金牛 episode.2&side
「残る核は火と、気か……」
工房で、私は思案する。
「今後の澱みとの戦いに向けて、準備も進めておかないといけないよなあ……」
戦闘力ではほぼ役に立てない私。
私にできることは、アイテムでみんなのサポートをすること。
「よし、今の内に、作れるアイテムを充実させておこう。そのためには、ガンガン採取することだよね」
火に有効なのは水。気に有効なのは火。
「材料になりそうなアイテムを集めに行こう」
「それで、今日の採取地はここにしたんだね」
「うん。ついてきてくれてありがとう、ティア」
「お礼なんていいよ。でも、そうやって次の戦いに備えて行動するなんて、主神はえらいね」
「そ、そんなことないよ。ちょっとでもみんなの力になれたらと思って……」
「うん。みんな、心強いと思う」
「そうかな。そうだといいな。……それにしても、う~~寒いね!」
ティアと一緒に、私はカルト雪原に採取に来ていた。
見渡す限りの雪景色だ。びゅうびゅうと吹雪も吹いている。
「はぐれないようにしないと。お互いを見失ったら、見つけられそうにないよ」
「本当。すごい吹雪……」
「主神、ほら」
「え?」
「手、つないでいこう。離れないように」
「あ、ありがとう……」
一瞬どきりとしたけど、ティアの表情は責任感に溢れていて、単に私の安全を確保することだけを案じているのが分かった。
(命綱みたいなものなんだから……)
大人しく手をつながせてもらう。
つないだ手は温かかった。
「主神はさ、土の核に続いて、水の核の澱みも祓ったんだね。もう半分だ。頑張ってるね」
「うーん、でも、水の核のときは、澱みにも知性がみえたんだよね。成長してるっていうかさ。今こうしてる間にも、次の澱みは進化してるかもしれない。――だから、早く見つけて、見つけ次第退治できるように、準備をしておかなきゃ」
「きっとすぐに見つかるよ」
「……そうだね。シュテルが頑張ってくれてるものね」
「主神は、副神と仲良くなったよね」
「えっ……そう?」
「うん。最初はぎこちない感じだったけど、最近はずいぶん息があってるっていうか、信頼しあってる感じがする」
「そう……かな。ありがとう。だったら嬉しいな。シュテルのことは、頼りにしてるよ」
「主神と副神の連携が取れてるのは、すごくいいことだよ。僕も、そんなふうに主神との絆を築けるよう、努力するね」
「そんな、努力なんて――わたしこそ! みんなに認めてもらえるような主神になれるよう、頑張るね」
「あはは、そんなに力まなくてもいいよ。主神は自然体でいいんだ」
しばらくは、そんなふうに和やかに会話をしながら採取をしていたけど……。
「主神、何か来るみたいだ。気をつけて!」
急にティアが迎撃体勢をとった。前方に意識を集中させる。
吹雪の中から現れたのは、数匹の狼だった。
お腹をすかせているのか、今にもこちらに襲い掛からんばかりにしている。
「ウォルフだ。主神は下がっていて!」
ティアがレイピアを素早く繰り出す。二連撃で最初の一体を仕留めた。
「私も……風塵来!」
アイテムで応戦し、もう一体にダメージを与える。
倒しきらなかったが、すかさずティアが一撃を与えて勝利した。
「さすが、ティアは強いね」
「十二柱神の中ではそうでもないけれど……でも、主神は僕が守るから。安心して」
「ありがとう。心強いよ。私もアイテムで頑張るね」
その後も何度かウォルフと出くわしたけど、危なげなく勝ち進むことができた。
でも――。
「あれは――主神、止まって」
「どうしたの?」
「いけない、ウォルフの王だ」
「ウォルフの王?」
「うん。名前の通り、このあたりのウォルフの親玉だよ。普通のそれより、かなり強くて強暴だ」
「今の私達で……勝てる?」
「本当なら避けて通りたいけど……採取地を抜けるには、倒していくしかないみたいだね」
ティアがレイピアを構える。
「大丈夫。僕が盾になるよ」
「ティア……」
ティアはいつも私を守ろうとしてくれる。
でも私は、守られるだけじゃなくて、力になりたかった。一緒に戦いたかった。
「いくよ!」
ティアがウォルフの王に駆け寄る。
「紙壁の守り!」
防御力を下げてからの、渾身の一撃。
「グギャアァ!」
王は大きなダメージを受けてのけぞる。
その間に、手数の多い攻撃を繰り出すティア。
王のHPはどんどん削られていった。
この調子だと、なんとか勝てそう。
そう思ったとき――。
「グ……グワアアアッ!」
瀕死の状態になった王が、突然暴れだした。
これまでにないスピード。そして力。
「ティア、危ない!」
叫んだ瞬間。
王の突進が、ティアを吹き飛ばした。
「ティアー!!」
ティアは地面に倒れ伏し、動かない。
王は私に狙いを定めて、姿勢を低くしている。
このままじゃやられる!
「ええい……効いて! 爆裂弾!」
祈りをこめて、手製のアイテムを放り投げる。
すると――。
ドガアン!
強烈な爆発音とともに閃光が炸裂した。
もうもうと煙が立ち込める。
あたりに充満した煙が、風に流されたあとには……。
「やったあ!」
地面に横たわった王の姿があった。
「ティア! 大丈夫!?」
「あ……主神?」
戦いが終わってすぐ、ティアにはHP回復薬を使った。
かなりの重症だったが、薬は効き、跡形もなく傷は回復したようだった。
「気がついた? よかった~」
「あれ……ウォルフの王は?」
「うん、なんとか、倒せたみたい」
「倒せたって……主神一人で?」
「私は武器はからっきしだけど、アイテムがあるからね」
「……そっか。情けないところ、見せちゃったな。主神のこと、守るっていったのに」
「……ねえ、ティア。そんなこと言わないで」
「え?」
「私は、守ってもらうだけの女の子じゃ嫌だわ。だって、私が主神でしょう? 私にだって、十二柱神のみんなを守る資格はあるはずよ。困難には一緒に立ち向かいたいし、力になりたいわ。私には、私にしかできない能力をもらってるんだもの」
「……」
「だから、一人で何もかもやろうなんてしないで。私にも、あなたと一緒に戦わせて」
「……。そうか。僕は、主神に、謝らないといけないみたいだね」
「え、え? 謝るなんて、どうして?」
「ずっと君の事を、守らないといけない、僕が気遣ってあげないといけない存在だとばかり思っていたよ。でも、違うんだね。きみは一人で十分戦える。僕の、信頼できる仲間だ」
「ティア……」
「もう、採取は十分だろう? そろそろ、帰ろうか」
「うん。帰りましょう」
――side:ティア――
参ったな。僕が守るつもりだったのに、逆に守られて、助けられるなんて……。
僕を癒してくれる、主神の力は温かかった。
十分な力をもつ主神を頼もしく思うと同時に――。
困ったな。君に助けられた力を心強くも思うけれど、同時にはがゆくも思うんだ。
ずっと君を守ってあげられたらよかったのに――って。
どうしてだろうね。十二柱神としては、主神の力が強力なことは、望むべきはずのことなのに。




