三の太刀
「キ……サマ……ぁ……。グ……ガァァァアアッッ」
ボス……いや、悪魔が苦しむようにしてもがく。
『リク! 刀を抜け! もう出るぞ!』
「わかった!」
ボクは嫌な感触を感じながらボスの体から刀を引き抜く。
最初は血が出るかな? と思ったけど引き抜いたところから血が出ることは無く、黒い靄がさらに流出したという状況だった。
一体どうなっているのだろうと思いながらもボクは足を動かすことなく黒い靄をジッと見つめていた。
そこで〈魔神剣〉なる魔法を思い出し、急いでその場を離れようとするが、特に足元が黒く染まるようなことも無く、いつまでたっても来ない魔法に対し疑問を感じる。
「ルナ……〈魔神剣〉は? どうなったの?」
『む……。そういえばさっきから来ないのぅ』
ルナも知らないみたいだったが、答えはすぐに出てきた。
『『心配』にはおよびません。〈魔神剣〉には『凍結魔法』の『永久の氷結〈フリージング・タイム〉』でこおってもらいました。もううごくことはないでしょう』
いつの間にか帰ってきていたシラにお帰りと、ありがとうを言っておいた。
シラの魔法が頻繁に来なかったのは〈魔神剣〉を封印していたからなのかもしれない。
〈魔神剣〉の心配をしなくていいことにホッとして改めて黒い靄を見る。
黒い靄はボスからはもうでなくなり、膝をついてそのまま倒れた。
「お父さん!」
「ソウナさん!?」
いつの間にかボスを挟んで僕と丁度反対側にいるソウナに驚く。
息を切らして足を止めているソウナはできる限りの速さで走ってきたのだろう。
ソウナの叫びにも聞こえる声はボス……いや、ソウナの父に届いたらしく、ソウナの父は倒れたまま、ゆっくり目を開ける。
「ソウ……ナ……か……?」
「お父さん! 今治して――」
「すぐに……逃げろ……! ヤツの……悪魔の……狙いは……お前だ……!」
「…………大丈夫……たとえ私が狙われていようとも、ある人に聞いた。救われるって……」
ど、どういうこと?
ソウナの父の言葉に動揺するが、それ以上にソウナの言葉にも驚く。
すると黒い靄がどんどん人型に形作り――ギュンッ。
「! ソウナさん!」
黒い羽をもつ悪魔……グレムリンがソウナに向かって直行する。
ボクは自分の出せる限りの速度で走りだすが、到底、悪魔のスピードについて行くことができない。
ソウナはグレムリンが近づいてくるのをぼんやりとみている。
「ソウナさん!? 早くその場を離れて!」
そんなボクの話も聞こえていないのか、ソウナは左手を悪魔に向けて、口を開く。
「私ね……。リク君達がジーダスに来る直前だと思うけど、ある人に会ったの」
「何を言っているんですか、ソウナさん――!?」
すると、ソウナの左手に魔力が溜まる。
だけどその魔力はボクが見たことのあるソウナの魔力で無くて……。
「その人、背中に大きな大剣を持っていて、白銀の髪が光に照らされると赤く輝いて、場違いな雰囲気を漂わせる男の人で、どんな経緯があってかはわからないけれど、私に力を貸してくれたの」
左手に纏う魔力はどんどん膨らんでいく。
グレムリンはその魔力に戸惑い、直行するスピードを落とす。
ソウナはまだ、言葉を続ける。
「大事な場面の時に使え。そう言って渡された魔法……。誰だか知らないけど……。利用されてるのかもしれないけど……。お父さんの仇をとれるなら……」
魔力が形どる。
それは綺麗な水晶で出来た魔法剣。
何本も出てきて、グレムリンに切っ先を向ける。
「私はこの場で使う! 行け! 〈魔水晶剣――」
水晶の剣が解き放たれる。
「グギャ!?」
グレムリンはそれに反応できず、無様に突きささる。
「――爆砕死破〉!!」
剣が爆ぜる。
「ギャァァアア!!」
空中に飛んでいたグレムリンは激しい悲鳴を上げて落下する。
なんとか飛ぼうとして、羽をはばたかせていたが、残念。
〈魔水晶剣 爆砕死破〉はグレムリンの腹に穴を開け、片腕を片足を、そして片方の羽を吹き飛ばし、もう片方の羽に風穴を開けていた。
だがまだ死んではいない。
「リク君! お願い! その魔力を解放してヤツを倒して! 私のお父さんを、助けて!」
「――もちろん」
ボクはソウナの声を聞き、駈け出す。
最後に溜めていた魔力。
自分の中身が空っぽになりそうな感覚を覚えながら悪魔に接近。
グレムリンは空中でもがき、なんとか脱しようとしているがもはや手遅れ。
ボクはグレムリンの懐に入り込み、一太刀。
ザンッと刀がグレムリンの体を斬りつける。
ボクはそのまま地上に着陸。
刀を鞘に戻す。
もう、この戦いで抜くことはない。
――終わったのだから……。
「夢幻の幻想……。〈三の太刀 月華氷刃〉」
「グギャァァァァ!!」
ジャキィンッと音が鳴ると同時にグレムリンが凍る。
それだけでなく、その氷は地まで届き、一瞬にして幻魔達も凍りつかせた。
「な、なんだ!?」
「げ、幻魔だけが凍って……」
雑賀や妃鈴だけでなく、みながその異変に目を見開く。
「ハッ。リクめ。やりやがったな」
キリはその様子を見て口をにやけさせながら辺りを見渡す。
そこには……。
「〈氷華の月夜〉」
――大きな氷が一花咲かせ、それを囲むようにして広がっている氷の大地だった。
大きな花の茎の部分に一つ、黒い所があるが、それはグレムリンだろう。
そして幻魔達も全て氷に包まれていて、ところどころに大きさが多種多様な氷の花が咲き乱れている。
夜空の月に輝くそれらはとても美しく、内面まで癒してくれそうだった。
〈氷華の月夜〉。それは〈三の太刀 月華氷刃〉の余波でできる、フィールド魔法。
つまり、『フィールド魔法・天性型』だ。
「すごい……。こんな綺麗な魔法があったなんて……」
「あははは……。それよりもこんな大規模の方がビックリなんだけど……っと」
ついフラッと視界が揺れる。
「どうしたの!? リク君!」
「あははは……。魔力の使いすぎかな……?」
多分そうだろう。
いくらボクが魔力が多くたって、あれだけ魔法を使いまくれば誰だってこうなるだろう。
「……くすっ。ふふ、バカね。こんな大規模な魔法、使わなくてもいいんじゃなかったかしら?」
「ちょっとためしたかった……みたいな?」
「氷、何日で溶けるかしらね?」
「う~んと、何日だろう……。でも、溶かすのはもったいないかな……。月に照らされてるこの花たちを見ると……」
それは氷で作られた花。
だけど一つ一つ綺麗に輝いていて、今さっきまで激しい戦いをしていたかなんて思えることができない。
そして周りを見渡しているうちに、一人、横たわっている男の人を見つけた。




