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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第八章 ジーダス攻略戦・後半
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【雷豪】



 なんだ?

 奥の方からかなりの熱気を感じる。


「よそ見をしていていいのか!」

「問題ねぇな!」


 横から来る掌底を身を伏せてかわしてそこから打ち上げを喰らわそうとするが避けられる。

 それから何発は打ち合い、どちらも同じタイミングで後方に跳ぶ。


「チッ。真似でもしてんのか?」

「それは違うな。たまたまだ」


 うぜぇ奴。それと同時に楽しいけどな。ここまで戦える奴と戦ったことはねぇからな、俺は。

 にしても……この熱気……。


「なぁ。テメェ等幹部の中で炎使いっているか?」

「敵に言うとでも? まぁ先ほどから感じているこの熱気のことだろう? ここまで熱気を伝わらせる幹部はいないよ」

「言うのかよ」

「それは楽しませてもらってるからな。これくらいは感謝もいらないよ」

「ふざけてんのかよ……」


 一瞬で間合いが詰まる。

 パァンッパァンッ! と拳と掌底がぶつかり合い、激しい音が鳴る。


(やべぇな。魔力がもたねぇ)


 これまで魔力が尽きる前にかなり速く終わらせてきたが、今回はそうもいかないらしい。足技を足技で返され、今度は回し蹴りを放ったのを掌底で防がれる。

 そしてそこから掌底が腹を狙うので俺は上からはたき落とし、その勢いを殺さずに横の回転で頭に右腕を振るうが、それは足を止めていた腕で防がれる。

 最初の一撃以外、一撃を入れていないからだ。打ち、防ぎ、さらに打つが、さらに防がれる。


「く……、はぁぁああ!!」

「当たるか! 〈轟崩拳〉」

「〈雷火掌〉」


 パァァァァンッ!!


 手から火が出るが〈雷迅〉の稲妻属性のおかげですぐに消える。さすがに火も稲妻の速さの前ではかき消えてしまうのだ。にしても……。


「オラァ!!」

「クッ」


 ガァァァンッ!


 寸前で俺の拳を止める弦は何もんだよ……。

 こっちは稲妻属性のスピードだぞ?

 雷属性とはスピードの差が違うんだぞ?


「そろそろ喰らえやぁぁああ!!!!」

「甘いぞ!!」


 パァンッと音が鳴る。

 それは俺の拳が横殴りで吹き飛ぶ。


「――ッ」

「はぁぁああッッ!!」

「チッ」


 すぐさま離れ――


「どこへ行く!」

「ヤベッ」


 後ろは壁、逃げられない。


 ――ドッガァァンッ


「カッハ――」


 血が口から飛び出る。

 掌底を腹にまともに喰らい、壁をもろに壊してその部屋の反対側の壁に激突する。

 〈雷炎豪火〉で纏っている攻撃は尋常じゃなく、その攻撃は内部破壊。


 俺は口元の血を拭きながら立ち上がる。


(やべ……。どっか壊れたか?)


 動くたびに腹の部分が悲鳴を上げる。

 だけどこんなの……、


「関係ねぇな……」


 口元を緩ませながら言う。これまで、こんなことは何度もあった。

 特に、無理に稲妻属性を使ってフィードバックした時のほうが痛いと考えて、今の痛みをすぐに忘れた。

 ……こんな事できんのは俺だけだと思うけどな。


「何が関係ないのだ?」


 手の具合を確かめながら言う弦。先ほどから稲妻のスピードで蹴ったり殴ったりされているのだ。いくら防御したとしてもダメージは少しでも残るだろう。


「ああ? こんなダメージのことだよ」


 まるで何事もないように立つ。


「……強がりはよくないぞ? 俺は今、殺すつもりで掌底をかましたのだ。動けるぐらいでもおかしい」

「別に関係ねぇだろ? ダメージなんざよぉ」

「……恐るべき生命力……。仙道の息子と言うのは伊達ではないな……」

「そういうあんたは儀式で得た力……か?」

「……俺は儀式などしていない」

「なに……?」


 弦の動きに警戒しながらも、その言葉には驚いた。てっきり幹部は全て儀式を通して魔力を得たのかと思っていたのだから。

 いや、こいつだけ逃れようとしている事もある。簡単には信じられない。


「テメェが儀式をしていねぇ証拠があんのか?」

「証拠はあると言えばある。ジーダスが儀式を始めてからの年月、仕事の達成回数、魔力検査。それぞれ資料室にあるはずだからな。信じるか信じないかはおまえ次第だが……」


 手首を持って柔軟する弦は、そんなことを言うが……。


「信じるか信じないかとか、面白いこと言うじゃねぇか。だけど、俺はそんなこと、どうでもいいんだよ」


 俺は拳を構える。


「相手が強ければ経験値になる。それでいいんだよ」


 自分から振っておいた話だが、痛みを忘れて弦に隣接する。

 それに反応して弦は掌底を放つが、俺はもうそこにはいない。


「!?」


 後ろに移動していて、俺は振り替えりざまに弦に攻撃した。

 それを回し蹴りを放つが、そこにも俺はいなくて……。


「上」

「――!?」


 上という言葉を聞いて弦は上を向いたのだが、そこにもいなくて……。


「右」

「なッ!?」


 今度は右に掌底をかますが、そこにもいなくて……。


「左だぜ?」

「な、何が!?」


 左に足で蹴り上げるが、空振り。


「前だよ」

「!?!?」


 もう何が何だか分からなくなった弦に俺は真正面から大量に魔力を込めた一撃を喰らわす。



「〈疾風迅雷〉!!」



「く、がふ――ッ」


 メリメリッと腹部に俺の拳がかなりいい感じに入ったので、弦は口からの大量の血が吐き出された。その血が俺の顔に少しつく。

 弦は壁に穴をあけてその向こう側に吹き飛ぶ。ガラガラと崩れ落ちる壁は、もはや意味のないただの石となってしまった。

 初めから〈疾風迅雷〉を使えばよかったのかもしれないが、連発して撃てる魔力なんてもう残っていない。


(二度目は使えねぇな……)


 拳をもう一度握りなおして弦を見据えた。


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ」

「……なぁ。弦」

「ゲホッ……。な、なんだ……?」


 顔は苦痛と怒りで歪ませ、こちらを睨むような表情。その顔はまるで虎。

 だけど、そんなもんじゃ俺はびくともしねぇぞ。

 まぁ、んなことはどうでもいいか。俺はある提案をする。


 それは弦が、いつまでも本気を(、、、)出さない(、、、、)のを無理やりにでも本気を出させる方法。


「この戦いで負けた奴は、二つ名(、、、)を勝った者に(、、、、、、)渡す(、、)、な」


 それを聞いた瞬間、弦の瞳孔までもが見開かれたように感じる。


「き、貴様!! 本気で――ッ」

「今まで戦って本気をだせねぇ奴なんかの戯言なんざ聞くかよ」

「!? 気づいて……」

「あったりめぇだろうが」


 俺は拳に魔力を込める。

 それは次の一撃で仕留めるために、最大限魔力を溜める。


「大方、おまえはこのジーダスの経営方針に疑問を持ち初め、俺達が攻めてきたのを好機として、ジーダスを壊すと言うことだ。違うか?」

「……なぜ疑問を持ち始めるのだ? 経営方針に疑問を持っているなら初めから入らなければいいではないか」

「それはお前から答えを言ってくれたじゃねぇか」

「……何?」


 いつ言っただろうか、と言う顔をするが、俺はちゃんと聞いていた。弦が意識せずに言ったのだろうが、それが何よりの証拠だろう。人は意識していなければそんな言葉など出てこない。


「お前は言っただろう? 『ジーダスが儀式を始めてからの年月』。これってジーダスが儀式をする前から弦はジーダスにいたってことだ」

「それが……どうした?」


 弦は少しずつ顔を真剣にしている。


「こっからはただの妄想だけどよぉ。お前が入る時のジーダス当初には儀式が無く、その時の会社の雰囲気はとても明るかったのか? まぁ、んなことどうでもいい。そのころにはお前も納得してたんだろ? そして儀式が始まって、会社の雰囲気が悪くなってきた……とか、そんな感じになって、それに納得できなくなった。だから俺達が攻めてきたのは好都合だってことだ」


 「どうだ?」という顔をして弦を見ると、苦笑をもらす。


「フ……。想像力豊かだな」

「クハハハ。想像力がなきゃ魔法なんて使えねぇぜ?」


 拳の魔力は十分に溜まり、これ以上溜めようとしても魔力が漏れて行くだけだった。後は……稲妻属性の〈雷迅〉のスピードを上乗せするだけで破壊力が格段に上がる。


「……だが、惜しい」


 弦は膝に手をついて立ち上がる。

 そして両手に魔力を溜めていく。


「俺は確かにこの会社にはうんざりしていた。儀式でしか強くなろうと思わない愚か者どもを見てきて、うんざりしていたんだ。そこで、ジーダスを潰そうとする、命知らずの子供と、元ジーダスの者たち。そして……英名」


 ……こちらの人員の姿は全員憶えた、ってわけか……。いや、人数は言ってねぇからわからねぇが。

 弦は壊された壁から出てきて、こちらをジッと目線で捉える。


「英名がいた時点でこのジーダスは終わりだろうと思っていたが、英名はなぜか出てこない。隠れている線も考えたが、お前とずっと戦ってきて、その線は消えた。ボスのところに行ったのかもしれないが、いまだに戦いが続いているという事は出てきていないということだ」


 弦の両腕にこれまでと全く違う魔力の量が溜められる。


「結局、英名が出てこなければジーダスは壊れないだろうと思って、俺はお前たちの前に出たが……。やはり、試したくてな。女の方は奥に行ってもらったよ」


 バチバチッと雷のうるさい音と、ゴゥ……と炎が立ち上っている弦の両腕には本気の一撃だろう魔力が溜められた。

 これ以上は魔力が増えそうもない。


「もういいだろう?」

「ああ、そうだな」


 弦の言葉に肯定して姿勢を低くすると、弦も姿勢を低くした。


「二つ名賭けだ。内容を聞こうか」

「簡単だ。世界ゲーム『一撃必殺』。それぞれ一撃の魔法を放ち、勝った方の勝ち」


 さて、説明していなかったな。

 この世界(ヒスティマ)には勝負で二つ名の賭けごとをすると、世界が反応し、負けた奴の二つ名が勝った奴の二つ名の配下となる『設定』をしてしまう。


 これは誰でも知っているゲームで、コレを知っていて二つ名を持っていない者は多いが、相手を操ってやらせることなどできないし、すべての了解を得て、心からこのゲームをしようと思わない限り開始されないのも世界ゲームだ。

 無理やりにこのゲームに参加されることはないからそこは安心できるし、卑怯な事も出来ない。勝った奴の配下となった奴は基本、なんでも勝った奴の言うことを聞いてしまうし、一生だ。

 世界の力がそうしてしまう。


 ただし、一ヶ月ほどで、負けた者は勝った者に二つ名を返してもらう世界ゲームを挑戦できる権限を与えられる。

 それまで縛られるのが嫌で、この賭けをしない者たちばかりで、俺もこの賭けをしたのは今が初めてだ。


 そして、この賭けを弦が承諾した瞬間、誰かに見られてるような気がしはじめた。

 ……おそらく世界、ヒスティマだろうが……。


 まぁ、



 ――関係ねぇか。



「行くぞ【雷豪】。本気見せねぇ限り、テメェの死は確実だ」

「俺が本気では、俺の相手にはならないのではないか? 【一匹狼】」


 二人して皮肉を言い合う。

 そしてその場が誰もいなくなったと思った瞬間。




 ――――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!!!!




 あまりの絶音でかき消えた轟音が、音の無い空間にしてしまったが、後に来た沈黙の空気は二人の勝敗を告げた。


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