ボクは……男だって……何度言ったら……。
「デルタさん! こっちでいいんですか!?」
『ああ。そのまままっすぐに行ったところにルナ嬢らしき大きさの荷物を背負っていた衛兵たちを見たらしい』
ボクは今、雁也の情報の元、地下の牢獄に向かっている。ソウナも近くなるため、好都合だ。
ここら辺はカメラが多く、何度も立ち止まる必要があった。多い理由は牢獄があるし、過去に脱獄をした人がいたそうだ。どうやって、誰が脱獄したかは定かではない。
デルタの通信が切れて(おそらく他の人と通信をしているのだろう)、しばらく進むと、前方の方に人の姿が見える。
ここの廊下は直線で、隠れることはできない。
しかもこちらを向いているところから、向こうもこちらが見えているのだろう。
それなのに近づいて来ないところを見ると……おそらく近づいてくるのを待っているのだろう。
全く動じない姿を見ても、衛兵ではないと感じる。
遠目で見える人数は四人。
全員がまだ魔力を解放して召喚していない。
二人は武器のような物を持っていなさそうなので前衛だろう。
もう二人は武器は持っているが、一人は剣で、もう一人は杖を持っている。
こちらはおそらく後衛だろう。
『つえとはめずらしいですね』
「え? どうして?」
魔法使いっぽくていいと思うんだけど……。
『ふつう『後衛』はじしんをまもるために『護身用』のぶきをもつのですが、つえはたしかにまほうの『威力』、『発動速度』、『発動数』をたかめられますが、『護身用』にはつかえないのです』
「そ、それだけあれば有利だよね……? それに剣とか防げるイメージが……」
『それはむりです』
キッパリと否定するシラにボクは走りながら疑問を持つ。
『つえは『木』でなければさきほどのとくてんはえられないのです』
「どうして?」
『『木』にすむ、『精霊』のちからをかりるからです』
「ふ~ん。……ということは?」
嫌な予感が横切る。
ボクの予想が正しければおそらく杖を持つあの人の型は……。
『はい。あのひとは『精霊の使い手』……と、いまは『スペイレイトハンドゥ』でしたね。むかしは『精霊の使い手』といっていたのですが……。どうしてかわってしまったのでしょうか?』
どちらでもいいと思うのはボクだけかな……。
あと精霊使いは魔法の威力が他の型よりかなり強いんだよね……。
そしてボクは立ち止まる。
ついたからだ。
四人の目の前に。
「誰が来るかと思いきや、たった一人のガキかよ」
「へっへっへ。先ほど金髪ロリと戦って負けた奴の台詞じゃないね。ププッ」
「テメェ、グルガ!」
金髪ロリ? ボクはその言葉が誰を指すのかなんとなくわかった。ロリって言うのが何か分からないが。
「ルナを……知っているんですね?」
「ルナ?」
「ゲイザー。俺たちが戦ったあの娘の事だ」
「ああ。魔力切れで倒れた奴な」
「魔力切れになる寸前に倒された人の言う台詞――」
「ゼン! テメェ等二人、俺にケンカ売ってんのか!?」
魔力切れ!?
やっぱりルナは今……魔力が無いんだ……。
「ルナは……どこですか?」
ダメもとで聞いてみる。
おそらく彼らが言う言葉は――、
「教える訳ねえだろ?」
だろうと思った。
だからボクは、いつの日か、母さんが言っていた事を遂行することにする。
一言で言うと…………ちょっとした遊びだ。
「〈アイシクルソード〉」
ボクは、シラに教えてもらった魔法の一つ、〈アイシクルソード〉を発動させ、氷の剣を顕現させる。
なるべく刀に近づけた片刃の剣だ。
真陽にボクは刀の使い方は一つの武器を除いて、他の武器と雲泥の差があって刀はかなり秀でているとのことだ。
ボクも刀は使いやすいと思っていたので、氷の剣はなるべく刀の形、重さを似せた。
なぜ使いやすいかは知らないが……。
「氷使いか……。亮、相性わりぃじゃん」
「だな。だが戦う以外にどうしろと?」
「へっへ。一人の子供。しかも女の子に四人も幹部なんていらないって」
……今……なんて……?
「女は魔力はあっても身体能力は男より劣るしな」
……こいつら……ボクの事を……。
「亮は休んでいれば? 女の子なんかすぐに――」
…………。
「「「「?」」」」
ようやく目の前の異変に気付いたのか、四人はこちらを見て、顔を伏せているボクを不思議に思う。
「ボクは……男だって……何度言ったら……」
『り、りく? いまの『発言』からするとりくは『男の子』ってききとれ――』
……シラとはまだあったばかり……しかも女の姿でしか会ってない……あってないけど……!!
「ボクは……男だぁぁあああ!!」
「「「「はぁ?」」」」
『……ほ、ほんと?』
幹部四人プラス、シラにも驚かれた……。
……もうあれだよね。
この人たちに学校での八つ当たりも兼ねてもバチは当たらないよね。
「覚悟は、できてますね♪」
満面の笑みを見せたと同時に空気が変わり、マイナスを超えた冷気が場を包んだ。
いつの間にか発動している〈フローズン・クリスタル〉。
シラは腕輪となっているのでボクが発動したのだろう。
……いつ発動したのか全然覚えていないけど……。
「さ、さむ! な、なんだこの魔法!?」
「へっへっヘックショイ!!」
「フィールド魔法……ではないな」
「こんな魔法聞いたこと無い……」
『た、たぶんいかりのせいで『発動』した……』
でも、ボクはそんなことはどうでもいい。
シラにはジーダスが終わった後でゆっくり話し合うことにして。
ボクはすることはただ一つ。
――この人等全員ぶっ飛ばす!
瞬時に跳躍して間合いを詰め、氷の剣で杖を持っているゼンって人に叩き込む。
それを見切っていたのか、冷えた体を事前に動かし、ゲイザーと呼ばれていた人の鉄鋼がつけられたグローブの拳が横から飛んでくる。
ボクはすぐさま目標を変え、拳を回避した直後に下にもぐりこみ、カウンターで剣を振り上げる。
「グッ! やべ……さっきのダメージが……」
ザンッと、剣に手応えを感じると、ゲイザーはよろけた。
それを見逃さずにボクはさらに剣を二、三度振るう。
それを必死にガードするゲイザーの右肩らへんから魔法〈ファイアブラスト〉という炎の弾丸が複数放たれてきた。
ゲイザーは一度僕から離れようと、後方に下がる。
ボクは身をかがめて魔法を避け、ゲイザーにさらに詰め寄った。
「クソッ、離れやがれ! 〈ラッシュ〉」
死に潜るいに放った物理系の魔法〈ラッシュ〉は音速の拳。
さすがにボクは音速の拳は避けることができないので、事前にかけてある身体強化魔法の魔力を倍増させ、音速の拳が来るその場所に剣を振るう。
強化された拳と、氷の剣が激しい音をたててぶつかり合い、どちらの威力も打ち消された。
「チッ」
さらにもう一つの拳でも〈ラッシュ〉で攻撃した来たが、それもボクは剣を振るう事で威力を打ち消した。
すると今度は横から圧縮された水の刃がとんできた。
「シラ、お願い」
『はい』
ボクは飛んでくる水の刃を腕輪で受け止めると、水の刃は瞬く間に凍って崩れ落ちた。
「さすがに氷相手には無理か……」
「当たり前だろ!」
そして今度は正反対の方から〈ファイアランス〉という中級魔法を放ってきた。
ボクはそれを前に避けて、そのままゲイザーに斬り込む。
「マジかよッ! テメェは忍者かよ!」
「舞え! 雪とともに! 〈二の太刀 雪麗〉!!」
ボクはちょっとした怒りも混ざった魔力を一瞬に溜め、〈雪麗〉を発動。
――吹雪の乱舞が舞った。
「!?」
〈フローズン・クリスタル〉での凍える寒さの中で、氷属性の混ざった乱舞は相当なもので、威力も速さも学校にいた時よりも段違いだった。
ゲイザーは防御魔法で僕の〈雪麗〉の直撃を受けたが……、数秒だろう。ゲイザーが意識を保っていられたのは。
残り、三人。




