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サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第2部 復活の邪壊王編
40/88

第40話 サムライのグルメ


────




 その日、空に邪壊王の影が現れる直前、世界中にある女神ルヴィアの像が砕けったのが確認された。

 それは、女神ルヴィアの加護が失われたことを意味する。


 砕けた直後、天に邪壊王の影が現れたことにより、それは復活した邪壊王により女神ルヴィアが倒されたのだと解釈された。

 この像が砕け散ったということはすなわち、今、この世界を守り、見守る存在がいなくなってしまったのと同義だからだ。


 多くの神官は、その事実に嘆き悲しむこととなる。


 今はまだ女神不在の影響は現れていない。だが、彼女の不在は天に輝く太陽の光を弱め、世はゆっくりと光を失い熱を失っていくだろう。


 邪壊王が復活しただけでなく、創生の女神不在の報。

 聞いただけで絶望に膝を突いてしまいそうな話題が続いたというのに、それでも人々の顔から笑顔は消えていなかった。


 なぜなら、その邪壊王の討伐に伝説の聖剣ソウラキャリバーを引き抜いた聖剣の勇者と、先日世を救ったサムライが旅立ったと知ったからだ。


 勇者の詳細は知らずとも、多くの民はサムライの伝説を知っている。

 ゆえに、今回もきっと大丈夫であろうと思ったのだ。


 これにより彼等は安堵し、今までとかわらぬ日常へと戻っていった。



 サムライならば、きっと世を救ってくれると信じているから……




──リオ──




「え? 西の果てにいかないの?」


 王都からいきなり西へむかおうとしたツカサの言葉を聞いて、おいら達は全員驚いて飛び上がった。

 心情的にだけじゃない。物理的ににも飛び上がって。


 そりゃそうだ。

 ツカサはいきなり敵の本拠地に乗りこむ気満々だったんだから。


 そりゃそれが一番手っ取り早い手段なのはわかるよ。一刻も早く世界を救いたいってツカサの気持ちもわかる。

 でも、ツカサはダークカイザーとの死闘で力を使い果たしているんだからさ。もっと自分の体の方も考えようよ!


 気が焦るのはわかるけどさ、今のツカサだとそれこそ命を使ってどうにかしようとするんだからダメに決まってんだろ!



 おいらとマックスとオーマ。そして必死なおいら達の空気を読んだソウラの四人がかりでツカサを説得した。


「き、気持ちはよーく、深くわかりもうすが、それはほら、そう。聖剣のお仕事にござる。それをツカサ殿一人で完結させてはソウラ殿に悪いでござろう!?」


「そうそう。それで今、ソウラフルパワー出せない状態だから、まずはそれを復活させに行くんだよ。邪壊王も復活したばかりで大したこともできないだろうから、そっちに、な。ツカサ!」


『そうだぜ相棒。ここはこいつを立たせてやるってことでよ』

『ええ。お願いしますよツカサ君!』



「わかった。聖剣の方を先にしよう。心配してくれてありがとな。みんな」


 おいら達の必死の説得に驚き、ちょっと引いていたようにも見えるけど、ツカサはうんとうなずいてくれた。

 しかも、お礼まで言ってくれた!



「えへへ。当然だよ」

「当然にござる!」


『そうだぜ!』

『その通りよ!』


 ツカサに褒められた。


 よかった。おいら達の言葉もちゃんと聞いてくれた。

 このままおいら達の言葉も聞かず、たった一人でどうにかしようと歩き出したらどうしようと思った。


 まだ、おいら達はツカサに信頼されてる。

 これだけで、ツカサはまだ、誰も頼りにならないと、たった一人で戦おうとは考えていないことがわかり、おいらはほっと胸をなでおろした。



 なら、ツカサにその命を使わせないよう、おいら達は必死にがんばらないといけないな!


 おいらとマックスは目をあわせ、そううなずいた。




──ツカサ──




 あっぶねえ。


 てっきり聖剣があれば邪壊王討伐なんてオールオッケーなのかと思ったらそうじゃなかった。


 なぜかお力が不完全なため、今はフルパワーが出せないそうだ。

 そいつは危ねえ。危うく自爆しに行くところだった。


 忠告してくれたみんなに感謝だな。



 とりあえず感謝して礼を言っておいた。

 いやー、危なかった。冷や汗かいたよ。



「それで、その力を復活させるってのはどうすればいいんだ?」



 西の果てに現れた城に行けないというのだから、目下の問題はこれだ。

 どうすればそのお力を取り戻せるのか。なんせ俺の頼りはこの聖剣だけなんだから!


 リオに背負われた聖剣に視線をむける。



『お答えしましょう。私の力の源は、天からの光。すなわち、空の上に輝くあの太陽です。私はあの光を刀身に浴び、次の災厄に備え力を蓄えるのです』



 その言葉を聞き、俺達は空を見上げた。

 そこには青空の上に輝く太陽がある。



『天に輝く太陽。これは、女神ルヴィアの祝福を受けたハイエンシェントドラゴンの炎にして、万物の命の源。そしてこの力は、邪壊王最大の弱点になります。ですからその力を刀身に集めた私は、ヤツの天敵なのです』


 ちなみに、弱点の邪壊王でなくとも強力な太陽の熱と光は近づくモノを焼き尽くすそうで、邪壊王以外にも大変有効らしい。例外は、魔法の効かない『闇人』くらいだとか。



「それって五百年かかっても蓄えきれないもんなのか?」


 一緒に手でひさしを作って空を見上げていたリオがつぶやいた。



『いいえ。百年ほどあれはチャージは終わるのですが、五百年前のあと、屋根を作られて十分に日が当たらなかったんです……』


「……」

「……」

「……」

『……』


 俺達は空を見上げながら、無言になった。

 そういえば、聖剣の刺さっていた岩のところには東屋があって屋根が作ってあったな。


 それを思い出したからだ。



『私は野晒でよかったのですが、気を使った人々があそこに屋根を作ってしまったんですよ……』


 なぜかソウラが申し訳なさそうにつぶやいた。



「誰が作ったのかは拙者も把握していないが、国の代表として謝罪しておこう。考えが足りず、申し訳ない……」


 なぜかマックスが謝った。



「うん。許す!」


 なぜかリオが許した。



「なぜお前が許す!」

「過ぎたことをぐだぐだ言ってもしかたねーってことだよ! 多分!」


 ただのノリだったようだ。



『百年かかるってことは、抜いてそのへんに放置すればいいってことじゃねえんだな』


『はい。百年の余裕があればそれでいいんですが、それを待っている時間はありませんからね』


 オーマの言葉にソウラがうなずいた。

 百年かかるんだから、野晒でやるのは時間がなさすぎる。



『ですが、こんなこともあろうかと予備の源を用意してもらってあります!』


「おお!」

 マックスが拳を握って喜んだ。



『それの名は太陽の石! 私の刀身と同じく天より降り注ぐ太陽の光を蓄える力を持つ女神ルヴィアの祝福を受けた輝石です! 確か五百年前でもどこかに大切に祭られていましたから、きちんと伝承されているなら問題なく太陽の光を浴び続けているはずですが……』



 そしてその名を聞いて、マックスは落ちこんだ。

 肩を落とし、ずどーんと頭を落としている。


 それは明らかにその石のことを知っている反応ではある。



「マックス、その石のありか知っているのか?」

「ありかは知っております。知っておりますが、今の持ち主がちと厄介でして。素直にそれを見せてくれるかどうか……」



 俺が聞いたら、はぁ。と大きくため息をついた。


 どうやらなにか問題のある人物が持っているらしい……




──ツカサ──




 というわけで、ひとまず俺達は太陽の石が祭ってあるという神殿のある街。グルノーブルへやってきた。

 この街は、グルメ都市としても名高く、ここで食べられない物はないと言われるほどの街なのだそうな。


「ならお米も食べられる!」


 とこの街の話を聞いて期待したのだが、流石になんでも。は誇張に過ぎなかった。



 昔は本当になんでも手に入ったと言って過言ではない時期もあったようだけど、今は違う。



 そもそも十年前にこの世界で大暴れしたダークシップ。


 それは、サムライの国を海の藻屑に変えただけじゃなく、それ以外の多くの国を滅ぼし、さらに多くの大地を海の藻屑へと変えた。

 南方にあった大陸など、まるごと海に沈んでしまったところもあるという。


 地球で例えるのなら、今、この世界で人がまともに住める場所はヨーロッパ地方しか残っていないと例えればわかりやすいだろう(北方の極寒の地は無傷ではあるようだ)



 ……サムライの国が滅んでたのは知ってたけど、こうして改めてダークシップの被害を聞かされると、とんでもねぇと思い知らされる。

 破壊のスケールが想像以上で困惑しちまったよ。


 あの船は、かなりの規模を破壊しながらこの地域へやってきていたんだな……



 このせいで、どうがんばっても手に入らなくなったシロモノもあるらしい。



 例えば、米とか、白米とか、稲とか、バナナとか。



 そりゃ米を食べたいと思って探してみても見つからないわけだ。生産地が滅んでいて輸入も不可能なんだから。

 そもそも作ってる場所がないんだから!


 あの時サムライだったトウジュウロウさんと出会い、米を食わせてもらえたのはかなりの幸運だったんだな。


 そして、トウジュウロウさんがここで米を育てていたのは、食べるためだけじゃなかったのかもしれないんだな……



『そこまで世界が破壊されていたなんて……』

 世の現状を聞き、ソウラが絶句していた。


 そもそもこの現状の話は、ダークシップの被害で手に入らない物があると出た際、どれほどの被害が出たのか聞きたいとソウラが言い、マックスが説明したものだ。


 さすがの聖剣も、ここまでの被害が出ていたとは思っていなかったんだろう。



『(これほどの破壊を行ったダークカイザー。それをたった一人で打ち滅ぼすとは、確かに私に匹敵。いえ、下手すると私以上の力があるかもしれませんね)』



 ん? なんか視線を感じる気がする。



『……ですが、なぜ邪壊王の封印が解けたのか納得がいきました。世界がこれほど破壊されていたのなら、地底深くに施された邪壊王の封印に傷がついても不思議はありません。世界が傷つけられ、女神もそれを維持し、修復するため大きな力を使いますから、疲弊した女神は復活した邪壊王に破れたのでしょう……』


 その上、ダークカイザーを追い返すためあの攻撃を俺から守ってさらに消耗していたのも拍車をかけたのだろう。

 だから、邪壊王にやられてしまったのか……



『(……ですから、邪壊王は闘技場に現れた時なにもせず消えたのですね。女神との戦いに消耗し、贄も得られなかったから……!)』



 なんか聖剣が一人納得していたけど、流石に心は読めないのでなにを考えていたのかはわからなかった。



 一つわかるのは、このグルメ都市にある太陽の石で聖剣の力を取り戻さなければその邪壊王を倒せないってことだ。



 太陽の石は、この街の最奥にあるルヴィア神殿にある尖塔のてっぺんに祭られているのだという。

 その輝石は、昼間太陽の光を集め、夜は灯台のように光り輝き、その光は海の果てからでも確認できるほどの光を放つのだそうな。


 かつて遭難し、この光目指して帰ってくることが出来たという船乗りがいたという逸話があるってマックス言ってた。



 ちなみに、夜光を放出しているのはエネルギーチャージがすでに完了していて、その余剰を放出しているのだとか。



 このように、常に光を放つ太陽の石の加護を受けたこの街は不夜城とも呼ばれ、昼も夜もない生活をする者達が集まって街が出来たらしい。


 その後、なんやかんやあってこの地に食材が集まるようになり、今ではすっかり食の都として栄華を極めているようだ。

 このなんやかんやあってのなんやかんやあった部分を説明すると面倒くさい長さになって本編の長さを余裕で超えてしまうらしいので省略する。

 なんやかんやあったのだ!



 話がちょっとずれた気もするけど、今そのグルノーブルの街を治めているのはグルノーブル卿と呼ばれる男の人で、その人がその太陽の石を管理しており、尖塔の上に祭られた太陽の石のところへ行く許可は、その人から得なければならないというわけだ。


 で、マックスが言うには、その人になにやら問題があるらしい。



「それでマックス。そいつには一体どんな問題があるんだよ? いい加減教えろ」



 グルノーブルの街に入ったところで、リオが大きな荷物を背負ったマックスに聞いた。

 王都から約一日ほどの距離なのだが、マックスはいつの間にかその背中にそれを背負っていた。


 聞いてもついてのお楽しみと答えるだけで、俺もリオもその中身とそのグルノーブル卿という人がなんなのか気になっていた。



「そうだな。そろそろ教えよう。ヤツは一つのことにしか興味がなくてな、それ以外のことで人に会おうともしない男なのだ。それのせいでチャンピオンシップも見に来ないし、ずっと屋敷にこもって外にも出てこない」


「会うのが凄く難しいってことか?」


「いや、会う条件はとても簡単だ。そいつの興味は美食。美味しいものを。珍しいものを手土産にして行けばすぐに会ってくれる。その土産が気に入れば許可も一瞬! すぐに太陽の石に触れるところまで行けるというわけだ!」


「土産って、そんなみや……あー」

「あー」


 リオがそんな土産用意してないと言おうとして、マックスの背中にあるものに気づいた。

 同時に俺も声をあげる。


「ふっふっふ」

 マックスは笑い、振り返って俺達に背負っている袋を見せつけた。


 かなりの自信だ。



「そう。これが拙者の用意したグルノーブル卿への土産!」



 マックスは背中の袋と固定する紐をひっぱり、中からそれをとりだした!



「ガブリトカゲにございます!」



 取り出したのは、オオサンショウウオとかナマズに手足が生えたのにも似た、鱗を持つトカゲのような両生類のようななんとも中途半端なトカゲだった。


 ぬめっとしてそうで、その尻尾を持つマックスの手はまったくぬめっても滑ってもいない。


 大きさは尻尾まで入れて一メートル半ほどもある、とてもでかいトカゲだった。



「ふふっ。どうでござる。我が領地北部にある山脈近くの沼に住まう、煮てよし焼いてよしただし生はダメの珍味にございます!」



「……」

「……」

 正直俺とリオは、その見た目にドン引きだった。


 なんというか、手足の生えた深海魚がマックスの背中に横たわっているような図だったからだ。



 でも、そのガブリトカゲを見た周囲の人達は大きくざわめいた。



 ここは食の都。

 ならば来る人はそれに相応しい知識を持つ者ばかり。


 その彼等が、マックスの取り出したトカゲっぽいのを見て驚いたのである。



「本物のガブリトカゲ。しかもこの大きさ! こんなの滅多に市場にも出回らんぞ」

「あのサイズ、一年に一度入るかわからんシロモノだな。さすがグルノーブル。こんなものまでお目にかかれるとは」

「若いの! それを私に、私に一万で売ってくれ!」

「バカを言うな! それなら私は三万出すぞ!」



 どうやらとんでもなく貴重な一品らしい。一瞬にして周囲に人垣が出来てしまった。



「ふふっ。どうですこのざわめきよう。先日幸運にもとれたというので譲ってもらった価値は十分にあります!」



 ぱぱーんとマックスはそれを高々とかかげた。


 すると周囲からおおー。と謎の歓声があがる。



 でも、これだけ目と舌が肥えているだろう人達がすげぇと言うのだから、期待は持てる。



「なら、それで行ってきてもらおうか」


「おまかせあれ!」



 街の人達の反応に気をよくしたマックスはどんと胸を叩き、そのグルノーブル卿に面会するため、ダッシュでその人の屋敷へむかうのだった。



「拙者が許可をいただいてきますので、ツカサ殿達は神殿近くの食堂でゆっくりお待ちくだされー!」



 そう言葉を言い残し。



「行っちゃった」

 背中にでかいトカゲを背負ったマックスを見送り、リオがやれやれと肩をすくめた。


 わざわざ追っても仕方がないので、ひとまずマックスの言葉どおり、神殿近くの食堂へ向かうことにする。




 んで……




「ダメでしたーっ!」



 そこはグルノーブルの女神ルヴィア神殿にほど近いうえこの近隣でもっとも大きな食堂。

 三階建てで、一階から上まで全てが吹き抜けに作られており、真ん中にはステージまでもある大きな楼閣だ。


 その食堂の片隅で、マックスはテーブルに突っ伏し涙に明け暮れていた。


 アレだけ自信満々だと、逆に失敗するような気もしないでもなかったが、美食家さんサイドの方が格が違ったようだ。



 マックスが持っていったあのサイズのガブリトカゲは、その美食家。グルノーブル卿にしてみればまったく珍しくもないシロモノだったらしい。

 むしろ二メートルを超えたものをもってこいと、取り次ぐどころか門前払いをくらったのである。


 まさかの展開に、自信満々だったマックスはこうして泣き崩れるほどのショックだったというわけだ。



 どうでもいいけど、トカゲを背負って泣くその姿はちょっと不気味である。



「あれだけ自信満々でこの結果とか、なっさけねぇな」

「うるさい! 拙者とてこんなことになるとは思わなかったわい!」


 リオの軽口に、マックスがちょっとマジになって答えを返す。どうやらそれほど余裕もないようだ。

 とはいえ、街の人があれだけ騒いで、一年に一度市場に出るかどうかなんて言われたものが門前払いをくらうだなんて誰が思う。


 俺だってあれならやってくれると思ったからこそ行かせたんだから。



「よしよし。しかたがないさ。マックスはよくやったよ。ちょっと相手の方が想定外すぎたんだ」

「えへへー」


 頭をよしよしとなでて慰めてやったらすぐ機嫌がなおってくれた。

 リーゼントの頭だから、もさもさって音がしてあんまり頭をなでるって気はしないけど、それでも立ち直ってくれたのならそれでいいだろう。



「ダメダメ! 失敗したのに甘やかしてちゃ癖になるよツカサ!」

 なぜか頬を膨らませたリオに怒られた。



 なぜだ。



「ふふん」

「なんでそんなにふんぞり返るんだよお前も!」

 そしてなぜか自慢げにふんぞり返ったマックスも怒られた。



 なにしてんだ。



「ともかく、まさか拙者渾身のガブリトカゲが失敗するとは思いもよりませんでした……」

 はあ。とマックスがため息をつく。


 相手はかなり手ごわい美食家のようだ。



「これより希少となりますと、もうドラゴンの肉くらいしか拙者には思いもつきません」


「んなもん食べたことあるヤツのがすくねーよ」


 そりゃそうだ。

 しかし、困ったな。



『それで、どーすんだ?』

 オーマが今後のことを聞いてきた。



「こうなったらおいらがソウラ持ってそこに忍びこんでこようか?」


『いえ。太陽の石から私へ力を譲渡するさいに大きな光が出ますから、例え昼でもすぐ見つかってしまうでしょう。一瞬で終わるものでもありませんし、見つかって引き剥がされる方が早いかと……』

 リオの提案に、肝心のソウラがノーを突きつけた。


 さらに、『それを行っている間は私もリオも動けませんし』と付け加える。



「それじゃなおのこと許可を貰っておかないとならないな。マックス、その人の部下とかに心当たりはないの?」



「申し訳ございません。拙者もそこまで心当たりは……」


 ダメか。



「我々は権威、権力に縛られず迅速に動けるのが強みですが、こういう場合弱いですな……」

 申し訳ないと、マックスがため息をついた。


 確かに、王様の勅命とかあれば問答無用でその石のところへ行けるだろうけど、そういうことする前に王都を飛び出してきちゃったからなぁ。

 ダークポイントへの侵入許可は前に貰っているからさっさと行っちゃえばいいやなんて考えてた俺が甘かった。



「今から王の許可をとるとなると、また膨大な書類や謁見に時間を割かねばならなくなりますし……」


 マックスが頭を抱えている。



『相手は食にしか興味のない人間みてぇだから、サムライが来てやったなんて言ってもまったく心は動かされないだろうしなぁ』

「世界のピンチだってのにのんきに屋敷にこもってんだからお察しだろ」


 オーマの言葉に、リオがまったくと頬を膨らます。



 マックスもリオも得意分野が違いすぎていいアイディアが出てこないようだ。

 かくいう俺も、ただの高校生。料理なんて家庭科かグルメ漫画を読むくらいしか接点はなかった。



 どうしようかと頭をひねると、マックスの背中でゆらゆら揺れるガブリトカゲが目に入った。



「あ、そうだ」

「なにか良い考えでもおありですか!」


 俺の言葉にマックスが飛び起きた。



「いや、考えてばかりじゃどうしようもないから、まずは食事にしようと思って。マックス、背中のそれ、せっかくだからみんなで食べよう」


「そうですね。このまま腐らせてしまうよりはマシでしょうから。ですが、これ一匹を三人で食べるには少々というか、とても食べきれませんよ」


 このガブリトカゲ、サイズは一メートル半を軽々と超える。

 そんなサイズ丸焼きにしても三人じゃ到底食べきれないサイズだ。


 それは、俺もわかってる。



「俺達だけで食べる必要はないさ。食べる人間なら、ここに大勢いいるだろ?」



 俺は、この巨大な楼閣で食事をする客達を指差した。

 彼等は全員俺達より食に関して知識があるはずだ。


 その彼等に珍しいガブリトカゲを振る舞い、その見返りとして目を引きそうな食材の情報や、もしくは今日面会に行くって人がいればついていけるよう頼むのだ。



 俺達じゃ考えつかなくても、コレだけの人数がいれば一人くらいはいいアイディアを出してくれるかもしれない。



 三人どころかたくさんよれば文殊の知恵も超えられるってもんだよ!



「おお、それは確かに!」

「面会する人を探してもらうってのもいい考えだな!」


 二人とも俺の考えに賛同してくれたようだ。



 なので早速マックス背中のガブリトカゲを厨房に運んでもらい、店にいる人達全員に振舞ってもらうよう頼んでもらった。



「皆のもの、少し聞いて欲しい!」


 マックスが中央のステージに立ち、ガブリトカゲの肉を驕ると表明すると楼閣の中は大きく湧き上がった。

 この街に住んでいても、そのガブリトカゲってのはかなり珍しく美味しいものらしい。


 だが、かわりにグルノーブル卿に面会するための知恵を貸してくれと言ったら、全員が少し顔をしかめた。


 どうやらこの街の人達でもその人に面会するのはかなりの難易度のようだ……



「ええい、ガブリトカゲを食える機会なんて滅多にねぇ! ちゃんと知恵は出させてもらうぜ!」


「俺もだ! ドナロワの実はどうだ!」

「そいつはもう食ったと追い返されたよ。俺がな!」


「ならケイシスの皮は!」

「無理だ!」


「アレは!」

「コレは!?」


 ガブリトカゲに誘われて、一気にアイディアが湧き上がってきた。



「そういや妖精の蜂蜜は?」

 リオが思い出したようにつぶやいた。



「残念だったな坊主。あの方はそれのとりたてのヤツさえ味わったことがある」



「マジかよ……」

 近くに座って酒を飲んでいたおっさんに言われ、がっくり肩を落とした。



 色々出ているが、どれもこれもすでに献上され食べたことがあるものばかりらしい。



 コレを聞いていると、本当にあとはドラゴンの肉くらいしかないんじゃないかと思ってしまうほどだ。



 つっても、俺の聞いたことのない珍味ばかりでなにを言ってるのかさっぱりなんだけど。


 みんなが当然のように料理名や材料名を挙げているが、ほとんどの名前が俺にはさっぱりわからなかった。




 この世界にも、元の世界と同じ食べ物もたくさんある。

 でも、まったくないモノもたくさんある。



 元の世界と同じ食べ物は、パンやパスタだ。小麦粉を使った系はほぼ同じだろう。メインとなる肉も、鶏にブタに牛とこのおなじみの顔ぶれに変化はない。

 これらの場合、調理法にも大きな変化はなく、スープに入れたりステーキにしたりと、馴染み深い姿を見ることができた。

 味付けが元の世界とちょっと違うというのが難点だが、それは元の世界で別の国に行けば当然のように味わう結果なのでしかたがないことだろう。


 対して、まったくないモノの場合は色々ぶっ飛んでいるものが多い。


 例えば、今回マックスが持ってきたガブリトカゲなんてのは元の地球には……絶対いないとは断言できないかもしれないけど、まずいないと俺は思っている。

 だって、こんなに俺の常識とかけ離れた食材は元の世界じゃ考えられないからだ。


 このトカゲの肉、焼くと食感はやわらかくジューシーな鳥のモモ肉のようになり、煮ると口の中でとろけるような牛肉のような滑らかさに変わるのだから。

 しかもどちらも味が違う。どちらもしっかりと肉! というボリューミーな味でありながら、鳥とも牛ともブタとも違う独特な味がするのだ。

 さらにその尻尾の味はうなぎのようで、蒲焼にすると絶品なのだから不思議なものである。


 さすが魔法のある世界。と食べてみて感心するが、これを食べ飽きているとつっぱねるんだから、あの美食家をうねらせるってのはかなり難しい問題なのだろう。



 せっかくだから、この世界にしかない料理をもう少し紹介しておこう。

 みんながあれはこれはと面会のアイディアを出している裏で、俺はそれを注文した。



 出てきたそれ。

 この世界に来てそれを見て、とっても驚いた一品だ。



 その名も、スライムパスタ!



 スライム。

 それは魔法で作られた生物とも言われ、とろみのある体にぬめぬめした表面を持っているよくわからない生き物だ。

 じめじめした場所なんかを好み、洞窟や人工の地下通路などに潜み、旅人に襲い掛かって包みこんで溶かして食べるっていうかなり凶悪な生物らしい。

 俺はこの世界に来てからであったことはないけど、剣で切り倒したりするのも大変だから厄介だってマックスが言ってたのを覚えてる。



 そのスライムを模したソースがかけられたパスタ。

 それがスライムパスタだ。


 スライムと名がついているけど、本物のモンスターのスライムがかけてあるわけでもなく、スライムみたいなとろみをもったあんがかけてあるからスライムパスタなのだという。

 わかりやすく例えると、中華あんかけをかけたスパゲティと言えばわかりやすいだろうか。


 ただし、あんの色はスライムっぽく原色系の青だけど。カキ氷のブルーハワイの色を思い浮かべるとわかりやすい。

 見事な青に鶉の卵っぽいものが目玉のかわりに乗っていたりしてなかなかスライムなパスタなのだ。


 色に一瞬ぎょっとしたけど、食べてみるとけっこう美味しかった。



 次いで紹介するのはフルーツ。

 こっちもりんごとか元の世界と同じものが多く、不自由は少なかったけど、見たこともないようなフルーツもあった。


 見た目はまるでウニや栗をつつむいがぐりのようなトゲトゲしい姿をしているそれ。

 素手で握ったら間違いなく血まみれになるフルーツがある。


 フルーツだから、それはもちろん木になっている。中に栗のようなものが入っているのかというとそうではなく、とげを落としてナイフなどで切ってみると、中にはりんごのような果肉と種が詰まっているのである。


 食べ方は危なくないようとげを落とし、真っ二つにしてスプーンで食べるのが一般的なのだそうな。

 種は真ん中に集まっていてメロンみたいな感じになっているので、それを食べるのも食べないのもお好みで。


 ちなみに果肉はメロンと同じ緑。黒々とした外見からは想像も出来ない中身の色だ。



 これ以外にも、ナイフをはじくほどの弾力を持つ実をもつフルーツとかもある。

 かつてナイフが飛んできたこともあるけど、あの時もこいつを切るのに失敗してナイフが飛んできたんだろうなぁ。



 とまあ、このように俺の知っている食べ物もあるけど、知らない食べ物も圧倒的に多い。



 そんな低知識の俺が、中央のステージで喧々囂々と面会会議をしている人達の会話にはいっていけるわけがない。

 ただお腹が減ったから食事を堪能していたわけじゃあなく、そう、いわば邪魔をしないでいたわけなのだ!



 ……とはいえ、ずっと黙っているのも気分が悪い。



 リオみたいにハチミツはどうかとか一つくらい提案すれば、俺の気も晴れるだろう。

 だが、ハチミツに関してはリオに潰されてしまった。


 ドラゴンの肉といまさら口にしてもどうやって手に入れるんだとなってしまう……



 ふむ。と俺は改めてなにかないかと考えてみた。


 珍しい。珍しくて美味しい食べ物……



 ここで女神様の助力が得られるなら、元の世界からいくらでも珍しい食べ物を持ってこれるんだけどな。

 こういう場合カップ麺とか鉄板だよな。あと駄菓子とか。


 だが、女神様不在の今、その安易な作戦は使えない。



 元の世界のモノが使えるとすれば、俺が持ってきた物だけだけど……



 なにか食べ物あったかな。

 と俺はカバンの中をあさってみた。


「……あ」


 そういえば。とカバンの中に入っていたその小瓶をみつけ、その存在を思い出した。

 確かにここに来たばかりのころにはお世話になったけど、リオと出会ってからは使う理由がなくなったシロモノだ。



「なあ、マックス!」


「なんでしょうかツカサ殿!」



 食堂の中央で意見をまとめていたマックスに声をかける。

 いつの間にかステージには黒板のような板が運びこまれ、いろんなものにバツ印が書かれていた。


 多分品名なんだろうが、この世界の文字なので俺にはさっぱり読めない。



 それはさておき。



「その土産って、食べ物じゃなくちゃダメなのか?」


「と、もうしますと?」


 場で論議していた全員の視線が俺に集まる。

 うう、ちょっと恥ずかしいぜ。


 だが、俺は意を決し、マックスのところへとそれを持って歩いていった。

 俺も一つくらいは意見言っとかないといけないからな!



「香辛料じゃ、ダメかな?」



 俺は、カバンの中に入っていたコショウを持ち上げ、場に居た全員に見せた。

 カバンの中には塩も入っていたけど、塩はこの世界でもよく使われる調味料。それに対し、コショウは元の地球では金と同じ価値があったとされる時代まであったほどのモノだ。


 たとえバツがつくとしても、これなら笑われたりすることはないだろう。



 ……と、思ったんだけど。



「……」

「……」


 しーん……



 場が、固まった。


 なんの反応も帰ってこなかった。



 全員が全員、なに言ってんだこいつと言うような目で俺を見ている。

 ありえねーだろ。空気読めよと目が言ってる気がした。


 あ、やばい。失敗したか?


 いくら価値があるといってもしょせんは高価というだけ。グルメな人間ならコショウくらい当然仕入れているだろう。



 そんな基本的なことも気づかず口にしてしまうなんて、俺はなんて間抜けなんだ……!



 言うんじゃなかった。そう後悔しかけたその瞬間。



「コッ、ココココッ!?」

「コショウだってー!?」


「バカな! 今それをどうやって! 信じられん!」


「幻のコショウ!? う、嘘つけぇ!」


「こ、この輝き。外から見ても見事なコショウだ! 本物だ。本物だぞー!」

「これが、伝説の!? もう失われたんじゃなかったのか!?」


「本物だよ。本物だよ。本物だこれー!」


「バカな。生産地は全て海の底に沈んだと聞いたぞ。それを、一体どうして!?」

「もう幻と化したばかりだと思ったのに、また目に出来ようとは……!」



 全員が俺の周囲に集まり、拝むようにコショウの入ったこの小さなビンを見つめる。

 それはもう、地獄で仏にあったかのような光景だった。



 え? え?


 俺は困惑するしかない。

 街に入ってきた時マックスがガブリトカゲを見せた時の比なんかじゃない。


 もっとすげぇ反応が一テンポ遅れて返ってきた。


 どうやらみんな、あまりの驚きで一瞬完全に固まってしまったらしい。

 その唖然とした表情が、俺にはああ見えたというわけだ。


 それくらい、コショウの出現は衝撃的だったようだ。



「そんなに、貴重なの?」



「貴重なんてモノではありませんぞツカサ殿! コショウの生産地は十年前ダークシップによりほぼ全てが海の底に沈みました。結果、ただでさえ貴重だったそれが供給もされなくなり、値は高騰どころか金では買えないレベルに。貴族達の間では一時戦争さえおきそうになったシロモノですぞ!」


「お、おう」


 マックスの慌てた説明を聞き、その迫ってくるリーゼントに思わずあとずさってしまった。



「そうして取り合いを続けた結果、十年たった今はもうコショウは幻の存在となり、その一粒だけで一つの領地がもらえるほどの存在となっているのです。そんなものを、そんなモノをなぜ!」


「え? いや、こっち来る時持ってきただけなんだけど……」


「なんとっ、少量ながら保存していたということですか! さすが、ツカサ殿!」



 いや、そこでさすがは関係ないんじゃないかな?

 全然関係ないと俺は思うよ。



 ともかく、米と同じく生産地が潰され、供給元から入ってこなくなればそりゃコショウも希少どころか幻の存在になるってワケだな。


 いやはや。こっちの中世、ウチの中世よりさらに厳しいコショウ事情になってたよ。

 こいつは流石に驚くって。



「てことは、こいつなら面会も許可されるかな?」


「もちろんにございます! 拙者のガブリトカゲなど虚空の彼方にかすむほどのシロモノ。面会どころか即座に王が顔を見せに来るほどの一品にございますぞ!」


 おぉう。そんなスゲェもんなのかい。

 リオと合流して飯が安定するまで何度か塩とコショウで焼き魚とか食べてたよ。


 まあ、その時使った分は一度帰ったからリセットされてるけどさ。



「なら、早速行くしかないな!」

「はい! 早速参りましょう!」



 俺達はコショウに目をギラギラさせた客達にガブリトカゲをご馳走し、店を出た。

 下手に残っているとコショウ目当てで襲われかねないから。




────




「おい、どうする?」

「どうするって、なにをだよ?」


「コショウだよコショウ! あの小僧からアレを奪えば、俺達大金持ちどころか……!」

 男はバラ色の未来を夢見、ぐへへと笑った。


「はぁ……」

 だが、バカな未来を夢見た男に、持ちかけられた男はため息をついた。



「やめとけ。腰の刀にあの帽子の小僧の背負ってた剣を見なかったのか?」


「? どういうことだ?」



「お前、本当にバカだな。あれはサムライと聖剣を引き抜いた勇者様御一行だよ! 俺達が何人集まったところで勝てるわけねぇだろ!」



 ざわっ!



 その男の言葉が広がった瞬間、熱を持った場が一瞬にして冷えたのがわかった。

 誰もがコショウという存在を聞き、心の中に悪魔が現れ奪えと囁きかけていたが、その事実を聞いた瞬間心の悪魔が裸足で逃げ出して行ったからだ。


 逃げるのも当然である。

 そして、コショウなどというトンでもないシロモノを持っていて当然だと納得した。



 世を救った英雄にして、これから世界を救う英雄の一行。



 それをコショウ目当てに襲撃しようなど、ただの自殺志願者でしかない。

 いくら食に命をかけたものでも、命を失うことが確定していることに挑戦するのは賭けですらない。


 得られる報酬は返り討ち。それ以外にないのだから……!



 冷静に戻った男達は、大人しく席に戻った。

 そして、席に運ばれたガブリトカゲの料理を口にする。



「……うめぇな。これ」

「ああ。すげぇうめえ」


「サムライに、感謝しねぇとな」

「ありがとうございましただな」


 ガブリトカゲの料理も、納得してうなずくほど美味かった。


 むしろこれで満足しないグルノーブル卿にうらみの視線をむけるしか彼等には出来なかった……




──マックス──




 ツカサ殿がまさかの一品を持っておられた。


 拙者のガブリトカゲなど足元にもおよばない、幻となった香辛料コショウをお持ちだとは。

 しかもなんのためらいもなくそれを持ち出すのだから、ツカサ殿の欲の少なさが出ておられる。


 しかし、その執着の少なさが逆に我等を心配させる。


 今回もいきなり西の地へむかおうとなされた。


 ダークカイザーとの戦いでサムライの力の源、『シリョク』を全て失ったというのに、それでも。

 それはすなわち、自らの命を捨ててでも一刻も早く人々を救くわんとするために他ならない。



 ツカサ殿。拙者は心配にござる。

 あなたはご自分の命など世界のために、人々のために捨ててもよいと考えているかもしれません。が、そんなことはありませんからね! それでいいわけありませんからね!!


 ですからリオは、ツカサ殿のお命を使わせないために聖剣ソウラキャリバーの力を取り戻そうとしております。

 拙者も、ツカサ殿の力になれるよう日々精進しております!



 今回も、拙者達を信じてくださるからこそ、共にこの地まで歩み、コショウを出してくれたと信じております。



 ですので、今回の邪壊王討伐にツカサ殿の出番はございません!

 拙者の『サムライソウル』とリオの聖剣ソウラキャリバーによって、なにがなんでも世界を救ってみせますから!


 それは、世の人々のためだけではござません。

 ツカサ殿の命も守りたいからです!



 拙者はそう誓いながら、グルノーブル卿の屋敷へと足を進めた。

 なぜだか知らぬが、この地の神殿を管理する者だというのに、その神殿と屋敷の距離は大きく離れている。


 最初ツカサ殿達に神殿近くで待つようお願いしたのも、この距離を歩く手を煩わせないようにするためだ。


 結局、全員でまた来ることになったが……



 先ほど門前払いされた門の前に立ち、ツカサ殿の持つコショウを材料に面会の約束を果たしてみせる!


 拙者は一度振り向き、ツカサ殿を見てうなずいた。

 ツカサ殿もうなずき返し、拙者が再び門番に話をつけようとした、その時だった……!



 太陽の光が突然かげった。

 驚き、空を見ると青空が突然色を失った。


 日の光も完全に消え、灰色の空が広がる。



「これは……!」



 拙者達は、この現象を少し前に見た!



『まさか……!』

 リオに背負われたソウラが声をあげた。



 空に黒い人型のシルエットが生まれ、その巨大な影の手は、太陽の石がある尖塔へとむけられた。



『オーム!』



 直後、邪壊王の影から声が響き、黒い雷が尖塔を直撃する。



 それは、一瞬の出来事だった。


 尖塔に雷が落ちた瞬間、まばゆい光がそこにあふれた。


 小さな太陽。

 そう表現するのに相応しい光が瞬き、拙者達の目は一瞬焼かれることとなった。



 圧倒的な光量が消えうせ、再び目を開けば、空には色が戻り、現れた黒いシルエットは消えていた。


 瞬いた強い光が、現れたあの影さえ吹き飛ばしたのである。



 街は、まるでなにもなかったかのような状況に戻っていた。

 先ほどの光景はまるで夢だったかのようだ。


『……やられました』


 だが、ソウラが悔しそうにつぶやいている。



『太陽の石が蓄えた天の光をすべて放出させられました。これでまた二百年は光を集めなおさなければなりません……!』


「なんだって!?」


 リオもあの光景が信じられなかったように、ソウラの言葉に驚いた。

 だが、ソウラが嘘をつく理由がない。事実なのだろう……!



『うかつでした。闘技場でヤツが暴れなかったことを不審に思えたのならば、あちらも私の放った光が完璧でないことに気づいても不思議ではない! 気づいて光の力が集まる太陽の石を狙い先手を打ってくる可能性があることに気づかないなんて……!』


 ソウラ殿が悔しそうに声をあげた。

 あの時、相手が贄を求めた理由がソウラ殿に理解できたように、邪壊王にもソウラ殿のパワー不足がばれていたということか!


 そして、同じ力を集める太陽の石を狙った。



「なんてことだ! もっと早くここに到着していれば!」


 いや、拙者がもったいぶらず、ツカサ殿にきちんとお話していればこんなことには……!



『いえ、言ったとおり、太陽の石からの力の譲渡は時間がかかりますし動けなくなりますから、急いでここにきていたとしても、その途中で石の力を拡散されていたでしょう。むしろその余波で私の力も拡散されていたかもしれませんから、それよりはマシだと考えましょう!』


 もっとも悔やんでいるであろうソウラ殿にフォローされてしまった。


 そうかもしれないが、近くにいれば拙者が盾になりそれも守れたかもしれないと考えると余計に後悔がつのる。



「ど、どうすんだよ! このままソウラの力が戻らなかったら……!」



 リオも拙者と同じように焦っている。

 当然だ。


 ソウラ殿がフルパワーを取り戻せないとなると、ツカサ殿が一人でどうにかしようと考える可能性が大きくなってしまう。



 それは困る。一番困る事態だ。


 それで世界が救われても意味がないのだ!



『手がないわけではありません』



「ホ、ホントか!」

「本当にござるか!?」



『ただ、実現は不可能に近い方法です。いえ、不可能と断言した方が早いかもしれません』


「不可能かどうかは拙者達が決めます! その方法とは!?」

「そうだぜ。どんな方法だっておいら達が可能にしてみせるからよ!」


 拙者とリオが、不可能と決め付けたソウラにつかみかかった。

 不可能では困るのだ。



 今回の邪壊王の行動から、それだけ聖剣の力を警戒しているのがわかる。


 ならば、その力が復活しなければ……



 聖剣の力がないとわかれば、ツカサ殿はお一人で……!



『わかってるわ。聞いて、絶望しないでくださいね。私の刀身に宿る破邪の光は、ドラゴンの炎の輝きに同じ。すなわち、天に輝くあの炎と同じ力を放てる存在。ハイエンシェントドラゴン。その唯一の生き残りである黄金竜。五百年前、私と共に戦ったかのドラゴンの炎があれば、私の力をフルパワーにすることが可能なはずです!』


「それは、ドラゴンの力を借りればということにござるな?」


『ええ。そういうことです。ドラゴンに助力を願うなど、その言葉を理解し会話が出来ねば不可能。かつて共に戦った竜の言葉を理解する者が居ない限り!』



 拙者とリオは、ソウラ殿の言葉に顔を見合わせた。

 そして、にんまりと笑いあう。



「ふふっ。確かにドラゴンの言葉を理解できる者がいなければ不可能にござるな。しかし……!」

「そう、しかしだ! ドラゴンの言葉、ツカサなら話せるんだぜ! だから、その方法だって不可能なんかじゃない!」



『なっ、なんですってー!?』


 ソウラ殿が飛び上がらんばかりに驚いた。



『世界を救うほど強くて、敵の謀略に気づくほど頭の回転が速くてその上ドラゴンとも話せるとか並の勇者十人分のスペックがあるじゃないですかあの人! なんなの。一体なんなんですあの人!』


 さすがの聖剣殿もうろたえるほどの事実でござったか。


 その視線が、ツカサ殿の方へ移動したことを感じる。

 拙者達もその視線を追い、ツカサ殿を見た。



「あれが、邪壊王……」


 ツカサ殿は空を見上げながら、そんなことをつぶやいていた。

 あの日、王都に邪壊王の影がはじめて現れた時、ツカサ殿は数万人の命を救うためその地下に居た。ゆえにツカサ殿は邪壊王の影を見ていない。今回が初見のはずだ。


 そのせいか、ツカサ殿は敵を見据えるように、空を見上げていた……



「ふふっ。驚きもうしたか。そう。それがツカサ殿にござる!」

「そうだそうだ!」


 拙者とリオは得意げに胸を張った。



『いや、君達二人がなんでそんなに得意げなのよ』



 ソウラ殿に呆れられてしまった。



 しかし、これならばソウラ殿の力を取り戻すことも不可能ではない!



『なら、いけるかもしれないわ! 流石の邪壊王もこの方法は阻止するのも難しい』


「「はい!」」


 こうして一度は潰えたと思えた聖剣ソウラキャリバー復活の道に、新たな光が差しこんだのだった!




 おしまい

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