魅了?
崩れ落ちる幹部を見降ろして、ボクはまだ残っている三人を見る。
だが、幹部がこんなに簡単に倒れたことに疑問を持ったが、ルナに倒されたと聞いていたので、おそらくその時のダメージが残っていたのだろう。
とすると――、
(あの亮さんもおそらくダメージが残っていると見てよさそう)
ボクの中で、幹部討伐順は決まった。
まず、頭数を減らすためにダメージの残っていそうな亮さんを倒す。
次に有利な補正がつく杖を持つゼンで、最後に先ほど全く支援しなかったグルガだ。
我ながら簡単な決め方だし、実際グルガの魔法や武器を見ていないので、変わる可能性が十分ある。
「へっへ。弱いなゲイザー。とはいってもこの寒さじゃ戦いづらいな……」
そういいながら呪文を唱え、喚び出す。喚び出されたのは片手で使えるような斧だ。
「じゃあさっさと蹴りつけるか。〈グランド・ボム〉!!」
地面、正確には廊下の床を叩きつけるグルガ。すると地面が爆破し、破片がたくさん飛び散ってくる。ボクはそれを避けながら、前に進む。
避けきれない破片は剣で弾き、前に進む。
破片が飛び散ると、その先からグルガが斧を大きく振りかぶって、斧を――
――高速スピードで投げてきた。
「!?」
どう考えても避けきれない!
仕方なく、剣ではじく――ピシッ。
それを見越していたのか、はじかれた斧を空中で受け止めてそのまま振りおろしてきた。
ボクは勢いのついた斧と打ち合って、勝てる気がしなかったので、一旦後方に下がった。
「ちょっと待てぇ! ゼン! 今のところはお前がやるところだろ!?」
「ああ、忘れてた」
「はぁ!? お前忘れることなんてありえなくないか!?」
「ああ、忘れてた」
「繰り返すのはいつもと一緒かよ!?」
コント(?)をしている二人を前に、ちょっと後ろ脚を引いた。そして魔力を一気に跳躍できるだけの魔力を溜める。
だけどそれはグルガに気づかれ、斧をまた投げてきた。今度は先ほどのような速さではないし、距離も離れているので、容易にかわせる。かわしたと同時に一気に跳躍。
武器を持っていないグルガは格好の的だった。
だが――、
「へっへっへ。魔法で武器を作れるのは何もあんただけの特権じゃねぇぜ? 〈クレイモア〉!」
すると、先ほど砕いた、廊下のところにあった土を利用して、武器を作った。
「!?」
それは持っていた斧よりも大きく、そして頑丈そうな両手剣だった。前に跳躍している状態から避けることは不可。ならば剣で両手剣を少しでも弾こうとした時――
――パリィィンと音を鳴らしていとも簡単に氷の剣は散った。
「あ……」
『りく!?』
目の前に迫りくる両手剣。
避けることは不可能、つまり……、
死は……免れない……。
だが、この時、防御魔法の事を考えれていたら、防ぐ事ができただろう。
なのにボクは、せまりくる死に恐怖を感じ、思わず目を瞑ってしまった。
「…………。……?」
だが、いつまでも来ない痛みに不思議に思い、ボクはそっと目を開ける。するとそこには……。
「カハッ! ……どいういう……事だ……ゼン……!!」
杖を持っていた、オッドアイのゼンが剣を風の魔法ではじき、さらにグルガの胸のところを炎の魔法で貫いた直後だった。
「悪いけど、私は幹部、ゼン・リュウシカではありません」
「な……」
「名は雁也。ああ、本名ではありませんがね」
「お……まえ……覚え……と……け……」
幹部の二人目が崩れ落ちる。ボクはそこでやっと目の前の出来事を理解して、納得した。雁也が今倒れた幹部、グルガを倒したのだと……。でも……、
「生きて……いますよね……?」
恐る恐る聞くと雁也は「え?」と言葉を続ける。
「はい。生きています。殺すなんてありえません。ですからこうして……」
卵型の転送装置を使って倒れた二人をとばした。
「さて……後は幹部、亮。あなただけですけど逆らいますか?」
「…………」
亮さんは携帯していた剣を鞘ごと外し、こちらの足元に投げ、魔力を納めて、両手を上げた。
「降参だ。俺にとって相性の悪い氷の魔法使いに、なぜかゼンの魔法をそっくりそのまま使える魔眼使いと来た。降参以外に何がある?」
「素直ですね。ゲイザーに続いて聞きわけの悪い亮がこんな簡単に降参するなんて……。何をたくらんでいるのです?」
「なにも。……しいて言うならそこの氷の魔法使いに興味を持った」
「へ? ボク?」
こちらを向きながら言う亮にボクは頭の上にハテナを何個も浮かべる。
『りく。なにをしたのですか?』
「え? 別に何もしてないけど……」
普通に戦っただけで、特に何か特別なことはしていなかったけど……。
「誰と話しているかわからないが、今の何もしていないという言葉には少々傷つくな」
「え? え?」
全く訳も分からず、おろおろする。本当に何もしていないのだ。亮には攻撃したわけじゃないし……。
『りく……とうとう『敵』まで『魅了』しちゃいました?』
「してない!! って言うか敵まで魅了ってなんですか!?」
『こころあたりないのですか……。わたしは『パレスチナ』でねていたけど、ちゃんと『外』のことはみていましたよ?』
「まったく心当たりないんだけど!?」
『ちなみにまわりがよく、りくのことを『女の子扱い』していたので、りくが『女の子』だとおもってしまったといいわけをいわせてもらいたいです』
「そ、そうですか……」
そ、そういえばボクの周りってほとんど女の子扱いする奴ばっかいたような……。でもその度に男だっていってたんだけど……。
シラがボクよりもボクのことを知っていそうでちょっと怖い思いをしたボクだった。
それにしてもどうして亮が興味を持ったのかがどれだけ考えても全くわからない。
一回ほど魔法の攻撃をされたのでシラに頼み、防いだが、それだけである。亮と直接接点があったのは。
「本当に何もしていないと感じているのか? それは本気で傷つく。ジーダス幹部三人が集まって、そこに齢一五歳ぐらいの女……のような男が一人で立ち向かってここまで圧倒される。最後こそ、そこの男に守られたが、それまでは明らかにお前一人で戦っていたのに、お前は無傷。興味を持てないはずがない」
一瞬、場に殺気が走ったものの、亮は最後まで怯まず言うことができた。
『りく。こわい……』
シラが何を言っているかわかんないけど、とにかく亮が言いたいことはボクの戦闘能力のことだろう。
……知りません。
自分だってどうしてここまで動けるかなんてわからないし、なぜここまで刀が使えるかがわからない。刀だけが使えるかわからないのだから、そんなことを言われても何て答えればいいかわからない。
だから……。
「そんなこと……知りません。ボクだって、どうしてここまで動けるかわからないのですから……」
今さっき思ったままを言うしかない。嘘は嫌いだもん。たとえ敵であろうと。
「……嘘を言えるような人ではなさそうだな」
「いまさら良い人っぽい台詞を言わないでください。ルナはどこですか?」
「あ、そうです! ルナはどこにいますか!? この近くだと思うのですが……」
ボクはルナの魔力をどちらに引かれるか感じると、それは壁の方に引かれている。亮はこの言葉を聞いて、少し目を見開き、そして聞き返した。
「なぜ近くにいると思う?」
「ルナの魔力がジーダスに着いた時より、今の方がかなり強く引かれるからです」
「? どういうことだ?」
「それは……」
口ごもる。
なるべく隠しておきたい事なので簡単には言えない……。
「答える義務はないよリク様」
割って入る雁也さんの言葉にボクは「あ、そっか」と納得する。
『わたしが『リク様』というとはずかしがるのに『雁也』というもののことばにははずかしがらないのですね……』
聞けなかった亮さんは不満をあらわにしながらも、「ついてこい」と言って、先ほど魔力が引かれた場所の壁に触る。
すると壁は扉となり、亮は扉を開けて、薄暗い部屋に入っていった。
ボクはそれを追おうとすると雁也に「油断せず行きましょう」と言われたのでコクンと頷き、部屋の中に入った。




