ご主人様
「もう……着替えていいですか?」
ボクは火照った顔を袖からあまり出ていない手と猫で顔を隠しながら聞く、と――ブシャァァァァァ。
「あ、あれ!? 雑賀さん!? デルタさん!? どうしたんですか!?」
「な、なんという破壊力……」
「い、一生の悔いなし……」
「えぇ!? ダメですよ!? まだやらなきゃいけない事が沢山あるハズですよね!?」
血を吹くいて、今にも死んでしまいそうな二人に近づき、必死に助け起こそうとしたが、むしろ出血がひどくなった。
「……ウチ、ホントにリクちゃんを妹にしたいかも……」
「……マナ。……私がさっき言ったモノローグのままになった」
「そういう白夜さんだって少し鼻血が出ていますわ」
「……お二人さんほどじゃない」
「白夜って百合なの?」
「……ノーマル。……リクちゃんを男と知っての反応」
「言い直す。ショタコンなの?」
「……違う。……リクちゃんぐらいがいい。……リクちゃんをショタとは言わない」
「ではなんですの?」
「……男の娘」
「「…………」」
「あなた達何の話をしているの?」
「「「……知らなくていい(よ)(ですわ)」」」
後ろで何か話しているようだがボクは二人を助け起こさないといけなかったので耳を傾けることはできなかった。
「なんだか大変ね~♪」
「母さんがしたんですよ!?」
すかさずツッコム。
さっき耳を傾けれないって言ったのにね……。
体はなんだか反応してしまったようだ。
「こうなることは予想していたわ♪」
「だったらなんでするんですか!?」
「楽しいからに決まってるじゃない♪」
なんでと聞いてしまったボクが悪かった……。
母さんはこういうことが大大大大好きな人だった……。
「にしてもホントに遊ぶのが好きなんだな……お前の母親」
「ボクも今さっき改めて思――ッ!?」
ボクはキリの言葉に反応しながら振り向いた。
するとどうだろう。
キリはいつの間にか男子制服に着替えていた。胸の部分はきつそうになっていたが。
……シャツのボタン取れるんじゃないかな……?
「キリさん!? いつの間に着替えたんですか!?」
「リクが注目を浴びている間」
「ボクを囮にしたんですか!?」
キッと、キリを上目で睨む。
「わ、悪かったって。リクも今から着替えに行けよ。あとその睨みは一部の人を興奮させるからやめろ」
キリの着替えに行けよという言葉に対し、ボクは無言である人に指す。
指された人はなんの事だかわかったらしく、
「……リクちゃんの制服はここ」
白夜はわざとらしく右手にブレザーとブラウス、左手にスカートとニーソックスとネクタイを高く上げていた。
どう見てもボクの制服一式に間違いはなかった。
簡単な理由としてはその制服のサイズがここにいる人たちの中でボクと母さんぐらいしか着ることができないからだ。
「……まぁ、なんだ。頑張れよ」
ボクを見捨てたキリを無視し、白夜にボクは講義を始めた。
「白夜さん……。制服を返してもらうことは……」
「……私に『返してくださいご主人様』って言ったら」
「どうしてですか白夜さん!?」
なんか、白夜のキャラがどんどんわからない方向に……。
初めは物静かで落ち着いているような印象だったのに……。
第一印象は結局第一印象であって意味ないのかな……?
「絶対にしませんからね! そんな恥ずかしい言葉絶対に言いません!」
「……恥ずかしくない」
「え?」
誰が言っても恥ずかしいと思うのだけど。
白夜は「はぁ」とため息をつき、丁寧に話し始めた。ってため息つかれた!?
「……リクちゃんはある豪邸で働いているメイドさんたちが恥ずかしいと思いながら『ご主人様』って呼んでると思うの? ……メイド喫茶で働いている人たちだって同じ。……恥ずかしいと思いながら『ご主人様』という人はいない。……リクちゃん。……これでもまだ恥ずかしいなんて言えるの?」
白夜は真剣な瞳で問いただす。
少しづつ近づきながら白夜は聞く。
ボクはそれを後ずさりながら考える。
確かに働いているメイドさんはご主人様ということに抵抗がないというイメージ。
そして、それが仕事のメイド喫茶がある。
豪邸だってそれは義務付けられているところもあるだろう。
だから恥ずかしくない。
堂々といえば問題はない――まで考えたところで根本的な問題に気がついた。
「ボクはメイドさんで働こうなんて思っていないです!!」
バッ
「……あ」
叫ぶと同時に近づいていた白夜さんの手から、制服を取り返し、自室に向かって走っていった。
「……なかなかやる……」
「いや、やるじゃねぇだろ……」
考え込んでいる白夜に呆れ顔のキリはすかさずツッコム。
だが表情が読めない白夜は少し声のトーンを変えて一言言葉を漏らした。
誰かに聞いてもらいたかったように。
「……にしてもリクちゃんを着替えさせた時。……かなり冷たかった……」
「冷たい?」
ソウナが聞き返す。キリは白夜を見る。
「お前も感じたのか?」
白夜はキリを見て、首を二回縦に振る。
「……氷をさわっているみたいだった。……ずっとさわってると凍傷してしまう」
「凍傷? どういうことだ? 俺がさわったときは冷たいとしか感じなかったぞ? だが死人をさわってるような感じだったが……。何かの病気か?」
「冷たくなるなんて病気は知らないけど……後で見てみるわ。私ので治せるなら……」
「…………」
白夜とソウナとキリのその言葉に白銀の髪を持つ少女の肩がピクっと反応した。
キリはそれを見逃さずに何か知ってると悟り、白銀の少女にしかみえないその者に答えを求めようと近づいていったが――ガチャン
「ただいま帰りましたよ~。雑賀先ぱ……?」
「どうかしたのですか?」
「なにやってんだぃ? あんたたちわぁ」
「雑賀とデルタは血まみれで倒れているが……このあと戦えるのか?」
タイミング悪く、夕食の買い出しから帰ってきたグレン、妃鈴、真陽、ガルムが聞いてきた。
「だ……大丈夫……だ……」
「む、むしろ……絶好……調……」
ガルムの質問に、雑賀とデルタは呻きながらも答えられた。
今にも気絶しそうなのに……。
「さて……みんな帰ってきたし♪」
カナのその発言にその場にいた全員がカナを見る。
「力試しよ♪ 真陽ちゃんはリクちゃんと夕食お願いね♪」
「ああ。わかったよぅ」
「すべてをリクちゃんにまかしちゃってもいいわ♪」
「流石にそんなことはしないよぅ」
「それ以外は私についてきなさい♪」
真陽とたわいのない話をして他の人に話をふると周りにいた9人は顔を合わせ、コクリと頷きあった。
そのあと、カナは真陽と二、三言、言葉を交え、外に出ていってその後ろを9人は慎重な面持ちでおっていった。




