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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第九章 ソウナの願い
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再会



 キィィ……。


「……一人だけ。……でも縛られてる」


 白夜さんが扉を少しだけ開けてみると、今の言葉が帰ってきた。


「きっとソウナさんだ! 早く入りましょう!」

「焦らないでリク様。白夜さん。人影も無いですか? 少しでもある場合は……」

「…………大丈夫」

「わかりました。ありがとうございます」


 コクンと頷いた白夜を見て、雁也は周りを見る。

 みんな(と言ってもレナとボクだけで、ルナとシラは武装中だ)が頷いたのを見てデルタにカメラの場所を聞くと、扉を一気に開放してカメラを一瞬で全てを壊した。


「一体、何……?」


 いきなりの事に声を発して驚いている……とまではいかない、離れてしまったのはつい数時間前の話だけど、懐かしい声を発する蒼色の髪の少女、ソウナ……。


「よかった……。まだ、生きてた……」


 処刑するのは明日の正午ぐらいだと知っていても実際には見るまで疑っていたぐらいだ。

 ソウナの体を見る限り何の問題もないし、傷も付けられていないから、ボクはそっと胸を撫で下ろし、ソウナに近づく。


「リク……君……? どうしてこんな所へ?」


 ボクの姿を判別できであろうその言葉に、ちゃんと意識がしっかりしている事も確認する。


「ソウナさんを助けに来ました。無事で何よりです……。ごめんなさい。こんなに時間がかかってしまって……」

「なんで……私なんかもために……?」


 ボクはソウナさんの手足についている鎖を見る。

 鍵穴のような物があるが、持っていはいないので斬ってしまえと思ってルナを抜く。


「友達じゃないですか」


 笑顔でそう言うとソウナは絶句する。


「友達って……。ほんの少し話しただけでしょう!? しかも私はリク君をこの世界に巻き込んでしまった張本人なのよ!?」

「ほんの少しではありません。三日です。それに、助けてってその顔に書いてあります」

「!? そ、そんなの書いていないわ! 私はあの時、もうリク君に関わってほしくないからごめんなさいって――ッ!!」


 ボクは鎖に刀をあて、上段に振り上げて一閃。キンッと音をたてて鎖が断ち切れる。

 それを四回やってから、手枷の部分は雁也にやってもらった。


「でも、ボクには助けてって言っているように見えました。ソウナさんは『何か』を隠していて、それを何とかしてもらいたいと……」

「そ、そんな……。でもリク君がどうにかできる問題じゃないわ! あなたはまだ戦闘経験、何よりも魔法に関する知識が足りなすぎる! どう考えても無謀だわ!」


 そうでもないのだが……。

 魔法はルナに教えてもらえればいい。戦闘経験は無くとも、体が戦い方を覚えている。

 それでもソウナはまだ言い足りないらしく、周りにいる三人に向いた。


「あなた達はどうしてリク君を止めてくれなかったの!? 彼はまだ魔法の知識やヒスティマに関することは全て初心者中の初心者なのよ!?」


 だけど三人の言葉はソウナの意思に反し……、


「わたくしはリクさんの考え方は素晴らしいと思いますわ。それにわたくしにとっても友達を見捨てることはしたくはありませんわ」

「……リクちゃんは間違っていない。……それに彼は相当強い」

「私は任務ですから。その上で彼の想いに答えたまでです。私も思うところがありましたので」

「な……な……」


 ソウナはそれを聞くと、口をパクパクさせて絶句した。

 そんなことをしていると、入ってきた扉の方からたくさんの足音が聞こえてくる。

 おそらくカメラが壊れたので急いで駆け付けていたのだろう。

 だけどその足音はボクが初めジーダスに入ってきた時の人たちより少ない気がする。

 おそらく雑賀たちのおかげで衛兵たちの人数がもうわずかしかいないのかもしれない。


「亮。本部には後どれくらいの戦力がある?」

「答えるとでも? 教えろと言われたのは案内までだ」

「今変わった。生か死か、もちろん精神的にだが……どちらか選べ」

「……ならばこちらの要求も増やそう」

「あくまで対等に見るつもりですか……。まぁ少しでも情報を渡すなら少しは刑を軽くしてくれるよう上に取り合ってみましょう」

「……それで良いだろう。ボスと幹部長、衛兵数百……。後は近衛兵が……正確にはわからないが250はいるだろう」


 姿の戻っている雁也が、亮の持っていた剣を首に突き付けるが、素直には答えなかった亮。亮の右の手首にはルナを助けるまでつけていなかった手錠の輪の部分が取りつけられている。それは魔力を使えなくする魔道具らしい。

 人数を聞いているうちに足音が扉の所でとまる。目視できる人数は八人。

 ……ちょっと待って。なんでだろう。10人……8人……。

 走ってきた音を僕はさっきなんて?


『足音は僕が初めジーダスに入ってきた時の人たちより少ない気がする』


 ……どうして、だろう……。頭の中が何かを……憶えて……?

 体がフラリと揺れる。他の人たちはそれがわからないぐらい小さな揺れだった。

 まだ完全な調子ではない……と言う訳ではなさそうだ。


「いたぞ! 侵入者だ!!」

「な!? 亮さんが捕まっているぞ!?」

「そういえば幹部が四人、地下に向かったって言う情報はあるのにここまでくるに会わなかったぞ!?」

「え?」


 ソウナが最後の衛兵の言葉を聞いてボクたちの方を向いてくる。


「わたくしは知りませんわ」


 首を振るレナは白夜の方を向く。


「……レナと一緒。……別行動だったのが途中から一緒になったのはリクちゃんと雁也」


 白夜も首を振って今度は雁也を見る。


「私は少ししか戦っていませんね」


 雁也は亮を転送して、少し肯定し、今度はボクを見る。


「ああはは……。あのときはルナを助けるために……」


 笑って誤魔化せる者ではないが、何とか理由をたてて答えてみる。


「少し私情が入っていたでしょう?」

「う……」


 まさか女の子と間違われた(指輪を外していないので女なのだが……)ので怒って戦ったなんて言えな……い……? …………。


「……って待ってください! 雁也さんも幹部の一人に変装してボクの事言った一人ですよね!?」


 雁也に振り向くけど雁也は反対方向に向いている。

 とりあえずガッと(かかと)で踏んでおいて衛兵たちに向き合う。

 隣で足を押さえている人がいるけど気にしない。


「そ、それでも幹部三人をたった二人で……?」

「正確にはリクちゃんが一人。もう一人と途中までは互角だったのですが、氷剣が割れてしまって、危なくなったので私が倒しました。あと一人は投降しました。以上ですね」


 涙を溜めている雁也がそう言った。

 氷剣と言うのは〈アイシクルソード〉なのだろう。

 あれは雁也がいなかったらボクはおそらく死にコースまっしぐらだったと思う。心の中で雁也に感謝しておく。

 そうしていると衛兵たちが魔力を溜め終え、魔法を放ってくる。


「……〈シャドー〉」


 飛んできた魔法は突如出現した人の形をした影に捕らえられ、全てを呑みこんだ。


「何だあの魔法は!?」


 衛兵達が動揺するのを無視して白夜はこちらを見る。


「……私たちも社長室前に移動する。……他の人たちだってもう向かってるはず」

「確かに……。リクさん。今すぐに向かいましょう。衛兵たちは……白夜さん。なんとかなりますか?」


 コクンと頷く白夜。それからさらに〈シャドー〉を動かす。


「……〈シャドー〉、その人たちを気絶させて。……食べちゃダメ」

「ゥゥォォゥ……」

「え……?」


 心なしか、影が一瞬笑ったように感じてすぐ後に落胆したのも感じた。

 影は一旦消え、次の瞬間には衛兵達の影から複数、それぞれ現れた。


「うわぁぁぁッ!?」

「や、やめろぉ!!」

「来るなぁ!!」


 衛兵達は逃げようとするが、残念ながら逃げることはかなわない。

 影は衛兵達を包み込むと衛兵達は悲鳴を上げ始めた。

 全ての衛兵たちが痛みを感じているようで、絶叫をする衛兵たちの声は耳が痛くなるぐらいだ。何が起こっているのか全く分からないが、おそらく精神によるダメージを負っているのだと思う。

 あるいは神経に直接痛さを感じさせているのかもしれない。


 しばらくすると、やはりと言うべきか、衛兵達の悲鳴が自然と消える。

 影もまた消え、後に残った衛兵達は全員倒れこんでいる。

 白夜の影を見るのはコレで三回目。


 一回目は初めて会った時の食堂で迫り寄るアキとハナを持ちあげた時。


 二回目は影の姿じゃないけど〈密会の夜〉で武器『銃槍(ガンランス)』の姿で。


 三回目が今回の衛兵たちを気絶させること。


 白夜の魔法で銃槍(ガンランス)を影に戻したのかなと考える。

 〈密会の夜〉で銃槍(ガンランス)は自分の影から作られたって聞いたから、影に戻すこともできるんだろうと考えた。

 あとは衛兵達を転送させて、ボクたち一同は社長室へと向かった。

 ソウナは目の前の事に唖然としていたが、ボクが手をひっぱるとソウナはハッとしてボクの後について走った。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



(今の魔法……。もしや……)


 刀となっているルナでも、リクの視界を見ることで周りの世界を見る事が出来る。

 そこから魔法の解析、リクへの援護などが可能なのだ。

 そして今、リクの視界を借りてみた魔法〈シャドー〉は、なぜか解析ができなかった。


 〝ヘカテ〟が知らない魔法、魔術、呪術はない。

 それこそが〝ヘカテ〟の最大の特性であり、最大の強みでもあるのだ。

 つまり〈シャドー〉は魔法ではない、何か別の生物、と言うことだ。

 だが、今のは影から出てきて影の如く消えた……。


 〈シャドー〉が世界に生きる生物ではないと考えれる。

 だとすると……。


(いや、まさかな。ただの召喚された何かであろう。それが特殊なだけだ)


 ルナはそう結論付ける。

 型を二つ持っている人がいない訳ではないからだ。


 実際、リクは神使いと聖地、二つを持っている。

 聖地を介して神と制限なく契約することができ、神型で神の力を使う。


 話が逸れるが、神との契約した数が多ければ多いほど、大昔である()英雄姫(えいゆうき)、〝雷光の姫君〟に近づく。

 だが、妾はそんな姫君にリクを仕立てたくはないが、これからも力を失いつつ(、、、、)ある神々(、、、、)を解放していくと、どうしても近づいてしまう。


 ……それとは別に、リクには驚かされる事が毎回ある。

 キリとの初めての戦闘の時……、

 魔法を初めて使わせた時……、

 相手の攻撃を見ていた時……、

 相手と武器を突き付け合った時……、

 衛兵の足音を聞いた時……、

 そしてこれはジーダス内を走っていた時だが……、



 体が『体術』を憶えていた。



 魔力が『魔法』を憶えていた。



 目が『見切り』を憶えていた。



 足が『間合い』を憶えていた。



 耳が『索敵』を憶えていた。



 全身が『隠蔽』を憶えていた……。



 これをすべて、リクは気づいているのだろうか? どれだけ異常なことだと……。


「ルナ? どうしたの? さっきから黙りこんで……」

『!? い、いや、なんでも無いのじゃ』

「そう? だったらいいけど……、なんかあったら言ってね」

『無論じゃ。妾はリクの刀じゃからな』


 頭の中に残った疑念を追い払い、ルナは目の前の事に集中した。リクに不安を与えないために……。

 そして、ただの偶然だと考えるために……。


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