんだからな。おかげで、人質が出来たじゃねぇか」


「人質、だって……? おかしら。それは、どういうことですか?」


 男の言葉に、仲間達に生気が戻りはじめた。



「いやいや、なに言ってんだい。どこに人質がいるってのさ」


「いるだろ? 俺達の、目の前に」



「っ!?」



 皆の視線が、ウチに集まった。



「お前が自分で言い出したにせよ、サムライに命じられたにせよ、サムライはてめぇに情けをかけた。つまり、てめぇは実質サムライ側の人間。降伏を勧めるお優しいお方は、てめぇを見捨てるわけにはいかねえ。人質に使えるってことだよ!」


「~~っ!!?」



 ウチにだけじゃない。

 アジトにいた全員にその言葉の衝撃が走り抜けた。


 普通に考えりゃ、ウチなんて人質になりゃしない。

 でも、あっちにはリオがいる。あの子が下手なこと言い出せば、ウチは十分人質の価値になりえる!


 なにより、ホントに情けをかけたんなら、こいつの言う事は事実になる!



「さらに、こいつを使えばもう一人人質がとれる可能性さえある」


「っ!?」


 指をさされ、ウチは言葉につまった。



「それは、どういうことですか、おかしら?」


 仲間は完全に聞くモードに入っている。

 今の状態じゃ、降伏に皆を説得するのは無理な状況だ。



「あれだけいた仲間の中で、なぜコイツだけが選ばれた? こいつのことは俺ぁよく知っている。自分から降伏を勧めるよう言い出すような女じゃねぇ。弁だってそこまでたたねぇ。俺達の説得にまわすんなら、もっと別に賢いヤツがいたはずだ」


「た、確かに」



 おい、今納得したヤツ、あとで覚えとけ。



「女だから? いいや、違う。こいつが選ばれたのは、サムライの仲間に、知り合いがいるからだ!」


「なっ、なんのことだい!?」


「その隠し切れネェ図星って反応が、ずばりなんだよ」



 襟首を掴まれ、ヤツが顔を近づけてきた。



「お前のことはよく知っている。お前がサムライと知り合いなわけがねえ。ずっと一緒だった俺が証人だ。なら、サムライに仲間がいて、そいつがお前の知り合いなら、お前が説得に選ばれるのも納得がいくんだよ! 俺達を説得させられりゃ、罪一等が減じられるからな!」


「……」


 反論は、出来なかった。

 ただ口をつぐんで、無言を貫くしかウチには出来ない。


 なんでこいつは、こんなことにしかその頭、使えないんだよ!


 もっとマシなことに頭使ってりゃ、もっとマシに生きられたはずなのに!

 ……いや、それは今さらだ。


 その頭脳に助けられ、ウチだって今まで生きてきたんだから……



「つまり、そいつも人質に出来るってことっすね!」


「そういうことだ。そいつは、こいつを使っておびき出せる可能性もある。いくらサムライといえども、仲間が人質にとられたとなりゃ、俺達に勝てるわけがあるめえさ!」



「そうすりゃ……」

「俺達の、勝ちだ!」


「サムライに勝てる! 俺達、伝説になる!」


「そういうことだ!」



 仲間達が、一気に沸いた。


 なんてことだよ。説得に来たってのに、これじゃ、逆効果じゃないか!


 ウチがいなけりゃ、今頃こいつら全員、一網打尽になっていたってのに!



 こうなったら……!



「……わかった。わかったよ。でも、ウチを人質にするってのはやめとくれよ」


「あぁん? どういうことだ?」


 じりじりと、抵抗するかもしれないウチを囲もうとしていた元仲間の一人が言う。



「簡単なことさ。あんたらの説得は諦めたってこと。ウチも、サムライをぶっ倒すのに力を貸すって言ってんだよ。このままじゃ、人質として使われたあと、どうなったもんかわかったもんじゃないからね」


「ほう。お前は、俺達になにをしてくれるんだ?」



「あんたの言ったサムライの仲間ってヤツを呼び出すのさ。そいつを人質に出来りゃ、ウチは必要なくなるだろ? あとはサムライを倒して、伝説に返り咲く。どうだい!」


「はっ。知り合いを差し出して助かろうって腹か。なんてクズなんだてめぇは、さすが、俺の女だな。いいだろう。おびき出すための文面は俺が考える。それをテメェが書いて、そいつを呼び出す。それで見事人質がとれりゃ、テメェは再び俺達の仲間だ!」


「そうこなくちゃね。さすが、ウチの男だよ」


「平然と表裏を乗り換えるお前に言われたかねぇよ」



 二人で、にやりと笑う。


 ふん。かかったね。

 頭のいいあんたが文面を書けば、裏切りは出来ないと思ったんだろうけどそうはいかないよ。


 ウチとリオには、この二人にしかわからない符丁があるのさ。

 掃き溜め時代に作った、文字の点とハネを使っての暗号文がね!


 どんな文章を書かされようが、その中に立派な忠告が入れられるんだよ。



 今からアジトを変えて逃げて、ウチからの手紙で別のアジトにあの子を呼び出して人質にしようと考えてるんだろうけど、そいつは無駄さ。

 そこに来るのは、ウチの暗号を読み解いた、サムライと警備隊だ。


 お前達は、ウチと一緒に、お縄にかかるといいさ!



 ……ごめんよリオ。

 説得はやっぱり、無理だった。


 警備隊に知られりゃ、ウチは人質の価値もない。


 きっと一緒に、こいつらとまとめて吹き飛ばされるだろう。



 でも、いいのさ。

 ウチは最後の最後で、あんたを裏切らなかった。


 それだけで、本望さ……




 ……そう、思っていたのに……っ!




 なんであんたは、手紙の文そのままに、のこのこ一人で別のアジトにやってきてるんだい!!



「来たよ姐さん!」


 旧アジトに作られた逃走経路から逃げ出し、新アジトで警備隊の襲撃を待っていたってのに、やってきたのはウチのよく知る少女一人だった。


 あんた、ウチとの符丁忘れちまったのかい!? あんな文面に騙されて一人で来ちまうなんて、ウチと同じように、長い時間でそこまで鈍っちまったのかい。

 ウチが変わったように、あんたも変わっちまっていたってのかい!?



「姐さん?」



 扉を開け、倉庫として使われるそこへリオが足を踏み入れる。


 がらんとした部屋の中央まで来たところで、扉は勢いよくしめられ、元仲間の男達がリオを囲むように姿を現した。



「これはこれは。こんなガキがサムライと旅をしているとはな。おかげで、好都合だが」


 にやにやと笑い、ウチをはべらせたボスの男が姿を現す。



「リオっ!」


 ウチはその手を振り払い、リオのところへ駆けた。

 リオを背中に隠すようにして、男との間に立つ。


「おいおい。本気かアネッサ。お前が自分で呼び出しておいて、そいつをこっちに売っておいて、なんでそっちに立つんだ? そいつがここに来た以上、お前はサムライへの人質としての価値は、限りなくゼロになったんだぞ?」


「知ってるよそんなこと!」


「まあ、お前を痛めつけることで、そいつに言うことを聞かせやすくなるって価値はあるが」

 男が、ニヤリと笑う。


 その笑みは、こうなることを予測していたかのような口ぶりだ。

 くそっ。ウチの考えなんて、お見通しだったってことか!?


「ごめんよ、リオ。ウチが浅はかだった。約束も守れず、あんたの優しさを逆につけこまれるような形になって、こんなことにまきこんで!」


「……」

 ウチの背中で、リオは無言だ。

 いや、震えて動けないのかもしれない。当然だね。ウチにも裏切られたような形なんだから……



「リオ、あんたはウチが、絶対に守るよ! ここを無事に逃げられたら、あのサムライに、ここのことを伝えるんだ。情けなんか、かける必要はないよ!」


「ありがとう。姐さん。おいらを守ろうとするその気持ち。とても嬉しいよ。なんとかこの人達を説得しようとしたのも、ちゃんと伝わったよ。自分はどうでもいいってことも……!」


 ……え?

 それは、暗号に入れた文。


 ウチのことはいいから、こいつ等を全員捕まえろって言葉。


 あんた、それをちゃんと理解して、ここに来たってのかい!?



 リオが、ウチの隣に立った。



「リ、オ?」


「だから、おいらは、姐さんを助けにきたんだ!」



 ボスである男を、睨む。



「はっ。なにほざいてやがる。サムライの足手まといにしかならねぇガキに、一体なにが出来るってんだ! お前はな、俺達の輝かしい伝説のため、サムライをぶっ殺すための人質に、今からなるんだよ!」


「そうだそうだ!」

「うひひひ」


「お前等二人を使えば、俺達はサムライにも勝てる!」



「……はあ」


 リオが、ため息をついた。

 深く深く、心底呆れたように。



「本気でそんなことが出来ると思ってんなら、ノータリンとしか言いようがないよ。あんたら」



「なんだと?」



「なぜならあんたらは、ここでおいらにぶっ潰されるからだ!」



「……」

「……」


 しんっ……!



 リオの言葉に、場が静まり返る。

 全員言葉を発することが出来ず、ただただ、大言を吐いた男装の少女を見るしか出来なかった。


 だって、そうだろ。


 華奢な女の子が、三十人近い屈強な悪党どもをどう出来るってんだ。



「くくっ。ははっ。現実も見えねえクソガキが! サムライのようなマネ、てめえに出来るわけねえだろ!」



「出来るさ」


 リオはにっと笑い、胸元のペンダントを天にかかげた。


「いくよ、ソウラ!」

『ええ。まかせてください!』



 どこからともなく、声が聞こえた。



 じゃきんっ!



 不意に、リオの手の中に一本の剣が現れた。

 ウチは、見た。


 手にしたペンダントが、一本の剣に変化した瞬間を。


 なによりそれは……

 その、輝く剣は……



「聖剣……」

「ソウラキャリバー!?」



 その光り輝く剣を見て、ウチどころか場にいた全員が驚きの声をあげる。


 王国にいて、王都に行ったことのあるものなら、見たことのない者はいない。

 王都にやってきて、力を求める者──騎士であろうと悪党であろうと──は誰もがそれを抜こうと挑戦し、その輝きを目に焼き付けているはずだからだ。


 だからその美しい装飾の剣を、この場にいる誰もが見間違えるはずがなかった!



 ダークシップとサムライが現れて以来、その伝説に陰りも見えたが、再びサムライが引き抜いたことで大きく注目が集まったのも耳に新しい話だ。


 そんな伝説の剣が、なぜここに!?

 なぜ、リオの手に……!?



 ひゅん。と、リオが聖剣を両手で構える。



『簡単な話です。私。聖剣ソウラキャリバーが主として選んだのは、サムライだけでなく、この子でもあるのですから!』



 インテリジェンスソード!

 さっき聞こえた謎の声は、聖剣そのものの声だったの!?


 しかも……



「そんな、バカな! あれを抜いたのが、サムライでなく、こんな小娘だったなんて!」


「聖剣の主はサムライじゃなかったのかよ!」

「別人が抜いたっての、本当だったのか!」

「くそっ。騙された!」


 聖剣の宣言に、誰もが混乱の声をあげる。

 恐れを覚える。


 当然だ。その剣は、サムライ同様、世界を二度救った伝説の剣なのだから!



「リオ、あんた……」

 ウチも、信じられないと声を出した。



「姐さん。姐さんの言葉は、ちゃんと届いてたよ。でも、姐さんを無事助けるため、ひっかかったふりしてここに来たんだ。姐さんがちゃんと説得しようとしたの、わかってるよ。だから、助ける!」



 じわりと、ウチの視界がにじんだのがわかった。

 ウチを信じたから、ウチを助けたかったから、この子は来てくれた。


 わかった上で、助けに来てくれたっ!


 時が経って変わっちまったかと思ったけど、あんたは昔とまったく変わっちゃいなかったんだね……!


 あんたは本当に、サムライの仲間として、聖剣の勇者様として、まっとうに生きてるんだね!



「くそっ! てめーら、やっちまえ!」


 ボスの号令で、元仲間達が一斉にリオへ殺到しようとする。

 最初ウチラを取り囲んだ時の余裕はまったくない。ただがむしゃらに、恐怖から逃れるための突撃だ。



『いきますよ、リオ』

「ああ!」


 両手で聖剣を握ったリオが、再びその剣を天にむけ高くかかげる。


 その戦いは、一瞬だった……



「ソウラバースト!」



 天にかかげた聖剣の刃が、眩いばかりの光を放った。



 どんっ!


 光が爆ぜ、音と共にウチの視界が真っ白に染まる。


 一瞬、なにが起きたのかわからなかった。

 驚きに頭を抱え、静まったら頭を上げてみれば、戦いは終わっていた。


 アジトだった場所は、屋根も壁も吹き飛び、ウチの周囲にいた悪党どもは全員吹き飛ばされていた。


 ウチとリオの立つところは、なにかに守られたかのように無傷だけど、このアジトそのものは爆発でもあったかのように吹き飛び、リオに襲い掛かろうとした奴等は全部吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれている。


「な、なにが、一体、おきた……」


 瓦礫の中で、ボスの男がうめく。

 誰も死んではいないようだけど、アジト一つを完全に吹き飛ばすその威力に、まともに立ち上がれる者は一人もいなかった。


「……大人しく姐さんの言うことを聞いてりゃ、こんな目にもあわずに済んだのにな。お前達は、せっかくのチャンスを棒に振った。あとのことは、おいらはもう知らないよ」



 こうして、王国から逃げてきて、この港町を荒らしまわったウチラの一団は壊滅した……


 実に、悪党らしい情けない最後だったと言えるだろう。



 さて。あとはウチが、お勤めをはたす番だね……




──リオ──




「いやー、助かりました。仲間の口をわらせてみれば、すでにアジトから逃げたあとでしたから」


「いやいや、無事一網打尽に出来たようでなによりにござる」


「本当に、ご助力感謝します! 後ほど、区長様から相応の礼があると思いますので!」


 警備隊隊長は頭を下げ、瓦礫に埋もれていた悪党どもの残りを引っ立てていく。



「……」

「……なあ、ウチは、いいのかい?」


 その、連れて行かれる一団の中に、姐さんの姿はない。



「我々は人質を助けたのだ。ここにいるお前は、奴等の仲間ではない。ならば、奴等に引き渡す理由などないだろう?」


「……詭弁だね」


「詭弁でよいのだ。おぬしは拙者達を裏切らなかった。それどころか、リオを心配し、自分の身ごと奴等を滅ぼそうとさえした。ならば、拙者もおぬしのことを信じなければならない。まっとうに生きられるということもふくめてな」

『御意ッ!』


 後ろでは、ツカサもうんうんとうなずいている。


「では、拙者とツカサ殿は後始末をしてくる。リオはここを頼むぞ」


「任せときな」



「……」

「……」


 とはいえ、二人きりにされてもちょっと気まずい空気が流れてしまう。


 おいらと姐さんは、連れて行かれる悪党どもを無言で見ているしか出来なかった。



 最初放置したアジトと、この壊れたアジトの両方に犯罪の証拠がたんまりと残されていたと聞くから、言い逃れも出来ず、こいつ等はもうおしまいだろう。

 運がよけりゃ王国に送り返されてそっちで裁判を受けられるかもしれないが、下手するとこの国で長くてつらい強制労働が待っているかもしれない。


 いずれにせよ、サムライの慈悲を跳ね除け、悪事を働き続けてきた奴等にはお似合いの最後だろう。

 サムライを恐れて集まったあの寄り合い所帯も、今日でおしまいだ。



「……ウチは、どうすりゃいいのかね」


「姐さんはもう、自由だよ。あとは、姐さんしだいさ」

「ウチ、次第か……」


 姐さんは思わずため息をついた。

 いきなりの自由で、戸惑っているみたいだ。



「……まっとうに生きようとは思ったけど、これからどうまっとうに生きるか。ウチはどうすればいいのか、さっぱりわからないよ」


「ならさ、いっぺんヤーズバッハの街に帰ってみたら?」

「ヤーズバッハに?」


 何度か説明しているけど、ヤーズバッハってのはおいらと姐さんが育った街だ。



「昔とはだいぶ変わったみたいだぜ。街もやり直している最中だから、そこと一緒に、やり直してみたらどうだい?」


「……あの街が、変わったっていうのかい?」


「ああ。サムライのおかげでね。クズだった役人さえ意識が変わったみたいだよ」


「そいつは凄いね。なら、ウチには丁度いい場所なのかも……」



「路銀はおいらが貸しといてあげるよ。今度街に寄ったら、返してくれればいいからさ」


「ちゃっかりしてるね」



 おいらと姐さんは、笑いあった。




──アネッサ──




 どんなバツも受ける覚悟を持って警備隊の奴等のところへ行ったんだけど、ウチは奴等の仲間じゃないと言われちまった。


「サムライ殿から君は奴等に人質にとられていたと聞いている。なぜ我々が人質まで逮捕しなければならない」


 そう言われちまったよ。

 詭弁に違いないけど、あっちがそう判断したのだから、ウチにそれを覆すことは出来なかった。


 どいつもこいつも、ホントアマちゃんだよ。



「……ウチは、どうすりゃいいのかね」



 思わず、そんな言葉が口に出た。



「姐さんはもう、自由だよ。あとは、姐さんしだいさ」

「ウチ、次第か……」


 リオにそんなことを言われ、思わずため息が出ちまった。


 あいつらは、ウチの未来を信じてくれた。

 でも、ウチは一度リオの期待に答えられず、そのままずるずるとこの位置に転がり落ちた。


 正直、もう一度が絶対にないなんて、言えない……


 はっきり言って、ウチは自分を信じられないってわけだ。



「……まっとうに生きようとは思ったけど、これからどうまっとうに生きるか。ウチはどうすればいいのか、さっぱりわからないよ」


「ならさ、いっぺんヤーズバッハの街に帰ってみたら?」

「ヤーズバッハに?」


「昔とはだいぶ変わったみたいだぜ。街もやり直している最中だから、そこと一緒に、やり直してみたらどうだい?」


「……あの街が、変わったっていうのかい?」


 それは驚きだった。

 二つの勢力がせめぎあうだけじゃなく、役人まで腐りきっていたあの街が変わったなんてにわかには信じられない。



「ああ。サムライのおかげでね。クズだった役人さえ意識が変わったみたいだよ」


「そいつは凄いね。なら、ウチには丁度いい場所なのかも……」


 言われ、納得した。

 そうだ。あの街はサムライが通った街だった。


 なら、大きく変わっていても不思議はないだろう。


 その街でなら、ウチもやり直して、まっとうに生きることは出来るかね?



「路銀はおいらが貸しといてあげるよ。今度街に寄ったら、返してくれればいいからさ」


「ちゃっかりしてるね」



 ウチとリオは、顔を見合わせ笑いあった。


 きっとこの金貸しは、たんにウチを心配しての発言だったんだろう。

 でもこの約束は、ウチが更生するのに、必要な約束だった。


 なぜなら、この数字を見るたび、ウチはリオの顔を思い出さずにはいられないからだ。

 この借金は、ウチをまっとうな道を歩かせる、戒め。


 これがある限り、ウチはまたリオと再会した時のことを考え、あの子に顔向け出来ないような暮らしは出来ないって思うわけだ。


 リオは意識して言ってはいないのだろう。

 でも、ウチにはそれは、とてもいい『お守り』になった。



「まったく。でっかい娘になっちゃって。姉ちゃんは嬉しいわ」


「えへへ」

 にかっと笑った。



 ウチはリオから戒めの金を受け取り、今王国へむかうため作業しているっていう船の元へむかうことにした。



 ホント、あのクズみたいな街から、こんないい子が生まれたもんだよ。これも、そのサムライのおかげかね。


 あんたをこんないい女に変えたサムライってヤツの顔を、一度は見てみたいもんだね。

 なんか、あのマックスってサムライは伝説のサムライじゃないみたいだし……


 結局ウチは、最後までそこにいたもう一人を、伝説のサムライだとは認識出来なかったのさ。


 でも、しゃーないだろ。

 本気を出してない伝説のサムライは、マジでただのガキにしか見えなかったんだから!




──ツカサ──




 いやー、今回俺、なにもしてないな!


 いや、今回どころか毎回俺はなにもしてないけどね!

 元々マックス達に色々丸投げしてた気もするし。


 まあ、そんな気もするのも、マックスに本物のサムライの風格が出てきて、その噂の矢面に立ってくれるようになったような気がするからだし、リオもソウラを持ってチンピラくらいなら楽勝になったからだな。


 おかげで俺が右往左往することが少なくなったから。


 そう。命の危険を感じるのが少なくなってきたってのが大きい!



 そりゃそうだよ。実質王国最強の剣士と、世界を救った聖剣を持つ勇者様に守られているんだから。

 この二人を護衛につけてくれた女神様にはホント感謝しなきゃならないね。


 この調子で安全、安心にこの帝国漫遊もいかせてもらおう!



 期待してるぜ。二人とも。これからも俺を守ってよ!



 むふー。



 しかし、この時俺は、まだ知らなかった。

 この一件が、大きな謀略の足がかりになるということを。


 俺は、その時が来ても、気づかなかったんだ……




 ──サムライ帝国到達!


 それは、到着してすぐ、王国から逃げてきた悪党どもを成敗したという話と共に広がっていった。

 世を救ったという事実と共に、その名が帝国内に響くのも時間の問題だろう。


 この港町の騒動。


 この小さな事件の解決が、帝国の中で語り継がれることとなる新たなサムライ伝説のはじまりでもあった……




 おしまい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ