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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第八章 ジーダス攻略戦・後半
72/96

【霧雨兄弟】

雑賀視点です。



「妃鈴!!」

「了解です」


 大剣と大盾がぶつかり合い、激しい音が響く。

 その中で俺の銃は目標に向かってまっすぐにとんでいく。

 城塞で囲まれているこのフィールドでは敵の姿は見やすいだろう。隠れるための壁など柱ぐらいしかないのだから。


 だが【霧雨兄弟】の使った霧と小雨が辺り一面に降り注いでいるため、視界が濁っている。

 言い忘れていたが、二つ名の霧雨の部分をそのまま取ってはいけない。

 霧を使い、さらに小雨で地面を自分たちの一番踏み込みやすい状態を保つ戦い方のために付けたのだ。

 霧はそのまま霧を表し、雨は小雨を表している。

 そしてその霧のせいで、とてつもなく見にくいが、なんとか戦闘は平衡している。

 【霧雨兄弟】のコンビネーションはすさまじく、攻撃の手が休まることは無い。


 しかし、俺たちの連繋も劣っているわけじゃない。

 妃鈴が守り、俺が攻撃。


「銃弾が効くとでも!?」


 兄の方が大剣で銃弾をはじく。


「ほらほら魔法でどうにかしてみろよ! 雑賀が魔法を使ったところ見たこと無いからな! もしかして魔法が使えねぇのか! ギャハハ」


 弟の方が挑発をしてくるが俺は動じない。

 確かに俺は魔法が大の苦手だ。魔力は周りと同じぐらいあるが、魔法の使い方が下手なせいで銃に魔力を込めて戦うぐらいしかできない。

 だから銃一つで戦い続けた結果が【疾風の英知】だ。


 話を戻すが、この視界が悪い状況でこちらがどこにいるか手に取るようにわかる奴らは、かなりのハンデを持っているだろう。

 だが、ハンデなら俺たちも持っている。このフィールド自体だ。

 なぜなら……。


「№40から80。撃ちなさい!」


 ドォォンッ! っと城壁にある、大砲(、、)が一斉に唸る。


「またか!」

「兄貴! 全て防ぐことは無理だぜ!?」


 広範囲に降ってくる大砲の弾の雨に、奴らは慌てて難しい回避をする。そしてそこが狙い目。パパァンッ! と二発を兄の方に撃つ。

 それを予想していたのか兄はなんなく避け、こちらに詰め寄ってきた。

 そして大剣を振ってくる。


「させません!」


 カァンッと妃鈴が大盾で防ぐと同時に、


「兄貴の邪魔すんなよ!」


 防いだ横から大槌を持って弟の方が出てきた。

 今防いでいる兄の剣があるので防げない状態の妃鈴だが、安心しきっている顔をしている。もちろん……、


「俺が居ることを忘れては困る」

「チィ」


 弟の下にもぐりこみ、顎に蹴りあげをするがそれを大槌で防いだ。

 俺はそのまま銃を向けたが、今度は蹴りあげられた反動を利用して跳びこえられる。着地地点を予想して数発撃つが、タイミングを合わせられ、大槌を振ると弾丸が全てはじかれた。


「大槌ではじくとはな……」

「ハ。これくらい魔力の上がった俺らには軽い軽い」

「上がった……か……」


 他人の魔力を奪う儀式で上げた最低のクズ野郎が……。

 俺は弟の方を睨む。霧はまだ浅いほうだが、これからだんだんと深くなっていき、こちらが不利になるのは時間の問題。大砲は魔力で判別しているので見失うことは無い。

 なんにしても……この霧は邪魔だな。戦う上で不利になる。

 最悪、俺たちの戦える武器が大砲だけになる。

 それだけは阻止だな。

 大砲だけ……か……。早く終わりそうにないな。

 さっさと終わらせる方法……何かさがさねぇと。


「おいおい。これじゃあずっとあんたらは防戦一方だぜ?」

「兄貴の言う通りだぜ! 貴様らに勝ち目なんかねぇんだよ! 〈強打〉」


 弟のフルスイングの大槌が上から振られる。それを避けると、ド、パァァァンッと音が鳴ると同時に打ちつけられた土まで飛んでくる。


「チッ」


 魔力の籠ったただの力任せのスイングだが、当たれば体は無事では済まないだろう。

 それを見越してなのか兄の大剣が横で振られてくる。


「〈爆鮫〉!」


 弟ごしだったので弟が切れるかと思ったが、それを見越していたのか下にかがんでいる。なんとか後ろに跳んで避けたと思ったが、なんと振った後に鮫の形をした圧縮された水が追撃してきた。二段構えの事に舌打ちをするが、横から入ってきた妃鈴の盾でなんとか防いだが、爆散して、妃鈴の後ろにいた俺ごと飛ばされる。


「グッ」


 柱にぶつかり、身体にダメージ。だがまだ十分動けそうだ。


「すみません天童さん。大丈夫ですか?」

「気にするな。それよりも――ッ」


 すぐに妃鈴の体を持って横に移動。そのすぐ後、大槌が通り抜けて行った。大槌は柱ごと潰したと思われると、石が上から崩れてきてそれからまた妃鈴を持って横に跳ぶ。そこに兄の剣での水平斬りが来たので妃鈴の盾を持って防ぐ。


「て、天童さん! 私を降ろしていただければ!」


 声が上ずった妃鈴の声を聞くが、今は降ろすような状況でもない。心なしか、妃鈴の顔が赤くなっているようにも見えるが、気のせいだろう。

 盾で俺と妃鈴ごとはじかれたことにより、いまだに空中だ。動きずらい事この上ないが今は仕方が無い。


「俺と兄貴の前でイチャイチャするんじゃねええええぇぇぇ!!」


 戦い始まってだろう一番の魔力がこもった大槌が俺と妃鈴をとらえる。


「い、イチャイチャなどしていません! 〈イージス〉!」


 妃鈴が大盾を持ち、妃鈴の出せる最大防御魔法で対抗。

 ガ、キィィィィンッッ!! と、ものすごい余波をとばして見事に相殺。いや、弟がはじかれたところを見ると妃鈴の方が優秀だったらしい。さすが俺の秘書。

 そのまま着地し、妃鈴はそそくさと離れる。顔がいまだに赤いのだが、お姫様だっこがいけなかったのだろうか?


「な、№81から9999!! 撃ちなさい!!」

「ちょ、それは撃ちすぎじゃないか!?」


 ドドドドドドォォォォォォンッッ!! とかなりの数の大砲が【霧雨兄弟】を襲った。


「これは多すぎだ!」

「兄貴! 避けないとヤバイ!」


 そして大砲が兄弟を包み、爆発と共に、煙がモクモクと立ち上る。


「ひ、妃鈴?」

「なんです?」


 殺気のこもった妃鈴の目に、俺は冷や汗がだらだらと流れる。


「い、いや……。その……お姫様だっこがそんなに嫌だったか……?」

「そうではありません。気にしないでください」

「だ、だが……」

「気にするなと言っているんです」

「わ、わかった……。わかったからその盾を銃形態にした物を俺に向けないでくれ!」


 いつの間にか大盾から大銃に変えていた妃鈴に怖がりながら、煙を見る。

 いつまでも出てこない事に訝しげる。俺なら煙を利用して動く場所は……。

 とそこで上からの殺気。


「!?」


 とっさに上を向いたらそこには、大槌の面の部分しか見えなくて――、


「しま――ッ」


 ガァァァァンッ!


「ぐふ……ッ」


 とっさに防ぐようにした右腕ごと、地面にたたきつけられる俺。バキバキと音が鳴っているところからきっと右腕は今の戦いではもう使い物にならんだろう。

 横目で見えた妃鈴には剣が後ろから思いっきり腹に刺さっていた。


「く……。天童……さん……」

「まだ死なんか。じゃあこれで終わりだ!」


 兄の方が力を入れ、そのまま上に――。


「させるかああぁぁぁぁッッッッ!!!!」


 横のまま、無事な左手で、全力の魔力で撃った。銃弾は兄の大剣の腹部に辺りヒビを入れてそのまま砕いていった。


「な! 俺の剣が!」

「兄貴! このッ」


 弟は大槌を振り上げ、さらに打ちつけようとするので、俺はそれを左手を使って逃げ――!?


(体がッ)

「天童雑賀。ここで終わりだああぁぁッッ!!」


 振り下げされる大槌。俺はそれを見ることしかできなかったが。


「バズーカ〈ブラストバン〉!!」

「ぐあ!」


 土属性の大きな弾丸が弟に辺り、爆撃と共に吹き飛ばした。


「はぁ……はぁ……。大丈夫ですか、天童さん」


 腹に突き刺さる剣の刃を抜き、兄を気にしつつ近づく妃鈴。


「だ、大丈夫だ。助かった」

「いえ。私こそ……助かりました。もう少しで……両断でしたから……はぁ……はぁ……」


 腹から出てくる血の量は痛々しい物だ。俺は懐に入れていた癒しの魔法が入っている瓶を妃鈴に振りかける。


「天童さん! それは天童さんに……」

「いい。今は……俺より、妃鈴だ。俺は……これで良い」


 そう言って魔法薬を飲む。魔力が回復したことにより体の自由もそれなりにきくようになってきた。

 しかし、最悪だ。早めに決着をつけなくては……と激痛が這い回る体を無理やり起こして合流した兄弟を見る。

 視界さえなんとかなれば均衡して戦えるがさっきの煙のように、視界が見えないと、奴らの不意打ちばかりが待っている。いや、俺の右腕が使い物にならない以上、こちらの方が不利だろう。

 どんどん悪くなる視界。小雨と霧の所為だが、水で足場が悪いし、霧で視界が見えない。最悪だ。

 もう時間が無い。ならば……


「妃れ――」

「はい。わかりました。閉鎖区域ですね?」


 言葉の途中で口をはさむ妃鈴に俺は感心する。


「さすが妃鈴……。そういうことだ。頼む」

「了解です。城塞よ。その姿変化し、閉鎖区域を作り出せ」


 すると空間が歪み、徐々に閉鎖区域が作られていく。


 閉鎖区域。


 このフィールドを閉鎖、閉じ込めて、密室にする。

 空気が漏れるところなど、どこにもない。光を灯す物もないが、明るさは十分にあった。

 密室でもこれは魔法。明るさぐらいなら調整できる。


「は? こんなとこにしても逆にお前らが不利になるんじゃないのか?」

「そうだな。ここには大砲なんて見たところ無いからな」

「確かに無いさ。……だがな。よく見てみろよ」

「「?」」


 こちらを注意しながら辺りを見回す二人。何もない壁を見たりしながら、兄の方が口を開いた。


「ふ。どうせ張ったりだろう? 何もないこの密室で何を見つけろというんだ?」

「そうだ。何もない。何もないからこそ――」


 パァンッ。

 床に向けて銃を撃つ。


「目がくらんだか? 下に撃ってどうすんだよ!」

「おら行くぞ!!」


 一人は真正面から、もう一人は遠回りして横から来るのに対し、俺はおかしくて苦しい体でも、笑みがこぼれてしまった。

 キンッと何か金属がはじかれる音が何回かするのを聞きながら。


「なんだ? このお――ガッ!?」

「どうしたんだ兄貴!?」


 正面から走ってきていた兄がいきなり倒れこんだ。

 弟の方がそれが全くよくわからず、兄をよく見ると……、足に、血が滲み出ている。


「グッ。い、いつの間に撃ったんだ……」

「兄貴! テメェ」


 走り出す弟。


 パァンッ。 キンッ、キンッ、キンッ。


「ぐあっ」


 今度は横に移動していた弟の腹から血が出てくる。


「ぐ……。ま、まさかこれは……」


 見えない銃弾の真相がつかめたらしい兄。知っていたか……。

 まぁ銃の撃ち方の有名どころだな。




 ――反射撃ち(リフレクトショット)




 壁を利用して弾丸を反射させて敵を撃つ高度な撃ち方だ。

 何もない……そう、凸凹がない閉鎖区域だからこそ、簡単にできる見えない銃弾。

 凸凹のある場所でもできない事は無いが、俺は……それでやらかしたことがあるからな……。


 初めからこれ使えばよかったな。そうすれば余計な魔力を使わずに済んだだろ。なるべく使いたくなかった手だったから使わなかったんだけどな。


「さぁ。【霧雨兄弟】。俺は唯一使える魔法以外の魔法は苦手だが……魔力を使った銃は得意だぞ?」


 カチャリと銃を【霧雨兄弟】に構える俺は、二人に問いただす。


「生きるか……死ぬか。答えろよ。俺は【疾風の英知】。この場で計算された反射する弾丸は今のところ……百発百中だ」


 【霧雨兄弟】は顔を苦くさせる。


「く……」

「だが……霧がもっと深くなれば――」

「だからその前にかたをつけれるんだよ。こっちはな」


 ゆっくりと撃った銃弾が兄の脳天に直撃するコースに向ける。


「殺しなんてお前には――」

「悪いが……」


 俺は兄に目を向ける。





「人の命を平気に奪って自分の魔力とし、笑いながら使う貴様らが……生きているだけで虫唾が走る」





「「――ッ!?」」

「天童……さん……」


 とても……、そう。とても獰猛な目で睨みつける目には確かな殺気が混じっていた。

 それに怖気ずいた兄弟は硬直し、動かなくなる。


 俺はおもむろに服の内からたばこを取り出す。

 一本を口に咥えポケットからライターを取り出す。


 カチッ

 ……カチッ

 …………カチッ


「……はぁ。とりあえずこの霧と小雨やめろ」


 先ほどの殺気を納めた俺を見ると、兄弟はコクコクと頷き、今すぐ魔法を消したのだった。


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