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イシス,天蠍 episode.2&side

 水の核を浄化してから数日後、工房で作業をしながら、私は浄化の時のことを思い返していた。

 主神と十二柱との絆が重要だということで、私は皆との交流を深めているけれど――、多分、深まっている絆は、私と十二柱の皆との間だけではないのだろう。

 彼ら自身の、十二柱の中でのお互いの絆も、きっと深まっている。

 それは私にとっても、ひどく嬉しいことだった。

 そんなことを考えながら、なんとなく朗らかな気分で作業していると、工房のドアがノックされる音がした。

 誰か来たのかな?

「はーい」

 ぱたぱたと向かい、そのドアを開けると、そこに立っていたのは意外な姿――、天蠍宮のルピオさんだった。

「ルピオさん――。おはようございます。工房にいらっしゃるなんて、珍しいですね」

「お早うございます、主神。――不躾なお願いですが、本日採取に出かけられるのであれば、僭越ながらこの私が供をさせていただきたいと思い、はせ参じました」

 そう言って、ルピオさんは一礼する。

 あ、相変わらず、ものすごく丁寧な人だな……。

「それは、わざわざありがとうございます。――ちょうど、今日は出かけようと思っていたんです。ルピオさんに一緒に来ていただけたら、心強いです」

「――もったいないお言葉です。それでは、お供致します」


 工房を出た私達は、まず街の広場に来ていた。

「ルピオさん、すみません。採取に出かける前に、酒場に寄ってきてもいいですか? ――受けていた依頼があって、達成分を納品してきたいんです」

「もちろんです。どうぞ、お心のままに」

 酒場に入り、マスターに無事、アイテムを納める。

 すると、ふと思い出したように、マスターが口を開いた。

「そういえば――、今年もそろそろ、影の(とき)がやってくるな」

 ――影の、刻?

「マスター。影の刻って……なんですか? 初めて聞くんですけど――」

「おや、嬢ちゃんは知らねえのか。この辺りではな、年に一日だけ、影が訪れるんだよ。真昼の夜――とでも言うかな。そん時になると、昼間でもまるで夜のように、陽の光がかげっちまう。――その影の刻が訪れるのが、今日さ」

「へえ――! そうだったんですか……。知らなかったなあ」

 元の世界で言う、日食みたいなものだろうか?

「噂によれば、なんでもその影の刻だけに咲く、幻の花なんてのもあるって話だぜ」

「なんだか、ロマンチックな話ですね」

「ま、あくまで噂だがな」

 情報を教えてくれたマスターに礼を言い、私は酒場を後にした。

 ――幻の花か。

 ……なんだかちょっと、興味があるな。


 酒場をでたその時、なにやら言い争うような声が聞こえてきた。

 街の正門に向かう道の方からだ。

「何だろう――、けんかかな。ルピオさん、ちょっと様子を見に行ってもいいですか?」

「――しかし、主神に危険があれば――」

「争いごとを、放っておくわけにもいかないでしょう? ――お願いします」

 手を合わせて頼み込むと、ルピオさんは嘆息していった。

「――分かりました。何かあれば私がお守りいたします」

「ごめんなさい……。ありがとうございます」

 そして、私達は声がする方向に向かう。

 すると――、そこにいたのは、意外な人物だった。

「――もう! だから私は、大丈夫だって言ってるじゃない!」

「いけません、お嬢様。そんな危険な場所にお一人で行かれるなどと、じいは許すわけには参りませんぞ!」

「じいは心配しすぎなのよ! 今日しかないの。どうしても、今日行かなければならないのよ。――神秘の花は、影の刻にしか採取できないんだから!」

 そこで、上品な初老の男性と言い争いをしていたのは、以前に酒場で、(一方的な)ライバル宣言をして去って行った、偉術研究機関付属学園の生徒さん、イシスちゃんだった。

 どうやら、街の外に出ようとするイシスちゃんを、男性がどうにか止めようとしているらしい。

 ――とにかく、このまま、争わせておくわけにはいかないな。すでに周囲の注目をかなり集めてしまっている。騒ぎになる前に、止めなきゃ。

「ちょ、ちょっと――、イシスちゃん、一体どうしたの?」

 声をかけると、きっ! と彼女は私を振り返った。

「何よ! 今取り込み中――。あ、あなたは、何でも屋!」

 私の顔を見るや、驚いた顔をして、こちらに、びしっ、と指を指してきた。

「な、何でも屋……前も言ったけど、私の名前は有紗だよ。――それより、これは何の騒ぎ? ずいぶん、注目を集めちゃってるけど……」

 そう言うと、初老の男性は、申し訳なさそうにこちらに一礼してきた。

「これは……、お見苦しいところをお見せし、申し訳ありませぬ。私は、イシス様の執事で、ルーイヒと申します。――アリサ様。ご高名は、うかがっております。街のために、数え切れないほどの依頼に貢献していらっしゃるとか」

「ルーイヒ! あなた――何でも屋に礼を尽くすなんて、どっちの味方よ!」

「ちょ、ちょっと――。私の事は、いいですから。それより、一体何を争っていたのか、聞かせてもらえませんか?」

「――ふんっ! あなたには関係のないことよ」

「お嬢様! 失礼ですぞ」

 ルーイヒさんは、そうたしなめると、私に向き直った。


「――実は、お嬢様が、お一人でフェーア渓谷に向かわれると仰るのです」

「フェーア渓谷!?」

 ルピオさんが、驚いて声を発する。

「……ルピオさん、フェーア渓谷って?」

「――その名の通り、高い山に囲まれた谷間ですが……、地形も険しく、辿り着くだけでも困難な所ですし、強力なモンスターも出没します。そんな所に、こんな少女が――ましてや、一人で向かおうなどと、無茶としか言いようがありません」

「そんなこと……分かってるわよ」

 悔しそうに、イシスちゃんが言う。

「でも、私は、どうしても行かないといけないの! ――今日を逃したら、次に手に入れられるのは一年も後なんだから!!」

「ね、ねえ、イシスちゃん。……さっきも、今日じゃないとだめなんだって、言ってたよね。どうして、そんなにフェーア渓谷へ行きたいの?」

 問いかけると、渋々ながらも、イシスちゃんは理由を話してくれた。

「……今日は、影の刻がくる日よ。――神秘の花。大きな力を秘める、とても重要なマジックアイテム。フェーア渓谷の、その谷底に咲くといわれるその花は、その影の刻にしか姿を現さないの。――私は、どうしても神秘の花が必要なのよ。一年なんて、待ってられないわ! だから、ルーイヒ! いい加減私を離してちょうだい!」

「いいえ、お気持ちはお察しいたしますが――、この私の目の黒いうちは、お嬢様を危険にさらすことは認めませぬぞ!」

 いつの間にかまた、言い争いが始まってしまった。


「――事情は分かりました」

 それを止めるように、私は言う。

「――イシスちゃんは、絶対にその、神秘の花が必要なんだね」

「そうよ!」

「危険があったとしても、諦める気は、ない?」

「――ないわ」

 頑としたその姿勢に、彼女の意思の固さを悟った。

「分かった。――じゃあ、私達も一緒に行くよ」

「――主神!?」

 ルピオさんは慌てたように声を上げ、イシスちゃんとルーイヒさんは、ぽかんとして私を見ている。

「あ――、あなた、話を聞いていなかったの? 危険だといったでしょう!?」

「あ、ありがたいお話ですが、貴方様にそこまでしていただくわけには――」

 二人が口々に言ってくるけれど、乗りかかった船だ。

「大丈夫ですよ。こう見えて、戦闘には慣れてますし。それに、私も神秘の花っていうのに興味があるし、――なにより、イシスちゃんを一人でなんて行かせられないよ」

「ア、アリサ様……」

 ルーイヒさんが天の助けとばかりに私を見る。

「――大変、手前勝手な願いで恐縮ですが……、では、ではどうか、イシスお嬢様をお願いできますでしょうか――」

「もちろんです」

「――いやよ。助けなんて、借りたくないわ! 私は一人で大丈夫だって言っているでしょう!?」

「お嬢様。何度も申し上げておりますが、お一人で行かせるわけには参りません。このお二方と共には行けないとおっしゃるのであれば、ここは決して通しませんぞ!」

 そんな風にすったもんだの末、どうにかイシスちゃんに、私達の同行を認めさせたのだった。


「――主神、こうなった以上、どこへなりともお供いたしますが……、どうか、安易に危険な所へ行かれるのはお控えいただきたいと思います」

「わ、分かってます……。ごめんなさい、ルピオさん。でもほら、神秘の花って貴重なアイテムみたいですし――、きっと私達にも役に立ちますよ!」

「……明らかに後付けの理由に聞こえますが……」

 そんな会話をしていると、イシスちゃんが怪訝そうに私達を見てきた。

「……ねえ、『主人』って、この騎士さんはあなたの従者か何かなの?」

 問いかけるイシスちゃんに、ルピオさんが答える。

「――はい、この方は『主神』。私はこの方にお仕えする身です」

「ふうん……。ずいぶん立派な従者がいるのね、何でも屋。あなたってひょっとして、すごいお金持ちか何かなの?」

「い、いやまあ、そういうわけでもないんだけど。あ、あはは……」

 詳しく話すわけにもいかないので、笑ってごまかす。

 ――ルピオさんとイシスちゃんの会話は多分かみ合ってないけど、嘘は言っていないし、このままにしておこう……。


 途中、幾度かの戦闘を経たけれど、驚いたのは、イシスちゃんが予想外の戦力となったことだった。

 彼女自身が作ったと思われる戦闘用アイテムを数多く有し、しかもそれを見事に使いこなしていた。

 さすがに一人でこの採取地を突破することは不可能だったと思うけれど、あれだけの自信があったのもうなずける。

 ルピオさんの心強さは言わずもがなだし、おかげでさほど苦労することもなく、採取地の最奥まで辿り着けたのだった。


「この崖の底に、神秘の花が咲いているはずよ」

 フェーア渓谷の奥地、大地に大きな亀裂が走っていた。幅は十メートルほど、底を見下ろすと目がくらむほどに遠い。ここを、降りていかないといけないなんて……。

「じゃあ、行ってくるから」

「イシスちゃん!?」

 そういって彼女は、縄状のアイテムを取り出すと、身支度を始める。崖の高さにも、臆した様子はない。

「先に言っておくけど、神秘の花を採取する役目は譲る気はないから。この通り、命綱も準備してきたから大丈夫よ。ちゃんと荷重軽減の効果もついているから、普通に降りるよりもだいぶ楽なはずだし。あの花の採取だけは、私自身の手で行いたいの」

 そこで顔を上げ、一度私を見た後視線をそらし、不承不承と言った感じで、イシスちゃんは続けた。

「……ここまで、ついてきてくれて助かったわ。あなたの従者も、あなた自身のアイテムも、とても強かった。わ、私だって負けてはいなかったと思うけどっ。――でも、やっぱり私一人で来るのは難しかったんでしょう。その点については、感謝しないでもないわ」

 ……どうしても、素直にはなれない子みたいだ。

 そしてイシスちゃんは、決意を込めた目で私を見つめた。

「――だけど、この下には私が一人で降りるわ。それは止めないで」

「……何か事情があるようですね」

 ルピオさんが言う。

 イシスちゃんは答えない。でも、おそらくそうなんだろう。だけどその事情を説明するつもりはないようだった。

 どうやら、止めるのは難しいみたいだね。

「――わかった。もう止めないよ。……だけど、その命綱だけじゃやっぱり危ないから――」

 言って、私はアイテムを取り出し、崖に向かって投げる。

「――雲の階段」

 ほわん、と、人一人が充分に乗れるくらいのサイズの雲が、いくつも出現した。

 ふわふわと、階段状に等間隔で、崖下まで雲の道ができていく。

「これを、使って降りてよ。命綱と合わせて使えば、怪我をする可能性は減ると思うから」

 そう言ってイシスちゃんを振り返ると、彼女は呆気にとられたように雲の階段を見つめていた。

「こんなアイテムも作れるなんて……、あなたって、本当にとんでもないのね」

「い、いやあ、たまたまだよ」

 うーん、一応神様だからなあ、とは言えないし。

「――ありがたく、使わせてもらうわ」

 そして彼女は、雲の階段を降りて行った。


 どのくらい待っただろうか。無事に辿り着けたかどうか心配になり始めた頃――。

「取って、来れた――!」

 崖の入り口に、彼女の姿が見えた。

 両手に、美しい花をいくつも抱えている。

 その花弁は、深い海のような、蒼から紫紺のグラデーションをもち、ビロードの様な美しい光沢を放って、幾重にも折り重なっていた。

「これが、神秘の花。綺麗な花だね――……」

 思わずその美しさに見入ってしまう。

 イシスちゃんは、その花を大事そうに鞄にしまった。

 ――と、そこで力尽きたようにその場に座り込んだ。

「イシスちゃん!?」

 駆け寄ると、真っ青な顔をして小さく震えている。

「こ、こわ、かった――!」

 思わずといった風に、目に涙を浮かべている。

 無理もないと思う。この高さだ。どんなに安全策をとっていたとしても、その道程は充分に恐ろしかったんだろう。無事に採取を終えて、安堵で思わず力が抜けてしまったみたいだ。

「――お疲れ様。よく頑張ったね」

 支えになろうと、イシスちゃんに手を伸ばす。

 その手を取り、震える足で、彼女がなんとか立ち上がろうとした、その時。


 彼女の足元の崖が、崩れ落ちた。


 もともと崩れかかっていたところに、何人もの体重がかかったせいなのか、理由は分からないがとにかく――。

 足を踏み外したイシスちゃんは、バランスを崩し、倒れこんでいった。

 何も無い、空中に向かって。


「――イシスちゃん!!」

 とっさに、握っていた彼女の手を、力いっぱい引き寄せる。

 小柄で細身の彼女の体は軽く、私の動きに従って何とか崖の上に引き戻された。

 ――のだが。

 彼女を引き寄せた反動で、私と彼女の位置がそのまま入れ替わる。

 すなわち――。

 私の体は、空中に放り出された。


 一瞬、手持ちのアイテムが検索するように頭をよぎる。だめだ。使える物はない。雲も近くには無い。そもそもアイテムを使うような時間はない。何かに、つかまって――。

 コンマ何秒かの間にそんなことを考えながら、だけど私の体は硬直したままピクリとも動かなかった。

(――落ちる――!!)

 思わず、ぎゅっ、と目をつぶったその時。

「主神!!」

 しっかりと、私の腕が握られた。

 それに支えられ、がくん、と私のからだが吊り下げられて空中に浮かぶ。

 見上げると、見たこともない程に焦燥の色を浮かべた、ルピオさんの顔が見えた。

 彼が、私の腕をつかんでくれたのだ。

 そしてそのまま、私は、力強く崖の上まで引き上げられた。


 地面に足をつき、その時になって、どっと冷や汗が出てくる。

(あ、危なかったあ……!)

 体が先に動いちゃったけど、ルピオさんが助けてくれなかったら、今頃私の体は崖下だった。

 お礼を言おうして顔をあげると、すぐ近くにルピオさんの顔があった。

 私の両肩を、ルピオさんの両手ががっしりとつかむ。

「なんと――危険なことをされるのです!!」

 ルピオさんに怒鳴られる。

「一歩間違えたら、貴方が落ちていたのですよ!? 人を思いやる、主神のそのお心は素晴らしいと思います。ですが、少しは御身のことをお考えになって下さい! 貴方一人のお体ではないのですよ!? もっと、ご自分を、大切に――」

 そこまで言い、安堵したように表情を緩め、ルピオさんは続けた。

「――ご無事で、よかった……」

「……ごめんなさい」

 素直に謝るしか、私に出来ることはなかった。


「――お嬢様、アリサ様! お帰りなさいませ」

 街に戻ると、執事のルーイヒさんが出迎えてくれた。

「無事、採取できたようで何よりです」

「あ、あはは、まあ何とか……」

 あんまり無事じゃなかったけど……。

 イシスちゃんが私に向き直ると、鞄から神秘の花を数本取り出した。

「――半分は、あなたのものよ。受け取りなさい」

「え――、いいの? イシスちゃんが取ってきたものなのに」

 そう聞くと、ふいっと顔を背けて、彼女は言った。

「――あなたたちがいなかったら取って来れなかったわ。……色々、ごめんなさい。――助けてくれて、ありがとう」

 後半はぎりぎり聞き取れるくらいの小声だった。

「でも!」

 勢いよく指を突きつけられる。

「ライバル宣言は撤回しないから。――あなたより実力のある偉術師に、いつかなってみせるわ!」

 そして、彼女は颯爽と去っていった。

 ルーイヒさんが、申し訳なさそうに声をかけてくる。

「……お嬢様の態度を、お詫び致します。今回の件では、まことにお世話になりました。――言い訳になってしまいますが、お嬢様がこれほど固執したのには、理由がありまして。神秘の花は、高い治癒効果を持つアイテム。実は、お嬢様のご親友の病を治すには、その花が不可欠と分かり……」

 そうか。それでイシスちゃんは、自分の手で花を取ってくることに、あれだけこだわったんだ。友達を、助けたかったんだね。

「アリサ様方のおかげで、治療の目処も立つと思います。――本当に、ありがとうございました」

 丁寧に一礼して、ルーイヒさんもイシスちゃんの後を追って、去って行った。


 帰り道。

「――それにしても、ルピオさんってほんとにお役目に忠実ですよね」

 助けられた時のことを思い出して言うと、ルピオさんは不思議そうな顔で問いかけてきた。

「役目、とは?」

「だって、私が落ちかけた時、ものすごく怒ってたじゃないですか。ルピオさんにあんなに怒られるの初めてだったから、結構びっくりしたな。十二柱としてルピオさんは私を守るのが役目だから、その責任を果たそうとして、私が危ないことばかりするのを怒ってくれたんですよね?」

 そういうと、なぜかルピオさんはひどく動揺したような顔をした。

 そして、そのまま何かを深く考えるように黙り込んでしまう。

「? ルピオさん?」

 再度問いかけると、どこか上の空で返事が返ってきた。

「そう――ですね。主神をお守りするのが、私の役目です……」

 ? なんだか少しルピオさんの様子が変だけど……。

「まあ、今後は言われた通り、もう少し危険な行動は慎むようにします。今日は助けていただいて、ありがとうございました」

 そう言った時だけは、ルピオさんは嬉しそうに微笑んでくれた。

 うん、もう迷惑かけないようにしなくちゃ。


 ――side:ルピオ――


 ――主神が落ちそうになった時、心臓が止まるかと思った。

 私は、十二柱の一員として、主神に仕える身。主神をお守りし、お力となるのが役目。

 だから、主神の仰ったことは間違っていない。あの時、私には、主神をお守りする責任があった。

 間違っていない、はずなのに――。

 なぜだろう、そう指摘されて初めて、主神をお助けした時、役目や責任ということなど、考えてもいなかった自分に気がついた。

 ――では、あの焦燥感はなんだったのだ?

 主神をお助けできた時の、安堵感は?

 ……分からない。

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