歌
「あら♪ 私ぴんち?」
この状況でもニッコリと笑顔を絶やさない精神には感服させられるが今はその余裕を持った顔を変えてやる。
「「「!?」」」
全員が初めに放った攻撃は、カナの前に突如現れた白銀の壁に打撃、斬撃、銃弾、魔法、すべてが吸収されるように音もなく消えていった。
「ちっ。さすがカナ」
「まぁ、こんなんで終わるわけないよね~。ファイアーバード! 〈火炎〉!」
キリとマナはさらに攻撃を仕掛ける。
カナはそれをまた同じ壁で防ぐ。
そのスキに白夜と妃鈴が魔力弾をリロードする。
デルタはさらに攻撃力を上げるべく、
「フルコースでやってやるぜ! 〈攻魔の知〉〈防魔の知〉〈体魔の知〉」
一つ目はみんなの武器の威力をあげ、二つ目はみんなの体から数センチのところに幕を貼ってダメージを減らし、三つ目は全員の身体能力をあげる魔法だ。
今更だがデルタは補助で後衛だ。
「あらら♪ みんななかなか攻めてくるわね~♪ 即席でただの遊び程度なのに連携がちゃんと取れてるじゃない♪」
「だったら少しは笑みをなくしてもらいたいところだな!」
後ろからガルムが拳を叩きつける。
しかし、届く前にカナがひらりとかわし、笑みを絶やさない。
「無理ね♪ だって楽しくやんなきゃ♪」
「遊びだってか!! おらよ!!」
さらにキリがそこに攻撃してきたがそれもよけた。
そこにグレン、マナが炎系の魔法を発動させたがすべて無に返された。
「強いなあ……。これが練習で良かったよ」
「グレンさん前!」
「!?」
いつの間にか目の前にいるカナ。
「私語してる場合?」
「うわぁ!」
おそらく魔力強化をしている腕を振り上げて攻撃してきた。
「あれ……?」
グレンは身を守るために腕を前に交差させたが衝撃はこなかった。
その代わり風を感じたと思ったあとに尻餅をついた。
理由は間一髪で影から出てきた漆黒の腕で掴まれ、遠くに飛ばされていたことだった。
「……速い」
「ええ。狙いも定まりません。といっても私のは大振りのものばかりですので。いまだにリロード中ですね……」
「ええっと今のは白夜さんのかな? ありがと」
「……礼はあと」
「ふふ~ん♪ なかなか反応できるのね♪ 白夜ちゃんは♪」
「よそ見してていいのか!?」
「関係ないわ♪」
キリがさらに攻撃してきたがカナはやはりかわす。
そこで気がついたのか、
「あら? 雑賀ちゃんとデルタちゃんがいない?」
周りをキョロキョロしながら言葉にする。
それはそうだろう。
デルタは戦えないので向こうからこちらがわからない所にいるからだ。
そこでこちらを気にかけながらいろいろな補助魔法を使ってくれる。
先ほどの魔法も説明した通りだ。
なかなかに強力な魔法だ。
といっても英名使いにはほど遠いと思われるが。
「ここでいいか?」
「ああ。いつもサンキュウな」
「いや、お前は補助型としてかなり役立ってくれているからな。今回も頼むぞ?」
「女の子をいじめるのは良くないが、今回は仕方がない。まぁ気楽に行こうぜ」
「わかっている」
互いに頷きあって、俺はいち早くその場を離れる。
カナに気づいた様子なはない。
カナは今も七人に攻撃を繰り出されていて、しつこく攻撃している七人に夢中だ(そうでありたいと思いたい)。
「むん!」
「残念♪」
「それはどうかなぁ!」
「うわ! キリちゃん強引ね~♪」
「〈強情の炎〉!」
「あったか~い♪ でもあたりたくないわ♪」
「ガウッ!」
「可愛いけどあたってあげないもん♪」
今も近接攻撃でガルム、キリ、グレン、ケルベロスが次々と攻撃をしているが軽くあしらわれている。
「〈炎弾〉!」
「〈ウォーターランス〉!」
「マナちゃん、レナちゃんもっと詠唱を早くしなきゃ♪ えい♪」
「え!?」
「こちらに魔法が!?」
マナとレナの魔法をカナがコントロールし、自身に当たるようなコースだったが、それを横から入ってきた妃鈴が防ぐ。
「大丈夫ですか?」
「あ……ありがと」
「礼をいいますわ」
「う~ん。妃鈴ちゃんが、かなりいい感じに守るのね~」
さすが妃鈴だな。
二つ名【鉄の盾】なだけのことはある。
使っている〝死地の銃盾〟は銃盾の名のとおり、銃の形状と盾の形状になる武器だ。
いや、防具か?
まぁいいだろ。
ちなみに彼女は〝死地の銃盾〟と言っている。
銃形態の攻撃はとても強力な大砲のようなものだが、魔力を溜めるまでの予備動作が必要。
ただし武器を顕現させた時だけはもともと魔力の弾が装填されているのでかなりの速度で射てるらしい。
だがその攻撃ができない今は守りに徹するしかないのだから攻撃は他の者に任せる。
それが妃鈴の戦闘スタイルだ。
一人の時はまた別の戦い方をするが今はいいだろう。
にしてもこれだけの集中砲火をされているのにすべてかわしたり魔法を操って返したりしているカナは化け物じみてるとつくづく思う。
まだ武器も顕現していないのに、だ。
それだけの力を持っているのに【自由な白銀】はなぜ都市伝説程度しか知らされていないのか、かなり疑問を持つことになった。
さて……俺は俺で射撃準備が整ったので、デルタに合図をする。
デルタは気づいたようで魔法を唱えた。
「〈殺剄〉」
気配を消すことができる補助魔法だ。
だが一発射っただけですぐに移動するつもりだ。
こちらにいることをバレてはいけない。
いくら気配を消せても弾道は消せないからだ。
狙いは彼女の右足。
先程から回避に使っている中で一番使っている足は右足だ。
傷つき、動けなくなればこちらの勝利につながる可能性だってある。
俺たちを同時に勝負を仕掛けたことを後悔させてやる。
俺は動いているが疲れた様子の見えないカナの足に狙いを定めると、引き金を引いた――パァンッ。
銃から放たれた弾丸はまっすぐカナの足に吸い込まれていき……。
「きゃ……」
足に見事命中した。
「いたたたた……もう。絶対に雑賀ちゃんね~。さっきから姿が見えないと思ったら確か武器は短銃だったよね? 狙撃とは考えていなかったわ……」
俺は当たったことを確認するとすぐさま移動する。
こちらの場所がバレたら終わりだ。
彼女の言うとおりに俺の銃は短銃二丁。
自動装填式だ。
だからといって俺の魔力を顕現させた銃だ。
狙撃ができるくらいまで威力を上げるなど造作もない。
それに……俺の二つ名は【疾風の英知】だしな。
計算して当てることは容易だ。
「よそ見をしていていいのですか!? 〈ウォーターランス〉!」
「大丈夫よ♪」
カナはレナから放たれた魔法を手で掴み……。
「えい♪」
全速力でこちらに投げてきた。
「な――ッ!?」
避けきれ――ズバァンッ。
「グッ」
水で圧縮された魔法が俺にあたり、俺はそのままのっていた木から落とされる。
「お♪ 当たった♪ 槍投げはまだまだ捨てたもんじゃないわね~♪」
地面に落ちた俺は下が雪だったことを感謝し、すぐにその場を離れる。
といっても体中が痛く、さらに水に濡れた今じゃ雪の中は厳しすぎる。
「え? あちらに何が……?」
「雑賀か!? デルタの〈殺剄〉は完璧なハズ――」
「ガルムさん。今は目の前のことを」
「雑賀先輩のことは心配だけど今はカナさんだね」
「さて……そろそろ私も魔法使うかな♪」
カナは終わらせるつもりなのか、笑顔をいっそう明るくした。
俺はこの状況じゃ流石に戦闘は続けられない。
向こうが見れて、体を休めるため木によさりかかる。
そして優しい歌が響いた。
「雪は白く、白銀の世界へ誘い込む……」
「なん……だ……?」
雪が踊り始める。
そのように見えた。
「白銀の世界は凍結した世界……。静かなる世界……。すべてを凍結させる世界は……やがて人をも凍らせる……」
「「「!?」」」
体が硬直する。
どういうことだ!?
体が全く動かない!
突然の意味のわからない魔法に俺は混乱を引き起こす。
それは皆同じようで混乱している。
「皆さん♪ 集まれ♪」
「「「!?」」」
さらに俺たちは一箇所に集められる。
魔法を唱えた様子もないのに一箇所に集められた俺たちはいっそう混乱する。
「さて……仕上げにどっか~ん♪」
カナが魔法を使ったとたん――ズガァァァンッ。
実に簡単に決着がついてしまった……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「マジかよ……」
「これだけやったのに与えたダメージが魔導弾一発なんてね~……」
「いえ。天童さんの弾丸は魔導弾ではなく、実弾です」
「結構本気に攻撃したんだけどな……」
「俺もそう思うぞグレン。俺のケルベロスの攻撃もすべてかわされたしな」
「……私もそれなりには自信があった。……雑賀しか当てられないなんて納得できない」
「それは俺に対する嫌味か!?」
「まさかここまで強いなんて……さすがですわ自由な白銀様」
「私のことはカナちゃんでいいわ♪」
「ではカナ様と」
フィールド魔法がまだ解けていないが全員普段通りにしゃべっている。
先ほどの爆発は致命傷を受けたがすべて、ここにいるカナが治した。傷一つなく。
あまりの高度な回復魔法に全員唖然とした……かのように思えたが、意外とあっさり受け入れてしまった。
まぁ使った本人がカナというのもあるのだろうが。
「なぁ。どんな人生を送ったらそんなに強くなるんだ?」
俺は何気なく聞くと、カナは普通に返してきた。
「キリちゃん♪ 楽しい人生を送った結果よ♪」
ああ。聞いた俺が馬鹿だったよ。
こいつが【自由な白銀】ってことを忘れてた……。
「にしてもカナちゃん。ここはどこなんだ? 作られた世界って感じ……じゃないんだが……?」
「雑賀ちゃん♪ 『ぷらいべーと』って言葉知ってる?」
「あ、ああ。ええっと結構幻想的な世界なんだな! 思わず見入っちまった。ハ、ハハハ」
青い顔をさせながらおかしな言葉遣いになる雑賀を見れたがそんなことより笑顔でそういう顔をさせるカナにビビった。
あの顔はマジでやべぇ。
絶対にあの状態は関わりたくねぇ……。って言ってもさっき関わったけどな。(着替えさせられた時)
でもやはり納得がいってないのか周りを見ながら再び考え込んでいる。
~♪ ~~♪
いきなり愉快な音楽が聞こえる。
どう見てもカナの携帯から。
ぴ
「どうしたの真陽ちゃん♪」
『ああ。そろそろ終わったころじゃないかと思ってねぇ』
「ええ♪ 終わったわ♪」
おいババア。
なんでそんな予想ができんだよ……。
『夕食も出来たからそろそろ帰っておいでぇ』
「ええ♪ じゃあ世界をといて帰るわ♪」
『ん? 〈忘れられたこ――』
「真陽ちゃん♪」
『な、なんだぃ?』
「何されたい?」
『そ、そういえば男が一人来てるよぉ?』
あらかさまに話を逸らす真陽。
それよりも男? ジーダスからか?
俺たちは顔を見せ合い、真剣な顔をしてカナを見る。
「拉致した?」
はぁ!?
いきなりそんな言葉がでんだよ!
ここに居る全員はそう思っただろう。
『そう言うと思ってねぇ。ジーダスから来たその男を拉致しようとしたんだけどねぇ?』
(((しようとしたのかよ!!)))
さすが英名持ち。
平然とそんなことをする。
「だけど何?」
その先はみんな静かに聞く。
『ユウからの伝言とジーダスの内部情報とジーダス本部の地図を持ってるんだよぉ』
「あら♪ ユウちゃんから?」
「あ? ユウって確か……」
「リクちゃんの妹だよ。なんで伝言なんか? ウチ達に……って訳じゃなさそうだね」
「うんうん♪ ようがあったのはきっと私よね?」
『カナちゃん以外に誰が居るのさぁ。ジーダスを独断で潰そうとしてる輩が居るのかぃ?』
真陽のその言葉にビクッとほんのちょっと揺らせる一同。
幸いカナは気づいていなかったようで「うんうん♪」って頷いてる。
「じゃあ今からそっちに行くわね♪」
『わかったよぅ。それじゃあ』
ピと音を鳴らして電話をしまうカナ。
なぜカナがジーダスの事を調べているかは知らないが好都合。
しまっている間、一も二もなくみんな向き合って、同時に頷いた。




