名前って何?
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……。何が大丈夫よエン! 思いっきり壊れて彼女死にかけたじゃない!!」
『い、いや……その……。すまなかった』
「すまなかったで済む問題じゃない!!」
「…………? 私は……生きているの?」
「なんとかね」
本当に危なかった。
エンが大丈夫と言ったのでユウは次の攻撃で完璧に意識をとばすべく、横から回って走ってきたのだが、〈焔神技 直ノ型 焔紅波動〉がもう少しで魔力が切れて魔法が解けそうだと思った瞬間、彼女の魔法が砕け散ったのだ。
別に助ける義理は無かったのだが(お兄ちゃんの顔に傷を負わせた奴だし)、後味が悪いと感じ、このままでは無事では済まないだろう彼女を〈フレイムロード〉を使い、目を瞑ってバカみたいに死を覚悟していたのを半ば強引に助け出した。
乱暴な魔法になってしまったため、〈フレイムロード〉の加速力は音速とまではいかないが、風を超えたような速度となってしまった。
しかし、何とか彼女の手を掴み、〈焔紅波動〉が到達する前に助け出せたのだ。
〈焔紅波動〉は壁にぶつかって、大穴を開けるが、一つの命よりはかなりどうでもいいであろう。
だけどこんな事を考えていられたのはここまでだった。
「……あのまま……殺してくれればよかったのに……」
「はぁ?」
ユウは彼女のこぼれた言葉に苛立ちを覚える。ムカついていながらも、助けたのに、殺せだって?
「今なんて言ったの?」
「…………。殺してくれればよかったのに」
「――ッ。ふざけんじゃないわよ!!」
ユウはそのまま彼女を殴った。
彼女は殴られた頬に手を当て、こちらを見る。
「ふざけてなんかいない! 私は使命を果たせなかった! 残るは……処罰だけ……。どの道、死ぬ……」
「処罰? 誰からそんな処罰が来るのよ」
「ボス以外に誰がいる……」
「はぁ? ボス? 何言ってんの? ボスから来るはずないじゃない」
彼女は顔を上げる。
「あなたは知らない! ボスがどれだけつよ――」
「あんたも知らない。お兄ちゃんが強いのかを」
彼女の言葉を切って、言葉を割り込ませる。
ユウも本当の力を知らないのだが、お兄ちゃんが悪魔に取りつかれた男に負けるはずないと思っている。
「いいえ! あの人はし――」
「死なないよ。お兄ちゃんは死なない。お兄ちゃんには何人もの仲間が背中を守ってる。ボスは一人。あんたも戦闘不能。これ以上、あいつが勝てる要素は無いね」
「ぼ、ボスはまだ本当の力をだして――」
「お兄ちゃんもまだ本領発揮してないんじゃないかな?」
「き、聞きわけの悪い!!」
「あんたもじゃん。それに決着はついちゃったみたいだよ?」
「……え……?」
ユウがお兄ちゃんのいる場所を指す。
そこには刀をボスの腹部に刺して、神の魔力を直接送り込んだところだろう。
「う……嘘……」
おそらく決着はついた。
後は中にいる悪魔との戦闘だけ……。別に初級悪魔だけなら簡単だろう。
そして彼女はその光景を見てどう思ったのだろうか?
目と口を開けて驚いたまま動かしていない。
お兄ちゃんの完勝とまではいかないと思うけど、普通の勝利はつかめたんじゃないかな?
ユウは彼女を見てため息をつくと、思い出したように言う。
「そういえばまだお互いに名乗って無かったね。ユウは赤砂ユウって言うの。あんたは?」
「こ、この状況で自己紹介……? あんたふざけてん――」
「ふざけてないよ? わりと本気だもん」
またも言葉を切って言葉を割り込ませる。
彼女の台詞を否定するのばっかだしね。
最後まで言うの待ってるのもめんどくさいし?
彼女はそれで諦めたのだろうか、疲れたような顔をする。
「今度はあなたが名乗る番だよ?」
「かってに調べれば?」
冷たくあしらう彼女。
じゃあ遠慮なく名前を当てようか。
「うん。劉璃 華蓮」
「!?」
まさか知ってるとは思わなかったのだろう。
華蓮はユウの言葉に唖然とする。
どうして知っているかと言うと、ユウはしっかりと、ここ、ジーダスに来る前にも調べていたのだ。
母さんが、いつか、悪魔の反応がするジーダスの原因を調べさせるために、こうして事前に調べたのだ。それは雁也もそうだろう。
その時にユウは、幹部の名前を全員分憶えさせられた。
だけど、幹部長の名前だけが無く、幹部長に関する事も載って無かった。
独自で調べたのだが、全く名前がわからず、そのままで来てしまったのだが、仮面をはぎ取った時に、彼女だとしり、名前が華蓮だと候補が上がった。
自分の部下が持ってきた、ジーダス名簿欄と言う、バカみたいに名前を並べた中に、一つだけ、女の人の名前があったのだ。
たまたま憶えていて、ここまでくる間に誰一人として女の子と会わなかったし、声は仮面が変えていたのかもしれないが、体格はユウと同じぐらいだったし、まさかねと思っていたのだ。
そのまさかだったわけだが……。
「…………。そこまで知っていて、私をどうしようって言う? どうせ誰も助からない……」
「お兄ちゃんを傷付けたあんたを個人的にブッ殺してやりたいところだけど……」
ユウはため息をついて一間開ける。
「ロピアルズ警察会、シーヘル直属。赤砂ユウの名において、しばらくあなたをロピアルズ警察会の第一級罰則、ユウの監視下に置くわ。まぁ基本はユウの仕事を手伝ったりするから監視下と言うよりも部下にすると言う方が言葉的にはあってると思うけど。ちなみに無期懲役ね。まぁ器は仮面をつけたまましか周りに認知されていないなら変える必要はないね」
すると華蓮は眼を見開く。
「シー……ヘル……直……属?」
あなたが……?
とでも言うような目で見られ、失礼じゃないかな~? なんて考えたりする。
さて……ユウはまだ魔力たくさんあるし……。
「じゃあまたあとでね。まだ幻魔は残ってるみたいだから掃除してくるから。華蓮はそこで見ていてね。ボス……いや、悪魔が倒れるのを、さ」
「悪魔が……倒れる、だと……?」
華蓮は魔力切れでほとんど動けないだろう。
ユウはみんなの加勢をするべく、幻魔討伐へと向かう。
まだ魔力は7割方残っている。
(それでも3割方さっきの戦い+αで使ったんだよね……)
そう考えると、まだ古代を使え切れていなかった彼女は脅威になるものじゃなかったって事。まぁこれから、ユウが気に入ればユウが育てていくつもりだけど……。
まぁ今のところ一番の脅威は……、
――母さんに聞いた事のある『守護十二剣士』か……。
彼ら、彼女らと戦って死ぬことは無いと聞くけど。
実質、何度も戦っている母さんは死んでいない。
一度も勝ったことが無いと聞いたことがあるが、はたして本当なのか嘘なのか……。
その時、お兄ちゃんが見えていたところが黒い霧に包まれた。
「あれは?」
『初級悪魔が人間から出た時の霧だろう。無害だから安心しろ』
「でもあれじゃあ中の様子が……」
『安心しろ。そう言ったのはお前ではないか』
エンの言葉にユウは口をほころばせる。
「そうだね。じゃあユウは幻魔を一掃するべく戦いますか~」
あそこでお兄ちゃんがボスと戦っているのだろう。
なにも心配することは無い。
お兄ちゃんならば、初級悪魔程度に躓くはずがないんだから!
「行くよエン!」
『オウッ』
「〈焔神技・破ノ型 焔舞煉獄 二双連〉!」
一番近くにいた幻魔どもをすべて吹き飛ばす。
イラついていたから、で十分な言葉で。
「ああ、もう! 幻魔なんて見たくないのよぉぉぉっっ!!」
見ていたくない理由?
見ていて気持ち悪いから。




