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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第七章 ジーダス攻略戦・前半
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勝って先に――

「……良いのか? てっきり二人を邪魔するとばかり思っておったのじゃが……」


 カマをかけて言うと、ゲイザーが笑いながら言った。


「邪魔したら邪魔したで後ろの奴の楽しみがなくなるだろ? それに邪魔したらお前からのその危険な魔法がク

リティカルヒットで当たりそうでよ」


 手を広げながら答えるゲイザー。

 だが、ゲイザーの言うことは本当じゃ。

 その証拠として妾の手には光の束ができている。


 魔法〈光鞭(こうべん)〉。


 説明はその名の通りに光のムチで、手頃な魔法じゃ。

 弱くても魔力を流し続ければ始め顕現させた時の威力のままじゃ。

 しかし、これは最低限魔力を抑えて魔力を感づかせないようにしたもの。


 ――気づくだけの力はあるということか。


 トントン。意味もなく足で床を叩く。まずやることは……。


「〈光弾〉」


 ボンッと小さな音を立てて潰れるカメラ。

 こうすれば少なくともどうなったかは分からぬじゃろう。

 デルタの援護は戦闘では期待したくないし、泥沼な戦闘になることがわかっているので、見せたくない。


「あ~あ。カメラ潰しやがった」

「金額はバカにならんぞ?」


 金額? ああ、人間達が使う通貨のことじゃな?


「そのようなものを心配する前に自分たちの安否を確認したらどうじゃ?」

「へ!」

「図に乗るな」


 二人は魔力を溜めている。

 さて……どうしたものか。

 先ほどの泥沼な戦闘とは……妾が本気を出せないということじゃ。奴らは万全の状況で戦えるじゃろう。


 しかし、妾は違う。

 実は契約した神は契約者が死ぬか、契約者と同じ場所にいないと本領を(、、、)発揮(、、)できない(、、、、)。簡単に言えば、契約した神は基本、魔力を契約者の内においてきているからじゃ。契約者が妾を呼んでおれば話は別じゃが、今回妾は呼ばれずに自分で出てきた。じゃからほとんどの魔力はリクの内においてきたままじゃ。

 つまり今の妾は強くない。おそらくキリよりも弱いと思われる。じゃからキリを先に行かせたんじゃ。

 先にこれ以上の強者が現れると妾は予想しておるから、先に行かせたのじゃ。

 マナはさすがに二人相手には出来んじゃろうからのぅ。ここは必然的に妾が残るしかないということなんじゃ。


(頼むぞ……二人共!)


 懇願する。

 そうでなくては二人を急いで先に行かせた意味がない。

 そして魔力を十分に溜めたのか、果てさて、妾が攻撃してこなかったのを見てなのか、痺れを切らして叫ぶ。


「金髪ロリでも俺は容赦しねぇぞ!!」

「金髪ロリ以外は同意だ」

「ふん。主から離れているとは言え、妾は〝ヘカテ〟じゃ! 図に乗るでない!!」


 少ない魔力でどうやってこやつらを黙らせるかのぅ。

 未だに発現している〈光鞭〉を主力の武器とし、勝てる算段を練る。

 そして、戦闘開始の合図とともに、ゲイザーのただの拳が飛んできた。


「おらよ!」


 そのスピードは桁外れなので拳の前に『ただの』と付けていいかどうか分からぬが……。

 それを紙一重で避けるが、次には亮と名乗った男の魔法が飛んでくる。


「〈水連弾〉」

「たわいもないわ!」


 飛んでくる水の弾丸を〈光鞭〉で弾き、その勢いのままゲイザーにも攻撃する。


「ヘッ。流れるような攻撃結構!」


 ガキッン!!


 鉄と鉄が当たったような音をして、はじかれる〈光鞭〉とゲイザーの拳。同じくらいの強度があるようだ。

 〈光鞭〉は雑賀の家で顕現させて、顕現したときはかなり強めに作ったので簡単に拳など吹き飛ばす算段だったのだが……。


 魔力を底上げする最低な儀式をしていただけあって、威力はあるということか。

 一度攻撃が止む。


(様子見か? 舐められたものじゃ。……こないなら……妾から行く!!)


 そしてムチを振る。

 しなやかに操られているムチは目標がわかっているかのように飛んでいく。


「へ! そんなもん弾き返してやる!」


 ゲイザーはそれを弾こうと拳を突き出すと同時、


「〈光弾〉」


 光の弾丸をゲイザーに向けて放つ。


「うぉ、やべ!? な~んてな!」


 一閃。


 ガガガガァン!


 すべてをはじいたゲイザー。

 ムチははじかれただけだが、光の弾丸は違った。


 ――まっすぐ妾に向かってきていた。


「む……」


 その速度は先ほど妾が放ったものよりも速く、重いものだと思われる。

 避けるしかないと思い、体を動かそうとすると――


「〈水刃〉」


 圧縮された水の刃が飛んできた。


(くっ)


 なんとかムチを持ち直し、すべてをはじくべく振る。

 そしてはじけなかったものはなんとか避ける。

 それでも無理だったものもあり、着弾する。


「グッ」


 服が切り裂かれたりはしないが、体にダメージはそれとなく通る。


「? なぜ切れない?」


 そう。切れていない。

 魔力が高く、威力が高い水の刃を受けても傷らしい傷はついておらぬ。

 理由としては、衣服に魔法がかかっており、これはほとんど魔法鎧となっておるからじゃ。

 人間の威力の魔法ではこの服に傷をつけることはできまい。

 だが、ダメージはしっかり通るので気を付けなければならない。軽減はされているが。


「そなたらの魔力が弱いからじゃ」


 苦しい状況でも強気を言う。


「あぁ?」


 こうでもしなければ威力の高い魔法を避けることは容易ではなくなるからじゃ。

 怒りで戦う者は、理性が単純になる。簡単に倒すことは容易じゃ。

 だが相手もそれは心得ているようで、


「亮。我慢しろ」

「……ああ。わかってる」

(そう、うまくはいかぬか……)


 作戦はうまく成り立たなかったが、それでも少しの時間稼ぎはできた。

 着弾したダメージの回復だ。

 ダメージさえなければ、先ほどのように対等に戦える。

 怒ってくれるなら怒ってくれた方がよかったが、作戦が失敗した今、もうひとつの作戦を成功させるのが目標だ。

 いつもは魔力を多様に使っていたが、魔力が無い中、考えながら戦うのは久しぶりじゃ。

 基本、刀としてずっと扱われていたから考えながら戦うという二つを同時にするなんてありえないが……。

 すると思考を一旦中断させ、目の前に迫り来る水に驚く。


「〈水流波〉」


 大気の水を使って作ったのだろう囲む水流が押し寄せてくる。

 範囲魔法なのでよけれないと思い、こちらは防御系魔法で対処する。


「〈光境〉」


 光が散って、水に触れていく。

 すると水流はいつの間にか止まり、ルナが触ると、パリィィンと鏡のように崩れ去った。


「おいおい。そんな魔法聞いたことねぇぞ?」

「当たり前じゃ、妾しか使えぬからのぅ」


 だがそんなのんきな話をしている場合ではない。

 ゲイザーの右フック、右ストレートから左アッパーがきたのだ。

 それをなんとか避ける。

 するとなぜかゲイザーは妾から離れた。


(なにを……ッ!)

「〈アクアスプリンガー〉!」


 それと同時に来る先ほどとは比べ物にならない圧縮された水の弾丸が襲ってくる。


「クッ、〈光鏡〉」


 なんとか目の前で止めたが、横から――、


「〈ラッシュ〉!」


 高速の拳が数発飛んできた。

 バキィ


「カハ――ッ!」


 軽く飛ぶルナ。

 いくら魔法で強化されている衣服だとしても、儀式で底上げした魔力を使った魔法の威力は殺しきれない。


 ガァン! 壁に強く打ちつけられ、意識が飛びそうになるのをこらえる。


(いかん……。こやつら本気で強い……。せめてリクが近くにいてくれれば勝て…………いや)


 すぐにその考えをやめる。

 緩んでいた手で、ムチを握り直す。


「妾が……リクの代わりに来たん……じゃったな。ならば……ここで勝って……先に進むべきじゃ……」


 フラフラと足取りが怪しいが、しっかりと立つ。

 そして今現在の突破しなければいけない相手を睨む。


「お。今のでノックアウトしねぇんだ。ほぼ全魔力だぜ? おチビの癖にやるなぁ」

「だがこれで最後だ」


 亮は魔力を溜める。

 うむ。神とて今は主から離れておる。

 正直今くらったら確実に意識は持っていかれる……。


 魔力も……もういくらもない。

 まず〈光鞭〉に、キリとマナに時間制限付きの身体強化魔法に、〈光弾〉を二回。だがこれは魔力をそこまで消費しない。

 〈光鏡〉もいつもの魔力を持っていればの消費はそこまでないのだが、人間に言わせてみればかなり多い。

 それを二回。そしてもう一回は使えない。

 魔力が足らない。


(これだけの魔力……仕方あるまい。ならば……)


 ひとつの策を生み出す。

 そしてそれは今この場でしかできない魔法。

 気づかれないように発動した。

 あたり一面に、かなり薄い魔力が拡散した……。

 ゲイザーは腕を頭の後ろ組み、つまんなさそうな顔をする。


「つまんねぇな。これで終わりだから」


 亮はゲイザーの言葉に「仕方ない、子供なのだから」と付き加え、魔力を最大限まで溜め、放出した。


「〈アクアスラッシュ〉」


 目の前に広がる圧縮された斧の形をした水が飛んでくる。

 どう見てもよけられない。

 だが……。


 ザッパァァァン!!!!


 圧縮された水は見事に壁を切り刻んだ。あとに残ったのは水びだしなのと水で切れた廊下。


「はぁ?」


 そう。それ以外は何もないし、いなかった。

 そして――


「ガッ」


 ゲイザーが吹き飛ぶ――ズドォン!!

 壁に穴があき、崩れる。


「ゲイザー!」

「もう少し周りを見たらどうじゃ?」

「!?」


 いつの間にか横に並んでいるルナに腰に持っていた剣を振るが、剣は虚しく空を切る。


「そなたが水使いで……妾は嬉しいぞ」

「どこにいる!?」

(ぬし)の……目の前じゃ!!」

「!?」


 目の前に現れる妾に驚きを隠せない亮。

 そのまま〈光鞭〉と新しく作った〈光球〉を亮の腹にぶつける。


「グハァ!」


 くの字に曲がった体の首下ぐらいからさらに〈光球〉を当てる。


「――ッ」


 下に叩きつけられ、そのまま意識を失う亮。


「まずは、一人……。く……」


 フラつく。魔力切れが近い証拠だ。

 いつまでも〈光鞭〉を顕現させて置くわけにはいかず、魔力を流すのをやめる。

 そして先程使った〈光球〉とは魔力を一番抑えられる魔法、球魔法の一つ。球魔法は球型の魔法で、一番初めに覚える魔法だ。故に一番消費魔力が少ない。

 だから魔力切れが近くてもあと四回ぐらいは作れる。そこまで考え、身体強化で蹴飛ばしたゲイザーを見る。


「う……てめ……どうやってよけやがった……!」


 呻きながら立ち上がる。やはり、魔力がなくては強化をしてもそんなにダメージは上げられないと……。

 だが立ってくるとは思っていなかったので少々驚きを交える。


「簡単じゃ……。そこに……水があったのでな……。少々……利用させてもらったぞ……」

「な……に……? 水……を……だと……?」


 口では軽く言っているが、決して簡単ではない魔法。

 〈鏡花水月〉を使ったのだ。

 リクがいなければ使えないことはない。だが水がない。

 妾の今の魔力では水を出せないのだから。だから亮の水は助かった。

 魔力も少なかったので発動時間はとてつもなく短い時間だったが、十分な時間を発動することができた。

 そして〈鏡花水月〉を使ったことにより、〈光球〉が使えるのはあと一回。


「さて……。主にも……これを浴びせようかの……」


 そう言って〈光球〉を発動させる。


「クソが……」


 妾は、諦めを感じていたゲイザーに球魔法を受けさせる。

 弱っていたゲイザーは簡単に意識を失い、崩れ落ちた。


「い、いかん……意識……が……」


 契約者(リク)に呼ばれていれば、魔力切れなど起こさなかっただろう。契約者(リク)から離れていなければこんなことにはならなかっただろう。

 でも……これまでの契約者をこんな目に合わせたのが妾だと思ったらいてもたってもいられず、リクから離れてしまった。

 呼ばれてもいないのに契約者から離れて戦いに行くことは自殺行為も等しいというのに……、この戦いに出てしまった。


 だから――、


「先に進――」


 そしてルナは、魔力切れを起こし、そのまま壁にもたれるように意識を失った。


今回で第七章終了です。

短いって私も思いますけど……。

仕方ないんです。分けたのに理由があったんですから(==

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