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帰りましょう!



 フェデルが亡くなってしまってから数分後。

 周りには冥福を祈るボクを初め、キリ、マナと、全員が祈っていた。

 それに気づいたソウナはありがとうと、か細く、震えるような声で礼を言っていた。

 それからまた数分後。

 冥福を終える。


「ソウナさん……」

「ええ……。こんな所でいつまでも泣いてるような私じゃないわ」


 そう言って立つソウナは強い人だと思う。

 涙の跡がくっきりと残っているけど、彼女の瞳はいつもの光を取り戻している。

 彼女にしてみればまだ心残りがあるのかもしれない。

 だけどここでいつまでも泣いていても何も変わらないことを知っているのだろう。

 だから涙を止めて、前を向く。


「みなさん。父の冥福をお祈りしてくれて、本当にありがとうございます」


 その言葉にみんなは励ましの言葉をかけた。

 その時に、いつもの明るいトーンだけどどこか悲しげな声が聞こえた。


「人が無くなるのは悲しいわね……やっぱり」

「そうですね……? 母さん!?」


 ズサァァッとみんなして後ずさる。

 居るとは思わなかった。

 よくよく見ると真陽もいる。


「最短時間で来たんだけど……もう終わっちゃってたみたいね♪」

「この氷はなんだぃ? と言ってもリクぐらいしか思いつかないんだけどねぇ」

「い、一体あなた達は今までどこで――!?」


 そこで気づく。

 他の人もそれに気づいたようで、口を開けたり、それぞれが信じられない物を見るような眼をする。


「どうしたの? その顔?」

「い、いや……だって……。母さん! その傷は一体何!?」


 母さんの服も、真陽の服もズタボロに切り裂かれていて、血が滲み出ている姿は生々しい。

 魔力もほとんど残っていない。


「いや~。ちょっとやらかしてね~♪」

「ちょっとって何!? 何をしていたの!?」

「まぁ今は良いじゃないかぁ。お客様も来たみたいだからねぇ」

「お客様?」


 すると、この部屋の唯一の扉が開け放たれ、人が流れ込んでくる。


「な、なに!?」


 うろたえるボクたちだけど、何人かは思い出したようにしている。


「あ~……。これだけ派手にやりゃあ……なぁ?」


 誰にでもなくキリが問いかける。


「通報もされるか……」


 雑賀は諦めたように流れ込んでくる人たちを見る。


「と言うよりも、今まで邪魔されなかった方が奇跡だ……」


 ガルムがケルベロスを返しながら言った。

 当の部隊はザッザッザっと音を立てて入ってきて、綺麗に整列する。


「止まれぇ!」


 ザッと音を立ててボクたちの前に綺麗に並んで静止するようにして止まる。

 ボクたちの前に止まった部隊は腰の剣帯には統一された紋章の剣が納まっていて、全員が緑色の軍服のような服を着ている。

 そしてやはりと言うべきか、その左胸の部分に全員が同じ紋章が刻まれている。

 その紋章にはR,Aと書かれている部分がある。


「ええっと……R,Aって……?」

「……ロピアルズ」


 あ、そっか。

 『R』OPI『A』RUZUでR,Aか。ってローマ字?

 ボクはまだ来て数日だけだけど、何度か出てきたその組織になるほどと思った。

 確かこの国最大の組織だっけ?


「しかも警察会ですわ……」

「どうしてそんな事がわかるんですか?」


 R,Aはロピアルズだけではないのだろうか?


「会にはそれぞれ決められた服がありますわ。それでいてあの方たちは軍服のような格好をしていらっしゃいますの、わかりますわよね?」

「それが警察会の格好って事?」

「そのとおりですわ。ただ……警察会はかなり愉快な方が多いと聞きますが……」


 どういう意味だろう?

 すると、先ほど全員に、止まれと叫んだ人がこちらを向いて歩いてくる。

 だけどその顔にボクは見覚えがあったのでつい言葉を漏らしてしまった。


「あれ? シーヘルさん?」

「「「何!?」」」


 みんな、ボクの呟きを聞いていたようだ。

 母さんとユウと白夜は驚いていなかったようだけど。いや、白夜はちょっと肩が揺れたような気がしたから内心では驚いているかもしれない。


「リク! あいつと会ったことあるのか!?」

「シーヘルって警察会統治者のシーヘル・ツヴァイの事!?」

「【双竜の右翼】がどうしてここに!?」


 みんな言いたいことがあったようだ。

 だけどボクが聞き取れたのはこれだけだった。

 とにかくボクはキリの質問に答えておく。


「えっと。シーヘルさんはボクに(、、)とても優しい人で、子供のころからよく世話をしてくれていたんです」

「ボクに?」

「ええ。母さんはあの通り自由奔放で、ユウも血を濃く受け継いでしまったのでよく愚痴とかを聞かされました。それを続けていったらいつの間にかボクにだけ優しくしてくれて……。なんででしょう? ユウや……特に母さんにはとても厳しい人です」


 そういえばどうしてボクにだけ優しいんだろう?

 キリや雑賀や妃鈴など複数人がこめかみを押さえている。

 すると、シーヘルが母さんの前に足を止める。


「カナ様。任務は無事終了いたしました」

「あ♪ ありがと♪ そうそう、雁也ちゃん、今日大手柄だったから今月の給料を三割ほど増やしておいてね♪」

「了解いたしました」


 この会話を聞いた瞬間。

 カナと真陽とユウと白夜と雁也以外が考えることを放棄してしまった。


「何だろう……俺には幻覚と幻聴が見える……」

「大丈夫だよキリ……。ウチも同じ……」

「妃鈴、俺の頬をつねってくれ」

「今は力加減ができませんがよろしいですか?」

「ガルム先輩……。明日、病院に一緒に行きませんか?」

「ああ。そうだな。今回の戦いで俺はどうもおかしくなったようだ」

「どうしてでしょう……わたくし、とても感激しておりますわ!」

「レナさん。感激しちゃいけないんです……」


 感動しているレナにツッコム。


「ひどいじゃないみんな! 私がロピアルズの社長で――」

「「「それ以上は言わないで(いうな)(いわないでください)!」」」

「む~」


 頬を膨らませる母さん。

 だってあんな自由奔放な人がこの国最大企業の社長で良いのだろうか……?

 よく安泰していますね……。


「でもカナちゃんが社長なのか~。こんな可愛い社長さんだって知ってたら俺はすぐに入ってたんだけどな!」

「あら、デルタちゃんありがと♪ 今からでも入る? 諜報会に♪」

「マジですか!?」


 デルタが母さんに近寄ってそんなこと言ってるけど本気なんだかどうなんだか……ん?


「「「デルタ(さん)!?」」」


 どうしてここにいないはずの人が!?

 それに応えてくれるようにデルタは頭の後ろをポリポリとかきながら言った。


「いや~。最後の最後ぐらいこっちにきても――」

「……さっきあの人たちにつれてこられてた」


 そう言って白夜が指さすのはロピアルズの人たち。


「びゃくやちゃぁぁん……」


 泣き崩れるデルタ。

 白夜はそれを無表情で虐げるようにして見る。

 滑稽な絵だった……。


 デルタが連れてこられたのは元と言ってもジーダスの一員だったのだから仕方がないのだろう。


「お~お前ら。少し休憩したら幻魔や悪魔調べだ。……こんな夜中に悪いな~」

「いえ。良いですシーヘル様。何より今はここにいるみんなで言いたいことが……」


 シーヘルの隣にいる男の人が発言した。

 それにシーヘルは口をにやつかせた。


「ん? お前らもか? よし。言っていいぞ。責任は持たん」

「了解です。では……」


 ザッと一歩前に出て、母さんの前に並ぶ。


「?」


 そのことに母さんはハテナを浮かべた瞬間。


「「「一般人を巻き込んでいるとは何事ですか!?」」」

「ひゃぅぅ」


 突然のロピアルズ警察会の団体の叫び声とも思える説教を母さんは耳を押さえて目をバツにした。

 そして警察会の方々が言ったことにシーヘルはうんうんとうなずいていた。


「ちょっとまって~。私だってリクちゃん達が来てるなんて思ってなかったのよ~。それにそれに――」

「「「それとこれとは話が別です!!」」」

「ひゃぅぅ」


 またもバツにする。

 まぁ、確かにこれだけの兵力を母さんが持っていて、攻めていたら真正面から戦って普通に勝っていただろう。

 だけど……。


「待ってください、みなさん!」

「? リク君? どうかしたのか?」

「シーヘルさん! 母さんは何も悪くないんです! ただ、たまたま会っただけで……。ボク達が独断で動いて、母さんはいなかったから」

「それでもだ! リク君がそんな傷だらけに……?」


 そこでシーヘルは何かに気づいたようだ。

 何に気づいたのかわからないボクとしては頭にハテナを浮かべるだけだが。


「リク君」

「はい……」

「髪、伸ばしたのかな?」

「え? いえ。これはこの指輪の所為で……」


 そう言って指にはまっている指輪を見せる。

 性転換する指輪だ。

 シーヘルはそれに気づいたようで母さんに振り向き……。


「あ・な・た・は、自分の息子に何してんだぁぁぁぁあああっっっ!」

「ひゃぅぅぅぅ」


 母さんの首襟を持って怒鳴るシーヘル。

 慌ててボクはシーヘルに弁解をする。


「し、シーヘルさん! この指輪には理由があって――」

「それだけでなく! 何を考えてリク君にヒスティマの事を教えたんですか!?」

「シーヘルさん! ヒスティマの事は自分で知って――」

「ああ、リク君! 辛かったよね! 大変だったよね! こんな自由奔放でわがままでいつもトラブルばかり引き起こす母と妹なんて放っておいて私の家に来なさい!」

「え!? 母さんはともかく、どうしてユウまで入ってるの!?」

「ちょっと待ちなさいユウちゃん。私はともかくってどういうことよ~」


 ガバッとボクの体ごと包む。

 シーヘルの首元までしか、ボクの身長は無いので完璧に腕の中に埋もれてしまう。

 ユウの抗議の声が入っていたがもはや聞いていないようだ。


「ししししシーヘルさん!? こんな人前で何やっているんですか!?」

「大丈夫! 私の家に住むことはきっとリーナも許してくれる! って言うかむしろ住めって言うはずだ!」

(さっきっから全然聞いていないんですけど!?)


 顔を赤くしてなんとか抵抗するも魔力が残っていなくて力が出ず、結局、このままの状態になってしまった。


「おいシーヘル・ツヴァイ! お前なんてうらやま――ゴホン。なんていかがわしい事している! 俺とかわ――ゴホン。リクちゃんから離れろ!」

「「「…………」」」


 みんなして雑賀を冷たい目で見る。


「隊長! まだ仕事あるんでしょ!? 俺(私)とかわ――奥さんが悲しみますよ!!」

「「「ロピアルズの人まで!?」」」


 マナ達の心の中はロピアルズ警察会の人達の反応を見て混乱中になる。


「そうだぞシーヘル! テメェばっかりズリィぞ!!」

「「「言いきった!?」」」


 みんなしてデルタをバカでも見るような目で見る。


「黙れ外野!!」

「「「とりあえず離せ!」」」


 二人と警察会の人々の息がぴったりとあった。


「仕方ない……。リク君。いつでも私の家に来ていいからな。リーナにも言っておく」


 そっとシーヘルはボクを離す。

 名残惜しそうに……。


「い、いえ……。あの二人はボクがいないとどこまでも自由になってしまうので……」


 さりげなく断っておく。

 そのことに、シーヘルの気持ちがちょっと落ちているような気がするのはきっと気のせいだろう。

 そして母さんとユウが騒ぎ始めたのも気もせいだろう。


「とにかく、説教はロピアルズ本部に戻ってからにしましょう」

「えぇ。まだ続くの……?」

「当然です。所で……」


 そう言うとシーヘルはボクの横を抜け、ソウナの前に移動する。


「あの……何か?」


 ソウナも、さっきまでの雰囲気とは打って変わっているロピアルズ警察会統治者に緊張しているようで機嫌を伺っている。

 シーヘルは一度、ソウナの後ろにいるフェデルを一瞥すると、右手を握って胸にあてる。


「あなたの父親……。フェデル・エンジェル・ハウスニルに祈りを捧げます……」

「「「祈りを……」」」

「――ッ」


 ソウナは両手を口にあてる。

 さっきまで流していた涙が自然とまた流れてくる。


「ソウナさん。フェデルさんを正式に弔いたい。悪魔の汚染を取りはらった後、葬儀をさせていただきませんか? 絶対に汚染を取り除きましょう。【双竜の右翼】の名にかけて」

「…………は、い……。ありが……とう………ございます……」


 涙をまたながし、震えながら答えるソウナ。

 まさかシーヘルから言われるとは思わなかったのだろう。

 ソウナは足をくじかせ、膝で立っている状態になる。

 ボクは近寄って肩に手を乗せる。


「帰りましょう、ソウナさん」

「……ええ。ありがとう……リク君。でも……私には帰る場所が……」

「だったら!」


 ボクはソウナの腕を持って無理やり立たせる。



 力強く。



 しっかりと地面を踏ませる。



 もうくじけないように――



 涙を乗り越えていけるように――



「ボクの家に帰りましょう! 家族が増えるのは大歓迎ですよ! ソウナさん!」



「ッ……!」


 ソウナは驚いたような顔でそれでどこか嬉しそうで……。

 フェデルを見る。優しい顔で亡くなってしまった父を一瞥し、そして……。


「……じゃあ、お願い……しようかしら……」

「任せてください! きっと、楽しくして見ますから!」




 涙を浮かべた彼女の手を取り、ボクは駆け足で外へ――。


今回の話。五千字ほどとなっていますが…………仕様です(==;

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