表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/36

処女 episode.1&side

「明日は、採取に行くか。誰か、供のリクエストはあるか?」

「う……、ない――というか、残りは気まずそうな人が多いからなあ……。選択肢が少ないけれど、あんまり苦手な人ばっかり残しても後がしんどそうだし……」

 私がごにょごにょ言っていると、

「……分かった。勝手に俺が決める」

シュテルにぶった切られた。あう。


「――シュピラーレの密林。主神と白羊宮のヴィッダーとの縁で生まれた採取地です。現在の温度28℃、湿度86%、不快指数が相当に高いためお疲れになるのは無理もありませんが、採取を終えるにはまだ早いと考えます、主神」

「あ……はい、分かっています。まだ止めるつもりはありません……。い、行きましょうか」

「そうですか。それなら良いのですが」

 場所は熱帯雨林――要するにジャングル、である。あまりの蒸し暑さにバテて、歩く速度が落ちかけていた私を、処女宮のユングさんが婉曲(えんきょく)叱咤(しった)する。なんとか気を取り直し、足を速める、が……

「密林は人が生活するのに適した環境とは言えませんが、動植物に関して言えば多様な生態系を形成しています。ここにしか生息しない固有種も多い。採取する上での収穫は多いでしょう。ん、主神。2時の方角2メートル地点、及び9時の方角3メートル地点に採取物があります。もれなく採取して下さい」

「……は、はい。ありがとうございます……」

ユングさんの冷静な口調が、やっとのことで掘り起こした私の気力を根こそぎ奪っていく。れ、冷静に分析しないで……。

 和やかな世間話も出来ない中での熱帯雨林の探索というのは、肉体的にも精神的にもなかなか「くる」ものがあった。

 いかん、気力が持たない。なんとか話をつなごう。

「ユ、ユングさんは、すごく、色んなことに詳しいですよね。分析力も高いというか……」

「当然ですね。情報は非常に有用なツールであり、いわば武器です。『彼を知り己を知れば百戦殆(ひゃくせんあや)うからず』といいます。私に言わせれば、情報収集もなしに自分の行動を決定できる人こそ信じられません。何事にも、あらゆる要素(ファクター)を知り、多くの可能性を考慮した上で行動してこそ、最善の一手を選ぶことが出来るというものでしょう」

「……ユングさんの、仰るとおりです……」

 返す言葉もない。

 問題は、それを完璧に行うことが非常に難しいということなのだが、どうやらユングさんにはそれが出来てしまうらしい。脅威だ。

「彼を知り己を知れば、か……。己を知るっていうのも、結構難しいことだよなあ……」

 独り言として呟いたのだけれど、予想外にその言葉への返答があった。

「ほう。己を知ることの困難さを自覚しているというのはいいことですね。自分の事というのは、理解したつもりでいて意外と理解していないものです。自らを主観ではなく客観で捉えることが必要ですからね」

「あ、ありがとうございます」

 やった、褒められた。

「逆に言えば、客観的に捉えることさえできれば、己を知ることはなんら困難ではないのですが」

 ……と思ったら釘を刺された。ぬか喜びでした。

「情報か……。あ、そうだ」

 呟いているうちに、ある事を思い付き、私はユングさんに声をかけた。

「あの、ユングさん」

「はい。なんでしょう、主神」

「それだけ色々な事をご存知ということは、もしかして十二柱の皆さんについてもお詳しいんですか?」

 私が問うと、ユングさんはあからさまに心外だという顔をして答えた。

「当たり前でしょう。それこそ、真っ先に知っておくべき事項です」

「それ――」

 一歩ユングさんに近づいて、言う。

「差し支えない範囲でいいので、私にも教えていただけませんか。十二柱の皆さんのこと」

 少しばかり、言葉や態度に熱が入っていたのだろう、ユングさんは一瞬戸惑った様子をみせたが、すぐに得心したように言った。

「なるほど。私達の情報を入手することで、より効率的に縁を深めようという訳ですね。砦を攻略するために、まずその構造を調べることは定石です。手法としては悪くない」

「あ、いえ。そうじゃなくて――」

 私は言葉を継ぐ。

「単純に、皆さんのことを知りたいなって、理解したいなって思ったんです。素朴な興味というか――」

「……興味?」

「はい。その方が私も喋りやすいし、話がはずみやすいんじゃないかなって思って……」

「……話が、はずむ……?」

 だんだんとユングさんの口数が少なくなり、ついには、

「……すみません。ちょっと、私には、理解しかねますね」

考え込むようにそう呟き、採取地の奥へと歩き去ってしまった。そ、そうですか……。そんなに変なこと、言ったかなあ?

 それでも、十二柱の皆さんについての情報は、きちんと詳細に(それはもう詳細に)教えていただけたのだけど。


 ――side:ユング――


 どうも、理解しがたい人ですね、主神は。

 思いのほか理にかなう発言をしたかと思えば、よく分からない理由で行動したりする。

 行動するからには、何らかのリターンを想定しておくべきでしょう。情報を入手したなら、その有用な活用法を普通考えるはず。

 それなのに、理解を深めたほうが話しやすいから、とは……。

 だが、確かに、私の価値観において重要な「情報」という話題について主神と話をすることは、不快なものではありませんでした。むしろ快かったと言ってもいい。

 これが、話がはずむ、ということ――でしょうか?


【採取アイテム】

・《植物のつる:丈夫なつる。これだけで橋を造ることも出来る》

・《柔らかいコケ:ふかふかしている》

・《赤い土:ジャングルの土。レンガの原料にもなる》

・《シュタム:木の幹。木材になる》

・《甘い果実:何の果実か分からないけど、甘くて美味しい》

・《巻きつきの木:他の物に巻きつく特性を持つ。たまに巻きついた物を絞め殺してしまったりする。こわい》

・《ケモノの毛皮:美しく丈夫な毛皮》


【習得スキル】

・蒸留 Lv.1

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ