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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第九章 ソウナの願い
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生か死



「まったく。どうして悪魔なんかに力を貸してたの?」

「…………」

「ま、いいけど。とりあえず、最後までこのままね」

「…………だ」

「ん?」


 かすかに聞こえた声に耳を澄ます。


「……だ、ま……な……。まだ、負けてない!!」

「!?」


 瞬時に横に回避。

 ユウのいた場所に数個のダガーが飛んだ。

 彼女はすぐに跳びあがり、空中で静止。


「なんて往生際の悪い奴……」

「往生際がなんだ!! これは殺し合いだ!! まだ負けてない!! 殺し合いは生か死で決まるんだ!! 〈剣舞・防乱〉!!」


 そして彼女は先ほどよりも多い数のダガーを顕現させた。それぞれのダガーが意思を持つようにユウに飛来。

 大剣ではじこうとすると、ダガーが旋回。大剣を避けてユウの腹部をめがけて更に接近。


「な!?」


 ユウは〈フレイムロード〉を後ろに展開して、それにのってすぐに距離をとる。それによってなんとかダガーを回避する。

 しばらく後ろの交代すると、ダガーはこれ以上は進まずに発動者である彼女の所へ戻って言った。複数のダガーが彼女の周りを自由に飛び交う。


「コレで貴様は近づけない! 後はこちらから一方的に攻撃するだけ! じわじわと削ってやるから覚悟しろ!!」


 ダガーを数個顕現、投擲。


「速い……ッ。〈フレアウォール〉!」


 それは今まで以上の速度で投擲されるので、ユウは一度、壁を展開。

 ダガーは全て火の壁に刺さる。

 火の壁といえども、しっかりと物体があるので通り抜けることはできない。


「にしても、厄介だね……。あの魔法」

『直線の魔法のあれを使えばよいであろう?』

「ええ~。あれ直線状の被害がひどいじゃない。それに使ったら彼女の器、壊れちゃうかもだし……。瓶は今日一つしか持ってきてないから二つ目はできないんだよ?」

『いや、あの女子(おなご)死なんだろう』

「? どうして?」


 彼女が死なない理由があるのだろうか?

 直線の魔法は、直線状を全て焼き尽くすレーザー砲のような物だ。

 さすがに本物のレーザーには速度は及ばないが、ユウのレーザー砲は破壊力が半端ではない。

 破壊力を本物のレーザーと比べると、ユウのレーザー砲の方が何千倍も強いのだ。

 人などがまともに喰らえばひとたまりもない即死魔法だ。

 魔法で止めるか、避けるしかない。

 かなりの大きさで避けることはできないと思うが……。


『いや。あの女子ならばおそらくギリギリで受け止めれるであろう。もちろん威力を最低にすればだが』

「? そんなに魔力を持っているの?」

『感じぬか? あの女子から感じる魔力を』


 エンが言うくらいなら相当だ……。

 ユウは彼女の魔力を感じるべく、彼女がいる方角に意識を集中する。

 すると、ダガーに込められた魔力と、それを顕現している彼女を感じ――


(え!?)


 確かに。確かに彼女の魔力だ。

 だけど……、


(大きすぎる!?)


 神使いでもない彼女がなぜここまで魔力を持ってるの!?

 神使いが10人分の魔力以上だとすると、彼女は6……いや、7人分の魔力以上だ。

 それは到底ありえないことだった。


 悪魔が取りついている。

 神と契約している。

 これらならばまだ納得できる。

 だけどこれらのどれでもない……。


 彼女の型は戦っていて、装備(イクウェンメント)だと判断した。

 装備(イクウェンメント)で魔力をここまで持てるはずがない。

 それぞれの型には魔力上限が少なからずあるのだ。

 それを越えようとする者は……いや、超えた者を見たことはない。

 そうすると、黙っていたエングスが口を開いた。


『おそらく、あの女子は、飛翔剣の使い手だ』

「な……ッ。今なんて!?」


 あり得ない……。まだ……残っていたなんて……ッ。




『あの女子の型は、古代(こだい)型の中の飛翔剣の(、、、、)使い手(、、、)だ』




 飛翔剣……。

 確か、空中に浮かぶ剣を自由自在に顕現し、操り、その手に相手の肉を立つ感触を残さずに殺す型。

 それだけでなく、魔力が相当多い理由は剣を操るためだ。

 踊るように舞う剣は、四方八方から来る剣を全て弾く。

 古代(ロスト)型はどれも一人で特定の職の百人と戦うことができるが、その中で飛翔剣は剣士百人以上と同時に戦うことができる型だ。


 どうして彼女が?

 そうも思ったが、その疑問を捨て、今はどうするべきか考える。


『飛剣翔を使うためにはまず、魔力をずっと注ぎ込んでいなければいけない。彼女の使う〈剣舞〉、又は〈剣舞・防乱〉が参考となるだろう』


 確かに〈剣舞〉はかなりの数のダガーを顕現して踊るように攻撃してきた。

 それに比べて〈剣舞・防乱〉は〈剣舞〉とは違い、自分を守るように仕向けている。

 ユウの大剣での攻撃をかわしてのけ、あのまま行けば腹部に必ずと言っていいほど刺さっていただろう。

 そして一定の距離が離れると〈剣舞・防乱〉は発動者の彼女の元に戻り、いまも彼女を守るべく彼女の周りを飛び回っている。


「てっきりそういう魔法だと思ったのに……」

『そんな魔法があったら複数の剣を空中で操った方が有利に戦えるだろう? それらを自在に操れるのだから』


 確かに……。

 いくらかなりの剣豪でも、魔法なしに、一の剣が、自由に操られる百の剣相手に勝てはしないだろう。


「あれ? その一の剣と百の剣って……」


 彼女の無数、それこそ百はくだらないというようなダガーが飛びまわる。

 それに比べユウはエングスの大剣が一つと……。


(今のユウと幹部長だよね? なんてバカなことを考えたりしちゃって~。でも、コレを突破するなら……)


 ユウはすでにお兄ちゃんの事では怒っておらず、だが無意識のうちに大剣を強く握りしめる。


『だが案ずるな。女子はまだ完全に使いこなしていない。投擲するだけが良い例だ。確かに投擲はどれも必中で狙ってきているが、操ってはいない。おそらくあの女子は自分の型をよく理解していないのだろう』

「なるほど……じゃあ、危険視すればいいのはあの〈剣舞・防乱〉だけって訳ね」

『他の可能性もあるだろうが、まずはその魔法だな』


 緊張が走る。

 これまで、ユウは古代(ロスト)と戦ったことがなかった。

 全員が全員、今、見られている型の全てだった。

 だから魔力なんてユウよりかなり下だったし、威力も何もかもが下だった。


 正直敵になりえるものじゃなかった。

 母さんとは、剣を寸止めで交えてるぐらいだった。

 だがいま目の前にいる彼女は古代(ロスト)で魔力もかなりある。

 負けることは無いかもしれないけど、勝つことも難しいかもしれない。

 古代(ロスト)同士の対決か……。


「エン。初め言った直線のあれでいいね?」

『うむ。あれならば、この距離で、威力も最低にすれば、死ぬことは無いし、こちらが不利になることもないだろう』

「わかった……」


 ユウはその魔法を放つべく、一旦〈フレアウォール〉を消した。

 〈フレアウォール〉が消えると、それを待ってたがごとく、投擲してくるダガーの剣の数が増えた。

 だけどユウはそれを落とすようなマネはしない。


 いや、できないと言った方があっているだろう。

 この魔法を使うために魔力を溜めるやり方は、大剣を背中に構えておく必要がある。

 だから、ダガーは体を少し動かして、紙一重でかわすのだ。

 そしてダガーは皮膚から数センチ離れたところを通過。

 その様子に舌打ちをした彼女がダガーを数十個顕現して投擲せんと構える。

 だけど……、


「お願い焔。力を貸して……。〈焔神技・直ノ型 焔紅波動〉!」


 炎はユウの前で突如出現、膨れ上がり、大剣を背中から抜き放って、その炎を思いっきり斬りつけた。

 ズ、ドォォォォォンッッ!!


「!?」


 大砲の如く大剣で撃ちだした炎は、まるでレーザー砲のように焔を後に残して直線にあったダガーは全て砕け(、、)、全てを破壊するかのように迫った。

 彼女は急いで防御魔法を作る。

 彼女の頭に回避という二文字が浮かぶことは無かった。

 なぜならそれはとてつもなく大きく、回避するだけの距離が残っていなかったからである。


「〈剣舞・防御陣〉!」


 数十のダガーを前方に放り投げた。

 するとダガーはそれぞれが規則ある魔法陣のように並んだ。


 そして――ズゥゥゥゥゥンッ!

 ぶつかった炎とぶつけられたダガーの魔法壁が音を撒き散らす。

 いまだに流れ続ける炎に、魔法壁は今にも簡単に崩れ去りそうになっていた。


「強いッ!? 魔力を!!」


 彼女はすぐに〈剣舞・防御陣〉に追加魔力を通す。

 かなりの速度で貪っていく魔法に彼女は驚きを隠せない。

 それでも流さなければこの魔法をまともに受ければ生きて入れる保証はない。

 数秒しかたっていないのに、彼女にとっては数分が経過したと思われた時だった。

 彼女はさらに魔力を流し続け――


 ――砕けた。


 目の前に迫る炎。

 もう逃げ場はなく、魔力も無い。

 防ぐ方法も無い。

 熱気はすぐそこから……。


「ここが……墓……場……? ……そ……っか……」


 彼女は死を覚悟し、目を静かに瞑った……。


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