魔法
「ん……うぅん…………?」
「いい寝顔だなぁ……。こんな寝顔だと食べちゃいたいぐらいだなぁ……」
変な声が間近から聞こえ、ボクは薄目を開ける。
そこには昨夜、家でみた変態さんがいた。
なんで? と思いながらも、とりあえず手元にあった時計を変態さんの顔にむかって投げた。
「へぶっ!」
見事命中。
顔にめり込んだ。
どうでもいいから無視して。
ボクは再度、目をあけて周りを確認する。
そこは白い部屋で、周りにはボクが横になっていたベットと机とクローゼットだけだった。
「ここ、どこ?」
ボクは見わたした顔を元に戻しながら変態さんに聞く。
「痛たたた……。リクちゃん、いきなり時計投げるのはどうかと思うよ……」
そこでは時計でぶつけられた顔を押さえながら答える変態さんの姿がある。
見間違いではなかったようだ。
そしてその言葉に、ボクは白い目をする。
「……あなたが変な顔で見てなかったから投げませんでしたよ変態さん」
「女の子が目の前で寝ているのに何もしないのは男の名が泣く!」
間髪いれずに変態さんは返してきた。
そして女の子とまた言ったのでボクは否定する。
「……ボクは男です。男にまでそんな目で見るとは……。いよいよ『HE☆N☆TA☆I』ですね」
「その呼びかたなんとかならないのかい? リクちゃん」
「ボクの名前をきやすく呼ばないでくれる? 変態」
あ、おちこんだ。
|《ず~ん》って文字が見える。ちょっと面白いかも……。っと、そんなことしてる場合じゃないか。
仕方なしに雑賀――だっけ?――に訊く。
「雑賀さん。ここどこですか?」
「リクちゃんがちゃんと名前で呼んでくれた! よっしゃー!」
泣きながら喜んでる。というか、てっきり名字だと思っていました……。
雑賀って言う名前なんだ……。世の中いろいろな名前があるんですね。
質問を聞かずに喜んでいる雑賀を見ていつまでも進まないと思い、とりあえず時計をもう一回投げようとする。
「ちょ! わかったから。言うから時計を置こうか」
一生懸命とめようとする雑賀。
仕方ないから時計を置いてもう一回問いかける。
「……で? ここどこ?」
ボクの質問に少し間を置き答えた。
「ここは俺の家だ」
ボクの行動は迅速だった。
布団を持ち、部屋の隅に逃げ、そしてジト目で雑賀を見る。
その際、銀色の糸みたいのが見えた。
「ちょ! そこまで!? そんなに警戒する!?」
これまでの彼の行動からして警戒しないと思っている雑賀の頭はおめでたいとボクは思う。
「なぜボクは雑賀さんの部屋にいるのですか? 出来れば詳しく教えてほしいのですが」
そうすると、雑賀は考え込むような感じに顎に手をあてる。
「……ふむ……。その話の前に、いろいろと聞きたいことがある」
「なんですか?」
反射的に答えると、雑賀が手招きしてる。
ベットに座れということだろうか?
さすがにこんなに離れて話をするのもなんなのでベットに座った。
(よっしゃー! リクちゃんが素直に俺の隣に座ってくれた!)
心でガッツポーズをとる雑賀に対し……、
(今何か寒気が……。気にしないことにして……)
それに少し気づくボク。しかし気にしないボクはそのまま雑賀の話を聞くことにした。
「まず一つ。君は魔法を知っているかな?」
「そりゃあ……アニメとかでよく見ますよね」
ボクはユウが良く見ていたアニメとかを思い出す。
確か……『魔法少女ニーナ』だったっけ?
無敵な魔法少女が弱すぎる敵をバッタバッタと倒していく物語だったような気がする。
どこがおもしろいのか全く分からなかったが……。
「いや。アニメとかの話ではなく。実際に現実で使っている人を知っているかな? という意味なのだけど……」
「雑賀さんって意外と電波系ですか?」
「……その様子だと知らないみたいだね」
顔をかしげるボクを置いてなにやら考えこむ雑賀。
なかなか話しださない雑賀をおいてボクは窓にちかづく。
窓からみた景色は特に変わったところは見当たらない。
ただ一つを除いて……。
「どうして……。どうして武器のようなものを持っている人が……?」
映画やドラマとかで見たことがある剣や刀、ガンベルトに納まってる銃まである。
「なんで……? なんで誰も騒がないの……」
この町は犯罪都市? 殺戮都市? なんでもいいけど(よくないけど…)ここは日本じゃない!?
目が回りそうだった。
とりあえず雑賀の隣に移動する。
とそこでちょうど雑賀がしゃべり始めた。
「まず、ここは君の住んでいる世界とは別世界のようなものと考えてくれ」
……別世界……?
「え? ギャグ?」
ボクはまだ雑賀の事を完全に理解できていなかったようだ。
「いやいやいや。だれが本気でギャグなんか言うか」
「今日はエイプリールフール(嘘をついてもいい日。四月一日)じゃないけどなぁ」
「……リクちゃん。現実から目をそらさない」
雑賀がボクを現実に引き戻す。
「はぁ……別世界ですか……」
「そうだ。別世界だ」
自慢げに話す雑賀。
もう何が何だか分からなくなってきた。頭痛い……。
「この世界の名前はヒスティマ。例外もあるが、大まかに言うと魔力保持者しかいない世界だ」
「あ! わかりました♪」
「? なにがわかったんだ?」
頭にハテナを浮かべた雑賀。
ボクは一息ついて……。
「つまり全員電波系ってことですね」
ガクッ。雑賀がこけた。
「て、てごわい……えっとつまりだな……」
「つまりこれは全部、母さんのドッキリですね。それしか考えられません。母さんはいろんなことが好きだったし……。全部母さんの思惑道理だったってことか。手の込んだことを……窓も割っちゃうし……。そういえば前、母さんが真冬に雪山行きたいな♪ とか言っていきなり連れて……、いや、あれは拉致か……。しかも私服で放り出されたなぁ。なぜか死ななかったけど、よく生きていたよボク……。あとは…………?」
「わかった。とりあえずリクちゃんの母親はすごいことがわかったよ……」
雑賀が頭を抱えている。
そのまま動かないで何やらブツブツつぶやいていてちょっと怖いかも……。
「よしっ」
いきなりベットから立ち上がると手を前に出す。
「リクちゃんには見せたほうが早いな」
「何をですか?」
「魔法を……だよ」
風が吹いたような気がした。
しかし空気ではない。
なにか別の空気が流れたようなそんな感じだった。
「我が名は雑賀。荒れ狂う風よ……舞え。〝ウィングゲヴェアー〟」
彼が放った言葉が形を作り始めた。
そしてそれは二丁の短銃となった。
「これが魔法。最初に覚える、自分自身の武器を喚ぶ魔法だ……? どうしたんだ? リクちゃん」
難しい顔をするボク。それに心配して雑賀は呼びかける。
たっぷり一分。ボクはわかった可能性を雑賀に打ち明けた。
「………………………………………………………………手品?」
ズサァァァァ! 雑賀は盛大にずっこけた。