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サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第1部 伝説のサムライ編
15/88

第15話 マックスのサムライ道


──マックス──




 拙者の名はマックス。マックス・マック・マクスウェルともうす。今ちまたで話題の伝説の再来。サムライのツカサ殿の一番弟子(予定)の剣士でござる!


 十年追い求めたサムライ殿に弟子入りを願ったが、自身の力不足を痛感し、ただいま弟子入りを目指し目下修行中であるのだが……



「……さすがに、ずっとあえないのは寂しいでござる」



 現在師匠となるツカサ殿とわけあって離れ離れとなっており、先生の雄姿を見られない寂しさから拙者の雄雄しいリーゼントもしんなりとしているような錯覚におちいってしまうほどにござった。


 しかしツカサ殿を見つけられねば弟子となることさえかなわぬ夢と化す! 拙者はこの試練を見事耐え抜き、もう一度弟子入りを願うためツカサ殿を追って追って追っているのでござる。



 サイドバリィから大街道へと戻る山間を通る街道。サイドバリィを出て得た情報では、ツカサ殿はこの道を移動しているとのことだった。



 拙者はその山間にある名もついていないような小さな村へと足を踏み入れた。


 ここは林業を生業とする村にござる。山中の通りには切り出された丸太が多く積まれ置かれているのを目にした。あれらはサイドバリィ方面へと出荷を待つ物だろう。


 村の入り口を現す門をくぐる。林業が主流という村だけあって、村の建物は女神ルヴィアを祭る教会を除いてほぼすべてが木製であった(倉庫などは違うが)



 のどかな村のように見えるが、その村は今、悲しみにくれているように見えた。



 家の門戸は閉まり、中からはすすり泣くような声が聞こえてくる。

 村全体に重苦しい空気が漂い、重く重く沈んでいるように感じられる。


 村で尊敬されたものが亡くなったのだろうか? 村全体が喪に服しているようにも見えた。


 しかし、それは拙者の想像であり、確かなことではない。かといって外を歩いている者もいないので、詳しい事情は聞けそうになかった。


 村そのものはそれほど大きな村ではない。人口は五十人にも満たないだろう。だが、幸いにも大街道に近いので、この村のほぼ中心の位置に宿が存在していた。



 ここならば村のこの状態の詳しいことも聞けるし、ツカサ殿のことも聞けると思い、拙者はそこへと足を向けた。



 きい。と床板を鳴らし宿へと入る。宿の一階は食堂兼酒場になっていて、普段は村の者達が集まり、にぎやかな喧騒に包まれているだろうということが想像できた。今は、宿の中に客はほとんどおらず、閑散としてどこか重苦しい空気がこの中にも漂っているように感じられた。


 唯一いる二人の村人が、鎮痛そうな面持ちで酒を飲み交わしているのがさらにその空気を強くしているように思える。


 こんな姿を見せられては、こちらまで気分が重くなってくる。



 そうして拙者まで気持ちがおちこみそうになった時、店の奥からぱたぱたとした足音が響いてきた。同時に。



「いらっしゃいませー!」



 この場に似つかわしくない明るい声が響いてきた。


 暗く沈んだこの村の中で、突然明るい光がさしこんだかのようだ。その明るさを例えるならばあの日見たツカサ殿の一撃のようであり、その一撃はツカサ殿にとってなんでもない一撃であったあの一撃を見た時のようでござった。


 つまり、この声の主も、重苦しい中あえてそう勤めているのでなく、いつも通りの笑顔を周囲に見せているという意味でもある。



 そこに姿を現したのは、少女だった。



 普段着に宿のエプロンをして、ブラウンの長い髪をまとめて三角巾でそれを覆っている。年のころは敬愛する拙者の師匠、ツカサ殿と同じか、もしくはあのおまけの男装少女、リオと同じくらいかもしれない。


 目鼻立ちが整っており、実に愛くるしい顔をしている。格好からいって、この宿の看板娘といったところだろう。


「お泊りですか? お食事ですか?」


 元気ではきはきとした言葉と共に、彼女は拙者へ笑顔を向けてきた。



「その前に、一ついいか?」


「はい!」


 拙者の制止に彼女はとても嬉しそうに答えを返した。話をしているとこちらまで元気になってしまうような姿だ。なんとも愛くるしい。



「質問なんだが、この村にツカサという御方は来られなかったか? 帽子を被った少年と二人で旅をしていると思うのだが」



 特徴らしい特徴といえば他に喋る刀。インテリジェンスソードをもつということだが、それは新たな情報が必要な時に出すとしよう。



「ツカサさんですか? ここしばらくこの村に来た旅人はお客様だけですから、来られていないと思います」


 サイドバリィ武闘大会の祭りがはじまる前ならば大勢の旅人が通ったとのことだが、大会中。そして終わって間もない今ではその帰り客もこの村を通っていないようだった。



 それは当然だろう。ツカサ殿も拙者も、祭りの後夜祭がはじまる前にあの街を飛び出してきたのだから。



「そうか」

 拙者は残念と頭を下げた。


 どうやらここにもツカサ殿はおられぬようだ。


 この街道を通り大街道を目指しているのは間違いない──この街道入り口の茶店で食事してここに入ったという目撃情報があった──ので、そろそろ追いついてもいいはずなのだが。



 しかし、行けども行けども姿が見えない。一体なぜだ。なぜにござる!



 ぐぬぬと拳を握り悔しがっていると、そんな拙者をじっと見つめる少女の視線に気づいた。


 どうしたのだろうと拙者を見て首をひねっている。



 そういえば、泊まるか食事かを聞かれていた途中だったな。



「おっと、すまぬでござる。ひとまず食事を頼もうか。この宿のおすすめの料理を一つと飲み物を頼む」


「はい! 席はお好きなところへどうぞ!」


 拙者の答えにまさに花が咲いたと言えるような笑顔を浮かべ、少女は厨房の方へ走っていった。


「おとーさーん。ちゅうもんー」

 こんなに元気な娘がいるのだから、この宿は安泰だな。などとパタパタ走る少女を横目に見ながら、テーブルにつこうと歩き出す。



「明日にも生贄として捧げられるって運命だってのに、あんな笑顔で。タニアは本当に健気だよ……」

「あぁ。それなのに、そんな彼女になにもしてやれねぇ自分達が不甲斐なくて泣きたくならぁな」



 スミで飲んでいた二人が、厨房へ去ってゆく少女──タニアというらしい──を見ながら言った言葉を拙者は聞き逃さなかった。


「お二方、よろしいか?」


「な、なんだい? サムライの格好をしたにいちゃん」


 拙者が近づくと、二人はどこか怯えたように拙者を見た。


 拙者の姿を見ても拙者が誰かわからないらしい。っと、そもそもまだサイドバリィ武闘大会の結果はこの地まで伝わってはいない。ならば拙者がそこで優勝したなどと伝わっているはずもなかったな。


 自意識過剰であったことを恥ずかしく思う。



 それはともかく。



「質問が。この村では今、なにか問題が起きているのではありませんか?」



「ああ。起きているさ。本当に困ったコトがな……」


「まったくだよ。アンタが本物のサムライならワシ等大歓迎なんじゃがなあ」



 二人は拙者の姿を見てため息をついた。どうやら拙者を見ても今巷で噂のサムライだとは思わないらしい。それはツカサ殿の姿が売れてきたという証かもしれないし、拙者がそもそもサムライにまったく見えないという可能性もある。深く考えると拙者もこの村の空気のように沈むと思ったので考えるのをやめた。


 拙者が今何者と思われるかは関係ない。ただ、彼等の態度から一つ不安な要素が生まれた。



 ゆえに拙者は、確信を得るべく質問を続ける。



「それは、人の命にかかわるほどのことですか?」


「ああ」

「その通りさ」


 二人の村人は酒を一気にあおりながら拙者の質問に答えた。



 この肯定で、拙者は大きなショックを受けた。



 な、なんということだ。


 この村では今、村人達の心をここまで深く重く沈めるほどの問題が起きている。


 ツカサ殿がこの村に来ていたとすれば、この問題はすでに解決しているはず。



 なのに、まだ問題が解決していない。



 宿で見られていないというのは、宿をスルーした可能性があった。しかし、これは違う。ツカサ殿ならば、このような問題間違いなく解決してゆくはずだ。例え人知れず去っていくとしても、問題そのものはなくなっているはず。



 だというのに、この村の問題はまだ解決していない。ここから導き出される答えは……




 ……拙者、ひょっとしてツカサ殿を追いこした……!?




 衝撃の事実でござった。ものすごいショックが拙者の体の中を駆け抜けるほどに。



 必死に追いかけていたと思ったら追い抜いていたとはいつの間にでござる!



 すぐにでも戻らねば! と思い、急いで駆け出したい衝動にかられるが、そうもいかない。


 拙者は駆け出したい思いをぐっとおさえ、二人の村人がいるテーブルへどっかりと腰を下ろした。



「詳しく話を聞かせてもらおうか?」



 びっくりする二人にむかい、拙者は言い放った。


 ここまで聞いてしまったのだ。もう放ってはおけん。ここで困っている人々を放り出してツカサ殿のもとへむかうなど、あの方の弟子を目指す自分にできるようなことではなかった。



 なぜなら、拙者もまた、サムライの志『義を見てせざるは勇なきなり』を受け継ぐ者なのだから!



 話を聞けば、なんとも不思議な話だった。



 この村には、木材を得るための山が存在している。拙者がやってきたサイドバリィ側からおりてこの村に来る途中にそびえる山のことだ。


 そこには、山の守護者が住まうとされ、かのものの要求を拒めば村に災いが起きるという伝説があるそうなのだ。



 三日前の夜。拙者達が大会に参加していた頃でござるな。その頃、その山の守護者。白き獣がルヴィア教会の屋根の上に現れ、村中に響き渡る声でこう宣言した。



『我は今渇きを求めておる。この枝の当たった家にいる若い娘を一つ我が祭壇にささげよ。出なければこの村は滅ぶ。四日の時を授ける。それまでに生贄を捧げるのだ! ただし、捧げるまで災いは続く。滅びを避けたくば、早く我が言葉に従え!』



 そう言い、この宿にその枝を投げつけ姿を消したのだという。



「そして、三日前には村人のマキ置き場が燃えかける小火が起き、一昨日は馬小屋で火事が、そして昨日は村長の家の納屋が潰れてしまったんです。ここまで連続で続くと、山の神の言葉は間違いないと皆確信し、この宿の娘。タニアを祭壇に捧げることになったのです……」


 村人が沈痛な面持ちで語った。



 拙者はそうかとうなずいた。残された時間は多くはない。今日の夜、彼女はカゴに入れられその祭壇へと運ばれることになっているそうだ。ツカサ殿を探して戻っていれば、手遅れになっていたところであった。



「そうか。だから村の者達は門戸を閉ざし、悲しみに明け暮れているのだな」


「はい。我々では手も出せぬ相手です。ですから、もうどうしようもないのです……」


「ちくしょう。こんなことをしなきゃ守れない村なんて、でも、あぁ……」


 拙者に事態を教えてくれた二人はそのままテーブルに突っ伏し、泣き出してしまった。

 ここはそっとしておこう。拙者の方も確かめなければいけないことができたからな。


 拙者は二人のテーブルから席を立ち、別の席へ座った。



 残された時間も少ないし、即座に疑問に思ったことを調べに行きたかったが、先ほどタニアに料理を注文していたのを思い出したからだ。


 二人とは関係ないというような顔で席に座り、料理が運ばれてくるのを待った。


 タニアは今日の夜、生贄に出されるようなそぶりは一切見せず、拙者に料理を運んできた。


 今の事態を理解していない。というわけではない。自分を犠牲にすれば村が助かるのだから、それはよいことだと、村の皆のためになれることを喜んでいたのだ。


 そのことをさりげなく聞いた時、食堂にいた二人は彼女の言葉を耳にした瞬間泣き出してしまった。



 拙者も、この言葉を聞き、なんとしてもこの村も彼女も救いたいと考えた。



 そのためには、確かめねばならぬことがいくつもある。


 拙者はそのポイントの場所をタニアに教えてもらい、料理を口にした。


 料理はパスタのミートソースあえであった。肉は山で放し飼いもするヤギだそうだ。生臭さはなく、硬くもなかった。意外。と言っては失礼だが、味はよかった。


 その素朴な味は、彼女の父の性格も現しているようであり、拙者はさらに心を固めたのである。



 食事も終わり、一晩宿をとることに決め、チェックインした拙者は宿を飛び出した。



 村を歩き、確かめるべき場所へと向う。



 まずは、一昨日燃えたという馬小屋だ。



 村の者達は山の守護者の災いを信じているようだが、拙者から見れば怪しいと言わざるを得なかった。

 ありていに言えば、村の伝説を利用した騙りによる人攫いにしか思えなかったからだ。


 ゆえに、この数日に起きた災いを調べ、人為的なところがあるのかを調べにきたのである。


「……」



 燃えた現場を確認させてもらう。



 といっても、誰かに許可をもらったわけではないが。この家の者に話も聞きたかったが、扉をノックしても反応が返ってこなかったゆえ、拙者は勝手に調べさせてもらうことにした。


 燃えた場所を調べる。どうやら馬は逃げ出して無事のようだ。燃えカスがそのまま残り、近くにある母屋まで燃え移らなかったのが幸運だったように見えた。



 はっきりと言えば、これはやはり人の手によって行われた人為的な火災に間違いない。



 壁に油をまき、そこに火がつけられている。火のないところに火がついたのは百歩譲って山の守護者の災いだとしよう。だが、その白き獣が油をまくとは考えられない。油をまくというのは、人間の考えたというのを裏付けている。


「やはり、か」


 拙者は小さく呟き、次の現場。村長のところにある納屋を確認するため向った。



 移動中、周囲をうかがう。今のところ、村の中で拙者を注目するような視線は感じられなかった。



 村の皆が門戸を閉ざし引きこもる今この状態で、よそ者である拙者を何者かが監視しているならば、それは火事を起した者である可能性が高く、大きな手がかりを得られるかと思ったのだが、残念である。


 村長の家に行くと、崩れた納屋の近くに一人の老人がいた。杖をついた白髪の老人だ。


 彼はどこか暗い面持ちで崩れた屋根を見てため息をついている。


 村長の家の関係者。年齢的に村長かと思いつつ近づくと、拙者に気づき老人は顔を上げた。



「おや、旅人さんかね? この時期に珍しい」



 こちらを見た老人が、拙者を前にすると気丈にも笑顔を作った。


 その後の自己紹介で、この老人はやはりこの村の村長であることがわかった。この気丈さはやはり、村の長である自分が不安な顔をしているなど、他人には見せられないからなのだろう。



 この村を治める長なのだから、その行動も納得である。



 拙者も自己紹介を返し、ひとまず待ち人を待つためここに宿をとったと伝えた。


 ツカサ殿を待つのも事実であるから、これは嘘ではない。



「ところで……」


 拙者の姿を確認した村長は、もしかして。という希望を持ってその言葉を口にしようとした。しかし、拙者の姿を上から下に確認し、腰におさめられているのがロングソードであることに気づき、がっかりとしたようだった。


「……いや、なんでもないのじゃよ」



 すまないな。サムライではなくまがい物で。



 しかし、まがい物とはいえやれることはあると拙者は思っている。



「拙者、この納屋が崩れているのが気になり見に来たのだが、見せてもらってもよろしいか?」


「いえ、危ないですぞ」


 明確にダメと言われたわけではないので、拙者はそれを拒否とは受け取らず、そのまま潰れた納屋を周りから。そしてぐるりと回り、その中を見てまわった。


 村長も拙者の堂々とした行動に言葉を詰まらせ、手を伸ばしたりひっこめたりするしかできないようだ。



 木製の納屋は、見事に潰れていた。



 折れた壁の隙間から中を確認すると、どうやら柱が何本も折れ、その重さを支えきれなかった天井が落ちてしまったようである。


 じっと柱を確認すると、折れたように偽装してあるが、いくつもの柱に切れこみが入れてあったのが見てとれた。

 間違いない。これも人為的に引き起こされた、仕組まれた災いだ。



「ふむ……」


 それを確認し、潰れた納屋の全体をじっと見た。


「いかがなされましたかな?」

 納屋を見回した拙者に、村長が不安そうに声をかけてくる。


「この納屋……」

 この納屋が潰れたのは人の手によって引き起こされたものだ。と伝えようとして、拙者は言葉をとめた。



 ある可能性があることを思い出したからだ。



 それは、この村の中にこれを行った者。もしくはその協力者がいる可能性だ。


 これを人為的に引き起こした者は村の伝承を利用している。これは村の者に教えられなければならない事実だし、この村でよそ者が怪しげな行動をしていればすぐにわかるはずだ。しかし、村の者ならばそれがなくなる。


 それらのことを踏まえれば、村の中に犯人の仲間がいるのは間違いないだろう。



 それは、この村長かもしれないのだ。



 これらのことが人災だということに気づいたと犯人側に知れれば、逃げ出すかもしれないし別の強硬手段に出るとも限らない。ならば、確実に確保できるタイミングまで待つのも一つの手だ。


 ゆえに、ここでいきなり伝えるのも得策ではないと判断し、村長に伝えるのはいったん保留とすることにした。



「いや、なんでもない。なにやら不安になる噂を聞いたのでね。拙者にまで災いとやらが降りかかってはたまらんと思ったのだ」



「そうですか。聞いてしまわれましたか。ですが、明日にはそのような不安はなくなりますので、ご安心ください」


 村長は拙者の不安を打ち消すよう笑顔を浮かべた。しかしその瞳から感じる感情は悲しみであり、なくなるという言葉によって生まれたその感情は、とても演技とは思えなかった。


 この老人ならば、信頼できるだろうか?


 いや、むしろ拙者の方が信頼してもらえるだろうか? 彼はこの村をまとめる者であり、この村の伝承をよく知る者でもあるはずだ。ならば拙者の推論など聞く耳を持たず、災いのせいだとかたくなに信じているかもしれないし、そうなれば拙者は人災を疑うものだと大きく村に伝えられてしまうかもしれない。



 村に伝わる伝承を深く信じる者に、それは違うと納得してもらうのは非常に難しいと言わざるを得ない。それが、拙者のような部外者ならばなおさらだ。



 しかし、彼の信頼を得ることができれば、タニアを危険から救うこともぐっと容易になるのは間違いない。



 山の守護者。白き獣の仕業でないと信じてもらえるなら、その生贄を捧げる祭壇で待ちうけ、その騙り者を捕まえるという拙者の策を可能になるからだ。


 村長の力添えがあれば、この際タニアのかわりに拙者が入れ替わってそこにいるということさえ実現できる。


 最大の問題は、この老人がその騙り者の協力者だったという場合だ。あの悲しみの瞳に嘘はないと信じたいが、確実であるという保証もなかった。



 どうする。拙者はどうすればいい?



 拙者はこの地は不慣れであり、一人でその祭壇へ行けるかさえわからない。誰も彼もを疑っていては、間違いなく八方塞となってしまうだろう。


 くっ。こんな時ツカサ殿がいてくれれば、間違いなく正しい判断とすばらしき策を拙者に授けてくださるだろうに!



 しかしこの場にツカサ殿はいない。お知恵を借りたいがないものをねだってもしかたがない。



「……」

 拙者は覚悟を決め、口を開いた。



「……長老殿。お話があります」



「なにかね?」


「ここでは目立ちますので、どこか人に聞かれないようなところがよいのですが」


 さすがに納屋の前で長々と話していると、村の者に怪しまれると思った拙者は、村長をじっと見て、そうお願いした。


「むっ……?」

 そんな拙者を、村長はいぶかしむように見る。



 なにか怪しんでいるようだが、拙者はただ、真剣な目で彼を見つめることしかできない。



「……よかろう。すぐそこがウチじゃ。入りなさい」


「ありがとうございます」


 拙者は頭を下げ、村長の家へとうながされるまま入っていった。



 そのまま、拙者は村長の自室へ案内された。棚には木を削って作られた動物の彫刻がいくつも置かれており、これが彼の趣味なのだろうと推測ができた。


 ヤギや馬。そして見たこともない大きなヤギのような姿をした彫刻もある。これが山の守護者、白き獣なのだろうか?


 そんなことを思ったが、今はそれをたずねている場合ではないと頭から振り払い、窓から周囲を確認し、カーテンを閉めさせてもらった。


 茶はいらぬとその奥さんに告げ、聞くものがいないか廊下の気配も確かめた。


 外にある気配はない。この場にいるのは拙者と村長殿のみなのは間違いなかった。



「して、なにかな?」



「はい。突然で無礼な申し出かもしれませんが……」


 拙者は、できる限りの言葉を使い、今起きている災いは人為的になされたもので、山の守護者が起す災いではないということを訴えた。


 村長も最初はあれは山の守護者、白き獣の仕業であり、村と山を守るためには指定された生贄を捧げるしかないということをかたくなに信じ、拙者の言葉に耳を貸してくれなかった。



「タニアを祭壇に送るというのはとめません。ですが、タニアを運ぶカゴに拙者も詰めこんでくだされ! そこで本物の山の守護者が現れたというのならば拙者も諦めましょう。拙者もともに生贄となり、捧げられる所存! しかし、これが騙りならば、タニアは村のためではなくただ不幸になるだけなのです! そうなったら皆も悲しむだけではないですか!」



「……し、しかしだな……」



「わかります。災いを恐れるのは。ですが、拙者は、タニアだけに犠牲を強いるのが我慢ならないのです!」


「む、むぅ……」



 拙者の言葉が響いたのか、村長は考えるように顔をしかめた。根気よく説得を続けた結果、少しだけ心が動いてくれたようだ。


 拙者はせめて、せめてと必死に頼みこむ。



「……わかった。そこまで言うのならば認めよう。旅の人がそこまでタニアのことを。そして村のことを考えてくれたとは思わなかったよ」



「なに。当然のことでござる。なにせ拙者はサムライを目指す男子でござるからな!」


 胸をはり、どんとそれを叩いた。


 拙者のその姿を見た村長は、そこか苦笑したように笑顔を見せた。



「頼もしいな。ワシの目が狂っていなかったことを祈るよ。では、タニアのこと。村のことをお願いいたしますぞ。サムライ殿」



「ま、まかせもうされよ!」


 サムライ殿なんて言われ、少し嬉しくも、緊張してしまった。


 だが、拙者の言葉を信じてくれた村長殿の信頼、なんとしても答えてみせよう!



 必ずこの村の伝承を騙る者を捕まえ、タニアを救ってみせると、拙者は心に誓ったのであった。




────




「まったく、おかしらは人使いが荒いぜ。マクマホン領じゃ人さらいや行方不明にゃ例え辺境でも厳しいからってこんな方法とるんだもんな」


「でもよ、これならさらっても届出は出せねえし騎士団もこねえ。考えたもんだよおかしらも」


 夜の帳もおりた森の中。そこに潜む二人の男がひそひそとある場所を監視しながら話をしていた。

 一人はバンダナを頭に巻いた男と、もう一人は頭を角刈りにした髭の男だ。



 彼等が身を潜め監視しているところは、森の中にある祭壇。



 山の守護者に捧げものをするため設置された場所だ。

 普段ならば花や食べ物などが供えられる場所だが、今日は違う。


 山の守護者が望んだもの。枝の落ちた宿屋の若い娘。それが今日、捧げられる。


「でも、仕事だからってまさかこんなところで小娘をさらわなきゃならんとはな」

 バンダナの男がため息をつく。


「言うなって。依頼主様にゃ逆らえねーだろ。金払いもいいんだからよ」


「他領のお貴族様が一目ぼれして、自分とこの土地じゃねえからパパにお願いしたなんてよ。三十近い道楽モンの考えることはさっぱりわからねぇや」


「だから言うなって。こんなことおおっぴらになりゃお家おとりつぶし間違いなしのことなんだからよ。だから俺達みてえなヤツ等にお鉢がまわってきたんだろ」


「かー。終わったらおかしらに礼金大目に要求してもらわにゃワリにあわねえな」


「まったくだぜ。だが、間違いなく大金が手に入る」


「ああ。楽しみだぜ」


 二人はにたりと笑い、けたけたと笑いあった。



 村の信心につけこみ少女をさらうということに、彼等は罪悪感を欠片も感じてはいなかった。ただ少女をさらう仕事が三下のようだと、そういったプライドの問題でしかない。だがそれも、大金が入るということで消し飛び、こうも口元を緩めることができる。



「おい」


「ああ」


 バンダナの男が髭の男を肘でつついた。



 村の方からゆらゆらとたいまつの炎が揺れて近づいてくるのが見えたからだ。



 村からこの祭壇までは一本道。今日ここに来る目的があるのはなんなのか、彼等は知っている。


 光の方へと目を向けると、暗闇の中に生贄となる娘をカゴにいれ、それを木の板で下から持ち上げた村の男達十数人の姿も見えた。


 男達はそのカゴをゆっくりと優しく、祭壇のところへと運んでゆく。



 祭壇に設置された普段供え物を置く場所はそのカゴを置くには小さすぎるので、彼等は祭壇の前にそのカゴを置き、そのまま怯えるように早足で去っていった。



 残されるのは、そのカゴと空から暗い闇を明るく照らす月明かりだけとなった。



 たいまつの光がゆるゆると遠ざかり、人の気配が完全に消えことを確認した男達は、白き獣を現す白い毛皮に身を包んで物陰から姿を現した。


 二人で一つの被り物をするその姿は、例えるなら獅子舞といったところだろうか。



 遠目からでは巨大な白い影がゆらゆらと揺れているようにも見える。


 二人の目的は当然あのカゴだ。あとは二人でアレを持ち上げ、おかしらとの合流地点に運ぶだけだ。



(ひひっ。準備は面倒だったが、こうしてみれば楽な仕事だったぜ)



 先頭の頭側を担当するバンダナの男が心の中で笑う。実際村の中の災いも、彼等ではなく買収した村の者がやったので、彼等が苦労する点というのはこのカゴを運ぶということだった。


 それでも待つだけは苦痛だったし、こうしてこの白き獣のフリをしているのも骨が折れたものである。



 かたりっ。



 白き獣となった二人がカゴへ近づこうとすると、真ん中にあわせ開くカゴのフタが片方開いた。


 その中から、ゆらりと人影が姿を現す。



「ちっ。娘が出てきちまったか」


 髭の男が舌打ちをする。これは予測されていた行動でもあった。



 誰だって生贄にされるのは怖い。こうしてカゴに入れられ放置されたのなら、誰だって逃げたいと思うだろう。



「予定通り次のプランに移行するぜ」

「ああ」


 バンダナの男の言葉に、髭の男はうなずく。


 次のプラン。娘を気絶させてカゴに戻して運ぶ。に移行である。


 白き獣となった二人は足音を消し近づいてゆく。下手に悲鳴をあげられても面倒だからだ。

 娘は、怯えたようにキョロキョロと周囲を見回していた。どうやらまだ背後でうごめく白い影には気づいていないようだ。


 男達はその隙に、娘との距離を一気に縮める。



「へへっ。髪も長く綺麗な肌をしていやがるな。こりゃあのボンボンが惚れるのも無理はねぇ」



 場を照らす光は月しかなく、白い毛皮の被り物をしているため、彼等の視界はあまりよろしくない。それでも見える場所から見たその娘の姿は、綺麗な金の髪をして、とっても肩幅が広く見えた。



「ああ。あの肩幅。そして身長。間違いなく……って、え?」



 そこで、髭の男は気づいた。


 近づけば近づくほど、遠近感が狂っていくような気がした。なぜか、カゴから出た娘のサイズが大きくなっているように見えたからだ。

 娘の姿がはっきりとしてくると、その身長は二人より高いように見え、その肩幅も、二人より広いように感じられる。


 というか、明らかに要求された娘ではない!



「だ、誰だお前は!」

 髭の男が思わず声を上げてしまった。


 白き獣の存在に気づいた娘が振り返り、頬に手を当てにっこりと笑う。



「あーら、わたしはタニアよー」


 娘は、白々しく野太い声で答えを返してきた。



 そこにいたのは、タニアのような格好をしたマックスだった。


 リーゼントをおろし、その肩近くまである長い金の髪をふるふると気弱そうに揺らしている。



 が、その姿は逆にとっても気色悪かった。



「そんなくそでけぇ女がいるか! きしょくわりい!」

 バンダナの男も叫んだ。マックスの身長は百八十を超えている。それ未満の男二人よりも大きい娘になっていたのだ。


「お、おれけっこう好みかも」

「バカ。女でもねえぞこれは!」


 にひひと笑った髭の男に、バンダナの男がぽかりと頭を殴った。



「ふっ。どうやら見破られてしまったようだな」


 無念。とマックスはこぶしを握り悔しがった。マックスとしてはこのまま油断を誘い、近づいてきたところを一網打尽にしようと考えていたが、どうやら無意味だったようだ。


 マックスは着ていた女物の服を脱ぎ捨てる。するとその下にはいつものハカマとサラシを巻いた状態のマックスが姿を現した。



 男達はマックスはロングスカートをはいているのかと思っていたが、元々したにつけていたのはひらひらとしたハカマであったのである。


 背中に隠してあったロングソードを引き抜き、構える。



「貴様等はこの山の守護者などではないのはわかっている。観念しろ!」



「ちっ。バレちゃあしかたねえ。やるぞ!」


「おう!」


 男達は白い毛皮を投げ捨て、腰から手斧を引き抜きマックスへと襲い掛かった。



「……遅い!」



 遅い来る二人を睨み、マックスはロングソードを振るう。


 銀色の軌跡が月明かりに反射し、闇夜を切り開いたかと思えば、踊りかかった男達二人は大きく吹き飛ばされた。


「ばっ、ばかっ……な」

「な、なんだ、この強さ……」


 宙を舞う男達は信じられないようにマックスの姿を見る。



 男達はそのまま、地面に転がり、意識を手放した……




──タニア──




 夕方、村長さんが来て私は綺麗な服を着せられ、カゴの中に入れられました。


 しばらくカゴに揺られ、祭壇のところにつれてこられました。ピクリともカゴが動かなくなったので、間違いありません。

 私は目を瞑り、じっとその時が来るのを待ちます。


 これから私は、山の守護者である山の獣に捧げられます。



 ゆらり。



 外でなにかが動いた気配がしました。


 きっと山の守護者が来たのでしょう。



 これできっと、村は災いから救われます。



 村のみんなのため、私は犠牲になれるのだから、それはとても幸せなことです。


 だから、生贄に決まってからも、私は笑っていられました。村のために、ドンくさい私ができることなんて、これくらいしかなかったから。


 そう思ったから、笑顔でいられました。


 それしかないと思ったから、自然と笑顔が浮かんでいました。



 でも。



 でも……



 いざというときになって。


 一人になって。山の守護者が私にむかってきている時になったら……




 ……怖い。




 暗闇が突然、私の中に広がったのがわかります。



 怖い。怖いよ……



 私の体が、突然震えはじめました。

 お父さんにも、お母さんにも笑ってバイバイしてきたのに。



 どうして今になって、こんなに怖いの……?



 私は、あまりの怖さにポロポロと涙を流してしまいました。



 光栄な役割だと思っていたのに。みんなのためにできて嬉しいことなのに。



 どうしてこんなに、悲しい涙が出るの? どうしてこんなに……




「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」




 びくっ!


 突然大きな悲鳴があがったから、びっくりしました。


 がたん。と音を立て、カゴのフタが開いていきます。



 怖い。



 この時はじめて、私は見ないフリをしていたその感情の存在に気づいてしまいました。


 見ないように隠していた感情。『怖い』という気持ちが、ついに私からあふれ出したのです。



 ゆっくりと開いてゆくそのフタを見て、体が震えます。



 怖い。怖い。怖い。




 ──誰か、助けて!



 そう願った瞬間。開いたフタから、光がさしこみ、手が差し伸べられました。




「もう大丈夫だ」




 そこにいたのは、昼間の旅人さんでした。


 月明かりに照らされたその人は、おとぎ話に出てくるようなとってもカッコいい騎士様に見えました。


 外には二人の男の人が倒れ、旅人さんにあの災いはこの人達が引き起こした騙りだったと知らされました。



 私は、危うく見ず知らずの土地へ売られてゆくところだったのです。



 カッコいい騎士様。名前はマックス様というようですが、旅人さんは倒れた二人をカゴにつめて、それを軽々と持ち上げて村へと戻っていくのでした。


 カゴは大体真ん中で区切ってあり、私の入ったところとはもう一つの方に潜んで一緒にここまで運ばれてきたそうです。



 私には余裕のあるカゴの広さだったけど、大きな旅人さんにはとっても狭かった思います。



 質問したら、やっぱり「狭かった」と答えが返ってきて、旅人さんが窮屈そうにカゴに入っている姿を想像したら、おかしくて声を上げて笑い出してしまいました。



 なぜか、ぽろぽろと涙も出てきます。



 でも、今度は悲しい涙ではありませんでした。


 早く、またお父さんとお母さん。村のみんなに会いたいな!




──マックス──




 時は生贄を捧げた深夜よりさらに進み、夜明けの前の時間になった。


 村には多くのたいまつがたかれ、その中央。村の中心には三人の男が縛られ転がされていた。



 二人は先ほどタニアをさらうため祭壇に白い毛皮を羽織って現れた二人組。その騙りに使った毛皮も証拠としてこちらに持ち帰り、近くに転がっている。


 残るもう一人はこの村の者。村人を裏切り、この村の伝承を売り渡し、偽りの災いを村に引き起こしていた男だ。


「トムどん。なんでこんなことを……」


 村長が悲しそうに呟いた。拙者にはまったく面識のない痩せた男だったが、村の者達はこのものをよく知っている。であるから、皆ショックが隠せないようだった。


 当然だろう。小さな村は、それ自体が大きな家族と言ってもおかしくはない。知り合いでない者がいないはずないのだから。


 トムと呼ばれた男はふてくされたようにあさっての方をむいて口を閉ざしている。



「今までのことはすべてトムとこいつらの仕業で、災いでもなかったのか!」


 村人。酒場で飲んだくれていた男の一人が白い毛皮を持ち上げ、地面にたたきつけた。



「なにより許せんのが、トム、どうしてお前はこんなことをした! タニアちゃんをどうして売るようなマネを!」

「そうだ! お前、どうして!」


 酒場の二人が口々に叫ぶ。タニアのことを自分の娘のように考えていた二人なのだから、その怒りもより大きいのだろう。



「はっ、どうしてだって? 決まってるだろ。金だよ。金さえあればこんなところから街へ出て一旗あげられる! そのために必要だったんだよ!」



「なぁにい!」

「そのためにタニアちゃんを売ってもいいと思ったのか!」


「ふざけるな!」

 トムの言葉を聞いた村人は、酒場の二人だけでなく他の男達も一斉に怒りの声を上げた。


 正直この答えは予測していたが、だがそのためにタニアを犠牲にしていい理由にはならない。拙者でさえ心の中に怒りが燃え上がったのだから、タニアを知り、トムを知る彼等はどれほどの怒りがわいてきただろうか。



 その怒りを放置すれば、間違いなくこのトムは村の者達に殺されてしまうだろうと察した拙者は、全員とトムの間にわりこむことにした。



「マックスさん。どいてくれ。こいつをぶん殴ってやらねえと気がすまねえ!」

「ああ。こいつをつるし上げてやらねえと俺達は!」


「皆の気持ちは痛いほどよくわかる。拙者もできることなら腕の一本もへし折ってやりたい。しかし、少し落ち着いて拙者の話を聞いて欲しい!」


 前に立ちふさがった拙者との緊張状態はかわらなかったが、トムへ詰め寄ろうとする前進はとめることには成功した。

 拙者はそのまま、言葉を続ける。



「まず、皆の住むこのマクマホン領は人さらい、さらに人身売買については人一倍厳しいところだ。その法に照らし合わせると、彼は間違いなく禁固二十年と強制労働の刑は免れないだろう」



 ざわっと村の者達に動揺が走った。誘拐など考えたこともない人には衝撃の刑ともいえた。これは人殺し、放火と同じくらいの重さである。


 それを聞いたトムも、青ざめガタガタと震えはじめた。まさかこれほど重い罪だったとは想像もしていなかったようだ。


「事実だ。だから犯人は発覚を恐れ、あのような手段に出た。この領内で人をさらえばどんな罰が待っているか知っていたからな。さてみんな。ここで皆の感情に任せ、この愚か者を亡き者にするのと、二十年以上の歳月をかけ、死ぬほどつらい罰を受させ罪を償わせるの、どちらを望むかな?」


 拙者は、悪賢くにやりと笑った。



 先ほどの反応を見れば、どちらの結果が出るのかは答えを聞かずともわかった。



 拙者の言葉に、彼等は一度持ち上げた矛をなんとか降ろしてくれた。拙者の言葉と、その背後でガタガタと震え公開するトムの姿を見たというのもあるのだろう。


 軽い出来心で一生の半分以上の時間と帰る故郷も失うのだ。ここでこれ以上責めてもしかたがないと皆思ったに違いない。



 ひとまずこれで、村の者が犯人になにかをするようなことはないはずだ。



 村人の興味もトムからなくなり、無事だったタニアの方へとうつったようだ。


 あとは夜明けを待ち、騎士団の方へと届出を出してこの三人を引き渡すだけである。なにやら他領にまでまたがる話となりそうなので、それ以後の処断は騎士団に任せるしかない。



「ありがとうございました。タニアを救ってもらった上、村の者をいさめていただき。本当に、なんとお礼を言えばいいのやら」

 タニアの無事を喜ぶ皆のことを見ていると、横から村長に声をかけられた。


「いえ。拙者は自分のできること、言えることをしただけにござる。それに、まだまだにござるよ。目指すサムライ殿にはまだまだ遠い……」


「ご謙遜を。私達から見れば、私を動かした見ず知らずのものを救おうとするあの優しい姿。悪党を倒したその強さ。そして、皆を優しくいさめるその知性。刀こそありませんが、マックス様は立派なサムライに違いありませんよ」



 サ、ム、ラ、イ?



 一瞬耳を疑ってしまった。自分以外のものから、自分がサムライと言われることなど今までなかったからだ。



「ほ、本当にござるか?」


「はい。今のマックス様はその志、行動共に伝説に聞こえたサムライそのものです。あなた様ならきっと立派なサムライとなることでしょう。このワシが保障いたしますぞ!」


「そ、そうか?」



「はい。私もそう思います、旅人さん!」

 村長と話をしていると、タニアも混じってきた。



「私にとってはもう、旅人さんは伝説のサムライです!」


 タニアが喜ぶように、ぴょんぴょんと私の周りを飛び跳ねる。



「ああ。その通りだ。あんたは間違いなくサムライだよ!」


「そうだそうだ。タニアを助けてくれて、ありがとう!」


 拙者は、その言葉を聞き、皆の姿を見て胸がじーんと熱くなった。


 今までどれだけ剣を振るおうともサムライあつかいはされたことはなかった。それが今回、ついに!



 皆に言われ、拙者の中に自信がわいてきた。



 やはり、ツカサ殿と旅をして、修業をしてきた時間は間違いではなかった。拙者にもついにサムライらしさというものが現れたのでござるな!



 そう考えると、無性に嬉しくなった。



 やはり、ツカサ殿の旅に無理にでもついていってよかった! あの方の行動を手本にすれば、拙者もさらにサムライに近づけるということでござる!



「くくっ。めでてえやつらだ」

 騙り者の一人。髭の男が笑い声を上げた。



 拙者をふくめ、皆の視線がそやつに集まる。



「俺達みてえな手足を捕まえたところで終わると思ったか? 甘いんだよ」

 縛られ、顔をあげた男はにやりと笑う。


「てめぇじゃうちのおかしらには勝てねえ。なんせおかしらは俺達十人分の強さがある。てめえらじゃ勝ち目なんてねえ。あの人は間違いなく俺達を助けに来てくれるだろうさ!」


「って、バカ! そう思うなら黙ってろよ!」


 隣にいたバンダナの男があわてて声を上げた。髭の男も、それを聞き「しまった」と声を上げる。



 まったく。とんだ愚か者だな。



「愚か者め。ならばそのかしらも拙者が捕まえてくれる! そのかしらが何人分強かろうが、他に仲間が何人いようが拙者の相手ではない! 必ず全員捕まえてくれるわ。例え相手が二十人いようとも、拙者は勝つ自信がある!」


「おおー!」


「ちっ」


 村人達は拙者に歓声をあげ、男二人は悔しそうに視線をはずした。



 侮ってもらっては困るが、拙者は実際に二十人に囲まれても勝てる実力があると自負しているし、実際に十人程度ならば一人で戦って勝った実績もある。これは決して油断や自信過剰ではない。しっかりと裏打ちされた拙者のカッコたる力の表れなのだ。



「さて。それではそのおかしらとやらはどこに潜んでいるのか言ってもらおうか? それに、仲間が何人残っているのかも」

「けっ。誰が答えるかよ」


「そうだそうだ」


 バンダナの男と髭の男が口々に拙者を睨みつける。



「ならば、仲間の人数、どこで合流するつもりだったのか、いつ行けばいいのかを言えば命だけは助けてやろう。先着一命までだ。真相の解明には一人いれば十分だからな」

 拙者は声に重みを乗せ、ゆっくりとロングソードを引き抜いた。



「「祭壇の奥にある谷の手前にある小屋です! そこでおかしらが待ってます! 残っているのはおかしらだけですから殺さないで!」」



 二人同時だった。実に見事な忠誠心である。


 同時であるから、今のところは命を助けてやろうか。


 しかし、残りが一人とは意外と言えば意外だった。しかし、娘を一人さらうのに何十人も必要ないのも事実だ。



「それで、そのかしらの外見は? それに、男だろうな?」



「はい。おかしら、いや、ブーディンは男です。身長はサムライのだんなと同じくらいで……」


「あ、あと額に傷がありますから、わかりやすいです!」


「それとブーディンの武器は……」


「女の趣味は……」

 二人が同時に喋りはじめる。



「いや、外見だけがわかれば十分だ」



 もう関係ないことまで喋りそうなのでやめさせた。どちらも命が助かるのに必死でいらない情報まで喋ろうとしたらしい。



 もっともあとで、この時もっと詳しく聞いておくべきだったと後悔することになるが、それは後の祭りだ。



「ではまずは確かめてこよう。嘘なら、わかっているな?」



「「ひいぃ。わかってます!」」

 拙者は二人を黙らせると、剣を鞘に戻し村の者達の方を振り返った。



「では、最後にそやつを捕まえに行くとしよう。そうすれば、この村にも平和がおとずれようからな」

「待ってください。私達も手伝いますぞ!」


「その通りさ!」

 村長以下、酒場で会った者や、タニアの父も名乗りをあげた。

 皆、山の守護者ではなく人が敵だとわかり、村を守るために拳を振り上げたのだ。



「いや、お気持ちはありがたいが、案内だけをしてもらえればよいでござる。皆はここで待っていてくれればよい」


 拙者はその申し出を断った。


 皆の好意はありがたいが、残り一人程度、拙者一人で十分!



「で、ですが……」



「問題ない。残り一人程度拙者で十分にござる。皆はここでこいつらが逃げぬよう見張っていてくれ」


「そ、そうですね。わかりました」


 しぶしぶながらも、皆は拙者の言うことを聞いてくれた。皆の安全を考えれば当然であるし、たった一人に拙者が負けるはずなどないからな!



 案内役にタニアの父をつれ、その谷の前にあるという小屋へとむかう。


 そこは村から谷のさわをくだって一段下に降りたところにあり、周囲に燃えるものが少ないことから炭焼き小屋として使われているとのことだった。



 祭壇の方から行けばその小屋にまっすぐ出られるというが、そちらはそのおかしらとやらが目を光らせているだろうから、拙者とタニアの父は谷の上を通り、まずはその姿を確認することにした。



 谷は、山の斜面にひびが入るように広がっていた。


 その谷の上側。村拙者達がきた村側とは反対側の山側に属する坂の上に、多数の丸太が積んであるのが見えた。



 まだ朝日が昇らぬ時間で、薄暗いところに妙な山が見えたので、思わずじっと見てしまった。



「ああ、あれは村で使う売り物にならない丸太です。ひびが入っていたり、歪んでいたりするヤツなんですよ。それを置いておく場所ですね。必要な時はあそこから坂を滑らせて村の方に運ぶので、ああしてまとめてロープで固定してあるんです」


「ほう。だからあんな坂の上に置いたままなのか」


「ええ。きちんとロープでつないでありますから、わざとはずして蹴落としたりしない限り落ちてはきませんよ」

 間違って丸太が滑り落ちれば危険だと思ったが、滑り落ちるのは谷底。そこに人はいないのだろうから、むしろ安全が徹底されていると思い直した。



「っと、今は関係なかったな。小屋はどこにござる?」



「あっちです」

 タニアの父が指差した方に視線を向けた。



 谷の前に、確かにそれはあった。



「あそこです。小さくあかりが洩れていますから、誰か間違いなくいますね」


 小屋の窓からあかりが洩れているのが見えた。ランタンなどではなく、ろうそくなどのむきだしの炎のようだ。


 それがゆらゆらと揺れ、まれに影を作っている。間違いなく誰かがいて、小屋の中で動いているようだ。



 その部屋の中で動く人影が、窓の近くを通った。


 少しだけ開いた窓から、その男の姿が確認できる。


 一瞬見えたその顔には、額に大きな傷があった。これは手下のはいた、やつらのかしら。ブーディンの外見情報と同じである。



 拙者はそれを確認し、タニアの父を見てうなずいた。



「間違いない。あれがブーディンだろう。ここはあとは拙者にまかせ、村にお帰り願おう」

「わかりました」


 タニアの父は素直にうなずき、その場から村へと歩き出した。


 拙者も振り返り、谷の下へ降りようとしたその時。



「サムライ様」

 タニアの父が振り返り、拙者を呼んだ。



「タニアを助けてくださり、ありがとうございました。そして、ご武運を。村の平和をよろしくお願いします!」


 そう言い、彼は村の方へと駆けて行った。



 拙者はそのエールと礼をもらい、自身のハートがさらに燃え上がったのを感じる。



「これは期待にこたえねばならんな! なにせ拙者はサムライになる男なのだから!」

 拳をぐっと握り、拙者はその小屋へとむかう。


 じき、夜があける……




────




 夜があけ、朝日が昇る。


 マックスは背にその朝日を浴びながらその小屋の前に立った。



「人さらいブーディン。貴様がそこに潜んでいるのはわかっている。貴様の所業はすでに暴かれた。おとなしく姿を現し、降伏するならば痛い目を見ずにすむぞ!」



 マックスの声が大きく場に響き、小屋の後ろにある谷に小さく反響した。


 マックスは隙をついて小屋に飛びこみ不意打ちをするようなことはしない。それはサムライのすることではないからだ。


 正面に立ち、相手を確認して正々堂々真正面から捕らえる。それこそが己が信じるサムライのとる行動だと考えたからである。


 腕を組み、マックスが仁王立ちでしばし待つと、きいぃと小屋の扉がきしむ音を立てながら開いていった。



 外側に開いた扉のところには、額に傷を持つ三十ほどの男が立っていた。



「ブーディンか?」

「ああ」


 男。ブーディンは素直にうなずく。



「ならば話は早い。お前の騙りはすでに暴いた。手下も捕らえた。タニアは手にはいらんし、すでに逃げ場もない。諦めておとなしくしろ」



 マックスがブーディンを睨む。


 しかし、ブーディンは余裕だった。


 ゆっくりと周囲を見回すとにやりと笑い、マックスを見おろすようにして口を開く。



「はっ。甘く見ているのはお前の方だよ。たった一人でくるなんてな」



「むっ?」

 マックスはいぶかしむ。確かに今マックスは一人だ。そしてこの男も実力を隠そうとはせず、察せられるその力は決して弱くはない。しかし、実力で言えばマックスの方が圧倒的に上だった。


 かといって、実力を隠さず表に出しているがゆえ、マックスが凄いと信奉するツカサのように一見弱そうだと装っているわけでもない。


 ブーディンはその力を隠さず、むしろその実力を持ってマックスを威嚇しにかかっている。


 しかし、それならばマックスと自分の実力差はすぐにわかるはずだ。ブーディンとて腕に覚えがある男。自分が勝てないというのはすぐに悟れるはず。


 だというのに余裕を見せたのだから、マックスもいぶかしむだろう。



(時間稼ぎか?)



 そう考えるが、すでに孤立したブーディンに援軍が来るはずもない。むしろ時間がたてば騎士団を呼べるこちらの方が有利なのは明白だった。


「くくっ。なぜ俺が余裕なのかわからないようだな。なら、すぐにわからせてやるよ」


 にやりと笑ったブーディンは背中に手を回し、隠し持っていたそれを引き抜いた。


「なっ!?」

 姿を現し、朝日に照らされたそれを見て、マックスは驚きの声を上げた。



 それは、確かに金属だった。


 だというのに、それは日にさらされても光を反射しないほどに黒かったのだ。それはまるで、光さえ吸収する闇のような色。漆黒の刀身と、さらに黒で塗りつぶされたような柄をもつ剣。



 それが、ブーディンの手に握られていたのだ。


 マックスは、それを知っている。



「ダークソード……」



 その剣を見たマックスは、愕然としたようにその名を口にした。


 その反応を見たブーディンは満足するようにうなずく。



「そうだ。十年前この国に絶望をあたえたあいつらの持っていた武器だよ。これはただの剣じゃねえ。この剣は、持ち主に特別な力を与える。それが、これだ!」


 ブーディンが闇の剣を強く握り締め天にかかげると、朝日に照らされ伸びたブーディンの影が突然ゆらめき、九つにわかれた。



「起きろ、俺!」


 そう叫びながらブーディンが闇の剣を振り下ろすと、その影からブーディンと同じ姿をした存在が生えてきた。


 最初こそは影の色であったが、その手に持つ剣が闇を吸いとるようにして黒を回収し、色さえブーディンとまったく同じに変わる。



「分身した。ということか!」



 マックスは、この力を見たことがあった。


 それは、かつてこの国を襲ったダークシップより降り立った『ダークナイト』と呼ばれるその剣を持つ存在が使ったことのある力だからだ。


 その力は、このダークソードを持つからこそ発揮できたのだと、マックスは、今知る。


 そして、人が持ってもその力を行使できるということも!



 マックスは奥歯をかみ締めた。



 しばらく前ドラゴンに突き刺さっていたそれを見た時危機感を覚えたが、まさかそれがこんなにも早く現実になるとは思っていなかったからだ。



「一体それをどこで手に入れた!」


「くくっ。それをバカ正直に話すと思ったか、死ね!」


 扉の前にいた最初の一人が剣をかまえると、前に出た九体の同じ姿をしたブーディンも一斉にかまえた。その姿から、本体がどれなのかまったくわからない。



 十体が一斉に走り出した。一度塊となったそのブーディン達はすべて同じで、すでに本体さえどれかわからない。



 じぐざぐに入り混じる十体のブーディンがマックスへと襲い掛かる。


 マックスも腰のロングソードを抜き、それに応戦した。



 真正面に走りこんできた二人のブーディンがマックスへ同時に斬りかかる。



 ザンッ!



 朝日を反射し、銀の閃光が一閃されると、二体のブーディンが影へと消えた。



「なっ!?」


 一瞬にして二体の自分が倒れたのを見て、今度はブーディンが驚きの表情を浮かべる羽目になった。



 マックスがさらに横一線に剣を大きく振った。



 ぶぉんと大きな風きり音が響き、小さな風が八体のブーディンを襲う。

 残った八体は、思わず足をとめてしまった。


 それほどの迫力がある一撃だったからだ。



「ふん。この程度なら二十人が同時にかかってこなければ拙者は倒せぬぞ」



 足をとめたブーディンを睨み、マックスはにやりと笑った。

 しかしブーディンも負けじと笑う。



「同時に二十体というのは無理だが……」



 またブーディンの影がゆらぎ、その数は十にわかれた。

 ずらりとまったく同じ姿のブーディンが並ぶ。



「一体何体倒せるかな? サムライかぶれのにーさんよ」



「……」


 にやりと笑うブーディンに、再びマックスは奥歯をかみ締めた。



(うろたえるなマックス。いくらあれがダークソードだとしても、かつて『闇人』がもちいたものとは規模が違う。かつては百名以上に分身していたが、あれはたったの十体。それに人ならば必ず限りがある。なにより、本体さえ見つけられればそれで終わりのはずだ!)



 かつての経験を元に、マックスはそう分析する。


 一斉に襲い掛かるブーディン達に囲まれるよう体を動かし、常に真正面に敵をとらえ、隙を見せた敵から次々と切り倒してゆく。


 一人、二人と切り倒すが、そのつど敵は補充されてゆく。



 しかし、マックスはあることを見逃さない。



「それが本体か!」



 分身を補充するため影の揺れたブーディンをマックスは見逃さなかった。


 一番後ろの安全なところにいたそいつの元へ一気に駆け寄り、大上段からそいつを真っ二つに切り裂いた。



(やったかっ!)



 と思うが、マックスは即座にその場から飛びのいた。


 直後、今までいた場所に二本のダークソードが突き刺さった。



「やはりか……」



 先ほど切り裂いたブーディンが霞のように消えてゆく。あれで終わってはあまりに手ごたえがなさすぎた。罠だと感じたマックスは、背後でうごめく気配にもきちんと気を配り、不意をうとうとした一撃を回避したのである。


 どうやら本体でなくとも、分身の補充が可能のようだ。これではさらに、本体の見分けが難しくなった。


 消えた分身が再び補充され、十人のブーディンがマックスを囲むようじりじりとその包囲網を狭める。



「くくっ。さて質問だ」


 包囲を縮めるブーディンが口を開いた。



「こうしてお前は俺達は戦っているが、俺がもっと分身を作れる可能性を考えないか? 他の俺が、村に向かい村人を襲っているとか考えないのか?」


「なにっ?」


「さあ、どうするサムライもどきよ。そうやってじりじり後ろにさがっていちゃ救えるもんも救えねえぜ!」


「きさまっ!」

 マックスはその言葉に乗り、さがろうとした体を一気に前に駆けた。一気に囲みの一体へと襲い掛かる。



(かかったなこの阿呆が! 村に向かったなんてのはハッタリだ。てめえを動揺させるのが目的よ。そもそもお前みたいなクソ強いヤツを相手にこの戦い以外の場所に向かって分身を動かすなんてリソース裂いていられるか。そんなことしたら瞬く間に全滅させられるだろうよ。それほど、てめぇは強い!)



 数の面で圧倒しながら、マックスの圧倒的な強さにブーディンも焦りを見せていた。



 ゆえに動揺を与え、隙を作らせるためこのようなハッタリをかましたのである。


 今まで防戦からのカウンターを狙っていたマックスが攻めに転じた。となれば、こちらが数で一気に押すことも可能のはずだ!




 ざん、ざざんっ!




「なっ!?」

 しかし、攻めに転じたとたん、マックスは三人のブーディンを一瞬で切り伏せた。



「嘘か真かはわからんが、急がねばならんのは事実! くらえぇ!」


 そして、四人目も胴と体が離れ、消えてゆく。



(ちっ)



 より力強く剣を振るうマックスを見て、ブーディンは心の中で舌打ちをした。


 普通ならば、村が気になり動きが鈍る。しかしマックスは逆に動きがよくなり、剣の鋭さが一段上がったのだ。



 これはブーディンにとって誤算であった。



(こいつ、焦りを力に変えやがった。ピンチになり、緊張が増したことにより、より力が、集中力が増した。こいつはピンチの時こそ力が発揮できる本物の英雄になれる素質を持っていやがる。なんて厄介なヤツだ!)



 いざと言う時、窮地に陥った時こそひるまずその力を百パーセント引き出すことができる。それはぎりぎりの戦いをする戦士だけでなく、他の状況においても上に立つ場合においてもっとも必要な素養である。


 いざという時足が震えるのでなく、むしろ力を増す。それができなければ、世を統べうる英雄にはなれない。



 マックスはそれを持っているのだ!



 下手なハッタリは通じないと感じたブーディンは、気合を入れなおした。


 どれほど強かろうと、こちらは本体さえやられなければまだ五十体ほどの分身を作ることができる。相手の体力は無限大ではない。じりじりと削り、消耗戦へもちこめば必ず勝てる。そう信じた。



 そして、そのブーディンの判断は間違ってはいない。



 どれほどマックスが強かろうと、次々と復活する敵を相手に体力を奪われ、じりじりと追い詰められてゆく。



(くそっ。ツカサ殿ならは。サムライならばこの程度のヤツとの戦いなどもう終わっているというのに!)



 サムライならば、たった十人程度の敵など最初に分身した時点で全員を竜巻で吹き飛ばして終わっていただろう。



 マックスのタイミングならば、最初に襲い掛かった二体を切り裂いた時、竜巻よでろと大きく剣を振ったが、不発に終わった。



 もしくは本体が分身の中にまぎれようと、サムライならばその気配の違いを感じ取り、分身に惑わされず本体のみを的確に切り倒しただろう。



 サムライならば、敵の言葉に惑わされることもなく、それはできぬことだと言い切ることができたはずだ。


 サムライならば。


 サムライならば。と考え、余計に力が入った。



 すでに何体の分身を切り倒したのだろうか? 十? 二十? マックスはもう、倒した数など数えていなかった。


 さしものマックスも終わりのない物量に、疲れを隠し切れない。



 徐々に物量におされ、谷の奥へ奥へと追いこまれていった。



 谷の中へと戦場が移ったのは、マックスに疲れが見えはじめ、少しでも動かず相手に囲まれぬようしたいという体力温存からだった。


 そこには、ブーディンが確実にマックスを倒すため、逃げ場のないところへ追いこんだという思惑もある。


 ブーディンはじりじりとマックスの体力を奪い、谷の奥へ奥へと追い詰めて行く。



 マックスはついに、谷の一番奥となる行き止まりへと追い詰められた。



「どうしたどうした? ダイブ肩で息をしているぞ」


「ふっ。まだまだいける。いくらでもおかわりをもってこい!」


「ふん。いくら強がろうとお前に勝ち目はない! 俺はまだ、あと五十体は分身を出せるからな!」

 すでに三十二体の分身がやられ、ブーディンの出せる分身はあと三十体が限界だったが、ブーディンはあえてさばを多く読んでハッタリをかました。


「ふん。ならばその五十体すべてを倒してくれる!」

 そのハッタリを受けても、マックスの目に驚きはあっても諦めの意思は浮かばなかった。


 例え敗北をするにしても、一人でも多くの敵を倒す。



 それもサムライの矜持だとマックスは思っていたからだ。



「ならいいだろう! 谷を背にして、そのまま死ぬがいい!」

 切り立った谷の壁を背にすることで背後から襲われる心配はなくなる。しかし、今度はそこから後ろへは下がれなくなるというデメリットも存在する。


 逃げ場がなければブーディンの波状攻撃も裁ききれないかもしれない。ここまで体力を奪われたマックスは、まさに絶体絶命と言ってもいい状態であった。



(ここまでか……)


 マックスもついに覚悟を決める。



 しかし、例え刺し違えようとも目の前の敵は必ず倒そうと思っていた。


 勝ったと思ったその時が勝機であると……!



 そう、覚悟を決めたその時だった。




 ごごごごごごごごっ。




 谷の上から、轟音が響いたのだ。




──マックス──




「っ!?」

「なっ!?」

 それは、突然のことでござった。


 轟音が響いてきたかと思った瞬間。一本の巨大な細長い塊が拙者とブーディン達の間に降ってきたのだ。



 拙者へとどめをさそうと迫ってきたヤツ等もあまりのことに動きを止める。



 地面に突き刺さったそれは、一本の柱のように見えた。


 いや、これは柱だが柱じゃない。



 これは、丸太だ!




 ごごごごごごっ。




 音が、続く。


 嫌な予感に冷や汗が走り、拙者もブーディンも上を見上げた。



「なっ、なぁー!?」

「うそだろ」


 思わず声を上げてしまった。



 轟音と共に、谷の上から次から次へと丸太が降ってくるのが見えたのだ。



 巨大な丸太が先端を下にして谷底へと殺到する。


 拙者がとっさに後ろへ飛びのき、谷の隙間へ身を預け、ブーディンはそれを必死にかわそうとする。 


 それはまるで、丸太の雨のようだった。


 そんなものに狭い谷の中で襲われ、かわせるはずがない。



 轟音が谷に響き渡る。



 谷の一番奥に追い詰められ、幸運にも一番狭い場所へ入ることに成功した拙者は恐る恐るそこから顔を出した。


 谷底には、無数の丸太が山のように積み重なっていた。



 その下には、ブーディンの分身達が丸太に押しつぶされ転がっている。



「ば、ばか、な……全員を、いちど、に……」



 積みあがった丸太から必死にブーディンがはいずりだしてきた。折り重なる丸太のしたでもがき、拙者にむかって手を伸ばす。ヤツは拙者がこれを引き起こしたのだと勘違いしたようだ。



「なんて、や、つ……」


 そのままブーディンの手が地面に落ちると、その手にあったダークソードはぱきんと音を立て砕け、分身もいなかったかのように霞に消えた。



「……勝った、のか?」


 ブーディンになんと言われようと、拙者も意味がわからなかった。



 この丸太は、坂の上にまとめてあった丸太達だというのはわかるが、それがなにが起きてなぜこういう風に拙者を助けるかのごとく降ってきたのか、さっぱりだ。


 一体、なにが起きてこんな逆転が起きたというのだ……



「おーい。無事かー?」



 しかし、谷の上から聞こえてきたその声で、すべてが理解できた。



 これは、ツカサ殿の声!



 ツカサ殿だ! ツカサ殿が拙者を助けてくれたのだ!


 ならば拙者を巻きこまない絶妙のタイミングで丸太が振ってきたのも納得がいく。ブーディンすべてをまきこむように丸太が降ってきたのも納得がいく!


 さすがツカサ殿。こんな絶妙なタイミングで拙者を助けてくれるなんて、さすがサムライにござる!



 しかし、疑問が一つ残った。



 ツカサ殿ならば、こんな丸太をわざわざ落とさずとも、拙者を助けられたはずだ。


 拙者との間にわりこみ、分身をすべて一刀のもと斬りふせるとか、竜巻で吹き飛ばすとか、火炎で燃やし尽くすとか。もっとスマートに、サムライらしい方法でかっこよく倒すこともできたはず。だというのに、この方法はあまりにサムライらしくない。


 なのになぜ、こんなサムライでなくとも誰でもその気になればできるような大がかりな……



 そこまで考え、拙者は雷に打たれたかのような衝撃を受けた。




 サムライじゃなくてもできる……?




 それに気づいた瞬間、自分がとっても恥ずかしく思えた。


 この丸太を落とし分身もろともブーディンを一網打尽にする策は、その気になればサムライでなくともできる。



 それはつまり、拙者が村の者と協力していてもできたという意味でもある。



 拙者は敵が一人と聞き、その戦力を詳しく問わずここにやってきた。しかしあの騙り者二人はブーディンを十人分と言っていたのだから、あの力を知っていたに違いない。そこをもっと詳しく問いただし、情報を得ていれば別の方法をとろうと考えたかもしれない。


 拙者のピンチはしっかりと敵の情報も集めず、力を貸してくれるという皆の協力もわがままで拒んだ。拙者はツカサ殿ならばこうする。こうできる。サムライならばこうだと思いこみ、自分のできること、できないことも見失っていたのだ!



 サムライならばできると自分で視野を狭め、サムライでもないのに物量に対して情報も得ず真正面から戦うなどという愚かな行動をしてしまった!



 ツカサ殿は、戦う拙者を見てそれに気づいた。だから、そんな戦い方をする拙者を戒めるため、ただ助けるだけでなくこうすればよかったのだと導くため、この策をもちいたのですね!


 これはつまり、ツカサ殿からの無言のメッセージ。気づかないのならばサムライにもなれないといういかに自分を見ているのかという試練! 拙者、拙者は……!



 これに気づいた瞬間、拙者の手も背も震えた。



 なんと深い考えを持たれた策。敵を倒すだけでなく拙者のことまで考えるとは。さすがサムライ、拙者が師とあおぐツカサ殿にござる!


 村の者達に持ち上げられ天狗となっていた拙者の鼻など、ツカサ殿に比べればまだまだにござった!



 やはり、ツカサ殿と一緒に旅をして、もっともっと多くのことを学ばねばなりますまい!



 拙者、この命を救われただけでなく、志まで救われた気がして、一体どれほど感謝すればよいのかわからないでござる!


 拙者、拙者はもう、それに気づいた時、感動でむせび泣いてしまいもうした。



 戦う拙者を見ただけでここまで的確な策を撃てるその頭脳、そして拙者にさりげなく伝えるそのすべてを見通すかのような知性と優しさ。拙者はその器の大きさに感服いたしました。


 ツカサ殿、拙者は一生ついてゆきますぞ! 千二百二回目の誓いでござるー!



「うおおぉぉぉぉー!」



 拙者は感動にむせび泣いてしまった。




──ツカサ──




 その日、俺達は少し道を外れてしまった。


 ナビをしてくれるオーマが昼間に寝てしまい、それに気づかなかった俺達は本来曲がるべき林業を生業としている名もなき村へむかう曲がり角を曲がらず、その伐採用として使われる山をぐるりと一周して村へむかう山道へ入りこんでしまったのだ。


 一応まっすぐ進んでも遠回りになるだけで間違ってはいないのだが、普段ならそういうルートに入ろうとすると腰から声がかかって修正されたんだけど、それが睡眠でなかったのだから突入してしまうのも無理はなかっただろう。



 気づいた時にはもう遅し。このまままっすぐ進んだ方が戻るより村に近いところにまで進んでしまっていた。



 なぜ昼間に居眠りしてしまったのかオーマに聞いてみると、どうやらこの前撫でまわした猫が俺達の近くをうろうろしていたから夜眠れなかったのだと答えた。


 ああ、ついてきちまったのかあの猫。なら、つかずはなれずの位置を追ってきていたら心配でハラハラしてもしかたないな。



「ならしかたないか」

『だろ!?」

 答えを聞いた時、俺はそううなずいた。




『(つーか暗殺者が追ってきていると気づいていてあそこまで平然と寝ている相棒がすげぇってもんだぜ。あまりの無防備さに敵も誘っているのかと手を出すの躊躇するくらいだからな。そんな方法、相棒にしかとれねえよ。いくら刀のおれっちでも心配でびくびくしていたってのに!)』


 夜中、オーマと件の暗殺者サイレントエッジとツカサの間で高度な心理戦が繰り広げられていたようだが、当然ツカサは気づいていなかった。




 んで、俺達は山中にあった山小屋で一晩をあかし、正しいルートへ戻るべくその名もなき村へむかって夜明けごろから歩いていたというわけだ。


 ちなみに、なんでそんな早くからかというと、夜になれば暗くて山の中なんて危険で歩けないからさっさと寝るし、日がのぼりはじめると周囲が明るくなってきて勝手に目が覚めるからなんだぜ。

 現代日本みたいに夜中まで昼間のように明るい。なんてぇ世界じゃないのさここは。


 だから俺達は、夜明けと共に村を目指して歩き出すってわけ。



 夜も完全にあけ、朝日が山肌を照らしはじめた。


 村の近くまで歩いてきて、谷が見えてきたところでその谷底の辺りが騒がしいのに気づいた。



「なんだ?」

『あそこ、マックスのやろうがいやがるぜ』

「ホントかよ!」


 オーマの言葉にリオが声を上げた。


 谷底で一体なにをしているんだろう。そう興味がわいた俺は、素直に谷の方へと降りていけばいいのに、面倒がって手っ取り早く近くから谷の底が見えないかと、坂の上に積んであった丸太の山へとよじ登った。



 そこに上ったのは高いところへ移動すれば見る角度も変わり、谷の底が見えるかと思ったからだ。



 でも、そんな甘いことはなかった。


 ロープをつかみ、背伸びをしても谷のえぐれた壁は見えても底は見えなかった。残念なことに、マックスのマの字も見えない。



 残念。と思ったその瞬間、つかんでいたロープがバチンという音を立て外れてしまった。



 ロープがはずれ、バランスが崩れた俺は両足で踏ん張り、耐えようとしたんだけど、今度はその両足のしたの丸太が動き出してしまった。


 一つ動けば下のも動く。残りのロープも連鎖的にはずれ、そこに固定されていた丸太は大きな津波のようになって坂の下にある谷へと滑り落ちていった。



 一方の俺はロープに捕まっていたので、丸太に巻きこまれることはなく、木の上に固定されて垂れ下がったロープにぷらぷらとぶらさがっている状態になっていた。



 リオの方はそもそも興味なく道の方で俺を見ていたから、丸太にもまきこまれることなく無事だった。


 なんてことをしてしまったんだと、俺はロープから手を放し坂を下っていった。



「い、いったいいきなりどうしたんだよ!」

「い、いや……」

『詳しいことはまたあとだ!』


 慌てて丸太を追い坂をくだる俺にかわり、オーマがリオの疑問に答えてくれた。答えになってないけど。


 俺はマックスの身が心配でただ必死に坂を走るだけだ。無事であってくれと必死に谷のふちへと走る。



 最初からこうしておけばよかったと後悔するが、後の祭りである。



「おーい、無事か?」


 こういう時だというのに、いや、こういう時だからか、うまく口が回らない。


 心配しているんだけど、感情がうまく声に乗らなかった。



 谷の淵から下をのぞくと、谷のはじにいて無事な姿を見せるマックスの姿が確認できた。



 俺はほっと、胸をなでおろす。


 マックスは俺を見た瞬間、「うおおぉぉぉぉー!」と雄たけびを上げるようにして泣き出してしまった。



「な、なんだぁ?」

「さあ?」


 いきなりの男泣きで、俺もあとから来たリオも困惑してしまう。


『けけっ。相棒が来てくれてうれしいってことだろ』

「そんなに嬉しがられてもなぁ」


 あえて嬉しいと言ってくれるのは嬉しいけど、ここまで喜ばれると、正直ちょっと、引く。


 でも、俺危うくマックスに大怪我させるところだったし、どうしよう……



「ツカサ殿! ここの後始末は拙者にお任せくだされ! 拙者、自分の未熟さをよく理解いたしました! ですから、すぐに追いつきますので先にむかってください! 拙者は、拙者は! うおおおぉぉー!」



 なんかものすごい感謝もされた。なんだろう。ひょっとして頭に丸太が直撃して当たっちゃいけないところにでも当たっちゃったのかな。


 でも、体は無事のようだから、後始末を任せて俺達は先にむかうことにした。



 谷を避け、ぐるりと回り名もなき村へとむかう。


 谷があるおかげで、意外に時間がかかった。



 村に到着してみると、後始末も終わったのか、マックスが待っていた。



 マックスがこの前(エキシビジョン逃走&傷害罪)の一件で俺が捕まえられるとか言い出さないので、きっと指名手配とかはされていないのだろう。


 その日はまた日も高かったので、マックスと合流し、俺達はそのままもう一つ先にある宿場へとむかうことにした。



 しかし、どうして村の人達は俺に向かって拝むようなマネをしていたんだろうか。不思議である。




──マックス──




 後始末をまかされた拙者ははいずり出たブーディンをひろいあげ、村へと走った。


「拙者はやはり、未熟者でござった!」

 村につくなり、体中の骨がバキバキになって気絶しているブーディンを仲間のところへ投げつけ、村の者達へ謝る。



 皆の力を借り、戦えばよかったこと。そして、後始末もそこそこに、旅立たねばならないことを説明した。



 ここであったことは、マクマホン騎士団のマイクに伝わるよう文をしたため、ことの顛末とダークソードの残骸も渡すよう指示を与えておいた。一両日中に騎士達はこの村へきてくれるだろう。これでもう、この村で起きたこの一件についてはお終いだ。


「すまない。後始末を押し付けるような形となって」


「いいえ。せめてこれくらいのことをはやらせてくだされ。それに、この村を救ったのは間違いなく、マックス様。あなたです。例え未熟者であったとしても、それは間違いありませんぞ」


「その通りです!」


「そうです! マックス様は絶対サムライですから!」



 皆のその暖かな声援。嬉しいが、拙者の心を小さくえぐる。



 こんなにも拙者のことを慕ってくれているというのに、拙者一人では彼等を守ることができなかった。むしろ、共に協力してこそだった。


 本来ならば、こうして拙者を崇めるのでなく、同等の仲間としてこの戦いを勝利したものとして喜んでいたはずだ。拙者は、なんて傲慢だったのだろう……!



 改めて、拙者は調子に乗っていたということを痛感する。



 この視線は、拙者への戒め。もう二度とこのようなことがないよう、拙者はより強くなろうと誓う。



 拙者はタニア達へ礼をいい、村へ姿を現したツカサ殿と合流し、この村を後にした。


 盛大な宴などはいらない。礼もいらない。ただ静かに見送られるだけだ。



 未熟である拙者には、これで十分。



 村から去る拙者達へ、タニアが走る。



「ありがとう旅人さん! 本当に、ありがとうございましたー!」



 村の門から、彼女は拙者達へ礼を叫んだ。


 するとツカサ殿は拙者の背中を叩いた。



 彼女を助けたのは事実なんだから、きちんと受け取っておけ。微笑んだあの方はそう告げているように思えた。



 であるから、拙者は振り返り、彼女へと手を振る。


 拙者の反応に喜んだ彼女は、拙者に向け何度も何度も手を振った。



 それは、拙者達の姿が見えなくなるまで続いたのだという。



「ところでよ、なにがあったんだ?」

 歩く拙者に、リオが聞いてきた。


 どうやらこやつはツカサ殿とは違い、事態はまったく理解できていないようだ。



 ツカサ殿はなにも聞かずともなにがあったか把握しているというのに、お前はまったくダメな従者だな!


 であるから、拙者はなぜあそこで戦っていたのかを教えてやった。



「ああ、だからツカサはいきなり丸太の山の上に登ってあんなことをしたのか」

 と納得したような声を上げた。


 やはり、そうだったのか。リオの説明を聞き、あの時ツカサ殿が拙者を救ったのは意図的であったと確信する。



 さすが、ツカサ殿。戦いの音だけで拙者がピンチとわかるとは。



「さすがツカサだな」

「ああ。さすがツカサ殿である!」


 合流し西へ向かう拙者とリオは、ツカサ殿の背中を見て、大きくうなずいた。



 拙者は誓いを新たに、ツカサ殿の背を追う。



 村の皆が胸を張って拙者のことを語れる、立派なサムライとなるために!




 おしまい

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