一対多
「雑賀さん!? どうしたんですか!?」
壁ごと貫かれてきた雑賀に近寄って気を確かめる。どうやら派手に飛ばされただけらしい。
ソウナはそんな雑賀に治癒魔法を使う。
「く……。リク、ソウナ……今すぐ、逃げろ」
「「え?」」
雑賀が顔を上げてボクとソウナに言った次の瞬間。
「こんな所に居たのですか。【治癒天使】ソウナ」
「!? あなたは――ッ」
煙を上げている所から人影が……。
「探しましたよ。銀髪の少年は……居ないようですね」
顔をキョロキョロと見回してボクを見たところでちょっと止まったがすぐに違うの判断したのだろう。
目の前に居るのは仮面を被っていて、白いコートを着ている。声は抽象的で男か女かわからない人だ。
体つきは標準で。男とも女ともとれなくともない。
「あの人は……?」
「ジーダス……幹部長……だ」
「「「!?」」」
なんでそんな人が!?
幹部長みたいな人がこんな所に来てていいの!?
「なぜ私がここへ来たのか不思議そうな顔をしているな」
魔力が散らばる。
「これ……」
「剣がひとりでに……ッ」
すると魔力は完全な戦闘隊形に移行していないボクたちの周りに数十個同時に生成された。
剣がボク達を動かさまいと個々に何個も生成されては動くこともできない。
「少しでも動いたら、君たちの命は保証しない」
「く……」
苦い顔をする雑賀。ボクはそこまで焦らなかった。なぜなら……。
(ルナ。この線……)
『気づきおったか。この線は魔力を送り込むための供給線じゃ。焦るな。これを全て斬れば剣は落ち、なおかつ反撃に出れるじゃろう』
(ルナの刀を呼び出して斬るまで何秒かな?)
『5秒は欲しいのぅ。まず自分の周りの剣の線を全て斬り、線の中心に行き、体を回すようにして他の者の剣も斬るのじゃ。そのままあ奴に攻撃すれば逆転できる。あとは技量じゃ』
(そう言われるとちょっと難しいけど……。でもできるだけやってみる)
ボクは手に刀を持つイメージを取る。魔力はまだ出していない。
でも、何か少しでもボクから注意をそらせる時間が……。
「さぁソウナ。一緒に来てもらおう。来なければこいつらの命は保証しない」
早く……早く……。何かそらせる物……そらせる物……。
「私が行けば……みんなは死なないのよね……?」
「私は約束は守る。ただし、君が断れば君以外全員殺し、君は連れて行かれる」
何か……ッ。
「ク、ハハハハハ!!」
突然、キリが笑い始めた。そのことに呆然とするみんな。
「何がおかしい。殺されたいのか?」
「いやぁ。こんな顕現させた剣が魔法で動かせるのなんか見たことねぇから少し、驚いたけどよぉ」
キリと一瞬目があったような気がした。
(ありがと……キリさん)
「そういえば俺。おまえの魔法のように、最近変な魔法使いを見たんだったなぁ」
「何……?」
「足元。すくわれるぜ?」
そう、キリが言った瞬間だった。
「ルナ!」
「!?」
すぐに顕現した刀で剣までの魔力供給線を斬る。
幹部長はとっさに剣を動かそうとしたが、剣は言うことを聞かず、その場に落ちる。
「なッ。強制解除だと!?」
「はぁああ!」
怯んでいる隙にもう一発。これで全ての剣が地に落ちた。
「ナイスだリク! 我が名はキリ!」
すぐに言葉を紡ぎ、魔力解放。両手両足に雷を纏わせる。
「子供が図に乗るな!」
幹部長は剣をまたも顕現。ってあれ!? 自分の武器を顕現できるのって一つまでじゃないの!?
驚きつつも刀を振るい、甲高い音を立てて、幹部長の剣と混ざり合う。
そのまま押し込め、開いていた穴から家の外に追い出した。
「驚いたぞ。まさか魔力解放もせずまた、何も紡ぎもせずに武器を顕現するなど」
「それはこっちの台詞です。武器って一人一つじゃないんですか?」
幹部長の言葉を受けてボクは素直に言葉を返す。
「ったく。最近は変な魔法使いが増えてきたな」
雷を纏ったキリが穴から出てきて、それの後を追うように全員が外に出てきた。
「リクちゃんを攻撃するならウチの敵だね」
「一体何の事か全くわかりませんが、仙ちゃんへの協力は惜しみませんことよ?」
「……襲撃、嫌い」
学生組はボク達に協力してこないと思ったが、そうでもなかったらしい。
いきなりの事で、巻き込んでしまったのに……。
「まさかこのタイミングで来るなんて思わなかったよ。幹部長さん相手だと僕はどこまでやれるか……」
「己の力を存分に使おうではないか」
「支援はまかせろよ?」
「デルタさんは支援以外に何ができると言うのですか」
「幹部長さん。あなたは強い事は百も承知。だが、一対多でどこまでできると思ってるんだ?」
幹部長は手を剣から手を離し、さらに数十個の武器を顕現する。
「一対多? 何を言っている? 一対多ではない」
「何?」
すると、魔力がポツポツと倍々で増えて行く。その数は計り知れず……。
「割合的には確かに一対多。この場合。私が多の方だが」
「「「!?」」」
全員が銃を持った者たちだ。すでに狙われていて、どう考えても……。
「ピンチって奴か……」
キリがため息交じりに答える。
「ふむ……。銀髪の少女。私は貴様に少し興味が持ったが……残念だ。遊んでやることはできない」
「ボクもあまり遊ぶ気は無いけどね……」
「では……」
そう言って右手を上げる幹部長。このまま何もすることなく終わるのか……?
そして手を下げる瞬間。
「待って!」
「ソウナ……さん……?」
待ったをかけたソウナはボク達の合間を縫い、前に出る。
幹部長はそれを見てなのか、右手は撃つなと合図し下げた。
「やっと下る気になったか」
「私が行けば……他のみんなの命はとらないのよね……」
「もちろんだ。命まではとらん。まぁ追っては来れないように半殺しにはさせてもらうが。あとは口封じだな」
ソウナが苦い顔をする。
「そう……。それ以上に軽くなることは?」
「無い」
一言で切り捨てた幹部長はソウナの隣に移動する。
「ついでに手に持っている剣も返してもらおう」
「!」
そう言うとソウナが隠し持っていた剣が幹部長の手によって奪われる。
「さぁ。どちらを選んだのだ? 時間をかけるのは嫌いだ。ボスも待っている」
「ダメ! ソウナさん! ここから抜ける方法を探すから! だから行っちゃ――」
ヒュンッ
「!」
剣がボクの頬を少し斬る。血が少しずつ出てきて、首筋をたどる。
「さぁ。どうする?」
ボクは手に魔力を溜める。幹部長の視線を感じても、ボクはやめない。
身体強化を最大限発揮。〈二の太刀〉を発動させるだけの魔力も溜めた。
あとは――、
「待ってリク君」
「でも……このままだとソウナさんが!」
「いいの」
ソウナの諦めたかのような目。それをボクは感じずにはいられなかった。
体を反転させてボクと向かい合うような形になったソウナの頬は少しの涙が流れていた。
「ごめんねリク君。あの日。私が助けなんか求めたから……。あなたと過ごした時間。短かったけどとても楽しかったわ。ありがとう。そして、ごめんなさい」
「――ッ!」
集中していた魔力が霧散してしまった。
「なんで……なんでそんな最後みたいなこと! ボクはソウナさんが助けを求めたから助けたんじゃないです! ボクが……ボクが助けたかったから――ッ」
「もう行くわ」
「良いのか? 私としては、最後の別れぐらい待ってやってもいいが……」
「いいわ。これ以上ここに居ると……決断が揺らいでしまうから」
幹部長は「そうか。では行こう」と言うと、ソウナと部下数名を連れて去っていく。
「お前ら。半殺しにしておけ。雑賀。ガルム。妃鈴。デルタ。グレン。貴様らは明日から本部で働いてもらう。一日たりとも外に出るな」
「監視って訳か……」
「そういうことだ。君たち学生も学校へジーダスから推薦状を出しておこう。断ったら……わかるな?」
「どうやって調べんだよ俺らの事はよぉ」
「明日、ジーダスから一人学校へ通わせるさ。とても強力な……な」
そう言って立ち去って言った幹部長。あとに残ったのは様々な銃を持った部下たち。
その中から一人が前に出てきた。
「幹部長様に代わって私、銃騎士隊隊長。【猟銃の狩人】浅木が指揮しましょう」
出てきたのは猫目の口元を釣り上げたままの男。
浅木は右手を上げる。すると部下たちも一斉に射撃準備。
反撃ができない。魔力もねっていなければ、雑賀の銃口も下を向いている。
なすすべ無くこのままやられると言うの……?
浅木が口元を緩ませる。あげていた右手が、下がった――




