画面
「う……んん……」
視界が開く。
「おはよう」
「!?」
飛び退くボク。
起きたら目の前にいるシラにびっくりして壁に寄りかかる。
「お、おはようございます……」
そして顔が赤くなるのがわかる。
熱さが顔を巡っているからだ。
「そんなに『キス』がだめでした?」
ボンッ
「そ、そそそんな、だだだだってキスってはじめて……」
「? 『人間』にとってそれはなにかあるのですか?」
「…………これからはシラには人間の常識を教えないといけないかな……」
なんてことを思う。
「ほおに『キス』しただけですが……」
そう。キスは別に……その……口と口じゃないからファーストキスが奪われたワケじゃない。
たとえそうだとしてもこれは契約だからノーカン!
ノーカンです!!
顔を赤くさせながらなんとかボクは周りを確認する。
ここは……ボクが雑賀さんに借りている部屋だ。ベットはふかふかで眠くなるような触り心地だ。だけどそれは今、氷付いていて、いつものふかふかのベットではないし、部屋も全てが凍りついていて、見るも無残な状態だ。
「りくのたいおんは『マイナス』をかるくふりきっていました。ですがいまは『常温』です。あんしんしてください」
できません。と真顔で言いたい気持ちに翻弄されながらも、ボクはシラを連れて部屋を出……。
「…………ふん」
バリィィンッ。
部屋を出て階段を下りる。
「あの……。いま、『扉』ごとこわしてあけたようにみえたのですが……。いくら『凍っていた』としても……」
階段を下りた矢先に、居間の方から怒声が飛んできた。
「クソッ。なんでカナ嬢と真陽嬢の通信が切断されたままなんだ!? 雁也がインカム渡したんじゃないのか!? 今だってルナ嬢の通信が切れたってのに!! 大人二人何やってんだよ!! 囮チームの誰かを援護させに行かせるか……。いや、だが今は雑賀と妃鈴は霧野郎共をやってるし……。グレンは魔力切れに近い、とするとガルム……って今はガルムだけが前衛で頑張ってくれたまままじゃねぇか!! あぁくそ!!」
ドンッと机を叩きながら複数を宙に作り出した画面を操作するデルタ。これがデルタの魔法……。
画面はそれぞれハッキング済みのカメラの映像や状況の整理がされている画面。
何かの状態が記されている画面。
おそらく今さっき通信とか言ってたからその状態を確認するための画面だろう。
ほかには、家の住所の情報らしきものが詰まってる画面。
(赤髪でツインテールの)女の子が映し出されている画面。
ところどころに映されているローアングルのカメラの画面。
(黒髪紫瞳で胸が大きい)女の子が映し出されている画面。
おそらく町中に設置されている高音質マイクの波が出ている画面。
(白銀の髪でロングヘアーの)女の子が映し――ガシッ
「な、なんだ!?」
「デルタさん? これ、何ですか?」
ニコリとしながらなるべく、穏便なオーラを漂わせて肩を掴みながら言うボク。
それに気づいたデルタは、目にわかるように震え始めていた。
「お、おおおおおおお起きたんだな、りりりり、リクちゃん……」
「どうして肩が揺れているんでしょうか?」
笑顔で答えるボク。さらに肩を震わせるデルタ。
「こ、ここここここれは海よりもふか~い事情が――」
「じゃあボクも海よりもふか~い事情があるので叩いてもいいですか?」
「たたた叩くの!? でで、できればひと段落――」
「ひと段落と言うぐらいなら真面目に仕事をしてください!!!!」
パリィン! 氷の魔法で作られたハリセン(なんとなく)で氷が簡単に割れるくらいの力で頭に、問答無用で叩きつけた。
「ぐぉぉぉおおおお!!!」
氷のハリセンを受け、転げまわり始めるデルタを見ていると通信らしきものが入る。
『おい、どうしたデルタ! 何かあったのか!?』
声はガルム。
「なんでもない。それよりたくさんの衛兵がそちらに集まっている。殲滅し、捕獲を頼む」
転げ回りながら話すデルタ。
す、すごいね……。後ろにいるシラも口をぽか~んと開けている。
『あ、ああ。わかった』
「イテテテ……。リクちゃん。時と場合を考えて――」
パキッ。冷たい冷気がボクの手の内から出てくる。
「すみません。マジですみません。俺が悪かったです。でもこれには事情がホントにあって……」
「くだらない理由だったらもう一発いきます」
……? そういえばこれってデジャヴだよね。
冷や汗が流れるデルタに気づかないリクは前にもこんなことがあったと感じる。雑賀さんで。
「と、とにかく今はそれよりも先にするべきことがあるだろう? 大丈夫だったのか? 体は? 何も異常ないか?」
鵜呑みにしようとするのか。でも質問はしっかり答える。
「はい。どこも異常は――」
ガバッ。そうやってボクの体を腕に抱くデルタ。
いきなりのことに驚き、体を離そうとするが、無の世界で感じていなかった人の暖かさに先ほどの怒りも忘れて、ボクはしばらくつかっていた。
「大丈夫です。ボクはもうなんともありません。心配してくれてありがとうございます」
ボクは目を瞑って感謝の言葉を放つ。そしてボクはゆっくり体を離す。
少し顔が曇ったデルタだったが、顔をあげて話し始めた。
「そうか……。行けるか?」
ひと時の休憩を終え、デルタは言う。
ボクは真剣な面持ちで頷く。
「行けるんだな。よし! リク。これをつけてくれ」
「これは……?」
気絶する前に貰ったインカムなら今でも耳に付いているのだが……。
耳に手を当てると、そこにしっかりとインカムの存在を確認できる。
「特注インカムだ。これで通信できる」
「さっきのと何の違いが……?」
そうこうしているうちに、デルタにインカムをつけられる。
手を当ててみても、なんの感触もしないので不思議に思う。
「これ、かけているんでしょうか?」
『あー。あー。聞こえてるか?』
ビクッ。目の前からじゃなく、いきなり耳元から聞こえるデルタの声にびっくりしながらもボクはインカムがちゃんとかけられていることを知る。
さっきのインカムは手を当てるとあるってわかってたのに……。
「よし、聞こえているみたいだから作戦を伝えるぞ?」
こくんと頷く。おそらくボクが行う作戦はボクが倒れる前のと少し違ってくるだろう。時間が違えば、できる作戦も変わってくるためだ。
「まずリクがすることはジーダスに着いて潜入だな。だが裏口はもうダメだと思うから……」
ひとつの画面を操作するデルタ。そこにはジーダスだと思われる建物の構造を写している画面で、それを回したりしながら考えている。
「ふむ……。今は中でも見つかったから何処も見張りが……。正面の囮に紛れて……いや、巻き込まれる可能性が……。だったら……」
ブツブツしゃべりだすデルタをボクは見続け、指示を待つ。
どのみちデルタの案内がなければジーダス本部にはいけないのだ。
爆発音がここから微かに聞こえているから今は行くことができるけど……。
「まてよ……。リクちゃん。魔法はいつでも使えるか?」
「ええ。いちお……」
魔力を確かめる。
ボクの中にはボク自身の魔力を感じると同時にもう二つ別の魔力を感じる。
(多分ルナとシラの魔力だろうと思うけど……? ルナがいない?)
「魔法が使えるなら鏡花なんとかっていう魔法で潜入させるか? たしか消えることもできる見たいだったよな……」
デルタは首に手を当てて悩んでいたが、いつもは感じるルナの気配がないことを感じたボクは、デルタさんにルナの事を聞く。
「デルタさん。ルナを知りませんか?」
「ルナ嬢だったら今しがた通信が切れた」
「え!?」
そういえばさっきルナ嬢との通信が切れたって言って……。
「『ヘカテ』いないの? たいへん! 『契約した神』は『契約した主』といっしょじゃないと『魔力』がないの!」
え? それってどういうこと?
「ええっとつまり、今のルナ嬢は魔力がないってこと?」
「ほとんどおなじです!」
「だから通信が……失態だ!」
ダンッ。置いてあったテーブルに再び手を叩きつけるデルタ。
そしてボクを見上げて、キッとした目で指示をする。
「リクちゃん。今すぐ裏口に行くんだ。案内と情報はすべて受け持つ。今すぐ通信が切れたカナ嬢、真陽嬢、ルナ嬢の安否を確認してくれ」
「は、はい!」
「だけど無茶だけはしないでくれ……。君はまだ子供だ」
「わ、わかりました!」
「健闘を祈る」
いつもならぬ空気に圧倒され、ボクは急いで家を出る。
日がまだ登ってくるにはかなり早い時間。暗闇の中、僕は、僕から溢れ出ている白い光を散らせながら走った。
「シラ。ボクにあった形状にできる?」
「できる。でもわたしは『武器』じゃないから」
「武器じゃない?」
「そう。――恵みを――」
恵みを? それが彼女たちの神の変化する合言葉の様なものかな……? だとするとルナが言っている言葉も?
彼女がいた場所は光が包み、シラが消え、光だけの存在がボクの腕に巻き付く。
そして光が収まると、その中から腕輪の様なモノが腕に装飾品としてついている。
「これ……は……?」
『これが、わたしが『リク』にあわせたすがた。もうひとつ『形状』があるけど、それはまたこんど』
そしてボクはその腕輪を見て気づく。しっかりと結晶のマークが書かれており、冬だと思われる白い腕輪で、氷の翼が左右対象についていた。
それを確認すると、身体強化魔法を使い、地面を蹴り跳躍。そして今度は屋根を蹴って跳躍し、屋根から屋根へ……。繰り返していくなかで、シラがまた話を切り出す。
『さっきのひと……』
「デルタさんのこと?」
『ほんきでしんぱいしていました』
「当たり前だよ。だってもう仲間だもん」
『なかま?』
「うん。ボクたちはこの戦いだけのために結成されたかもしれないけど、仲間になったんだ。心配するのは当然の反応でしょ?」
『……りく。たんじゅんっていわれないですか?』
「へ?」
『いえ。それがりくのつよみなのですか』
シラの声が聞こえなくなる。何か思い当たるところがあるのだろうか?
しばらく何も話さなかった。聖地のことは、今は聞けないなと思い、ボクはそのあと早く……速く走った。
それは白い光が……軌跡をなぞるように綺麗だった……。
と、武藤秋は空を見上げながらそう思った。
腕にリクを抱いたデルタの脳内
デルタ(うをぉぉぉぉ!! めちゃくちゃ小柄だし柔らかい!! 抱きやすいな!! このまま持ち帰りしたい!!)
ハグを堪能していた。
顔が曇った理由はお分かりいただけただろう。




