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サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第3部 サムライトリップ・ホームグラウンド
57/88

第57話 サムライクラスメイト


──マナ・アンダーグレート──




 ボクは特別な存在だ。

 この魂の名前の特別感からもわかるとおり、ボクは特別だ。


 クラスメイトなんてバカばかりしかいないし、世界には凡愚で愚かな人間しかいない。

 どいつもこいつもボクがどれだけ特別なのかも気づきもせず、そこらの只の人のようにあつかっている。


 だが、それも無理もない。



 能ある鷹は爪を隠す。



 ボクが特別であることを隠しているから、愚かで凡愚な奴等はボクの特別さに気づかない。

 気づけないから、奴等は愚鈍なのである。


 証明完了。



 でも、そんな愚かな人類の中にもう一人、ボクと同じ特別がいる。


 ボクと同じクラスにいる男子。


 誰もが振り返る美男子というわけじゃないし、テストの成績ももの凄くいいというわけでもない。

 いわゆる普通の男の子。


 ボクから見ると、クラスメイトというヤツだ。



 名を『片梨士』



 彼は、ボクと同じく、『ヴォイド』を身に宿した戦士だ。

 ちなみに『ヴォイド』とはボクが名づけたチカラの総称。今は息を潜める結社と戦うため必要なチカラのことだ!


 彼もまた、ボクと同じく『ヴォイド』を隠し、この退屈な日常生活を続けている。


 だが、ボクは知っている。

 ボクだけは知っている。


 彼が、ボクと一緒に世界を救う戦士であると!



 最初にそれを感じたのは、そう。あの時だ。



 放課後。

 夕日の力でオレンジに染まった教室。


 いわゆる、黄昏時という時間。


 彼はその時、一人でそこにいた。



 忘れ物をとりに疾走はしって戻ってきたボクは、聞いてしまった。



「……風が、哭いている」



 入り口でパーフェクトステルスを展開しているボクには気づかなかったのか、ボクに背をむけたまま、窓の外にむかって風を撫でるようにしながら、彼はそう言ったのだ。


 芝居がかった動き。

 でも、とても自然な動き!


 それはまるで、風の流れが見えているかのような動きだった!



 それを見て、聞いて、ボクは、ぴんときた。


 彼はボクと同じ趣味……げふんげふん。同じチカラ。『ヴォイド』を感じ取れる、選ばれし戦士かもしれない! と。


 まさかこんな近くに仲間がいるとは思わなかったから、彼の言葉にボクは反応できなかった。

 この時すぐに出て行って、「時が近づいているわ」とか言えればよかったんだけど、あの時のボクはただ唖然とその姿を見ているしか出来なかったんだ。


 機を逸し、彼が教室から出て行くのを隠れて見送るしかできなかった。



 そこでボクは、彼に疑いを持った。

 彼もまた、同じ視点を持つ者ではないかと!




──ツカサ──




 放課後。

 誰もいない教室。


 しかも黄昏時。


 さらに今俺は、名前だけだが劇団に所属している。



 そんなわけだから、一人でいると思わず演技っぽいことをしてしまうのもしかたのないことだろう!

 前みたいにアドリブ勝負挑まれる可能性もゼロじゃないわけだし!



「……風が、哭いている」



 開いた窓にむかい、そう呟いてみた。


 前に比べて様になった気がする。



 でも、人前でやれるかと言われれば、きっとノーだ。

 よっぽど切羽詰らない限り、前と同じくあわあわしちゃうだろう。


 役者のハートって、やっぱすげぇんだな。



 そう感心し、その日は普通に帰った。




──マナ・エリアル・アンダーグレート──




 ボクの魂の名前がグレードアップした。やっぱりミドルネームはかっこいい!



 彼への疑惑がさらに深まったのは、休み時間のある時、あるものを見たからだった。


 その時彼は、携帯をいじっていた。

 その後ろを、ボクが何気なく。偶然たまたま他に行くところがあったから、彼の後ろを通った。



「っ!?」



 その時偶然たまたま、別に見るつもりじゃなかったんだけど、うっかりそっちを見ていて視界に入りこんでしまったんだ。

 あくまで偶然。意図していないからボクは悪くない。


 全然悪くない!



 ね?



 ちらりと見た携帯の小さな画面に映っていたのは、ファンタジーのような服装をした二人の女の子と映る『片梨士』の写真!


 ちらりと見ただけでもわかる。

 なんてハイレベルなコスプレ!


 ボクはあまりの衝撃に、その場でスッ転んでしまった。



 大きな音を立て、みんなの視線がボクに集まり、赤面したボクはスカートをひるがえし、その場から走って逃げたというわけさ。


 残念だが、世界崩壊級のハプニングのため、彼に詳しいことを聞くことは叶わなかった。

 世界を救いに行かなきゃならないから、しょうがない。


 うっかり聞いていたら、覗き見がバレて怒られただろうから、結果オーライということで。



 ねっ!



 だが、これでさらに彼への疑いは濃くなった。


 ほぼ間違いなく、彼はボクと同じ『ヴォイド』を持っている!




──ツカサ──




「わひゃっ!」


 なんとなーく携帯の写真アルバムを見ていたら、後ろから派手な声と音がした。


 振り返ると、なにかにけつまずいたのか、クラスメイトがスッ転んでいた。



「だいじょ……」



 ぴゅーっ!


 俺が声をかける前に、凄い勢いで逃げてった。


 まあ、逃げる気持ちはわからないでもない。



 ここはそっとしておいてあげるのが一番だろう。

 うん。




──マナ・エリアル・アンダーグレートハート──




 そしていよいよ、ボクの疑惑が確信に変わった時がある!



 結局同士かどうかを問い質すことも出来ず、微妙な距離感のまま日々が過ぎていたあの日。


 あれは、現代のメモ帳。電話としてまともに使えない携帯機器。スマフォに思いついたこと。もとい思い出した古の記憶をメモしたものをノートに纏めていた時のことだった。


 古の記憶とはいわば前世の記憶。

 思い出したそれを忘れないよう改めて記憶していたのだ。


 スマフォのメモ帳に記しておけば、自分以外見ることは出来ない。というのはわかっている。

 ボクがヴォイドに導かれ、古より受け継いだ禁断の知識。それを他者に知られるのは非常に危険だというのも。


 しかし。


 しかしだ。



 禁断の領域に隠されていた古の知識をこのような無粋な電子の箱におさめておくなど、無粋ではないか。

 漆黒の表紙を持ち、穢された書物の風格を持つ紙に記してこそ、古の記憶をおさめるに相応しい!


 清書をするための準備稿。


 それを描いていた時だった。



 その時ボクは、その前夜、古の記憶を引き出すことに集中しすぎて消耗し、周囲への注意がおろそかになっていた。


 ゆえに、奴等の接近に気づかなかった……!


「ねえねえ、なにしてんのー?」

「なに書いてんのー?」


「……」


 クラスメイトの二人組が声をかけてきた。


 それは、クラスのヒエラルキーでも中の下に近いところをうろうろする、周囲をキョロキョロと気にして動く二人組だった。

 いじりやすい相手を見つけては声をかけ、クラス上位の奴等に話題を提供し、そのおこぼれをあやかる。


 ハイエナと表現するにもハイエナに失礼なほど屑で、下種な輩だった。

 なのでこいつ等の名前は屑と下種としておこう。


「気になっからさー。見してよ」

「ちょっとだけ。ちょっとだけでいいからさー」


 そいつ等はボクの許可も得ず、スマフォとノートに手を伸ばしてくる。


 勝手になにをする! だからボクは、お前等みたいな凡愚は嫌いなんだ!



 なんとかスマフォは死守したが、ノートの方は一方の下種にとられてしまった。


 スマフォを胸に抱き、慌てて手を伸ばす。



 がつっ!



「あっ」

「……っ!」


 なんとかノートに触れ、そいつの手からノートが零れ落ちた。



 ボクの禁書準稿が、下種の肩をとびこえその背中へ落ちる。


 奴等の手におさまらなかったのはいいが、床に落ちて誰かに拾われてはたまらない!



「なにやってんだよ」

「わりぃわりい」



 慌てて立ち上がろうとするが、振り返るだけの奴等に速度で勝てるわけがなかった。

 ボクにではなく屑に謝り、下種が後ろを振り向く。



 でも……


 奴等の動きが、固まった。

 振り向いた直後、びくっと体を震わせ、なにかやばいものに見つかったかのように動きを止めたのだ。


 なにごとかと、ボクも視線をそちらへむける。



 むけると、そこに、彼がいた。



「か、片梨……」



 下種がやべぇと言うように呟くのが聞こえた。


 床に落ちたボクのノートは滑るように移動し、こつんと彼のつま先に当たっていた。



 つま先に当たったノートに、彼は視線を落とす。



「や、やべえ、片梨だ」

「ど、どうすんだ。なにやってんだよ」


 ひそひそと、二人が耳打ちをしあう。

 ボクには聞こえたが、彼に聞こえていたかはわからない。


 この二人はなぜか、彼を恐れていた。


 クラス内でも平凡な彼を。


 ひょっとすると、彼の内に秘めた『ヴォイド』が彼等に影響を与えていたのかもしれないね。

 さすが、彼だよ。



「これ、落としたのは?」



 彼がノートを拾い、視線をこちらへむけた。


 その視線は、冷たいような、生暖かいような、表情が読めるような読めないようなわけのわからない、なんとも言えない視線に、ボクはおろか屑と下種の二人もたじろいた。


「こ、こいつこいつ!」

「俺ら関係ねーから!」


 その異質な迫力に、屑と下種がボクを指差し、そのままそそくさとそこからいなくなった。



 いなくなった奴等のことなど眼中にもないのか、彼は軽く見送り、ノートを手にボクの元へやって来た。



 この時ボクは、内心冷や汗だらだらだった。


 彼はボクの仲間かもしれない。

 だが、それはボクの推測で、願望でしかない。


 実はボクの勘違いで、仲間でもなかったヤツに、ノートで夢想……もとい、古の記憶を頼りに禁断の知識を蓄え、いずれ来る戦いにチカラを隠さねばならないボクが彼を相手にするのはマズイと思ったからだ。

 因縁をつけられボクが負けることなど決してないだろうが、『ヴォイド』を使えるものが人を傷つけたなんて噂になったら、結社に目をつけられてしまう!


 だから、そのノートの中身は絶対見るな。見てくれるな!



「はい。落し物。中身少し見えちゃったけど、面白そうな話だな。これ」


「え……?」


 彼はボクを笑いもせず、そのノートをボクに渡してくれた。


 表情に大きな変化は見えなかったけど、少しだけ微笑んでくれてたようにも思える。



 ノートを手渡された瞬間、ビビビっと来た。


 こんな感覚、初めてだった。

 今まで感じたことのない電気が流れたような衝撃。


 この時、ボクは気づいた。



 そう。これこそが、『ヴォイド』の共鳴。そうに違いないっ!!



 彼にボクの『ヴォイド』が共鳴したということは、彼も『ヴォイド』使い。やはり彼は、ボクの同士だった!


 やっぱり、そうだった。

 そう。これが、ボクが彼に可能性を感じた瞬間だった!



 それから。


 でもそれから。


 ボクはずっと、どうにかして彼に話しかけられないかと右往左往している。


 彼はボクと同じくチカラを隠しているけど、ボクと違ってまわりに人がいないということは少ない。

 やっぱり、ボクと違ってその内面をみんな見抜いているんだろうか……?


 でも、大丈夫。


 今日こそはと、ボクは勇気を振り絞る。



 きっと彼なら、ボクと分かり合える。

 なにせ彼は、ボクと同じく、『ヴォイド』を持つ男だから!




──ツカサ──




 教室でトイレに行こうと立ち上がったら、足元にノートが転がってきた。


 視線をそこに落とすと、いくつかの内容が見えてしまった。



 それはいわゆる、妄想ノートだった。

 いろんなネタや絵が所狭しと描いてある。



 おぉう。



 こういうの、ここで開いちゃいけないものだぜベイベー。


 とはいえ、見えちゃったものはしかたがない。



 他の人には見られないようにして拾い、落とした子に返した。



「はい。落し物。中身少し見えちゃったけど、面白そうな話だな。これ」



 素直な感想を伝えた。


 正直な話を言わせてもらえれば、けっこう面白そうなネタが詰まっていたからだ。


 でも、流石にここで読ませてくれとは言えない。

 話題になると、この子に迷惑がかかるかもしれないからだ。


 ついでに、おトイレ行きたい。



 だから俺は、ノートを返し、トイレへ直行するのだった。




────




「びびった。まさか片梨にぶっかるとは思わなかったぜ」


「マジだよ。あいつ、とんでもねぇ噂ばっか聞こえっかんな」



 屑と下種と呼ばれた二人は、トイレに逃げこみ、そこでひそひそと話をしていた。


 マナが思ったように、彼等はいじりやすい相手からネタを得ていじって周囲の注意を浴びる分、クラスのヒエラルキー上位から下位まで、様々な噂話を耳にしている。


 その中で、片梨兄妹の噂はとにかく、『ヤバい』のだ。



 妹の方は中等部で天才としてすでに名をはせているから、そっちはいい。すっげぇ美人で成績が良くて運動も出来るパーフェクトな娘。

 悪い噂は、聞かない。


 だが、片梨士は違った。



「俺、先輩に聞いたんだけど、街で暴れてたカラーギャング。あれ潰したの、片梨だって」


「それ、俺も聞いた。それどころか、バイトに元あっち(ヤクザ)系の人がいるんだけどよ。一家がつぶれたの、片梨が絡んでるって話なんだよ」


「マジかよ……」



 それ以外にも、彼等は多くの噂を耳にしていた。


 曰く、入学初日、彼等の通う普通科の入学式に乱入しようとした不良(一学年千人単位で偏差値も上から下までそろっているのでこういうのもまだ生息している)をたった一人で撃退した。理由は、遅刻しそうだったから。

 曰く、三年の先輩に目をつけられたが、逆に格の違いを見せつけ、挙句屈服させた。

 曰く、今噂の女生徒会長も片梨に夢中である。

 曰く、街のチンピラは彼の名前を聞くだけで震え上がって下半身をビッショビショにしてしまう。



「ボクシング部の真田さん。あの全国優勝したあの人」


「ああ」


「あの人がインタビューで語った、ここまできてまだ勝つイメージがわかないって相手、あいつらしいぜ」


「マジかよ」


「ボクシング部のヤツが言ってた」


「マジか」


「あと、俺、あの阿修羅の俊介って呼ばれてるヤンキーがアイツに頭下げてるの見たことある」


「マジかよ。噂、ホントじゃねぇかよ」


 そうなると、一見すると普通に見えるのが逆にヤバく見えてくる。

 いわゆる、逆高校デビュー。昔ヤンチャで今普通なのかもしれない。


 コレはしょせん、子供達の中で流れている根も葉もない噂である。

 しかし、彼等はそれが嘘か本当かわからなかった。


 むしろ、知人から言われた分、信憑性があると、彼等は思っている。



「でも、あれだろ。悪いことしなきゃ平気って話だろ? むしろ俺、正義の味方って聞いたぞ」


 ヒエラルキー上位のクラスメイトも何人か無言で助けてもらったことのあるヤツもいるらしいが、彼はそれを傘にきせず無言で去っていくらしい。

 困った者の味方。


 それが、噂の共通認識だった。



「……なら、俺等がさっきやったことは?」


「……」


 二人は顔をあわせ、さぁっと青くなった。


 あの場での困った者と言ったら当然あっちだ。



 となると……



「ふんふふんふふーん」



「っ!?」

「っべぇ!?」


 トイレの入り口から、鼻歌が聞こえた。

 その声は、二人に聞き覚えがあった。


 先ほど話をしていた、片梨士だ!


 トイレは入り口から一度曲がって入ってくる。


 その間に、二人は慌てて個室にかけこんだ。



 さっきの噂が本当なら、なにを言われてなにをされるかわかったもんじゃないからだ。



 自分達で口を両手で塞ぎ、ツカサが居なくなるのを待つ。


 鼻歌を響かせながらトイレを済ませ、手洗いの音が鳴り響く。



(どうやら、俺等がいることは気づいて……)



 唐突に、鼻歌が止まった。



(っ!!?)



「悪いが、見逃せないんだ。だから、次はただじゃすまないぞ」



(俺等がいるの、気づいてるっっっ!!!?)

(ひいいぃ!)



 ドアごしに聞こえた、しっかりとした言葉。

 明確な、警告の言葉……っ!


 二人はその言葉を聞き、ぞっと背筋を凍らせた。



 手を洗い終えたツカサは、何事もなかったかのように鼻歌を再開し、歌いながら出て行った。



 二人は個室の中抱き合い、顔を見合わせた。

 その顔は青ざめ、歯がカチカチとなっている。


 それほど、恐怖だったのだ。



 二人は安易ないじりはやめよう。人の嫌がることはよそう。そう心に誓うのだった。




 一方、トイレを出たツカサ。



「さて、もう校舎に入ってくんなよー」


 そう小さく呟き、窓を開けそこから木にむかって蜘蛛を放り投げた。

 大きさは爪の先ほどしかないから、たとえ地面に落ちたとしても死んだりはしないだろう。


 サイズは小さいが、やはり蜘蛛。あそこにいて巣を作られれば、利用者にはたまらない。

 ゆえに、外に逃がしたのだ。


 一回見逃すのはアレである。武士の情けであり、徳を積んでおけばおしゃか様が一回助けてくれるからとかそういう理由である。


 いいことをしたと、自己満足を感じながら、ツカサは教室へ戻るのだった。



 こんな感じで、彼は一部の生徒から畏れられていたりする。




──マナ・グレートハート──




 なんだか知らないけど、アレからあの屑と下種がボクにちょっかいをかけてくることはなくなった。

 とても平穏で平和で快適な日々を過ごせるようになっている。


 って、いやいや、それで満足してはいけない!


 ボクは思い立った。



 今日。

 ボクは意を決して彼に話しかけることを決意した!


 話しかけて、ボクと友……もとい、共に結社と戦う仲間となってもらうために!



 まわりに人が、クラスメイトがいてもかん……けいあるから、人がいなくなってからにしよう。


 あ、彼の方が誰もいなくなる前に先に出てく。



 こ、こうなったら、外で!

 今度こそ。


 今日、ボクは決心してきたんだから!



「まーた逃げ出してきたのか、お前は」


 追って追って追った結果、彼は人通りの川べりの川原におり、やたらと毛並みのいい犬と戯れている。


 彼のいる場所は芝生の生えた運動場だが、近くには腰くらいまで草が生えた茂みがあった。

 だからボクは、勇気が出るまでそこに隠れ、彼を監視している。


 土手の方から行くと丸見えだけど、これならボクが話しかけるタイミングを決められる!



 わしわしと犬を撫で回し、犬もそれを気持ちよさそうに受け入れている。


 撫でられる犬はとても嬉しそう。

 別に羨ましくなんてないからね!


 丁度よく一人。


 しかも川原。今話しかければきっとイケル!



 そう思うけど、なぜかボクは動けなかった。


 それは、なぜかあの野良犬と戯れる彼の行為を邪魔したくないと思ったからだ。


 もの凄く綺麗な絵を穢してはいけない。それは神聖なものだ。

 思わずそう思ってしまったからだ。


 言葉なんかじゃ表現できない、ずっと見ていたい目の保養。尊いと言えばきっとわかってもらえるような気もするけど、とにかく見とれてしまい、声をかける行動に出られなかった。



「ヌウ。ヤツが、片梨士か……」


「そう。彼が片梨士……っ!?」


 川原の茂みに隠れていた私の隣で、渋いおじ様の声が聞こえた。

 独り言だったのだろうが、つい思わず返事を返してしまった。


 びっくりして慌ててそちらを見ると、ボクと同じように草むらに隠れ、変なメガネと白衣を纏って彼をうかがう、怪しいおじさんがいた。


 怪しさ度で言えば、制服姿でこんなところに隠れているボクの百倍怪しい。



「ぬっ? なぜここに学生が。貴様、なぜここに!」


 ボクに気づいた白衣のおじさんがボクをもの凄い勢いで指差す。



 それはこちらのセリフ。お前は誰だ!

 大声で言いたかったが、そんな大胆さはボクにはない。


「そ、そちらこそ」


 と言うので精一杯だった。



「フッ、ヤツを追っているというのにワガハイを知らんのか。まあ、ワガハイもおぬしを知らんからお互い様だな!」

「そ、そうですね……」


 中腰のままふんぞり返るという器用な真似を……


 でも、一つわかるのは、この人も彼のことを狙っているということだった!

 まさか、この人も彼をスカウトしに来たと!?



「……まさかっ、結社がついに動きはじめたというの!?」


「結社だと? ワハハ。そういうことか。おぬしもワガハイと同じく、ヤツをスカウトしに来たということか! 我等死士を狙い、暴れまわるヤツに目をつけ、逆に仲間へと引き入れ、サムライの側から引き剥がすという作戦をワガハイ以外にも考え、実行するヤツがいるとはな」


「なっ!?」


「おぬし、中々出来るヤツではないか! 見直したぞ!」


 見直されるようなことした覚えないけど!

 でも、そんなことどうでもいい。


 ところどころ意味のわからない単語があったけど、その目的は判明した。

 目的は、やはりボクと同じ。


 彼。こと片梨士のスカウトだった!



 しかもなんか、彼はすでにむこう側のなにかに参加してるっぽい!?

 暴れまわるとか、なんかすっごい活躍してる!?


 そんなイベントに参加していたら、ボクの話なんて興味も持ってもらえないかもしれない!


 器用にふんぞり返るおじさんを見て、ボクは焦った。



 まさかこんなところで、ボク以外にも彼をスカウトする輩がいるとは想定外だ。


 でも、そんなに凄いプレイヤーならスカウトして味方に引き入れたくなるのも事実。

 なんてうらやま……いや、なんて事態だ!


 いくら相手が結社じゃないとしても、どうにかしなきゃいけない!



「残念だけど、彼をスカウトするのはこのボク。なぜなら、ボクこそが彼を必要としているから!」


「なっ、なんとっ! その気迫、どうやら本気のようだ。どうやら、ワガハイに譲る気はないということか……」


「その通り。彼は、ボクの仲間になる運命なんです!」


 ボクも器用に茂みに隠れながらふんぞり返った。


 なぜなら彼は、ボクのノートを見て面白そうだと言ってくれたから!

 だから、きっと! 多分。お願いっ!



「ならばここでひと勝負!」


「え?」


 いきなりずいっと来られても、困るんですけど。

 困るんですけどー!



「と、いきたいところだが、ここでワガハイ達が潰し合うのはサムライを喜ばせるだけ。ならば、こうせんか?」


「ど、どうするの?」


 心の中ではほっと胸をなでおろす。

 いきなり『デュエル!』とか言われたら困っちゃうからね。



「ワガハイ達が同時にヤツのもとへおもむき、同時にスカウトする。ヤツがどちらを選んでも、恨みっこなしというのは!」


「むむっ……!」


 おじさんの提案に、ボクの中の緻密な計算機が動く。

 あっちは怪しいおっさん。対して一応だけどボクはクラスメイト。


 なら、この勝負ボクの方が明らかに有利!


 なにより、この状態ならボクも怖気づいて逃げるなんてことは出来ない!

 いわば背水の陣!


 これは、いけるっ!



「いいでしょう!」



 話が決まり、ボクとこの怪しいおじさんはがっちりと握手を交わした。


 交渉、成立!



「さあ、彼に声を……って、いない!」


「なんだと!?」


 草むらから顔を出すと、すでに川原に彼はいなかった。


 ボク達が話をしている間に、どっかいってしまったようだ。



 なんてことなの……!




──亜凛亜──




 私は今、ある死士が悪さをしないか警戒しながら街をパトロールしている。


 その死士が網にかかり、この地にやってきているという情報が入ったからだ。


 その死士とは、明晰頭脳集団を自称する、明晰党という組織の党首。通称『博士』!

 ちなみに、集団と言っているが、構成員はその博士一人だ。


 目的はわからないが、この地をうろついているというのは間違いないようだ。



 また、厄介なヤツが来たものだ。と思う。



 この厄介。というのは、いつもの死士に使う厄介とは意味合いが少し違う。


 ヤツは、力なき人々に対し非道を平然と働くとか、中々捕まえられない手ごわい特性を持つというわけでもない。

 そいつは、ただ厄介で面倒な相手なのだ。


 こいつのやることは、その特性をもちいてビルを七色に染めるだけとか(士力で色をつけているため、サムライにしか見えないから、一般人にはなんの変化もない)

 秋、落ち葉をかき集め焚き火をし、ついでに焼き芋を作るとか(士力を使うでなく、普通に集めて焼き芋をするだけ)

 ただしその焼き芋の内側には『バカ』とか士力で焼印が入れられ、食べたものをバカにしている(もち以下略)


 主義主張も信念もなく、ただ面白いからという理由だけで騒動を起こす、程度は低くとも死士の鏡のようなヤツなのだ。


 一般人に危害を加えるわけでなく、害はないのだが、士力を使って悪さをするというのは見逃せるわけもなく、対応できるサムライは現れたヤツに対し対処せざるを得ない状態だった。



 今回の目的がなんなのかはわからないが、きっとくだらないいたずらを行うつもりなのだろう。


 だからといって放っておくわけにもいかない。

 情報を得た私は、その『博士』の出現を警戒し、パトロールを行っているというわけである。



 そして、見つけた。



 明晰頭脳集団明晰党党首、通称、『博士』を。




──マナ・グレートステルスハート──




 川原の草むらから顔を出したボク達は、あたりを見回す。


 彼はすでに、川原から歩き出し、犬と一緒に土手の上を歩いて遠ざかっているのが見えた。


 すぐに追わなければ見失ってしまう!



 ボクは大慌てで茂みの中から飛び出そうとした。



「待て」


 でも、襟首を掴まれ茂みに押し戻された。

 頭を掴まれ、しゃがまされる。


「な、なんなのいきなり!?」


「しばらくここに隠れておれ」



 頭にヘルメットのようなものをかぶせられ、そのまま動くなと指示されてしまった。

 このヘルメットはなにやら気配を消す力があるみたいで、説明を受けたボクは、どういうことなの? とクエスチョンマークを浮かべるしか出来ない。



「見つけましたよ」



 立ち上がった博士の前に現われたのは、綺麗な女の人だった。

 二十歳前後くらいの、ポニーテールが似合うすらっとした美人。


 ボクはまったく知らない人だけど、博士は知っている人らしい。



「ほう、剣聖の弟子が出張ってくるとは、ワガハイも有名になったものだ」

「御託はいりません。今日こそ捕縛し、そのくだらない党を解体してあげます」


「ワハハ。ワガハイを捕まえたところでなんの意味もないぞ。ワガハイがいる場所が、我が明晰党なのだからな!」


「……党員一人のくせになにを言っているんですか」


 女の人が呆れている。

 まあ、一人で軍団名乗ってるんだから当然かも。



「ならば、話し合うだけは無駄のようだな」

「ええ。今回こそ、逃がしません」



「……っ!?」


 ……え?

 思わず声が漏れそうになったのを、手で押さえてとめた。


 それほど、これから起きることはボクにとって衝撃的だった。



 しゃらん。


 そんな音を立て、二人はなにもないところから刀を取り出した。



「いきますよ、大嵐おおぞれ

「起動せよ、我が理屈の鎧!」


 さらに、信じられないモノをボクは見る。



 自然じゃありえない突風がふきすさみ、さらに古めかしい巨大なロボが突然生えた。

 それは明らかに、あの女の人が刀を振り、博士が刀に語りかけることで発生している。


 サムライ、死士とか言ってたけど、こんなトンでもないの聞いてない!


 ロボのパンチが飛んだり、それを渦巻いた風が防いだり、ボクの常識とはかけ離れた戦いがボクの目の前で行われる。



「うわがはいーっ!」



 唖然としている間に決着がつく。


 大きな風の刃が博士の出したロボを真っ二つにして、博士もなぜか真上に吹っ飛んだ。



 別に風が当たったわけじゃないのに、なぜか真上に。


 ロボがやられて、ダメージがフィードバックしたのかな。ボクにはよくわからない。



 ただ、わかるのは、勝ったのはあの女の人の方だってことだ……




──亜凛亜──




 通称『博士』を無事撃退することに成功した。



 この男、戦闘能力こそ高くはないが、その特性。『発明』は非常に厄介なものである。


 その名の通り、発明をするという特性なのだが、どんなに理論が破綻していようと、こういう効果だと思い描けていれば、その通りに効果を発揮するというとても厄介な特性だ。

 これを使い、ヤツはビルに七色の色を塗るスプレーを出し、芋の中に悪口を書けるペンを呼び、巨大ロボットを召喚する。


 汎用性で言えば、彼方ちゃんの『理想』に近いものがある。


 少し。いえ、かなり頭のネジが外れた死士であるゆえ、その使い方や限定は強いものでなく、私一人でも対処が可能なほどだった。

 基礎士力が高く、しっかりと制限がつけられていれば勝てなかったかもしれない。

 いや、頭がアレだから、結局は勝てたかもしれない。



 しかし、どうして男の人はああも巨大ロボを好むのでしょうね。

 あの博士は頭のあるべきところに自分で座る、コックピットむき出しの状態なんですから、余計に。


 私には理解できません。



 戦闘不能となったヤツに縄を打ち、私は後始末をしてもらうため仲間に連絡をする。

 これ以上暴れてもらっても困るから、ひとまず合流を急ぐため、私からも彼等に近づくため移動を開始した。


 下手にここに残っていると、ロボットにボコボコにされた地面を疑問に思った人に声をかけられるということもあったからだ。



「ワハハ」

 私に引きずられる『博士』が笑う。


「一体、なにがおかしいんです?」


「たとえここでワガハイを捕らえようと、ワガハイの意思は消えぬ」


「いや、党員一人の男がなにを言ってるんです」


「そうではない。そうではないぞ小娘。ワガハイはすべて自由に生きるハラカラのためを思っての行動。だが、ワガハイの意思に同調してくれたものは必ず現われる。貴様等の横暴は、ワガハイの同志が必ず打ち砕くだろう!」



 ワハハハはと、笑った。


 なにを言おうと、負け惜しみにしか聞こえない。

 早い話、私達サムライの守る秩序が気に入らないということだ。


 気に入らないから、同じ死士の誰かがそれを成すだろう。


 この男はそう言っている。



 一般人は危険にさらさないとはいえ、やはり死士は死士。


 サムライの秩序が気に入らないというのは、共通の考えのようだ。



 だが、そのようなことはありえない。


 なぜなら、それを守るために、私達がいるのだから……!




──マナ・ステルスオブステルス──




 倒れた博士は捕まり、そのまま引きずられていった。


 博士を連れて行く女の人は携帯電話を片手にどこかへ電話をしている。

 よく聞こえなかったけど、後始末をうんぬんと言ってたと思う。


 その二人は、彼がむかった方とは反対側の道を歩きはじめた。



 そこに、誰もいなくなった。



 それを確認すると、ボクは草むらから頭を出した。

 頭を出すのと同時に、頭の上にあったヘルメットも消えた。


 コレは一体、なんだったんだろう?


 本当にあの人はボクに欠片も気づかなかった。

 それは、これのおかげなんだろうか?


 答えは博士が知っているだろうけど、ボクにはあずかり知らぬことだった。



 なくなった頭の上に触れ、首を捻るのはやめにし、ボクは改めて回りを見回した。



 あの二人が戦ったところは、なんかすっごいことになってた。


 あの場に竜巻でも起きたかのような惨状で、小さくクレーターまで出来ていたりする。

 草むらに隠れていた時にはさっぱりわからなかったけど、すんごいことが起きてたんだと今さら理解出来た。


 そして、確信する。



 あの人達は、本物だと。



 設定とか、想像とか、妄想とかじゃなく、あの人達は、本物の特別な人なのだ。


 正真正銘、特別なんだと……!



「……」


 もう一度、争いのあった現場を見る。

 音を、思い出す。


 残る戦いの傷跡に現実を理解し、巻きこまれたらひとたまりもないと背筋が震える。



 あんな人達に関わってられない。早く彼と合流し……


 ……え? 彼?



 思い出す。

 さっきの博士。あの人は彼が何人もの仲間を相手に暴れ回っているから、味方にひきこみたい的なこといってなかった?

 それってつまり、彼も本物で、ああいう輩と日々戦っているということ……?



 それが事実だとすれば、これから追いかけていって、仲間にスカウトすると……


 そうなったら。ボクも、さっきの人達の戦いに巻きこまれる……!?



 もう一度、この現場の惨状が頭をめぐった。

 いくらボクが『ヴォイド』を使えるからと……



 ……うん。



 私は一人大きくうなずいた。



「中二病、卒業しよ」


 現実を見て、私は彼についていくのを諦めた。



 だって住む世界が、違いすぎる……っ!




──博士──




 速報。ワガハイ、小娘に負け捕らえられる!


 今、ワガハイの中で速報が鳴り響いておる。さすが剣聖の弟子。ワガハイを真正面から負かすとは、侮れぬサムライがまた一人生まれたものよ。


 しかし、ワガハイに後悔はない。

 むしろ満足しておる。


 今回、危険を冒してまでここに来たのは、最近頭角を現した一人のサムライを勧誘するため。


 サムライが我等を縛る中、それでも彼は好き勝手に死士を倒して回っていると話を聞いたからだ。

 死士を倒している間だからこそ、サムライさえ手を出しかねる強大な力の持ち主。


 ならばそれを、こちらに引き入れられぬのかと天才のワガハイは思いついた。


 さすれば一気に形勢逆転。

 今まで虐げられてきたワガハイ達死士が逆に秩序を作るに至るやもしれん。


 チャンスを狙い、近づこうとしたところで、まさかもう一人同じことを考えた者と出会うとは思いもよらなかったがの。


 微力ながら感じる士力。

 どうやらワガハイの知らぬ死士団体に属しておるらしい。が、同じ死士ならば志は同じ!


 なにより、着ていた制服はあの片梨士と同じものであった。ならば、ワガハイが説得するよりも圧倒的に成功率も高まるだろう。


 ゆえに、追っ手のサムライが現われたとしても、ワガハイは一人それに立ち向かう決断が出来た。


 ワガハイの刀の特性は『発明』。いかなるものも作り出せる、まさに天才のみが得られる究極の特性である。

 それによって作り出された、気配消しヘルメットをあの娘にかぶせ、ワガハイは戦った。


 さすがワガハイの発明品。あの場に現れたサムライにあの娘の気配を感じることは出来なかったようだ。


 ワガハイはそのまま敗北し捕まったが、大局を見れば負けていない。

 ヤツがサムライの側から離れてくれるのならば、それはワガハイのところでなくてもかまわないからだ!


 あとは、あの娘がターゲットの足抜けに成功させれば万事解決!

 我等死士の世がやってくるというものよ!


 さあ、娘よ。ワガハイのために働くのだ!




 ──しかし、博士は知らない。


 譲ったあの少女。

 彼女は、死士なんかじゃなかったということを……



 博士は、知らない──




──ツカサ──




「おはよう、片梨君」


「ん、おは……あれ?」


「どうしたの?」


 声をかけられ、返事を返したけど、一瞬誰かわからなかった。


「なにか、変わった?」


「あ、わかる? 私ね、気づいちゃったんだ。私は、特別じゃないって!」


「……へー」



 なんだかよくわからない理屈だけど、昨日見た時より明るくなっているような気がする。


 一体なにがあったんだろうか。

 俺にはさっぱりわからなかった。



「ありがとね。片梨君。君のおかげだよ」



 なぜかお礼を言われた。


 彼女はニコッと笑い、そのまま走って教室へむかう。



 俺は立ち止まり首をひねる。

 心当たりは、もちろんない。


 だから、首をひねるしかできなかった。




──有浦まほろ──




「なに考えてんのさあのアホはー!」


 元亜凛亜の親友で、サムライ衆に潜入していた素敵な潜入工作員。あたしは思わず声をあげちまった。



 明晰頭脳集団明晰党党首、通称、『博士』捕縛。

 この一報を聞いて、ね。


「あのっ……あの、アホッ!」

 驚きと怒り。もうこの感情をどう処理すればいいのかもわからない。


 周囲からアホと呼ばれているが、あのアホは天才でもある。


 あれの特性、『発明』は他の特性にない大きな特徴がある。

 それは、すでに存在する物体を利用して『発明』することによって、本人以外も使えるサムライ道具を作れるのだ。


 それの源流は刀鍛冶であり、未熟なサムライに刀を打ってやったのがその特性が生まれるきっかけだったとも言われている。

 サムライ衆が使っているサムライ携帯機能や、士力測定器。さらにヤタノカガミなども元をただせばこの『発明』と同系統の特性によって作られた、作ったサムライがいなくなっても使用出来る『道具』を作り出せるのである。


 あたしも計画の要となりえる部品を注文していたのだが、それがまだ出来ていないというのに捕まったというのだから、そりゃ憤りもするだろう。


 そりゃ、あれがなくとも実行は出来る。

 だが、あるとないとでは成功確率に大きな差が出る。


 もちろん、あった方が確率は上がるに決まっている!



 だってのに、ホント、なに考えてんだいあのアホは!



「くそっ。計画のことは欠片も伝えていないから、サムライにバレることはないけど、教えなかったから、こんな安易な行動に出たんだね」


 後悔してもしかたがない。そもそも、アホの行動を抑制するというのが根本的に不可能なのだからしかたないだろう。

 アレは常人とは全然違う考えで動いているのだから。



「お嬢!」

「なんだい!?」


 手下の一人が慌ててこっちに来た。



「荷物が届いてます。あのア……いや、博士から」


 今アホって言おうとしたね。

 いや、それより……!



「荷物だって!?」



 届いた荷物を開けてみると、確かに注文の品だった。


 それを見て、あたしはほっと胸をなでおろした。

 送ってくるなら送ってくると先に連絡しろ! というかこんな重要なもの郵送で済ますな! ホントにアホはアホなんだから!


 でも、ちゃんと完成させたんだから、すべてチャラにしてやるよ。


 いよいよこれで、最後のパーツが作れる。

 これで、計画の実行が可能になるよ!



 あたしはそれを広げ、笑いが止まらなかった!




 おしまい

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