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サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第4部 帝国進撃編
64/88

第64話 サムライの帰還


──リオ──




「長かったね」

『ああ。長かったな』


 おいらの腰にある、ツカサの相棒である刀のオーマが、同調して感慨深く呟いた。



 ツカサが地上の生命すべてを滅ぼそうとした邪壊王を倒すため、命の炎を燃やして世界を救い、その代償として消滅してから半年。


 おいら達は今、ついに、ツカサ復活の鍵となる、女神サマを復活させようとしていた。



『ここまで、色々ありましたね』

「あったわねぇ」


 聖剣ソウラキャリバーことおいらの相棒ソウラと、自称大魔法使いのマリンが遠い目をしてうなずく。


 紆余曲折を経て、ソウラは今、おいらの胸。黄金竜の鎧が変化しているペンダントと同じところに小さくなっておさまっている。

 おかげで、持ち運びがとっても簡単になった上、呼べば飛んでくるという力も追加された。



「色々、あったなあ……」



 思い出す。

 ツカサが居なくなってまず、おいら達は女神サマ復活の手がかりを求め、ダークポイントにある邪壊王の残した城へ足を踏み入れた。


 おいら達はそこで、玉座の間に残された女神ルヴィア像を見つける。


 女神ルヴィアの像はその加護が失われた時、すべて砕け散ったというのに、ここにはそれが残されていた。

 この像こそ、邪壊王に倒され、封じられた女神サマそのものだった。


『こいつは、中に神様がいやがるな……』

『ええ。像の中から気配を感じます。この像は、女神ルヴィア様そのもの。邪壊王の力によって石化させられ、封印されてしまったようです』


 探知が得意なオーマと女神サマに捧げられた聖剣が断言する。

 この二人がこう言うんだから、間違いない。


 ここに、女神サマが、いた。



 封印された女神サマを見つけたおいら達は、今度はその石化から女神サマを解放する手段を探しはじめた。



 マリンがその像を調べた結果、この石化を解くには邪壊王の管理していた地獄にあるという地の宝珠と呼ばれるものが必要だとわかった。


「マリンの魔法でちょちょいと解除ってのは無理なのか?」


「そうしたいのはやまやまだけど、神様の施した封印だから厄介なのよ。封印というか、呪いに近いわね。これはパワーで強引にじゃなく、パズルを解くみたいなもの。正しい手順でやらないと、肝心の女神がきちんと戻らないわ」

『ええ。無理に解こうとすると、女神ルヴィア様が失われてしまうわ』


 おいらの疑問に、マリンとソウラがはっきりと答えてくれた。

 この呪いは、地の底にあり、大地の力を源とする地の宝珠を利用してかけられている。


 それを鍵として解呪の儀式を行わなければ、女神ルヴィアサマは永遠に失われてしまうだろう。


 邪壊王の残した最後のあがき。



 それを解くため、おいら達は地の宝珠を求め、地獄を目指すことになった。



 地獄そのものは邪壊王の城の真下にあったんだけど、その入り口の門からおいら達は入れなかった。

 その門は死んだものしか通れない門で、生きたものははじかれて外に戻されてしまうんだってさ。


 死んだら本末転倒だってのに、これじゃ行けないじゃないか!


 そう憤ったけど、地獄の行き方はソウラが知っていた。


『安心してください。生きたまま地獄へ行く方法はあります』



 それは、北の大地にある、世界を貫く大穴に飛びこむこと。

 そこは、地獄に通じる大穴なのだという。



 おいら達はそこを目指し、邪壊王の城から出発する。


 北の大地は、マックスの生まれ故郷であるマクスウェル領のさらに北にある極寒の地だ。


 道中王国側から蛮族なんて呼ばれる遊牧民との戦いがあったり、その民族同士の争いに巻きこまれたり、怪物に襲われたりもした。

 それと、北の大地へむかう途中、マクスウェル領によって、帰っていたマックスの妹、ミックスと、ツカサを必ず呼び戻すって約束してきたっけ。



 様々な困難を跳ね除け、道中お世話になったアクスス族の案内もあり、おいら達は地獄へ繋がる大穴に到達する。



「生きて地獄へ行くのなら、地獄の食べ物は口にしてはいけない。一度でも口にすると二度と地上へは戻れなくなる」



 アクスス族に伝わる地獄帰り神話がなければ、おいら達は今、ここに立ってはいなかっただろう。

 寄り道も、無駄じゃなかったってことだ。


 おいら達は準備を整え、地獄へ生きたまま降り立った。



 地獄に行っても、その道のりは困難を極めた。



 ツカサと旅をしていた時は、どんな困難もツカサが容易く解決してくれていたけど、自分達だけで解決するとなると、こんなにも大変なんだと思い知らされた。

 旅の中、やっぱりツカサは凄かったんだと何度も思わされたよ。



 地獄の亡者達はおいら達を見つけると襲い掛かってくるし、なんとか仲間に引きこもうとさえしてきた。


 なんでも、生者の生肝を食らえば生き返れるって嘘が地獄の中でまことしやかに伝わっているらしい。

 そうして嘘を教えて、苦しめるのが目的らしいけど、おいら達にはいい迷惑だったよ。


 仲間にひきこもうってのは、おいら達に地獄の食べ物を食べさせ、同じ亡者にしようって連中さ。


 大半はソウラの太陽の力で追い払えたけど、亡者以外にも地上では考えられない怪物もいたし、地獄の氷の中に封じられていた怪物が解放されていたりもした。



 地獄は本当に、その名に相応しい場所だったよ。



 でも、地獄にもおいら達の味方はいた。



 それは、わたしのお母さんと、マックスの双子の姉として生まれるはずだった人。


 母さんは、死んでも私のことを心配し、助けに地獄まで来てくれたんだ……



「いろいろあって地獄に堕ちた私だけど、死んでもこうして娘の手助けが出来るのだから、世の中わからないものね」

 うふふ。と朗らかに笑うその顔は、忘れられないだろう。


 ツカサを助けるために、地獄まで来た価値は、十分にあったとわたしは思う……!



 マックスの姉ちゃんてのは、生まれる前に母親の中で力尽きてしまって、そのままマックスの体にとりこまれ、一体化したんだってさ(生まれてないのに姉っていうのもおかしな話だけど、あっちが姉って主張したからとりあえずそうしておく)

 マックスは二人分の命を背負って生きていたんだって。


 ずっとマックスと一緒にいたけど、ここは死者の国だから、今だけ話が出来るって言ってた。


 その二人以外にも、地獄においら達の味方になってくれる人がいて、その人達の力でおいら達はついに、地獄の最下層。大地の力を集める宝珠のあるところへ到達することが出来た。

 そこにいた最後の番人と知恵比べ、心の秤、力比べをしてなんとか地の宝珠を手にすることが出来たんだ!



 帰りは、わりとあっさりしたもんだった。


 死ななきゃ入れない邪壊王の城側の入り口から出れたからだ。



 確かに、生き物を拒絶し、穴の外に放り出すわけだから、穴の内側から触れても同じことが起きるってわけだよ。



 こうしておいら達は地上に放り出され、改めて邪壊王城の玉座の間にある、封印された女神サマの前にたったってわけだ……



「本当に、いろいろあったわね……」


 しんみりと、マリンがもう一度呟いた。


「そう。尊い、犠牲も……」


「え?」


「マックス君。地の底から見ていてね。私達は必ず、ツカサ君を取り戻すから」


「そう。マックスは地の宝珠を手に入れる時、その番人を倒すため、命をかけたんだっけ」


「ええ。私達を行かせるため、裸踊りをして番人の注意を引いたんだから、たいしたものよ」


「そして尻をぶすーだからな。どうしようもねえや」



「って、なにを言っておる! 拙者はこうして生きておろうが! 勝手に殺すな! しかも、なんだその死に方!」

『無礼なりっ!』



 おいらとマリンがしんみりしながらノリノリで回想に入ろうとしたら、後ろで控えていたマックスとその腰の刀、サムライソウルがうがーっとわって入ってきた。



「あ、生きてた」


「これから壮大な回想シーンがはじまるところなのにー」


「捏造の回想をはじめようとするな!」



「いいじゃない。捏造なんだから。死に放題よ?」


「なおたちがわるいわ! というか何故いきなり拙者を殺した!」



「だってこういう時って、一人くらい欠けてるものでしょ?」


 マリンがあっけらかんと言い放つ。



「なにがこういう場合だ! 一人でも欠けていたらツカサ殿が戻った時悲しまれるだろう!」

『御意っ!』


「そうかしら?」


「そうなのだ!」


「まあいいわ」



「いいんかい」

 このツッコミはおいらだ。


 マックスが言うとおり、ツカサが戻った時、誰か欠けていたら間違いなく悲しむだろう。

 そうはならなかったんだから、おいら達は運がよかった。


 しかし、自分が対象じゃないから思わず乗ったけど、やっぱこの人、天災なんて呼ばれるだけあるよ。


 地獄でもマリンを怨んで憤死したって人が襲い掛かってきたりもしたし。

 しかも悪びれなくあっさり返り討ちにしてさらに恨まれたし。



「そんな適当ならば、最後に起きた皆の活躍をしみじみ語るがよかろうに! 最後の番人の猛攻に、今まで敵対した者達が拙者達に力を貸してくれたあのことを!」


 ああ、そんなこともあったな。

 最後の最後。地獄に落ちた人達が、おいら達に力を貸してくれて、マックスの刀。サムライソウルの特性。『融和』を持ってそれを一つに集め、番人に力を示したんだ。


 この『融和』って力は、他人の力をマックスに集めて使えるようにするってヤツだ。騎士でありながらサムライにもなったマックスだから発現した力なんだってさ。


 それでおいら達は地の宝珠を手にいれ、ここに戻ってきた。



「うんうん。覚えてる覚えてる。暑苦しかったわよねー」


「なぜそう悪い感じの言い方をするー!?」


「私が活躍出来なかった事実なんてなくなっちゃっていいから!」



「この、魔女が!」


 マックスの心が思いっきりこもった一言。

 これにすべてがこめられているといっても過言じゃないね。



「そんないわれなき誹謗中傷慣れっこよ!」


 なんてダメな自信なんだ。

 でもこれっていわれある誹謗中傷だよな。絶対。



『ったく、おめーら、無駄口叩いてねーで準備しろよ。いよいよ相棒が帰ってくるかの瀬戸際だってのによ』


 オーマに怒られちまったい。



 おいら達はマックスいじりをやめ、改めてそこに向き直った。



 石化の呪いにかかった女神サマ。

 あとは、この宝珠をかざし、地の力を吸いとり、石化を解除して女神サマの封印を解くだけ。


 そう。そうすれば……



「……」


「どうした?」


 手の上に乗せた地の宝珠をじっと見つめて動きを止めたおいらに、マックスが声をかける。



「手が、動かないんだ」


 見るといつの間にか、おいらの手が小刻みに震えていた。



「……不安。なのかな? 女神サマが復活しても、ツカサが復活できなかったらどうしようって……」


「……」


 マックスは、答えを返してくれなかった。

 きっとマックスも同じ不安を抱えているんだろう。


 もし、これで女神サマを復活させても、ツカサの復活は無理だなんて言われたら、おいら達はきっともう、立ち上がれない……



『リオ……』

 腰のオーマも、心配そうにわたしの名を呼んだ。



「大丈夫よ」

『ええ。きっと大丈夫です』


 マリンとソウラが、同時に声をあげた。



「旅に出ていつだったか、説明したはずよ。なぜ、ツカサ君が女神を甦らせろと言ったかを」


「夜空に輝く星々は、天界に召し上げられた奴等を現しているって伝説のことだっけ?」


「そう。星空の伝説。天に輝く英雄の座や、ナツイロオオトカゲ座。どれもこれも、なにか伝説を残し、成し遂げ天界に召し上がられた者達を現しているものなの」



 夜空に輝く星々は、かつてこの地上を生きた伝説であり、天界に認められ、そこに住まうことを許された者達なのだ。

 数々の困難を乗り越え、邪壊王を倒した初代キングソウラを現した王の座。

 巨竜ジャガンゾードを倒した太陽の勇者を現す、黄道8星。


 群を守るため、たった一匹で敵を食い止め、命を落とした狼の勇敢さを女神サマが称え、彼を天招いて出来たといわれる狼座も有名な話だ。


 星座を作る星が多ければ多いほど、天に認められたという意味であり、初代キングソウラを表す王座は、15の星を繋いで出来る、最も大きな星座となっている。


 星が生まれるのは天界に新たな住人が増えたという意味であり、減れば天界の民が減ったという意味でもある。



 十年前、一度夜空の光が大きく消えた。

 それは、ダークシップの砲撃が天界にも大きなダメージを与えたという証なのだろう。


 ダークカイザーが封印され、星の数も徐々に戻ってきているが、その数は、最も輝いた満天の星空とは程遠いものがあるそうだ。



「でも……」


 ツカサの星は、空にはない。


 だってツカサが消えたのは、女神サマがこうして封印されている間の話だ。


 だから……



「星が作られていないのはむしろ女神が戻っていないからって考えも出来るわ。大体、あのツカサ君が天界にいないわけないじゃない!」


「うむ。確かに。ツカサ殿は、地獄にもおられなかったしな!」

『御意!』


 マックスと、その分身ともいえるマックスの刀、サムライソウルが大きくうなずいた。

 今さらだけど、各人の紹介は省略するぜ。


 二度も世界を救ったツカサが、天界に召し上げられていないわけがないってのが根拠だ。



「そもそも、女神ルヴィアの復活をツカサ君が示したのも、そういう根拠があったからなのよ」


「根拠?」


「ツカサ君は一度、女神に呼び出されて世界を救って欲しいと言われているわ」


 そういや、ダークカイザーとの決戦前、王都近くの大神殿で呼び出されてたっけ。


「そこで彼は、死後女神にどうなるか聞かされていて不思議はないわ。これなら、死を恐れないのも納得がいく!」


『だから、あの時復活の鍵は女神にあると言い残したってわけか』


「そういうこと! だからきっと、ツカサ君は天界にいるわ! そこで女神を復活させれば、私達の願いを聞き入れ、ツカサ君を再び地上に降ろしてくれるはずなの!」


 さあっ! と、マリンが両手を高々と上げ、おいらを励ました。

 そういや、マリンのヤツ最初天界に乗りこんで。とか言ってたっけ。それはこういう根拠もあったからなんだな。



「わかったよ。いずれにせよ、女神サマに聞かなきゃ意味ないもんな。覚悟、決めたぜ!」


「そう、その調子よ。さあ、ぱぱーっとかかげちゃいなさい! あとはおねーさんにお任せ!」


「おねえ、さん?」


「そこ疑問に思わないの! 石化させるわよ!」



 そこで石化言うのかよ!



「それでも『ヤ』って言うのなら、私がやるけど?」


「もうやるって言っただろ! やらないなんて言ってないだろ!」


「ならよろしい。さあ!」


「ああ。女神サマ、復活しろー!」



 おいらは、地の宝珠を高々と掲げ、その呪いが解けるよう願った!



「術式、発動!」



 マリンの言葉が響いた瞬間……




 カッ!!



 まばゆい光が、瞬いた。



 まぶしっ!



 全てが光に包まれる。

 目をつぶったというのに、真っ暗じゃなく真っ白な世界がおいら達を包んだ。


「……」


 光がおさまり、再び目の奥が暗くなるのを確認すると、おいらはゆっくりと目を開いた。



「……な、なんだいこりゃぁ?」



 そこは、真っ白な世界だった。


 おいらの周囲はきらきらと光り輝き、上も下もあるようなないような。雪の中にいるってより、まさに光の中にいるって感じだった。



「マックス。マリン!」


「拙者はここだ」

「私もここよ」


 名前を呼ぶと、すぐ近くに二人がいることに気づいた。


 光の中、影が現われ、二人の姿が現われる。



『ここは……』


 腰のオーマが呟いた瞬間、おいらはここに思い当たることがあった。


 この空間。どっかで見たことあると思ったら、あれだ。オーマが前ダークカイザーを体験させてくれた時、あの夢の中の世界に雰囲気が似てる。

 オーマの場合は周囲が暗いのと、周囲が光っているのの違いはあるけど。


 つまりここは……



『ソウラ』


『この声、女神ルヴィア様!』


 とても優しく、柔らかな声がおいら達の頭の中に直接鳴り響いた。



『そして、私の愛しい子供達。封じられた私を解放していただき、本当に感謝いたします』



 その姿は見えないけれど、とても暖かく、安心する声。

 まるで母さんの胸の中に包まれているかのようだ……



「な、ならさっ……!」


 感謝するってんならさ、お礼に……!

 と、おいらが口にするより早く。



『わかっています。あなた達の望むことを。なにが、望みなのかも』



「なら、話は早いわね」

「うむ。拙者等の望みは、たった一つにござるからな!」

『おうよ。相棒を、もう一度この世にってヤツだ、女神サマよぉ!』



『……』



「……?」

「?」


 マックス達が口々にお願いを告げたけど、女神サマの反応はなかった。

 なぜか無言だけが帰ってくる。


 まさか……

 ひょっとして……


 最悪の展開が頭をよぎる。



 まさか、女神サマでもツカサの復活は無理だってのか!?



『いいえ。そういうわけではありません』



 なんかおいらの心読まれたぁ!?

 やべっ。顔に出たかな。それとも、マックスのわかりやすい顔色か!?


 つーか、マックスも驚いてるし、オーマもドッキンコしてるから、みんなの心のうちを読んだってことかこれ。



『彼を再びこの世に呼び戻す。私の力ならば、それは十分に可能です』



 ぱぁっ!

 女神サマの言葉に、わたし達は顔を見合わせ、やったと声をあげた!


 ツカサの言い残した言葉は、間違いじゃなかった!



『……確かに、可能です。しかし愛しき我が子供達よ。ひとつ、問いましょう。彼を再び、この世界に呼び戻すこと。それは、本当に彼の幸せなのでしょうか?』


「っ!」


『彼は長い長い旅路を終え、争いのない世界に帰りました。彼は今、そこで平穏な生活をすごしているはずです』


「……」

 やっぱりツカサは天界にいるんだ。

 そこで、平穏無事に暮らしている……



『多くの苦難により、私の加護も弱まり、世界中にその加護を響かせることもままなりません。これにより、しばし世は乱れ、邪心ある者はその野望をかなえようとするでしょう。多くの子等に、苦難の道を強いねばなりません……』


「だからこそ、ツカサ殿のお力が!」


『そうです。また、彼は争いに巻きこまれるのです。再びこの世界に呼び戻すということは、彼を戦いの中に呼び戻すというのと同じ。ただの少年でしかない彼を、私の加護も不完全な世界に呼び、戦乱にまきこむ。それは、彼の幸せなのでしょうか?』


「っ!」

「なっ!」


 驚いたのは、ただの少年という言葉。

 それはつまり、ツカサはもう、サムライの力もなにもないってことを意味している。


 いや、そりゃそうだ。ダークカイザーを倒す時力を使い果たし、邪壊王で命の炎も使い切ったんだ。それでもう一度地上に降りて、また同じことなんて出来るわけがない。


 誰もが望む、無敵のサムライは、あの日、あの時本当にいなくなってしまったんだ……



『彼の居場所は、ここにはありません。彼は役目を、十分に尽くしました。これ以上、この世界で苦労することはないのです』



 女神サマが、さらに残酷な事実をおいら達につきつける。


 確かにそれは、事実だろう。


 あのツカサなら、例え力がなくとも命をかけ、また人を救おうとするだろう。

 そしてまた、力を使い果たし倒れる……


 ツカサのことを考えれば、きっとそうなる。



 ツカサは、天界に召し上げられ、空の星にその存在を刻み、神の一員としてすごした方が幸せなのかもしれない。



 でもっ……!



「居場所がないなんて、そんなことは、ない!」



 わたしは、叫んだ。



「居場所なら、ここにある! 少なくとも、ツカサがここにいて欲しいって人はここにいる! 力なんてなくたっていい。弱くたっていいよ! ツカサはもう戦わなくていいんだ。今度は、わたしが守るから!」



『……本当に、彼はこの地で幸せになれると思いますか? 本当に、この地にいることが、幸せだと?』



「そんなことはわたしにはわからないよ。女神サマにだってわかるもんか! ここにいて幸せかは、ツカサに聞かなきゃわからない。だから、女神サマにじゃなく、ツカサに決めさせろよ! 答えを聞くから、ここに、ツカサを呼べー!」


『……』



 これは、わたしのわがままだ。


 ツカサを呼んで、ツカサに聞くなんて、そんなのただの無理強いだ。


 決めさせるんじゃなく、もう、呼びつけているんだから。



 わかってる。これは、わたしの、わたし達のわがままなんだって。

 わかってる。ツカサはこのまま、天界にいた方が幸せなんだろうって。



 でも、わたしは、もう一度ツカサに会いたいんだ!



 この気持ちだけは、これだけはたとえ女神サマの命令だって、絶対に止められない!



『彼を呼び戻すこと。その未来は、あまりよいものとは言えません。彼をこの世界に呼び戻すことで、より残酷な別れの結末が待っているかもしれませんよ。それでも、いいのですか?』


「それでもいい! それに、そんなの、おいらが。いや、おいら達で覆してみせる!」



「……その通りにございます、ルヴィア様。確かに今ツカサ殿の住まわれているところも素敵なところかもしれません。ですが、ツカサ殿の言葉も聞かず、我等がその考えを勝手に推し量るなど、それは到底無理なこと」


『……』


「我等はあの日、ツカサ殿を守らんがため邪壊王と戦い、それかなわずあの方を失うという結果になりました。あの日の無念。いくら思い返しても後悔の念はつきません」


「マックス……」


「ですから今一度、我等にあの方をお守りするチャンスをください! 力なき少年でもいい。戦うチカラなどなくていい! 拙者達は、あの方。ツカサ殿にただ、もう一度会いたいだけなのです! むしろ、我等に守らせてください! 今度こそ! そして、あの方の守った世界を、その目で確かめていただきたいのです!」



 マックス。お前もそんなこと思ってたんだな。


 そうだよ。ツカサが守った世界なんだから、ツカサこそこの世界で幸せにならなきゃいけない!



「私からもお願いするわ。この子達の意志は本物だし、今度こそきっとやりとげるでしょう。このマリンちゃんが保証しますから!」



「貴様の保証があってもなぁ」

「マリンの保証があってもなあ」


 マックスとおいらが、マリンの保証は信用ならないと言い切った。



「なんで味方から撃たれなきゃなんないのよ!」


「日ごろの行いにござる」


「しょぼーん」



『まあ、そんなわけだ女神さんよ。おれっちからも頼むぜ。皆にもう一度、相棒をあわせてやってはくれないか?』

『女神ルヴィア様。私からもお願いします』


『……』



 沈黙が、続く。



『……よく、伝わってきました。あなた達の、その覚悟が』



「ならさ!」

「で、では!」



『よいですか。彼は、あなた達の思うような無敵のサムライではありません。力なき、ただの少年。それをゆめゆめ忘れぬよう心に刻み、最後まで守るのですよ』



「もちろんにござるます!」

「まかせてよ!」



『ソウラ。あなたにも、お願いいたします。いざという時、その力をふるえるようしてありますから』


『はい。おまかせください!』


『けっ』


『ふふっ。オーマには出来ない芸当ですものね。嫉妬する気持ちも、よーくわかります』

『かー、ムカツク! おれっちはな、おれっちに出来ることをするまでだよ!』



『はいはい、喧嘩は他所でおやりなさい』



『す、すみませんルヴィア様』

『へっ。喧嘩売ってきたのはそっちだぜ、女神サマよ』


『こら、ルヴィア様になんて口の聞き方を!』


『よいのです。ソウラ』

『そうそう。おれっちはいいのさ。特別なのさ』


『むーっ』



「おいおい、そっちもいい加減にしろよ」



『そうだぜ。今は、相棒の復活だ』

『……しかたありません』


 おいらの言葉に、ソウラもひいてくれた。



「じゃあ、女神サマ。お願いします」


『それでは、あなた達の願い、我が名においてかなえましょう!』




 カッ!




 女神サマの声が空間全体に響いた直後、激しい光があふれ、おいら達の視界を白く塗りつぶした。


 最初と同じく、目を瞑っても真っ白い光が見えるほどの輝き。



 閃光が終わり、瞼の裏に闇が戻ってきたのを確認したおいらは、またゆっくりと目を開く。



 目を開くと、そこは邪壊王の城の玉座の間だった。


 かわったのは、玉座の後ろにあった女神ルヴィアの像が消えてなくなっていたこと。



 そして……



 きらきらと、天井からさしこむ光。

 スポットライトのように照らされたそこ。女神像のあったその場所に、一人の少年が、いた。


 最後に見た時と同じ、見たこともない形の服に身を包んだ、異国の少年が。


 わたし達がずっと会いたくてたまらなかった人が、そこに、いた……!



「ツカサっ!」



 わたしは走り出していた。


「ツカサ殿ぉ!」


 マックスも負けじと、玉座を飛び越え、ツカサに飛びついていく。



「へ? え?」



 いきなりのことでか、おいら達の突撃をツカサはかわせなかった。

 飛びついたおいら達をツカサは受け止めきれず、おいら達ごとどでーんと後ろに転がった。


 ツカサの胸に飛びこんだわたしは、そのままツカサの胸の上に到着することになった。



 とくん。

 とくん。


 ツカサの鼓動が、耳に聞こえる。


 この、ぬくもり。

 そして、この匂い。


 あの日消えたあの感覚そのままに、ツカサはここにいた。



 間違いない。

 このツカサは、本物のツカサだ!



 本物のツカサが、帰って来た!



「ツカサー!」

「ツカサ殿ー!」

『相棒ー!』


 ツカサが、おいら達にもみくちゃにされる。



 しばらく名前を呼んでいると……



 ぽん。

 と、わたしとマックスの頭に手が置かれた。



 そして小さく微笑み。



「ただいま」



 どこか無愛想だけど、その中に優しい光と暖かさが感じられる笑顔。


 それは、おいら達のよく知るけど、滅多に見たことのないツカサの笑顔だった。


 この半年、ずっとずっと見たかった笑顔。

 それが、そこにあった!



「「お帰りなさい!」」



 言いたいこと。聞きたいこと。話したいことは一杯あった。

 でも、返事で出た言葉はそれ。


 おいらとマックスは、元気よくツカサの挨拶に答えを返した。


 弱くたっていい。

 強くなんてなくたっていいさ。


 だって、帰ってきてくれたんだから!




──ツカサ──




 あくる日。

 唐突に鳴り響いた電話をとると、懐かしい声が耳に響いた。


 その声はやっぱり、イノグランドの女神。ルヴィア様だった。


 女神様から連絡が来たということは、無事復活をはたしたという意味でもある。



 女神様いわく、リオとマックスがまた俺に会いたがっている。自分の加護はもうないが、二人が必死に守るから、もう一度イノグランドへ来ないかということだった。



 どうやら、今回俺をイノグランドに呼ぶにあたり、女神様は俺が弱いってことを念入りに伝えてくれたようだ。

 そして二人は、それでもいいから俺に来て欲しいと熱望したらしい。


 ううっ、なんかこう、来て欲しいって言われるとなんか嬉しい。

 求められるのって、悪い気分じゃないもんだね!


 もう弱いとわかってもこう言ってくれるんだから、あの二人は本当にいい子達だ。



『ただ、私を失い、安定を欠いていた世界は今、荒れはじめています。崩壊も加速してしまったでしょう。修復に全力を注ぎますが、この影響は、しばらく続くことになるでしょう。私の加護も、世界の再生に力の大半を注ぐことになるため、あなたに与える余裕はありません。それに──』


 色々イノグランドの現状を説明してもらった。

 中々に、女神様の不在は大変な事態を引き起こしているみたいだ。


 封印された影響が世界にまで響くとは、さすがイノグランドを作った女神様だね。



『──というわけです。それでも、こちらに来てもらえますか?』



 行くか行かないか。

 それは俺の一存にゆだねられた。


 とりあえず、俺が弱いときちんと伝えられた。他にも色々、必要なことは伝えられたようだ。

 みんな、その覚悟があって俺を呼んでくれた。


 なら、これからは変に戦えとか、強いんだろとか因縁もつけられることもないだろうし、万一因縁をつけられたとしても、もう本物のサムライと言って差し支えないマックスと、聖剣を持ったリオが俺を守ってくれる!


 イノグランドは確かに危険な世界だけど、こんなボディーガードが二人もいるんだから安心てもんだ。


 女神様も復活して、世界の修復もはじまっているんだから、それを俺が心配してもしかたがない。

 むしろ人間である俺にはあずかり知らぬことだ。


 加護はなくとも行き帰りの方法はそのまま使えるから、正直前の時とほとんど。いや、完全に同じ状況だ。


 まあ、今回は時間制限があるみたいだけど。



 ここで行かなければ、きっともう、リオ達に会うことは出来なくなるだろう。


 ならば、行かないなんて選択肢は存在しない。

 むしろ弱いと説明してもらったんだから、前より待遇が下がって上がっているじゃないか!


 だから、今度こそ安心してイノグランド観光が出来るはず。


 なら、この異世界旅行、満喫しない手はないだろう!




 つーわけだから、行ってきます!





 ──こうしてツカサは、再びイノグランドの地を踏んだ。



 しかし、彼は知らない。


 これが、新たなサムライ伝説のはじまりであることを。



 ツカサは、知らない……




 おしまい

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