あ! マナ姉か!
ズガァァァァァァァァァンッッッ!!!!
「な、何!?」
かなりの爆発音に似た音に、つい振り向いてしまう。
「……キリ……」
翼を音のする方に羽ばたかせようとする。
そして「ハッ」と気づき、首を左右に何度も振る。
(ダメ。キリが先に行ってユウちゃんを解放しろって言ったんだ。そうすればみんな助けれるって……)
そう思い込み、速度を上げてその先にある扉にせまる。
「な、なんだ!?」
「と、とまれ!!」
衛兵が何人かいることを気にせず、魔法を放つ。
「行くよ!! ファイアバード!! 〈火球〉〈火弾〉!!」
火の弾丸と火に包まれた岩石が衛兵に向かっていく。
「な!?」
「う、うわぁぁぁ!!」
ドオオォォォォォンッ!!
ルナちゃんの身体強化魔法のおかげで威力はいつもの何倍もあることに驚いて、ポカーンと口を開けてしまった。
魔力を最大に込めてもここまでの威力は出ないからだ。とはいっても本来は身体強化のため、そこまで魔法に関する補正はついていないだろうと思って魔力を7割方溜めた。
「あ、はははは……。し、死んでないよね?」
自分のやったことに気づいて相手の心配をするが……。
「く、くそ……」
「こ、こちらE通路……」
微動するのを見て、生きているのを確認すると「はぁ」と胸を撫で下ろすが、何やら通信機みたいなものを持っているのを確認すると、すぐさま〈火弾〉を発動し、意識を奪った。
そして忘れずに卵(転送装置)で衛兵をとばして、前を見ると、先ほどの魔法で扉は壊れている。
――ゴクリ。
唾を飲み込んで、その部屋へ入っていく。
その部屋は暗く、見渡せない。
「誰かいますか~……」
前に進みながら消え入るような声で呼ぶと、声が――
「あんた誰?」
目の前から聞こえた。
「ひゃあ!」
突然の声にビックリして翼の制御を失い、〈炎翼〉は消える。
するともちろん低空飛行をしていても落ちると言うことで――ゴンッ。
「いったぁ……」
「大丈夫? ……ってなんか見覚えがあるような無いような……? エングス。知ってる?」
『おそらく、会うのは久しぶりの篠桜マナではないか?』
「篠桜マナ? マナ……。あ! マナ姉!?」
そういってビックリする少女、赤砂ユウ。
「そ、そうだよ~。ひ、久しぶり~」
痛いお尻を摩りながら立つ。
そして赤砂ユウの姿を見て――
――絶句した。
「!? ゆ、ユウちゃん……そ、それ……」
言葉を失う。
なぜならそこには――
――見るも無残な傷跡が数十か所もあり、血だらけでいたからだ。
「ん? ああ、これ? 大丈夫。大した傷じゃないよ」
『我が傷を癒しているからな』
「聞こえて無いよエン。しかも魔法使ってないでしょ? 体質のようなものでしょ?」
「え? え? で、でもかなり痛そうで……今すぐ直して……」
「だから大丈夫だって。ユウはこれでもすごい子なのです」
鎖でつながれているのになんだか余裕を持っているユウを見ると、なんだがリクの母、カナを思い出す。
ユウの母でもあるから納得できるけど。
「それより早くこの鎖外してくれないかな? もうずっとこの態勢は疲れたよ~」
「え? あ、う、うん」
傷が気になったが、今は急いで鎖を外すために鎖に目を映すとそこには、鍵で繋がれており、鍵が無いと外せないようになっているのがわかる。
「ど、どうしよう! 私鍵持ってない……」
「ん? 鎖なんて潰せばいいじゃない」
「それは困るな」
「!?」
突然の声に反応して闇にまぎれている人を見る。
そこには……。
「なんで鍵があるかと言えば繰り返し使いたいからですよ。そういう物に金を使いたくないんですよねぇ」
幹部の服に身を包み、背中には大鎌を背負っている男が一人いた。
「だ、誰……?」
「失敬。名乗っていませんでしたね。私は副幹部長、【風霊】地粛棺。覚えてもらわなくてもいいですよ? なぜならあなたはここで死ぬんですから」
クク……と薄気味笑いをしながらゆっくり歩いてくる棺。
「副幹部長!?」
その言葉を聞いて、この男の人がどれだけ強いのかがわかった。
そしてユウちゃんは一言――
「死亡フラグ乙ー(笑)」
「それ今言うこと!?」
「いやぁ、マナ姉のツッコミはお兄ちゃんほどじゃないけど面白いね~」
「それも今言うこと!? 緊張感持ってよ!!」
「それはお前にも言えることではないのか……? まぁいい」
なんとも似ている親子である。
リクは本当に苦労してるな~としみじみ思う。ってそんな場合じゃないのに……。
棺は背中にある大鎌を手で掴み、前に振りかざす。
「ソウナの処分もあるため、貴様らはここで死んでもらう」
「ププ。あの人、この短い時間で二回も『死』って言葉言ったよ? それしか言えないのかな~♪」
「ユウちゃん、全く危機に面しているって思ってないよね!?」
「当然♪」
「誇って言うなー!!」
「な、なんとやりにくい……」
ウチとユウのやり取りに棺は目や口を引きつかせているのがわかる。
「さて……貴様らにチャンスをやろう。ここに鍵があるんだが……」
「でもさ~。ユウにとってはこの状況なんとも無い訳よ♪」
「だからって今の状況だと戦えるのはウチしかいないんだよ!?」
「ここに鍵が……」
「大丈夫♪ マナ姉ならきっと勝てるよ♪」
「相手は副幹部長なんだよ!?」
「ここに……」
「気にしない♪ 気にしない♪」
「気にしてよ!!」
「人の話を聞けええぇぇ!!!!」
痺れを切らした棺が怒りをあらわにしたのでビックリする。
ユウは反応がとてつもなく薄――
「ガールズトーク中に首突っ込む男は嫌われるよ? ユウのお兄ちゃん以外」
――い、なんて物じゃなく、棺の話なんてガン無視だった。
むしろどこかへ追いやろうとしていた。
「き、貴様らぁ……。鍵が欲しくないのか?」
「鍵!?」
「いいじゃない。こんな鎖壊しちゃえば」
「フッフッフ」
不敵に笑う棺にユウちゃんは――
「キモッ」
「ユウちゃんならそういうと思ってた……」
カナの子供だもんね……。リクはきっとお父さん似なんだね……考え方は。九割方そう思う。リクのお父さんには会ったこと無いけど……。
ユウの発言に棺はかなり苛立っているようだ。その証拠にこめかみから血管が浮き出ている。先ほどなぜ笑っていたかはわからないが、とりあえず鎖を壊そうと〈火球〉をぶつけるが……。
「え!? 何これ!?」
シュゥゥゥ――と音がなり、鎖が〈火球〉を全て吸収してしまった。
その様子を見て棺がまた笑い、どういうことなのか説明してくれた。
「フッフッフ。それは魔法を吸収する特別な鎖でしてねぇ? 魔法では壊すことはできないのですよ」
「吸……収……? じ、じゃあ吸収された魔法は!?」
「簡単ですね。鎖に放たれた魔法のダメージは……繋がれている人にいくんですよ!!」
「!? ユウちゃん、大丈夫!?」
棺の言葉に急いでユウちゃんの状態を見ると……そこには……。
「だ、大丈夫……。生まれてこの方、火のダメージなんてもらったこと無いのにな~」
「あ……ぁ……」
鎖に繋がれている手足から、ジュゥゥゥ……と肉が焼ける痛々しい音がなっている。
その事に言葉が出なくて、頭の中は混乱の渦に飲み込まれる。




