冬
マナ達が走っていく後方で、静かに戦闘の準備が整えられようとしている。
「ただ単に立っているだけに見えるのに全くスキがないのね♪」
「確かにねぇ。自然体なのにスキがないなんて危険だねぇ」
そして男は若い声で重く口を開く。
「守護十二剣士は未だ潰えず。我が前に強者は現れぬ……。問う。貴様らにその力はあるか?」
「全く、ここには偶然にきたみたいね……」
「だねぇ。……正直気味が悪いねぇ」
それぞれカナと真陽は自分の剣を抜く。
真陽は黒剣を。
カナは大太刀を。
それぞれが魔力を帯び始める。
「我が名は我を倒した者のみ聞ける幻名。始祖の始まり、〝雷光の姫君〟二の守り人。ヒスティマにて、すべての封の根源を司るもの。問う。なぜに戦う」
男は表情のない顔で聞いてくる。
それにカナと真陽は嘆息しながら言い放つ。
「そんなの……」
「ここに天災が来ちまったからだね。いや、神災かねぇ」
「宛字としてはいいわね♪」
「そういうもんかね? ま、なんでもいいか。
我が名は真陽。〝黒き舞姫の黒剣〟よ。歌え、叫べ、奮えたまえ」
そうして真陽は魔力を完全開放する。
白かった髪は次第に黒くなり、服が光となり、中から和を象徴する着物が現われる。
「雪の花……時の花……命の花よ。芽吹き、ここに力を示せ」
光が散り、踊り、弾ける。
中から出てくる人の形をした光はカナを包み込み、中から白い翼を持った光の正装を纏った姿で現れる。
「さぁ!」
「いきましょう♪」
二人が背を合わせて叫ぶと同時に、
「こい、ヒスティマに生まれ、落とされた娘たちよ。我が封印の館で相手をしよう」
一瞬でフィールド魔法が発動し、次の瞬間には魔法が飛び交う。
開幕の知らせが鳴り響いた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「綺麗な白銀の髪だからギン?」
『どうかんがえても『神様』につけるようななまえじゃない。かんがちゃだめ。おもいださなければあてられない』
そんな事を言われても……。
ボクは目の前に空中に座っている彼女を見る。
暗い世界で色付いているのはボクと彼女だけ。
それ以外は全て黒く染まっているからどこに何があるかなんてわからない。
だから彼女が何に座っているかも分からない。
そしてボクは日焼けなど皆無の白い肌に銀に輝く髪を持つ彼女は見たことない。
でもどこかで会ったことがあるという感じがする。
どこかで感じたことのある雰囲気。
雪の奥であったことが……あれ?
なんで今、雪が出てきたんだろう?
あ、そうか。彼女の髪が雪のように白くて輝いているからかな?
あと彼女の容姿から見て取れるヒントは……背中の氷かな?
六本も氷の氷柱のようなものが三本ずつ、対になって浮いているのだから。
かぶっているティアラ。それも氷でできているだろう。
宝玉はまた別のようなものだと思うのだけど……。
とすると……、
「えっと……あなたは氷や雪に関する神様?」
彼女はこくんと大きく頷く。
氷と雪に関する神様なんていただろうか?
さらによくわからなくなった……。
でも着々と正解には近づいているはず……(そうだと思いたい)。
『はやく。このままいけばあと『十分』ほどであなたはしんでしまう』
そんなこといわれても~~~~!!
「名前をあなた自身が言えないかな?」
『『契約の制限』が、かかっているからそれはむり』
じゃあどうやって……。
「あ! あなたに質問してもちゃんと答えてくれるかな?」
『べつにいいけど……たぶんわたしのなまえはそれじゃおもいつけないとおもう』
「そっか~。いい案だと思ったんだけど……」
『一つだけある。…………『冬』をおもいだして。そうすればあてられる』
「へ?」
ボクは彼女を見る。
『わたしとりくがあったのは『冬』に『吹雪』がおどったひ』
冬? 吹雪?
ボクは彼女にあっただろうか?
いや、そんな記憶は……?
そういえば、ボクって人と違うところがあったんだ。
なぜか知らないけど、ボクってよく……、
――見えない相手と話してた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「大丈夫かな? カナさんとおばあちゃん……」
「大丈夫だろ。むしろあいつらがやられるとことか想像できねぇだろ」
俺たちは今、廊下を走っている。
走っているので足音が消せないのが憎いが、慌ただしい足音が時折聞こえるのでその時だけ走るのをやめ、足音を立てないようにしている。
「でも……勝てるかどうかとか……」
「マナ。信ずる者は救われると言うじゃろ? 安心せい。少なくとも死ぬことはあるまい」
とは言っても敵の足音が聞こえてきた時には遅いのでそこはデルタが知らせてくれる。
監視カメラは既にハッキング済みらしい。
だから監視カメラに俺たちが映るはずがない。
だが、映像をジーダスに映さないと不審に思われるので監視カメラの向きを動かしているのだ。不自然の無いように。その間に俺たちは移動。その繰り返し。
「全く……まだつかねぇのか? デルタ」
『そう言うなって。まだまだ先だ。あと五分ぐらい走らないとつかないよ』
「長いね」
「妾の魔力強化でそなたらの肺活量や筋力や諸々を強化しているのじゃから疲れることはないじゃろ?」
「そうだけど……見つかっちゃったらね」
「そしたら俺が暴れて注意を引くからその間にお前とルナが行けばいいだろ」
『おおっと、お敵さんだ。みんな、近くの部屋に隠れてくれ』
「了解」
俺たちは歩きはじめて、息をひそめる。
相手は真正面の十字路の右側からやってくるとデルタはいったので俺たちはすぐそばにあった部屋に急いで入った。
「痛っ。ちょっと閉めるの早い……」
何かを引っ掛けたらしいマナが涙ぐみながら答えるが気にしない。
すると走る足音が聞こえてきた。
「おい、まだ表は止められないのか!?」
「仕方ないだろ!? 相手はあの四人だぞ!?」
雑賀たちはうまくやってるみたいだな……。
「幹部が二人行くみたいだ! 【霧雨兄弟】が行くみたいだぞ!」
「まじか! だったらすぐに鎮圧ができるな! それまで俺たちは……?」
一度衛兵たちの声が途切れる。しかも扉のすぐ前。
「なんだ? 足を止めたみたいだ」
「うむ。どうかしたんじゃろうな」
ルナも同意する。
「おい、これはなんだ?」
そして再び声が聞こえた。
「これ? これってなんだ?」
「ああ。なんでこんなとこに赤い髪の毛数本がドアに挟まって……? ジーダス関係者に赤い髪の奴なんていないよな?」
赤い髪の毛?
ふとマナを見る。
「あ、あははは。だから痛いっていったじゃん……」
ハニカミながら答えるマナ。
マナのツインテールの端がドアに……そして理解した。
「「アホかーーーー!!!!」」
小声でルナと息がぴったし合い、叱った――ガチャ。
それと同時に扉が開いた。




