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双子 episode.1&side

 その日、私は、双子宮のヴィルさんと一緒に採取に来ていた。場所は、金牛宮のティアさんとの縁で生まれた採取地、ゲブーアト湿原だ。

「すっげー。オレ湿原って初めて来たかも! 歩きにくそー。下手に歩いたらその辺で足捕られそうだよな。やだぜー、オレ、靴汚すの。あ、主神見てみろよ、あっち! あっちの方は農耕地になってるみたいだぜ。生えてんの麦かな? 麦っぽいよな? そういえばさ、小麦と大麦ってあんじゃん。あれって何が違うのかねえ? 別に見た目が小さい大きいって訳じゃねえんだよなー、確か。な、主神知ってる?」

「ご、ごめんなさい、あんまりよく知らないです……」

「あ! 向こうの方にモンスターっぽいのいるぜ! 蛇だ蛇。大蛇。うわー、気持ちわりー!」

 ……き、聞いてないな……。

 こんな調子で、ヴィルさんは会ってからずっと、ほとんど一人で喋りっぱなしだった。どうやら非常に好奇心が旺盛な人らしく、色んな物に興味津々で次から次に話題が変わる。

 話題についていくのも一苦労――というか多分ついていけてない。ほとんど相槌らしい相槌も打てていないのだけれど、元々それがあろうとなかろうとヴィルさんは常に喋り続けているので、あまり関係がないようだった。


「しっかし、主神と会うのも久しぶりじゃねえ? 冷たいんだよなー、他のやつらとは採取に出かけてるのに、オレは後回しにしちゃって。もっと早く声かけてくれよー。退屈してたんだぜえ。出かけたくて出かけたくてうずうずしてたっての」

「あ、ご、ごめんなさい。もっと早く会えたらよかったんですけど、色々やってたら、なかなか皆さんにお会いできなくて――」

「あっはは、だよなー! 十二柱とか多すぎだっての。一日一人と出かけるにしても一巡するのに十二日かかっちゃうもんな。やばくね? 毎日二・三人と会ってた方がいいんじゃねえのー? 主神。あ、ていうかさ、普通に話してくれよ普通に。丁寧に話しかけられるとなんか気持ちわりいし! さん付けもなしな! ヴィルでいいって。ヴィルさんとかまどろっこしいしー」

 さ、最後まで喋る暇がないっ。

 ……まあ、私は元々よく喋るほうではないので、喋ってもらえるのはありがたいと言えばありがたいのだけど。

 しかし、よくそんなに口が回るなあと素直に感心してしまう。

「ヴィルって、すごく弁が立つよね。いつでも、誰とでも滑らかに会話ができるというか……。すごいなあって思う」

「あー? そんないいもんじゃねえよ。よく言われるぜー。口から先に生まれてきたんだろうって。でもさー、あのことわざってどうなんだろうって思わねえ? なんに対して口から先にって言ってんだろうな。だいたい皆、頭側から生まれてくるわけだから口って結構先に出てくるほうだと――ん? あーそうか。頭より先に口から生まれたんじゃねえのってこと? それって考えなしって言ってるようなもんじゃねえ? はっはー、だとしたら結構失礼なことわざだよなー」

 ほ、ほんとによく喋る……。


「いや、私が言いたかったのは、ちょっと違くて……」

「ん? なになに?」

 ヴィルが、ひょいっ、とこちらを振り向く。

「ヴィルって、今別に、特にテンションが高いわけじゃないでしょう? 私と採取に来ること自体も、それほど興味をひかれてる訳じゃないよね。気が進まないことをしている時や、自分から好んで一緒にいるんじゃない人と居る時でも、そうやってすごく楽しそうに、軽々と喋れるのってすごいなあって思って。私は口下手だから尊敬する……」

 そこまで喋ったところで、ふと違和感を覚えて私は言葉を止めた。

 これまでだったら喋り終えるのを待つ間もなく、ヴィルが言葉をかぶせてきていたけど――あれ? 何も言って来ない?

 怪訝に思い、ヴィルを見る。

 すると、いつものヴィルはいつものにやにや笑いを消して、こちらを見ていた。あれ? なんか雰囲気が……。

「なんで、そう思った?」

「え?」

「オレが、別にテンション高い訳じゃないって、なんで思った?」

「……いや、なんとなく、目の印象とか、雰囲気とかから、そうかなあって……。それに――いつでも、誰といる時でも、同じように喋ることができるってことは、それって逆に言えば、どんな時でも『特別』ではないってことでしょう? もちろん、今も。だから、特別じゃない時にもそんな風に楽しそうに出来るってすごいなあって――」

 あ、なんだろう。いやな予感がしてきた。話してるうちに、ヴィルの表情が次第に笑みに変わってきて、目が楽しそうに細められて、獲物を見つけた猫みたいに瞳が煌いて――

「へえ?」

にやっと笑った。

 あ、なんか、地雷踏んだかも……。

 けれどすぐに、ヴィルはいつものように軽薄な調子に戻り、喋り始めた。

「ははっ、尊敬するとかすごいとか、オレにそんなこと言う奴も珍しいぜー。いっつも、うるさいとか少し黙れとかそんな風に言われることばっかだぜ? まあでも口下手だっていうんならオレと足して二で割ったらちょうどいいのかもなー。ただ、まあ、口下手はともかくとしても、あんたはちょっと自分に正直に喋りすぎなのかもしれねえな。あんまり素直に思ったことを口に出してると――」

 ――と、そこで一瞬だけヴィルは楽しげに目を(すが)めて、言った。

「――余計な奴の興味を引いちまうかもしんねーぜ?」

 そして、元通りの調子ですたすたと歩いていく。

 ……私、言ってはいけないことを言った気がする……。


 ――side:ヴィル――


 くくっ、おもしれーこと言ってくれるじゃん。

 いつでも、誰とでも同じように喋れるなら、いつだって特別じゃない、か――。

 正解だよ。オレが適当に喋ってたのも見透かされちまったってことか。目の印象、ねえ? たいがい、こんな風に接してたら女の子は勝手に気を許してくれるんだがな。

 思ったより、歯ごたえがありそうじゃん。少しちょっかい出してみるのも面白そうかもな。

 くっ。十二柱の仕事に少し楽しみができたか。

 感謝するぜ? 主神。


【採取アイテム】

・《大麦:ビールや麦茶、醤油や味噌の原料になる》

・《小麦:小麦粉の原料になる》

・《淡水魚:臭みはあるが食べられる》

・《肥沃な土:作物の育ちやすい豊かな土》

・《大蛇の鱗:七色に光って綺麗》


【習得スキル】

・固定 Lv.1

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