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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第六章 襲撃と呪われし姫君
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呪い



「――え? ぐ、あぁぁああ」


 突然浅木が呻きだす。それは右腕を押さえているように見えていた。

 その理由、それは――





 ――空から降ってきた光の矢が、浅木の右腕を貫き落としたからだった。





 一瞬だったからか、痛みは少ししてから脳に伝わったらしい。

 にしても矢はどこから……?

 銃騎士隊が浅木の腕が落とされたのに気づいた後それぞれが上を向いたりしていた。

 そしてその中の一人が叫ぶ。


「上だ! 空の彼方に弓を持った何者かが――ぐぁ!」


 その男も矢に足と手を射ぬかれ、立っていられずに座りこむ。

 男の叫びが伝わったのか、銃騎士隊が上を向いたと同時にボクたちも上を向く。

 そこには……。



「銃よりも正確に……速く射ぬける私を舐めないでいただきたいですね。〈シャイニングシャワー〉!」



 光の矢を無数に降り注がせる雁也の姿があった。


「ぐぁ!」

「なんだあいつは!」

「あんなのがいるなんて聞いて、がぁ」


 次々と倒れて行く銃騎士たち。

 矢の性能が良いだけじゃない。速度もかなりの速さで避けれないのだ。

 それがこんなにも降ってくるなんて……。


「彼には感謝しないとな……」

「ここには降ってきていませんね」

「……それよりも、私たちは何もしなくていいの?」

「十分ではなくて? だってもう……」


 周りには立っている者など一人もいなかった。


「よっと。大変でしたね。なんとか守り通せましたか……。特にリク様に何かあったらカナ様から何があるか……ってあぁ! リク様! その頬は!?」


 悠然と降りてきた雁也はボクの頬の傷に気づくなり、回復魔法をかけてきた。


「えっと。大丈夫ですから……。そ、それよりも今のは雁也さんが?」

「ええ。カナ様に投げられたのが幸いでした。まさかこんな窮地に立っているとは……。カナ様はこれを予想していたのでしょうか……」


 雁也の傍らには長身よりも大きい長弓。それを雁也は横にして扱っていたのだ。

 ここまで扱いにくい長弓を巧みに扱う雁也の腕はかなりの物だろう。


「しかし……ソウナさんは連れて行かれてしまったみたいですね……」

「すまない……俺の失態だ……」

「いえ。あなたの失態ではないでしょう。どうしてここがピンポイントでわかったかと聞かれればおそらくあなたの失態でしょうけど……」

「君たちもすまない。怖い思いをさせてしまった」


 いきなり頭を下げる雑賀。


「別にわたくしは……どういうことか説明していただければ、それで良いですわ」

「……私も」


 説明を求める二人に、雑賀は簡潔に話した。時間が無い。そのことがわかっているために……。

 ボク達は一度家に戻り、ジーダスの事を雑賀が話した。

 開いてしまった穴は妃鈴が魔法を使い、簡易版として修正した。

 戻ってきたらしっかり直すのだろう。


「なるほど。そういうことでしたの。表は良い組織。裏では悪い組織って所ですわね」

「……ジーダス、酷い」


 話を聞いた二人は共感してくれた。

 特に、人を生贄とする儀式を聞いたところらへんからだ、ジーダスがとても酷い組織だと思ったのは。


「本当に申し訳なかった。いまの事は隠して、今日のところはもう家に帰った方が……」


 雑賀があまり目を合わせようとせず、下ばかり向いている。

 その様子を見てか、レナは……。


「嫌ですわ」

「なッ。これ以上踏み込めば命の危険が――ッ」

「だから嫌ですわ。わたくし、命令されるのは嫌いですわ」

「わがままで命を落としたくは――」

「五月蠅いですわ!」


 レナが声を上げる。


「わたくしにこんな中途半端で引けって言いますの!? 自分の引き際ぐらいわかっていますわ! 悪いですが、同じ学生の仙ちゃんやリクさんが行く限り、わたくしも同行させていただきますわ!」

「……右に同じ。……私も引く気は無い。……第一、ジーダスなんか敵じゃない。……今さっきのは油断しただけ」


 白夜も続いて、声を上げこそしないものの、槍の持つ方を下にして、ガァンッと叩くと、カランカランとシリンダーに入っていた弾丸の空が外に出てきた。そして何もいれずにそのまま戻す。

 おそらくそこは魔法で作るのだろう。……だったら装填をしなくても良いんじゃないかと思うけどそこはまた別のお話。


「最近は大人の言うことを聞かない子供ばかりだな……。だが、こちらの指示は受けてもらうぞ? 引けと言われたら絶対に引いてくれ」

「了解ですわ」

「……了解」


 二人はなんとかわかってくれたらしい。


「楽しみだなぁ。ジーダスをブッ潰すのはよぉ」

「キリははしゃぎすぎ……。ウチなんて今にも逃げ出したいくらいだよ~……。リクちゃんがいるからそんなことはしないけど」


 キリは目にわかるように楽しそうで、マナは不安そう。

 グレンは雑賀に目を向けていて、ガルムも同じだ。


「約束を守るためにも天童先輩」

「絶対に勝たないとな。俺もケルベロスも勝つ気満々だ」

「天童さん。ここで失敗は許されません。戦力が十分に集まらなかったのは残念ですが、私たちなら行けると、そう思わせてください」

「グレン……ガルム……妃鈴……。そうだな。よし!」


 雑賀は拳を前に出す。妃鈴も続き、全員が拳を中心へ集めることになる。


「絶対に負けられん。命令は一つ。




 ――死ぬな」


 無言でうなずく。

 ボク達がこうして気合を入れた。






 だけど……ボクにはもう時間は無かったんだ……。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「そういえば雑賀さん。約束ってなんです?」

「君の妹との約束だよ」


 雑賀は頭を向け、まっすぐな瞳でボクを見る。

 その瞳にはボクがまっすぐ写っている。


「リクちゃんの妹と、リクちゃんに魔法に関するすべてを教えると約束した。俺は、女の子との約束は守る。絶対だ」


 逆に考えると男の子との約束は守らないのかな……。


「あんなこと言ってますが男性でも同じです」


 そんな考えを察してなのか妃鈴がボクに近寄り、耳打ちする。


「これまで天童さんは約束を守らなかった事はないんです。ルールは破ったことはあるのですけどね」

「そうなんですね」


 どうして女の子だけにしたのかはなんとなくわかった。

 恥ずかしかったのだろう。

 約束は守ると素直に言える年頃じゃないから?

 だからせめて女の子と頭につけたのだろうとそう考えられた。

 そしてそれと同時にたまらず二人で笑い合う。


「? 妃鈴、何を話したんだ?」


 よくわかっていない雑賀は、意味がわからないといったように首をかしげた。


「話は終わりましたか? では、今回の作戦を私が提案しましょう。地図を見てください」


 地図を広げる。元々持っていた訳ではなく、先ほど、一生懸命書いていたのだ。


「先ほど、監獄へ送った兵の中の一人、浅木と名乗る者から聞きました、ソウナさんとリク様の妹君、ユウ様の位置です。まさかユウ様があのユウ様だとは気づきませんでしたが……」


 おそらく【(しゅ)】の事だろう。彼も彼で個人的に知っていたのだろう。


「一緒にいて戦いやすいと思われるガルムさん、グレンさん、妃鈴さん、そして雑賀さんは正面から突入して暴れて欲しい」

「む」

「なぜです?」


 ガルムとグレンが理由を聞くと雁也は顔を上げて、声音をそのままで言い放つ。


「やはり注意をひきつけるための囮役が必要でしょう。学生に囮役をやらせるようなことは……」

「そうですね……」

「それには俺も賛成だが……デルタはどうするんだ?」


 雑賀はもう一人の元ジーダスのことを聞く。


「デルタさんにはここで私たちのオペレーターをしてもらいます。できますか?」


 雁也はイスに座って目を瞑っているデルタに聞く。


「正直、難しいだろう、と言いたいところだが……」


 口元をいつかの如くにやけさせ、カッと目を開く。


「悪いが俺は本部にも個人用カメラを何個も設置しているし、ハッキングなんてこの時のために昔からやっていた! 大丈夫だ! 安心しろ! 本部の案内! 俺がやってやるぜ!」

(((…………個人用カメラで何を見ていたんだろう……)))


 デルタの性格の一端が見えるような気がするカメラだなと思ったのは言うまでもないだろう。

 第一、そんなカメラいつ設置したんだろう……。


「しかし、どうやって通信するんだ? 俺達はそんなもの持っていないぞ?」


 前に雑賀たちが使っていた通信機は使えないのだろうか……?


「前に使っていた通信機は本部支給品だから使ったらこちらの動きが簡単にばれるだろうからな」


 あ、本部から支給された者なんだ……。だから持っていないんだ。

 でもデルタ見たく前々から要していればよかったんじゃ……と思ったけど、多分デルタは前々からこの時のためには用意していなかったんじゃないかと思える。


「そこは安心してください。私が用意しました。これをどうぞ」


 そういってどこからか取り出したインカムと呼ばれるよくテレビに出る人が付ける耳あてを見せつけた。

 それを確認するとみんな一つずつ取り、耳につける……と、それは透明になって見えなくなった。


「あれ? これ、付けてる感触が……」


 そう思って手を耳にやったらある感触がある。どこまで特殊なんだろう……。

 そうすると、取り付けた雑賀さんが何やら言っている。


「古い型だな……。だが、最新の機能だ。こんなもの、『ロピアルズ』しか使っていないぞ?」

「ろぴあるず?」

「ああ、ロピアルズっていうのは一番大きい会社だ。いろいろあるんだ。魔法研究会、警察会、諜報会、武芸強化会、尋問会、料理会……といろいろあるが全部の頭にロピアルズって付くんだ。一番有名なのは魔法研究会と警察会かな」

「ええ。特に魔法研究会は誰もが憧れる研究所の一つです。警察会、これがなかったらこの国はおそらく、かなり荒れていたと思われます。ロピアルズにはとても感謝していますね」


 妃鈴が説明に捕捉を入れる。ロピアルズにはとても感謝している感情を感じる。

 それにしてもこの国、とはどういうことだろうか? 他にも国があるのか。

 でも当たり前かな。世界にある国が一つとは限らないもんね……。


「余談はそこまでです。」

「だが激しく動いたりすると取れる可能性が……」

「安心してください。ロピアルズで使っているインカムは確かに見た目はそうかと思いますがちゃんと取れないように魔法でしっかりしてあったり壊れないようになっています」

「……なんでそんな物を持っているの? ……あと知っているの?」

「あ」


 雁也は白夜の疑問にしまったというような顔をした。

 そうして何を考えたのか、とっさの言葉を言いだした。


「えっと……貰ってきました。友人がロピアルズに居るものでして……」


 明らかに嘘だろうと誰もが思う。


「……そう。……もうひとつの質問は?」

「う……」


 雁也が黙る。

 まるで言いたくないように口を閉じている。


「……あくまで言わないのね。……じゃあいいわ。……続き」

「わかりました。と言うかこれからはあまり余談は……」


 白夜はコクコクと頷く。

 そこまで聞いて、ボクはなぜか足元がふらつく。


(あれ? なんかめまいが……)


 視界が揺らぐ。

 気持ち悪い。

 声が出ない。


(なんだろう? さっきまでちゃんと話せてたのに……)

「元ジーダス組やデルタさんは決まりまして後は……ナ……? リ……様? どうし……」


 あれ? 雁也の声が聞こえない。

 どうしたんだろう? なんで雁也の声が聞こえないんだろう?


「リ―!? ――した!? お―!!」


 キリが叫ぶ。

 だが途切れ途切れで何を言っているかよくわからない。

 そこで――ドサッ。


「――!! ――――――!!」


 キリがさらに何かを叫びかけてくるが、よく聞き取れない。

 まるで耳に蓋がついたみたいだ。

 そして唐突に冷たい眠気が襲う。

 そこでボクは、この唐突な異常事態にひとつの過程が浮かんだ。


 それは……、ルナの呪い。


(だめ……)


 ボクは手を動かそうとする。


(これからソウナさんを助けに行くのに……)


 ボクは足を動かそうとする。


(終わったあとでいいから……)


 でも手は反応してくれなかった。


(これが終わったあとなら意識を奪ってもいいから……)


 でも足は反応してくれなかった。


(これが終わるまで意識を持っていかな――)


 ついに考えることもままならなくなり、ボクの意識はいとも簡単に、冷たい闇の世界に持って行かれた……。


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