Intermission 忍び寄る影
「ケ、ケケケ……。マダ……マダオレハシンデナイ……」
氷を割り、這い出て、向こうで騒がしい人間たちを殺そうと魔法を構築する。
奴から貰った暗黒魔法〈魔神剣〉を練る。
「シネ――」
と言った瞬間。
「貴方が死んで」
――ドス
悪魔の頭から魔法で作られた鋭利の物が突き出る。
あっけなく悪魔は糸の切れた人形ように動かなくなり、やがて朽ちて消えて行った。
後に残ったのは丸く、黒い紋章。
悪魔に止めをさした者はそれを拾い上げる。
その者は「ごくろうさま」とだけ言い、袖を捲る。
黒い紋章を腕にあてると、溶けて行くように沈んでいき、最終的には刺青のように残った。
すると携帯が振動し始めたのでため息と嫌そうな顔で電話に出る。
『こんちゃ~。……とまだ夜だったね。こんばちゃ~』
「ば」が入っただけで夜のあいさつになるのだろうか?
『あれ? 無視? もしかして嫌がってる?』
もしかしなくても嫌がっている。今さっきから喋っていないのだから。少しは察してほしい。
『まぁいいや。そろそろ報告の時間だし。聖地と天使の仲間は何人? あと聖地が持ってる神の数』
何人? そう言われるとかなり多い気がする。
最低でも十人はいる。神は二体。そう言うと電話の相手は別段気にした様子もなかった。
ただ、
『それ自分も入れて無いだろうな~?』
と調子に乗ったような口調に戻って聞いてきたので、自分は何の反応も示さずに普通に「入れてない」とだけ言った。
『うわ~。マジで返してきちゃったよ。冗談のつもりだったのに』
無論、知っていて言ったので、そのことを声のトーンを変えずに返す、と、
『マジで傷つくんだけど……』
しょんぼりする声がした。
自分はどうでもいい的な表情で「傷つけ」を二回ほど連呼した。
『かなり棒読みだよ!? どうでもいいとか思ってるんでしょ!?』
肯定する。
『ヒデェ!』
そろそろ通信をやめなければいけないだろう。
通信中の携帯を問答無用で切った。
きっと次会った時、いろいろと言われるだろうが気にしない。
「…………」
自分は氷の花を一つ摘む。
すると、月に照らされていて綺麗だった花はどんどん溶けていき、ついには消えてしまった。
それは今、フェデルと言う一人の男の命が消えてしまったように。
――だが、そんなものは、別段気にしない。
生きていても死んでいても、自分の行動に支障はないからだ。それに……、
――人の命なんて簡単に壊れる。
自分はその団体に戻っていく。
彼らに見せたことのある表の顔に戻しながら……。
次のターゲットを見つめたまま……。
「…………篠桜……マナ」




