ボク、男なんだけど……。
ガチャ……。
扉を見ると一人の男が立っていた。
その男はジョギングしていた時に見た鼻息の荒かった――リクにはそう見えた――変態さんだった。
「なんなのですか、あなたは!?」
「おや? あなたは……俺が聞き込みをしていたときに見たお嬢さんではないですか。こんばんわ。夜間すみません」
「すいませんと思うならこれから寝るところのボクの部屋から早く出て行ってください。変態さん」
そういって布団をかぶる。
もちろん寝るつもりはない。
「どうするの? リク君。この布団調べられたら……」
「わかってる。任せて」
という感じ。
布団の中にソウナがいるからだ。
今の会話はもちろん小声。じゃなければバレてしまう。
古典的だろうと思われるだろうが、ココぐらいしか隠れるところ無いのだ。
クローゼットは母さんが勝手に入れる服だらけで、はいれず、タンスは人が入るには狭い。
他に人が入れる家具などあるはずもなく、結局ここにしか無かったということだ。
「おや? つれないですね。その変態さんの前で寝るということはどんなことされてもいいということですか?」
「はぁ!?」
すぐに起きる。
そんなふうに返してくるとは思わなかったので布団ごと起きてしまった。
なんとかソウナは見えはしなかったが、ボクはかまわず言った。
「あなた何考えているんですか!? 頭おかしいのですか!?」
「頭おかしいってそこまで言わなくても……」
「あ……ごめんなさい……」
いくら変態でも言っていい言葉と言っちゃいけない言葉が……。
「いや……いいんだ。君がこっちに来てくれれば……」
「それは死んでも嫌です」
全言撤回、断固拒否。
ソウナのためというのもあるが何よりあんな変態には近づきたくない。
「俺も嫌われたね。しかたがない……。なぁお嬢さん」
「なによ……変態」
ユウがいるほうに振り向く。
いつの間にかユウもこの人のことを変態と呼んでる。
ただいつもと雰囲気が違うような……。
「この部屋にソウナはいるのかな?」
「ああ……ソウナならこの部屋に……」
「ユウ!」
「あ!」
すぐに口を手で覆う。
「この部屋にいるんだな。ガルム! グレン!」
パリィィンと窓が割れる音と同時に二人の男がはいってきた。
そして入ってくると同時にリク、ユウそれぞれにその手に持っている短銃を向けてきた。
「な!?」
「静かにしろ。しゃべるな、動くな。これらのことをすると……わかるよな?」
「く……」
しかたなしに口を閉じる。
だれだって死にたくはないのだが、ソウナが見つかりそうになる時は動きそうだ。
「あまり脅かすなよガルム。こちらは危害を加えるつもりは毛頭ないんだ」
「形だけだ。どこで奴が見ているとも知れない」
「うわぁ。雑賀先輩の言ってた通りに可愛い人ですね~。惚れちゃいそうです。なんていう名前なんですか?」
「グレン。仕事だ」
「えぇ。雑賀先輩が可愛い娘のいる家に行こうって言ったじゃないですか。ねぇ。ガルム先輩」
ガルムと呼ばれた男は頷くとチラッと雑賀のほうを向く。
「ま、たしかに俺だけどな。根拠があったんだよ」
「根拠?」
ガルムと呼ばれた男がボクのほうを向く。
そのとき気がついた。
(しゃべったらだめって言われてた。どど、ど、どうしよう!)
「ガルム。このくらいは許そう」
「……フン。形だけと言っただろう」
「わかった、わかった。さて……彼女にたちにも聞かせよう。根拠とは……」
一度口を閉じて息を整える雑賀。
そして雑賀は大きく口を開いた。
「俺は一度聞いた女の子の声は忘れない! だから君が声を上げたときにあの時会ったお嬢さんだとわかったんだ! そして俺はお嬢さんの家を俺の友人に頼んで場所を調べてここに来たのさ……」
沈黙。
ユウ、ソウナ、ガルム、グレン……みんながみんな、表情が固まった……。
その沈黙を破ったのは……。
「……ボク……男の子なんだけど…」
「「「……は?」」」
検証結果。
男でも覚えようとすれば覚えられる。
そして三人同時に固まった。
うん。泣かないよ?
だって男の子だもん……。
「嘘でしょ?」
「ほんとか? おまえ……男なのか?」
「ば、バカな……ここまで可愛いのに!? 男!?」
順番はグレン、ガルム、雑賀の順番だ。
そして続けて雑賀。
「……おまえ女になったほうが異性(男)にもてるぞ?」
「あ………変態さん一番言っちゃいけないこと言っちゃった……」
――今アノ人ナンテ言ッタ?
――イマナンテ言イマシタ?
――ボクガ何ニナッタホウガイイッテ?
――ドクンッ
冷たい冷気が辺り一面に降り注いだ。
「な、なんだ……」
「雑賀先輩……これ……」
「魔力……解放……だと……?」
何を言っているのだろう?
でも………、
――どうでもいいか。
「雑賀さんだっけ? ……ふふ…とりあえず……ふっとべ♪」
「へ?」
瞬間いつの間にか移動していたリクの放ったアッパーが……、
――雑賀の顎を捉えた。
ドゴォォンッ。
「グハッ!」
意識が遠のく雑賀。
「もう一発くらえ!」
今度は回し蹴りを雑賀の頭にいれその体を吹っ飛ばした。
「ぐっ!」
ガァンッと激しい音を鳴らし、壁にヒビを入れ、派手にぶつかった。
頭からいってしかも衝撃が強かったのかそのまま気を失った。
ここまでやるつもりは無かったのだが、体が勝手に動いた。
いや、今の瞬間だけ、誰かに体を操られたような……。
「ちょ! 雑賀先輩!?」
「ちっ!」
パンッ
乾いた銃声と
ドサッ
リクの倒れる音だけ響いた。
ボクの意識はそこで途切れる。
「お兄ちゃん!? 大丈夫!?」
しかしリクからの返事はなく。代わりに、
「リク君!?」
布団の中からマイペースのソウナからは考えられない顔で出てきた。
「傷は浅いわ。私がすぐ治す」
そういうと彼女を中心に光が現れる。
「我が名はソウナ。神よ……〝治癒の光〟を持って彼の者を治さん。〈ヒーリング〉」
彼女がそうつぶやくとリクの周りに光が現れる。
リクを包んだ光はやがて拡散し、リクは傷一つない状態に戻っていた。
「よかった……」
しかし安堵したソウナの腕をつかんだのはガルム。
「こんにちわ、いやこんばんわ……だな。癒しの聖女、【治癒天使】ソウナ」
「そう……ね。こんばんわ。ケルベロスの【地獄の番犬】ガルムさん」
「俺たちの用事は何個かあるが……」
「さぁ? わからないわ」
緊張の空気が流れる。
「グレン。音を出したからな。野次馬が来られては困る。ここを移動する。雑賀とソウナは俺が連れていく。お前は気絶している男とそこの女だ」
「了解しました」
「くっ! ユウちゃん逃げて!」
ガルムがグレンに命令を下してグレンが動き始めたと同時に叫ぶソウナ。
しかしユウはその言葉を無視して行動していた。
ユウはガルムを睨みながら叫んだ。
「よくも……よくもお兄ちゃんを……! 許さない!」
そう言うと同時に熱い空気が駆ける。
それは…………炎。
「え? こいつも魔力保持者!? ガルムさん!」
「まさか……そんな、ことが……? こっちの世界には一つの家庭に魔力を持った人間は一人以下しかいないはず! どういうことだ!?」
驚いている二人を無視しユウは言葉を紡ぐ。
「我が名はユウ!! 我が〝灼熱の剣〟よ! 我が声を聞き、すべてを焼き尽くせ!!」
ユウの手に顕現されていく炎の中から出てくるは一振りの大剣。
「しかして力を解放し、我が領域とせよ!! 〈灼熱の大地〉!!」
言葉を紡ぎ終えた時。
空間が静止し――パリィィン。
世界が変わった。