赤の世界
そこは赤の世界だった。
家の中だったはずの場所は空間とともに崩れ去り、平らな大地が作られた。
そしてその大地はところどころから炎が燃え上がりこの世界の気温を上昇させている。
その地はもはや現実の世界から切り離された、いわば、別世界も同然のような世界に変わり果てていた。
「フィールド展開!? そこまでの人間がなぜ!?」
グレンが驚く。
ガルムは顔を険しくさせ、手を握り、言葉を紡ぐ。
「我が名はガルム。いでよ。我が下僕〝ケルベロス〟!」
ガルムの前に門が現れ、門が開く。
すると中から三頭身の人間を軽々と呑込みそうな大型の番犬が現れた。
異常現象。
それが、
――魔法。
もちろんグレンも驚いて、ただ黙っているわけではなかった。
「我が名はグレン。〝業火の炎〟よ。解き放て。我が手足となれ」
グレンの手足が燃え上がる。
どうやらグレンはユウと同じ属性のようだ。つまり……、
「灼熱の大地ね。そこまでの人間がこの世界にいることに疑問を持つけど……。とりあえず力が上がるし、感謝かな」
同じ属性のフィールドは自分自身の魔力を増幅する。
「同じ属性か。それじゃあただの魔力比べ。でも私の世界だもん。使い勝手は私のほうが上! いくよエン!」
大剣を上段に構えて斬り込む。
グレンはそれを後ろに跳躍する。
斬り込んだ大剣の軌跡に炎が残った。
「うわ! 危ないなぁ。いきなり斬ろうと走りこんでくるなんて。しかも速っ! おっと!」
横なぎに振ったがそれもかわされる。
しかし、かわした瞬間大剣を前に構えて、魔法を放つ。
「〈炎砲〉!」
魔法が発動し、火に包まれた岩石が前方に放たれる。
「うわわ! ちょ……っ! 避けきれな……」
グレンがガードの姿勢で構えようとしたところに横から影が入り込む――ドゥンッ
影に〈炎砲〉が当たり、炎が散る。
しかし、ものともしない影はそのままユウに攻撃を仕掛けてきた。
「ガウッ」
「く……っ!」
影――もといケルベロスが前足の爪で攻撃してきたところを大剣で防いだが、いとも簡単にユウの体はとんでいった。
そしてそこにいたガルムが拳を上から叩きこむ。
「一対一と勘違いしていないか?」
「かふッ!」
口から血を吐く。
拳ごと地面にたたきつけられたユウは気が失いそうになるのをこらえガルムにむかって大剣を振るが軽くとらえられ……、
「むん!」
剣ごとユウを投げ飛ばした。
「いけケルベロス! 抑えつけろ!」
「ガウッ」
ケルベロスが跳躍しユウにせまる。
ユウは大剣を地面に突き立て受け身をとり魔法を放つ。
「〈フレイムロード〉!」
剣を振ると炎がケルベロスにむかってはしる。
さすがに空中では回避できないケルベロスは真正面からくらうしかほかなかった。
さらにケルベロスが落ちてくるだろう場所に走り込み、剣を下段に構える。
そしてケルベロスが落ちてきたところに止めとなる斬り上げ。
「灼熱の炎よ……我に力を貸したまえ。〈バーニング〉!」
ケルベロスに剣が当たった瞬間――ズガァァァンッ。
炎が爆発しケルベロスを跡形もなく消し飛ばした。
「なっ! ケルベロスが跡形もな……っ! くっ……魔力が……!」
片膝を立て、苦しそうに顔をゆがませたガルム。
「まずは一人!」
それを無視してユウは次のグレンを見る。
「いやぁ。強いな~。この人。あのケルベロスが負けるなんて……先輩大丈夫ですか?」
「すごい……まさかあの【地獄の番犬】ガルムが負けるなんて……」
グレンの額に冷や汗が流れる。
「いくよ、エン。〈焔――」
しかしユウの攻撃もここまでだった。
「すごいね、君。うちにほしいぐらいの逸材だよ」
「え?」
予想外からの声。
振り向くユウ。
しかしそれさえもさせてもらえずにユウの手首を捕まえられて、そのまま地面に押し倒す。
「ぐッ。お前! もう起きて……。離せ!」
「おまえら手間取りすぎ。まぁここまで強かったら納得だけどな。どっからこんな力が出てくるんだ? 魔力も強い……。よかったなグレン。〈炎砲〉喰らわなくて」
「雑賀先輩! いつの間に起きていたんですか? ってか〈炎砲〉の時から気付いていたんなら、もっと早くに加勢、もとい説得してくださいよ」
「スマンスマン。ここまで強いとむしろ慎重にならないといけなかったというか……。それに抑えたんだから気にすんな。結果オーライだ」
「気にしますよ……普通」
雑賀が懐からタバコをとりだし口にくわえてからライターで火をつける。
フィールドも元の静寂の部屋に戻る。
「離せ変態!! 〈炎爆〉! ……ってあれ!? 魔法が……ッ」
「変態じゃないんだけど……。それにフィールド魔法が解除された時点で気づきなさい。魔法は今俺が持ってるコレで魔力を封印している。まぁ聞けよ俺達の話」
そう言って怪しい輝きを放つ石を見せる。
「誰が聞くか! お兄ちゃんを撃って――」
「いや、撃ったのは謝るけど……ガルム。弾丸は……」
「ああ、お前の指示通り、ただの睡眠弾だ」
「「え?」」
リクを見るユウとソウナ。
そこにはソウナに回復をさせられたとはいえ、安定すぎるその息使いで寝ているリクを見ることができる。
「寝ているだけ?」
「ああ。俺達はソウナを捕まえに来たんじゃない。むしろ、ジーダスの何かを知っていそうなソウナから話を聞きに……。保護しに来たという感じだな」
ユウの勝手な勘違いによって大きな負担を負ってしまったガルムを見ながら、雑賀は静かに一服。
大したもんだとユウを見ていた。
何か、もっと別の意思が働いていたのじゃないか? そして、どう考えてもこの少女はヒスティマ関係者だと思いながら……。
ふぅ。なんとか第一章まで終わりました……。
……このまま第二章まで行こうかな?