目的
まだリクが家にソウナを連れて逃げている途中。
「こっちか!?」
「いない……俺の聞き間違いか?」
「いや、ビンゴだ」
三人が見ている場所……そこには大量の血があった。
そして点々と血がつづいていた。
しかし途中で切れている。
つまり、途中で回復、あるいはたまたま通りかかった誰に運んでもらっているのだ。
「こっちか。グレン。本部に連絡」
「了解」
グレンと呼ばれた部下は通信機を本部につなげ、俺に渡してくる。
「こちらC。目標らしき血痕を発見。本部、どうぞ」
するとすぐに応答が来る。
今は本部の命令で動いているので本部はすぐに出てくると言う訳だ。
いつもは何かしらで繋がれるのは遅いと言ってもいいぐらいだが。
『こちら本部。了解。どちらへ行ったかわかるか?』
「おそらく、ここから東に行ったほうだ」
『了解。これからそちらのから東側に集中して探索する。Cはそのまま追ってくれ』
「了解」
通信機を切る。
「どうだ?」
すると体格が良く、サングラスをかけていて、まるでガードマンのような大男が聞いてくる。
名前はガルムだ。
「ん? おお。追えだとさ。随分勝手じゃないか」
そして写真に写っている青髪の少女を見る。
「どうした雑賀。まさか目標にしている奴に惚れたのか?」
にやにやしながら聞いてくるガルムに俺は鼻で笑う。
「そんなわけないだろ。可愛いけどな。仕事の目標に私情は入れない。利用はするがな」
「私情をいれない……な」
すると怪しむような目で見てくる。
俺はそれから逃れるようにして、
「グレン! なにかこのハゲに言ってやれ」
とりあえずグレンに振っておく。
するとグレンは慌てたようにする。
「そ、そんなことできませんよ! ただでさえこの班で階級が下なの僕だけなんですよ?」
使えないな、と勝手に思っておく事とする。
グレンは性格が良いので、俺の事務で働いて貰っている。
「雑賀! ハゲとはなんだハゲとは!」
断固抗議してくるガルムを適当にあしらっておく。
「お前の名などハゲで十分だ」
「なんだと!? 俺にはガルムという名がある!」
「じゃあ改名しろ」
「こいつッ!」
「ま、まぁまぁ。落ち着いてくださいガルム先輩。今は任務が先決です」
控えめながらも中立するグレンがやっと止めに入った。
「むぅ。しかたあるまい。帰ったら叩きのめしてくれる」
「出来るもんなら」
「雑賀先輩もやめてください」
挑発した時、ガルムが睨んだが、雑賀をグレンは止めるとフンッと横を向いた。
そして俺は通信機を使い、ある親友へと連絡する。
「こちら雑賀。聞こえるか? デルタ」
「なんでいきなり電話!? 仕事中ですよ!? 少なくともこんな人目に付きそうなところで……」
知るか。三文字で切り捨てた。
もちろん、周りに誰もいない事がわかっているからの反応だ。
『なんだぁ雑賀? こっちは忙しいんだよ』
電話越しに男の声が聞こえる。
デルタと言う名前の男で、俺とは唯一無二の親友だ。
「今からケイタイに写真送るからよ。そいつの家どこか調べてくれ」
そう言ってケイタイをいじり始める。
『はぁ? 目標はどうなった? 俺たちの目的でもあるんだぞ?』
「調べてくれたら探す」
「何言ってんですか、雑賀先輩! 仕事の目標……って目標じゃなかったら私情をいれるってことですか!?」
「は! しょせん女好き。仕事中にも発揮かよ。おめでたいな」
なんとでも言え。
今はそんなのとは関係が無くは無いのだから。
『しかたないな。お! きた……。へぇ、結構可愛いじゃねぇか』
「だろ? その娘の家どこだ?」
ホントはこの世界の警察でもないかぎり、調べるとかはできないのだが……、
『えっと……ああ。出たぞ。赤砂学園の近くの西区○○△-△□番地だ』
プライバシーを完全に無視である。
それがデルタの……。
「……ビンゴ。すまんなデルタ」
『気にすんな。いつものことだろ。それより今度合コ……』
――ブツッ
遠慮なく電話を切った。
最後の言葉に魅力がなかったわけではない。
むしろ行きたい、と言うのが本音だが……。
それ以前にそういうことを忘れてしまうほどの大きな事件が起きそうな気がすると俺の直感が知らせている。
それと同時に、この仕事を無視して帰った時の秘書の鬼のような形相が目に浮かぶ事が無くもない。
「いくぞ。ガルム、グレン」
「え? 今からですか!? さすがにバレるとボスに怒られますよ!?」
と、あわてるグレン。
「……了解隊長。なにかあるんだろ? 【疾風の英知】」
笑みを浮かべるガルム。
その笑みと二つ名で呼ばれた俺は「まぁな」と言って、笑みを返した。
「え? そうなんですか?」
その行動に戸惑うグレン。
無理もない。
これからその女の子の家に行くというのだから……。
しかも報告した『東』ではなく、『西』に……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
そして着くまで小一時間。
やっとリクの家の玄関に着いた。
「ここか……さて。ガルムはここから右側に回り込んでおけ。グレンは左だ。だがくれぐれも使うなよ?」
「「了解」」
二人は慎重な態度でうなずくとそれぞれ家の側面に移動する。
「さ~て。ご対面といきますか」
インターホンを押す。
少し待つと、中から可愛らしい元気な声がした。
「は~い♪ ちょっとまっててね~♪」
ガチャと静かにドアが開けられる。
「はいは~い♪ ……? えっと……どちら様ですか~?」
困惑した表情ともう一つ何かを知った顔をした綺麗な白銀の髪の少女が出てきた。
いや、光が当たると少し薄い赤色が見えて、それがまた綺麗だった。
「何と可愛らしい娘だ」
「はい?」
目を丸くする少女。
「今から私と一緒に夜のデートに行かないか?」
手を差し伸べる。
「…………」
「…………」
――キイィィ
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
白い目で扉を閉めようとする少女を止める。
「だって……普通の反応だと思うけど……? しょうがないな~。何の用ですか? 変態さん♪」
「へ、変態さんって……ゴホン。まあいい。我々は今、透き通った青い髪の少女を探しているのだ」
ビクッ
(いま肩が揺れたな。ビンゴか?)
ほんの少しばかりの揺れだったが、洞察力にたけている雑賀は見破り、
ここぞとばかりに写真を見せてきた。
「この写真の少女だ」
「え!?」
声を上げた直後に急いで口を手で覆った。
ここまで驚いたと言うことは……俺は確信した。
ここに絶対にいると。
「知っているな?」
「し、知らないよ? ソウナなんて」
横を向く少女。
俺はその言葉に「はぁ」とため息をつく。
「俺は少女としか言っていないのだが」
名前なんて出していない。
そのことに少女も気づいたようで一瞬ハッとした顔になる。
「あ……もう。おじさんの意地悪~♪ …………」
正直今の言い方は可愛いと思ったがこれも仕事。
俺たちの未来も決まるため、ここは引けない。
「……テヘッ♪」
そう言うなりドアを力強く閉めようとするが、そこは俺が許さない。
「おおっと。閉めちゃいけませんな? お嬢さん」
「くっ! ジーダスの幹部がどうしてこんなとこに……ッ」
「!?」
今度は雑賀が驚く番だった。
(なぜこいつ! いや、今はそれどころじゃないか)
少しばかり力を入れて、風が吹いたと同時にドアを思いっきり開く。
「きゃあ!」
絶対に俺たちが先に見つけなくてはと思い、問答無用で家の中に入る。
少女が何か言っているが適当に答える。
少女が力強くひっぱるが気にしない。
一つ一つの部屋を隅々まで調べた。
台所やリビング、廊下。お風呂場では血の臭いが微かにした。
そこで玄関からここに至るまでも注意して臭いを嗅ぐと血の臭いがする。
階段を上がり、寝室だろう所を調べて行く。
そして、最後の部屋は二階の一番隅にあった。
この部屋の前には他の寝室同様、名札が付いていた
《リク》と……。