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副 episode.1&side

 採取を終え、シュテルと私は、小川のほとりで少し休憩することにした。

 シュテルが用意してくれた昼食を取る。……なんか、ここまでしてもらって、申し訳ない。

「そういえば、採取してて思ったんだけど、採れる素材って、思ったよりも種類が少ないんだね」

 ちょうどいい機会なので、気になっていたことを聞いてみる。

「ああ、それは、まだ絆が浅いせいだな」

「絆?」

「そう。前にも言ったが、あんたと十二柱神の絆を通じて、エレメントはこの惑星に補充される。補充されることによって、この惑星は豊かになる。だから、絆が深くなればなるほど、エレメントはより多く流れ込み、そうすると、採取地も広くなるし、その結果採れる素材もさらに増えるだろう」

「なるほどね……」

 じゃあまだまだ私と神様の絆は未熟だって事か。まあ、挨拶をした程度だから当然だよね。もっと頑張らないと。

 社交性って、私が一番持ってない部分なんだけどなあ……。


「そういえば、おれからも一つ質問があるんだがな」

 昼食を食べ終え、食後のお茶を飲んでいたときに、シュテルが言い出した。

「ん? 何?」

「いや、最初にあんたと会ったときのことだ。自分で言うのもなんだが、突然見知らぬ子供が現れて、着いてきてくれだなんて、どう考えても怪しいだろう。

「でも、あんたは大して抵抗する様子も無かった。それは、何でだ?」

 ……。

 抵抗しなかったと言うか、抵抗する暇も与えてもらえなかったと言うのが正しいと思うんだけど……。

 でも、そうだな。仮に猶予を与えられたとしても、やっぱり私はこの子に付いてきていたのかもしれない。

「今から変なことを言うけれど、適当に聞いてね」

 そんな前置きをして、私は話し出す。


「私はね、正直なところ、自分って言うものがよく分かっていない。

「昔から、私の行動基準は、周りの人が『私に何をして欲しがっているか、どんな反応を求めているか』、それを推測して、それに見合うように言動を選んでいた。『期待に応えなければならない』と、思っていたんだね。

「残念ながら、私はどうも他の皆と考え方がずれていることは、当の昔に自覚していた。だから、必死になってそれを隠していたの。異質なものは、排除されるから。特に、学校なんて閉鎖的な空間だとね。つまり、『こんなとき、普通の人はこんな風に行動するんだろう』。なんて、そんな事を必死で想像しながら、常に、時と場合に応じた自分を演じていたんだよ。

「そう――今の「私」なんてものは演技なんだ。そんな風に生きているうちに、いつの間にか、「私」自身なんて一片もなくなって、私自身は一体何に価値を置いているのか、私はどんな風に生きていきたいのか、自分自身の意志が全く分からなくなってしまっていた。だから、私にとって人生なんていうものは、『生きているから生きる』、というそれだけのものなんだよ。何の展望もない。

「そんな時、シュテルに会った。シュテルは、心の底から、『私を必要としてくれていた』。それが主神だから、というだけの理由であってもね。

「だから、家族に迷惑をかけることがないのなら、別にいいか、と思った。ただ普通に、『流された』。

「だから私は使命感なんてものを持ってこの世界に来たわけじゃない。右に行けと言われたら行く、左に行けと言われたら行く。私なんてそんなものなんだよ。――どうして、私なんかが主神に選ばれたんだろうね。もっと、きちんとした人だったら、この世界にとっても良かっただろうに……」

 そうして、私は話し終えた。


 ……なんだ?ものすごく語ってしまった気がする。

 うわあ、今さら恥ずかしい! 珍しい素材とか、ピクニック気分でテンション上がってて、なんか語っちゃった!

 うう、自分のこと語る人とか嫌いなのに。別に聞いてないよ、興味ないよ、とか思っちゃうのに。それを自分でしてしまった……。

 引かれたかな……とか思いながら、ちらっとシュテルの方を見ると、シュテルはごくごく普通の様子で、でもじっと私の目を見てくれていた。

 そして、言う。


「――もっときちんとした人だったら良かった、なんて、そんなことは、ないんじゃないか?」

「……え?」

「自分でも言っていたじゃないか。あんたは、結局他人の期待に応えたかったんだろう? 他人が望む「あんた」に、なってあげたかった、ただそれだけだろう?

「――それは、自分を犠牲にして、自分のことは二の次にして、人のことを想ってたってことじゃないのか。自分の意思を押し込めることで他人が満足するのなら、それで良いと思ってたってことじゃないのか。

「それは――悪いことか? 『きちんとして』いないか? おれはそうは思わないけどな。あんたはただ――優しすぎるだけだろう。自分よりも他人を、優先してきただけだろう」


 ……。

 そんなことは。

 そんなことは、考えたこともなかった。

「まあ確かに、自己主張も出来ない奴は潰されて行くだけだけどな」

 ぐさっ!!

 うあ、ささった。正論だけにダメージが大きいっ!

 さんざん上げといて落とすなんて……っ。

 ――まあ。

 でも、その通り。

 自分が人として未熟であることは、空っぽであることは、ちゃんと自覚している。それは認めている。大丈夫。

「心配すんな。十二柱神はどいつもこいつも個性豊かだ。いやでも合わせてなんかいられなくなるだろうよ。そもそもおれが指導に容赦しないしな。そのうち否応(いやおう)なくあんたの本音が駄々(だだ)()れになってくるさ」

 それは果たして喜んでいいことなのか!?

 ――でも、シュテルが真剣に話を聞いてくれたことは、素直に嬉しかった。


「さて、採取も終わったし、工房に帰るか。今度は、合成について教えてやるよ」

「うん! よろしくお願いします」

 こうして、私は初めての採取を終えた。


 ――side:シュテル――


 何考えてるかよくわかんない奴だと思ってたが、なるほどな。自分で自分の意思を後回しにしてたんなら、当然か。

 お人よしっつうか、馬鹿素直っつうか、しかもそれを自覚してないってのがな……。

 なんか、危なっかしい奴。

 主神にふさわしいとは到底思えないけど、なんつうか、憎めない。

 これから厄介な奴らと渡り合っていかなきゃいけないからな……。

 まあ、おれがせいぜいしっかり監督してやるとするか。

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