稲妻
弦は右腕を引き、魔力を溜める。奴も見たところ武装型だから近距離の魔法だろう。
ならば、それには答えてやる。
右の拳に魔力を溜める。だが半端な魔法では軽く打ち返されるだろう。さらに魔力を溜め、そして――
「〈雷迅〉ユニオン〈雷剛拳〉、〈轟崩拳〉!」
「〈光雷掌〉!」
ドゴォォォォォン!!!! 二つの雷がぶつかり合う。
どちらも一歩も引かない初撃は見事につり合い、その場に静止する。
その間にマナは横を抜けてスピードを上げて飛んでいく。
「これが狙いか……なら、〈雷火掌〉!」
マナがとおり抜けて行くのに掌底を俺に向かって放つ。
(なるほどな……)
何を考えてなのか悟った俺は、いっそう魔力を溜める。
「ここで打ち合えばマナんとこに行けねぇな? オラァァ!!」
「――ッ!?」
俺に向かう掌底を真正面から迎え撃った――パァァァァンッ!!
再び雷がぶつかり合うが、今度は、俺の拳が弦の掌底を弾きとばし、続けざまに弦に回し蹴りを放つ。
「グゥッ」
腹の中心部に当たって蹴り飛ばされた弦は、ドンッと背中から壁にぶつかる。
弦を突き飛ばしたことに、これでもっと時間が稼げる事を安堵するが、それどころではなくなった――ボウッ
「熱ッ、火か!?」
弦の放った〈雷火掌〉は手の内の別の雷がぶつかった物に雷のダメージを与えると同時にぶつかった物を燃やす事も出来る魔法らしい。
雷だけなら自分も雷でダメージは無く、物理的ダメージだけで済むが火が追加されたことによりダメージが上乗せされる。
雷を纏わせ、火を消す。
だが、弦との打ち合いで勝ったことによる成果はあったし、これくらいのダメージならば問題ないとして、解決する。
先ほどより強い掌底を放つ事はできただろうが、奴は威力を落とした。
「ま、まさか……二回連続で打ち合おうとした奴は初めてだ……」
「だろうなぁ。じゃなかったら威力を下げる意味はねぇ。大方、俺が避けたと同時に雷に物を言わせてマナを殺してただろう?」
「……気づいていたか……」
「同じ雷属性だ。そんくらいのことは気づかずにしてどうする?」
今の打ち合いでお互いの場所が入れ変わっている。
つまり、後ろがユウへの通路で、弦の後ろの通路が戻る事の出来る通路だ。
打ち終わった後にユウへの通路をチラ見したが、もうマナの姿は見えない。後は弦を足止めするだけだが……。
――無論、足止めで終わらせるつもりはない。
「おらこいよ。俺がここでリタイアさせてやるよ」
「図にのるなよガキが」
弦からの殺気が絶え間なく襲う。
だがそれがどうしたというように平然と立つ。
これで弦の目標は俺に絞られたな……。マナのところに行く可能性はほとんどなくなった。
まぁ、ここで倒しちまうから関係ねぇけどな。
「〈雷火掌〉」
弦が先ほどと同じ魔法を紡ぐ。
だがさっきとは魔力の入れが違い、強くなっているのがわかる。
俺は頭を掻きながら一言。
「これ以上火傷は負いたくねぇな……」
ため息交じりに言った。
雷で消せばいい話であるが、実は俺、熱いのは苦手だったりする。
「ならどうする? 逃げるのか? そしたら俺はあの女を殺しに行くぞ?」
「逃げねぇし殺させねぇ」
腕を下ろし、口元を緩ませる。とっておきの一つを使うため、〈雷迅〉にさらに魔力を込める。
リクとの時は使わなかった。
正直、なめていたし、使わなくても十分、追いつけた。
いや、むしろ〈雷迅〉を使い始めたら簡単に追い抜くことができた。
あんまり、知られたくないので、リクには『これがトップスピードだ』と言ってしまったが……。
有象無象に魔力を吸い込み続ける〈雷迅〉の覆っていた黄色い雷はいつしか蒼白く、バチバチと音も鳴らず、ジジジ……と低い音で唸り始める。
「もう当たらねぇ。これだけで決着がつけれるとは思えねぇけどな……今の俺の本気でやってやる」
先ほどまでの〈雷迅〉とは似ても似つかない。
当たり前か……。
入れる属性を変えたのだから。
その変わってしまった〈雷迅〉に弦は驚きを隠せなかった。
「お、お前……その魔法の属性……稲妻か!?」
「ああ。それがどうした?」
稲妻属性……。
雷系統の最終属性……。
その扱いは非常に困難で、少しでも間違えば死に至る属性。
「……それなりに名の通った二つ名か?」
「いや、むしろ親がそうだな」
「……名は?」
「俺の名字でわかんなかったのかよ」
「名字? ……仙道!! 親は幸理か!?」
声を荒上げる弦は、お人好しなオヤジの名をあてる。それによって怯む弦に「クハハ」と笑いを堪えられなかった。
なぜなら、ほとんど脅しだ。
確かに〈雷迅〉では稲妻属性が使えるが、他の魔法では使えない。使おうとして痛い目にあったことが何度もある。他の人が見れば奇跡が続いたと言うだろうが……。
後は、親があのお人好しのオヤジだとしても俺はオヤジじゃない。
まぁ〈雷迅〉とユニオンは教えてもらったけどな。
ちなみに『ユニオン』とは隔合とほとんど同じ意味だ。
だが、ユニオンが使えるのは限られてる。
魔法と魔法を合わせるだけの構築を脳内で作ることが重要。それだけの想像力と創造力、魔法と魔法の相性などいろいろあるからだ。
後は稲妻属性だが……。
どんな感じで使っていたのか、話でよく聞いていた。〈雷迅〉だけだが、稲妻属性が使えるようになったのは中三の時だ。それまでは〈雷迅〉でもかなりの痛手を負っている。
「話はもういいよなぁ?」
「……それだけの強さを持つならば……俺も本気を出さないとな……〈雷炎豪火〉」
弦の体が火と雷に包まれる。
「……ま、マジかよ……」
これでは殴る前に俺の手が焼けちまう。
げんなりする俺。これでは稲妻属性を出した意味がない。
まぁ――
「行くぞ少年。幸理の子供ならばこれくらい造作もないだろう?」
「……そうだな。俺も、テメェを遠慮なく殴れるぜ。〈雷迅〉ユニオン〈雷剛拳〉、〈轟崩拳〉」
――そんな事情なんて関係ねぇか。
ゆっくりと歩き出し、段々と速度を上げていく。
その速度はすでに雷の速度になり、轟音が鳴り響いて弦にせまる。
弦はゆっくり腕を振り上げる。
俺も拳を握りしめ――
――同時に振るった。




