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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第八章 ジーダス攻略戦・後半
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【風霊】



「マナ姉!! ユウは大丈夫だから、こいつから鍵を奪うことに専念して!! エングス! マナ姉の援護!!」

『承知した』


 ユウちゃんがエングスとやらを呼ぶと、ユウちゃんの背後に炎が集まり、具現化した。


「え……? 炎の中から……人?」


 そしてウチはこれを知っている。

 近日……いや、数分前まで見ていたある一人の神の断片、ルナちゃん。彼女はリクちゃんの中から光となって出てきた……、と言うことは彼も……。


「こうして会うのは初めてだな赤の娘よ」

「ウチはマナって言う名前が……」

「訂正しよう。少女、マナよ。我が主、ユウの命により、今からマナの援護をする。心配せずともマナを殺させはせんから安心するがよい」

「う、うん……」


 なんとも低い声に重力を感じて、存在感が濃い。

 炎がその男の人(エングス)の周りで暴れまわっていて、近づくのはとても危険そうだ。

 肩と肘、膝には角のような物がはえており、顔もかなり怖い。想像するなら仁王の像の、吽の像を想像するといいだろう。

 そして背中には炎の天輪が浮かんでいる。その姿は、まるで炎を纏った鬼神のように見てとれた。


「な、なんだ貴様……。どこから湧いて出た!?」


 炎の鬼に圧倒されて、後ずさる棺。

 ウチもこんなのが敵だったら、足腰を抜かして微動だにもできなくなってたね……。


「どこから? はて? 我はずっとここにおったぞ?」

「ずっとだと!? ……ま、まあいい。全員殺せばいいのだからな!! 〈鎌鼬(かまいたち)〉!!」


 棺が大鎌を横に振ると、風の刃が形成され、こちらに飛んでくる。魔力はすごい込められていて、たった一つの魔法ではどうにかならないと思い、複数の魔法を連続で使った。


「〈火弾〉!! 〈火球〉!! そして……〈火渦(ひか)〉!!」


 火の弾丸と火に包まれた岩石。

 そして、魔力を少し溜めてから放った棺を中心とした炎が渦を巻き、棺に襲った。棺の放った魔法は風属性。ウチの魔法は炎だから、相性はウチの勝ち、だからウチの魔法でも〈鎌鼬〉を簡単に止めることができた。


「チッ。炎か。だが見たところまだ魔法の威力はザコだな……。しかも初級魔法ばかり……。ふ……余計な魔法を使うまでもないな」


 そういって棺はこちらに向かって走ってきた。ウチは近接格闘はダメダメ。

 近づかせないようにしなきゃ!

 それが勝利のカギ。



 ――そう思っていた……。



「〈炎翼〉!! エングスさん……だっけ!? ユウちゃんを守って!!」

「承知」

「マナ姉も守ってね」

「承知」

「え!? 二つなんて普通できないよね!?」

「あのよくわからん奴は後回しだ」


 そういって翼で空中に飛んだウチを追いかけて、風を使い飛んでくる棺。


「くっ。〈火炎〉」


 飛んでくる棺に炎を放つが、いとも簡単にそれを切り裂き――



 ――目の前まで迫った棺が大鎌で首を取るように横振りになぎ払った。



「!?」


 このままいけば簡単に首がとんでしまうだろう。

 そんなことはさせないと思い、翼を急いで方向転換しようとしても、もう遅い。

 もう首に当たる部分まで迫っていた……が、そこからは一ミリたりとも動かなかった。


「く……貴様……」

「悪いが我が主、ユウの命令だ。少女、マナを殺させる訳にはいかない」


 動かなかった理由は、エングスが大鎌の柄の部分を持っているから。だが、一ミリも動かないと言うことは相当な力を入れているのだろう。


「〈火球〉!!」


 この好機を逃さず、棺に思いっきり魔力を込めた魔法を放つ。


「ふ、これくらいの魔法。威力が高いだけで容易く避けれる」


 そういって一ミリも動かない大鎌を一旦霧散させ、魔法を避けられる。

 そしてすぐに顕現させ、両手で持って構える。

 その姿はまるで死神。

 空中に浮いていて、さらに黒いローブも顕現したことによりいっそうそう思えてしまう。


「少女、マナよ。そなたの飛行、奴よりも遅いぞ?」

「わかってる。わかってるけど……」


 これ以上は体が言うことを聞いてくれないのだ。脳内ではイメージがちゃんとされていて、魔法がそれによってしっかり発動させることはできても、体がいうことを聞いてくれず、これ以上速くする事が出来ないのだ。

 だから速度が遅くなってしまう。自分の力不足だ……。


「〈火弾〉!! 〈火連弾〉!!」


 でも、棺から鍵を取るために、今は目の前のことに集中する。一発で当たらないなら数で攻める。〈火連弾〉は〈火弾〉の上級魔法で、〈火弾〉よりかなりの数が撃てる。

 でも――ザンッ。


「こんな魔法。避けるまでもない」


 大鎌で一振り、迫っていた〈火弾〉は全てを切り裂かれていた。


「もう終わりか?」

「く……」


 ウチが使える魔法で一番強いのは〈火球〉。

 ……でも〈火弾〉より遅い〈火球〉では、こいつは簡単に避けてしまう。

 だけど〈火球〉ぐらいの威力は欲しいのに、そんな威力を持った魔法は、ウチは使えない。ウチは数しか撃てない……。


「終わりのようだな。つまらん。ここまで来たからどんな強い奴が来たと思ったが……。やはり俺ほどの実力者にはかなわないか」

「なんか言い始めたよ、あのナルシスト……」


 ユウがそう言った瞬間、棺のこめかみから血管がいっそう浮き出て、怒りに狂った顔をする。


「もういい! 貴様らはここで死ねぇ! 〈風死〉!!」


 棺が魔法を唱えると、手からだけでなく、横の壁全体から怪しい黒い(もや)が出てきた。


「な、なに?」


 そこまで速い速度ではないので、迫る黒い靄をどうするか考える。

 魔法名〈風死〉から考えられることは、この魔法はたぶん……。


「何を考えているかわかるぞ。この魔法のことだろう? これは死に風。この風に触った生命は全て死に絶える!! 呪殺魔法、命を刈り取る魔法だ!! フハハハハハ!!」


 呪殺魔法……。

 それは禁忌魔法だ。

 使ってはいけない魔法をなんでこいつは……。とにかく解除(キャンセル)しないと……。

 そう考えて、両手を祈るように組み、祈る声で自分の精霊を呼ぶ。


「お願いファイアーバード……。敵の魔法を焼き払え……」


 するとウチと黒い靄の間に炎鳥が姿を現す。そして炎の塊を作り……、


「〈炎解〉!!」


 その炎は黒い靄に向かっていく。

 炎は〈風死〉を全て焼き尽くさんとして、飲み込んでいくが……。


「そんな炎ごときでこの〈風死〉を解除(キャンセル)できると思っているのか? 生温い!」


 棺はさらに魔力を込め、たちどころに〈炎解〉は〈風死〉によって逆に呑込まれてしまった。


「そ、そんな! 相性ではウチの方が有利なはずなのに!」


 いとも簡単に消えた自分の魔法を見て、ウチでは〈風死〉を止められない事を悟る。

 でも後ろにはユウがいるから止められない……だなんて言っていられない!

 そう思ってもう一度〈炎解〉を放つが今度は燃やす前に呑込まれた。

 もう一度――と思ったところで――ガクッ


「あ、あれ……?」


 ふらりと足が揺れる。


「ど、どうしたんだろう……」

「マナ姉!? ま、まさか魔力切れ!?」


 魔力切れ? そういえば、先生とのテストでも、途中まで押してたのに魔力切れで負けて……。

 そっか……ウチ、いつも魔力切れで負けて……。

 それでも魔力切れだ何だろうがこれを止めなければいけないのだ。ウチはさらに魔力を込める。

 だけど今度はファイアーバードが答えてくれなくて、魔法が発動しない。

 どうして……どうしていつもウチは……。


 過去のフラッシュバック。

 それは思い出したくない過去……。


「ちょっとエン!! あれ、魔法でなんとかしてよ!!」

「ユウが魔法を使えない今、我も同じぞ」

「はぁ!? 本気で言ってるの!?」

「本気も何も、さっきっから我は魔法など使えていないだろう?」

「そ、そういえば……」


 たじろぎながらユウは答える。

 なんだかよくわからないがエングスとか言う神様(おそらく名前を付けたのはユウちゃんだと思われるが)は魔法が使えなくて、物理的の攻撃しか今はできないらしい。


 …………?

 物理的……?

 ウチは気がついた。なぜ今まで考えれなかったのだろう?


「エングス……さん!!」

「む、なんだ?」

「その鎖! 壊して!!」

「なに?」

「え!? そんなことしたらフィードバックが!」


 もうすぐそこまで迫ってきてる〈風死〉があるため、魔力が少し回復したのを見越して、急いでユウちゃんの鎖を持つ。


「大丈夫!! 棺は確かに魔法は吸収するとは言ったけど、物理まで吸収するとは言ってないし、壊されたくないって言った!! つまりこれは壊すことが可能!! この世に壊せないモノがあるはずがないの!! そして魔法が使えないならあるのは物理!! 物理攻撃ならこれは壊れるってこと!!」


 そういって近くに転がっていた石を鎖に叩きつける。キィンッと音が鳴るが、ユウちゃんが痛がった様子が無い。つまり物理はダメージがフィードバックしない。


「た、確かに……」

「しかしなぜ今まで考えられなかったのだ……?」


 そう。誰でも思いつくはずの簡単な事なのに思いつけなかった?

 いや、違う……多分、これは……。


「フハハハハハ!!」


 すると〈風死〉の黒い靄で見えなくなた棺の笑い声がする。


「考えられなかったのは当たり前だ! 俺が阻害魔法を使っていたのだから!」

「やっぱり……」


 自信満々な声が聞こえるのだが、おそらくその声から顔は口元がかなり緩んでいるのだろう。口を噛みしめながらいつからこの魔法がかけられたかに疑問を持つ。

 でも今は、なぜ今その阻害魔法を解いたのか。


「じゃあなんで今解いたの!? 情け!?」

「そんなことが無かろう。もちろん、君らの絶望した顔の死体が見たいからだよ」

「絶望? どういうこと?」


 どうして絶望につながるのかがわからない。

 今はどう見たって絶望の反対、希望を持っているではないか。

 だけど、それは棺の次の言葉によって、一瞬で絶望に変わってしまった。



「無駄だよ! その鎖は立ちかに鉄で出来ているが、魔法で強化され、その強度は幻の石である、オリハルコンと同じような堅さだ! 壊れるはずがないだろう!」



「……え?」


 オリハルコン……。

 その名前には聞き覚えがあった……いや、誰だって聞き覚えはあるだろう。それは世の中で一番堅く、壊れることのない幻の超合金。傷つくことも……ない……。



 失望させるには十分の言葉だった。


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