――ぶち
「あははははは!! バカが! まともに食らえば人間など死ぬ以外ありえ――!?」
ボスの目には何が映っているのだろう?
ボクの目には……、
「こ、氷……?」
ボクを包むようにしてできている氷。
それは地面からボクを押し上げて、全方位にできている。
「な、なんとかまにあいました……」
ボクの隣にはシラ。
手を前に広げている状態で、シラの魔力が氷と繋がっていた。
「これはシラが……?」
「はい。〈クリスタル・ライトウォール〉。わたしがいまげんざいつかえる『最大防御魔法』です」
そう言って魔法を解く。
氷は雪の結晶となり崩れて行く。
『リク! まだ安心してはならん! 〈魔神剣〉とは魔力を流し続ける限り決めた相手を地面から闇の魔力を直接叩きこんでくる悪魔のみ使える暗黒魔法じゃ! まだ安心はできん!』
「わかった!」
ボクはシラに支援を頼んで突き進む。
「チッ。神に守られたか。フンッ」
地面を削りながらの攻撃は魔法の刃が無数飛んでくる。
横に回避すると、後ろからシラの魔法がいくつも飛ぶ。
ボスはそれを見て、今度は地面を削らずに剣で氷を破壊しながら魔法を放つ。
前方範囲魔法だろう。波動のような歪んだ魔法が飛んでくる。
ボクは刀で紙のように斬り裂き、さらに前に進む。
「刀で!? 魔法を使った素振りも無かったのにどうやって!? まさかその刀も神だと言うのか!?」
ボスはボクが契約している神の人数を一だと捉えていたようだ。
それが普通なのだろう。
二人の神と契約するような人はなかなかいないのだろう。
ユウも一人だと思うし。
ボクがボスの元に着いたと同時に走っている勢いを利用して斬り上げ。
ボスは一歩下がって回避、剣を水平に攻撃しようとするが、シラが〈氷弾〉や〈アイシクルソード〉、〈氷槍〉を後方から飛ばしたりして、ボスはやむおえず攻撃を中断し、シラの魔法を回避する。
そこに一歩詰めよって回転斬り。
ギィンッと剣で回転ごと止められたが横に滑り込むようにして一刀。
ボスは剣を横にして刀を防御すると、剣を横に力づくで振り抜いた。
「うわぁ!」
力が強く、ボクの体が飛ばされる。
「穿て!!」
「!?」
ボクが着地した瞬間に地面が黒く染まる。
飛ばされていた力を利用して後ろに跳躍することによって目の前に黒い柱が昇る。
靴を掠ったがなんとか〈魔神剣〉を回避。
そして追撃をしようとするボスが一気に跳躍して迫る。横からシラの魔法が飛ぶが、ボスは上に跳躍して回避。
格好の的だと思うが、むしろ逆だった。
「地に堕ちろ。〈暗黒砲・魔破〉」
ボスの目の前に魔法陣が完成し、ボクを標的として闇の魔法が問答無用で放たれる。
ボクは刀で魔法を斬り裂き、無力化する。
「術式魔法は効かんか……。武器魔法は効くのだな」
術式魔法と武器魔法?
確か、術式魔法が魔法陣を展開してそこから魔法を放つ魔法で武器魔法が武器と身体に魔力を巡らせ、放つ魔法だったよね……。
ルナはどちらも斬れると思うけど。多分、武器に宿った魔法は武器を斬らないと止められないのかも。
『やはりおかしい……』
ルナのつぶやきが聞こえる。
(おかしいって何が?)
『先ほどの〈暗黒砲・魔破〉は中級悪魔からが使える魔法じゃ。〈魔神剣〉だって上級悪魔から使える魔法なはずじゃが……』
戦闘自身に関することではなさそうだ。
ルナの言っている事はこれの勝敗がついてから聞くとして……。
ボクは魔法無しではきついかなと思いながらボクは魔力を刀に通す。
先ほどの攻防で、殺すつもりでやらないと刀がボスに当たらないとわかり、今度は魔力を込めれるだけ込める。
〈二の太刀 雪麗〉を最大まで込めた事がないが、それを知るいい機会でもあるかもしれない。
ボク自身もどれだけ魔力を保持しているかわからない。
そこまで考えて、ボクはふと、『三の太刀』なる魔法を思い出す。
かなり魔力を喰う、絶剣。
使ったことは無いから、どれだけ強い魔法かはわからないが、力は『二の太刀』よりは、かなり強いハズ……。
ボスの剣が目の前に迫る。
身を低くして避け、下段から斬り上げ、上段から斬り下げる。
後ろに回避されるがそれを追撃。
さらに突きを繰り出すと剣で横に払われる。
今度はボスが二、三度剣を振る。
振る速度が先ほどよりかなり速く、一回は避けれたが、他は避けれず、刀で受け流す。
キィンッと甲高い音を上げて、響く。
「はッ!」
ボクは即座に身体強化魔法でボスのスピードについていけるように身体を強化する。
続けざまに剣と刀のぶつけ合いが響きわたり、回避よりも、武器弾きを重要としてきた。
魔法を使わずして攻防が繰り広げられているが、くしくもボスの方が攻撃速度が速く、シラの魔法援護がなければ、ボクは接近することもできなかっただろう。
ボクはさらに二、三度振ってきた剣を刀で弾き会った後、ボクは力を強くし、剣をボスの手から弾くべく、刀を振るう。
ギィンッ
「!? チッ」
剣はボスの手から外れず、しかも少し仰け反っただけで、大きなチャンスにはならなかった。
それでも、これ以上長引かせると、みんなが疲れ切ってしまうかもしれない。
「〈二の太刀 雪麗〉!」
だからボクは決めた。
確実にこれを当てる!
「同じ手は通用せん! 〈武連〉!」
ガガガガガガガガガァンッッッッ!
「無駄だぁ! 先ほどを繰り返すだけだ! そして繰り返したならば俺は貴様を殺す算段はもう付けている!」
「はぁぁぁっっっっ!」
刀の斬撃と剣の斬撃がそれぞれ打ち合うが、体格の差だろう。
ボクの足がふらついた。
それを見てボスはさらに〈武連〉の速度を速くした。
「今回は俺の勝ちのようだな! 小娘!!」
――ぶちッ
「ん?」
剣が高速で襲ってきて、もはや目視できない速度だ。
その中でボスは確かに何かが切れる音が聞こえたような気がした。
「だ……」
「?」
こぼれるボクの声。
そして叫んだ。
「誰が……誰が小娘だぁぁあああっっっっっ!!」
――ガキィンッ
ボスの剣に包まれていた魔力が突如失った。
「な――ッ!?」
目の前の事が信じられないと言う風な目で見るボス。
怒りに満ちたボクはそんなのは知らないと言った風にいまだに発動されている〈二の太刀 雪麗〉をいったん中断して魔力を溜め直す。
「くそがぁ!」
魔法を解除されたボスは悪あがきのように剣で突きを放ってきた。
その突きは完全に心臓部に直撃するコース。
ボクはそれを無視して魔力を溜め直したことにより、ボスは勝ち誇った笑みをしたが……、
――剣がボクの体に当たることはなかった。
「何!?」
「わたしを『忘れない』でほしいです」
シラが魔法を使い、ボスののを中ほどに魔法を当ててはじいたのだ。
ありがと、シラ。
「吹雪の光よ! 善を刻め! 〈二の太刀 雪麗〉!」
魔力を溜め直したことにより、怒りによって体内で爆散しそうな魔力を一気に開放し、そのエネルギーが身体を大きく強化した。
蒼い光の収束された魔力がボクの周りを吹雪のように舞う。
体からほのかな光が散り、刀は音速でボスの体を切り刻んだ。
「はぁぁぁぁぁああああっっっ!」
「ぐぉぉぉぉぉううううっっっ!」
刀は苦もなくボスの体を切り刻み、溜めた全ての魔力を使いきるまで音速の刀は続く。
ボスは手を止め、斬撃の痛みを堪えようと耐えているが、実のところ、耐えているのかどうかはわからない。
キィィィンッ
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「か、体が……動か……」
光の音をたてて、魔力が途切れ、刀は元の速度に戻り、連撃も終了する。
ボスの体は〈雪麗〉の追加効果の硬直で動けない状態。
息が荒れ、体もダルイ……それでも……。
「ルナ……」
『うむ』
「はぁぁぁ!!」
ボクは刀を構え、突き出す。
「ぐぅ!」
ザシュっと音が鳴り、ボスの腹部を刀が貫く。
刀越しに肉を刺す感触がするが、ボスの体が出てくるのは生々しい鮮血ではなかった。
――悪質に満ちた黒い霧が、ボスの腹部から出てきた。




