五階の窓から
「――ということで、これで終わりです」
キーンコーンカーンコーン
「ああ。丁度いいですね。では、解散」
先生がSHRを終わらせたと同時。
――ボクは包囲された。
だれに? という質問はいらないだろう。
「リクちゃんの精霊ってなんだ!? 見たこと無いんだけど!」
「ぜひ教えてもらいたい!」
「リクちゃん! 今度オレにもやってくれ! できれば本気で!」
「志野村! おまえ抜け駆けか!? 許さんぞ!?」
「いや、草羅。それだとおまえら二人とも死ぬぞ?」
最後のはよくわからなかったが、少しづつ、少しづつクラスメートにおわれて、教室のドアより遠のいて行く。
(どうしよ……。このままじゃレナさんのとこにいけない……)
マナは真陽に呼ばれていて、レナは一緒に行ったと思われないように先に行った。
アキとハナに対する対策だ。
白夜は待ってると言ったのでたぶんもう行ったのだろう。
背中に堅い感触。すでにボクは教室のはし、ドアから一番離れたところに追いやられてしまった。
何度かこの包囲網を抜けようと、脱出を試みてみたが全て失敗に終わった。
どのように動いてもこの包囲網は解けなかったのだ。
(どうしよう、どうしよう、どうしよ……?)
ハッと気がつき目線だけで後ろを見る。
そこには人はいない。なぜならそこは……。
ボクはそこで思いついたと同時に足をかけ飛び出した。
――非常口という名の窓から。
「「「「なにぃ!?」」」」
「そんな逃げ道が!?」
「ここは五階だぞ!?」
「魔力も開放していないのに助かる道が!?」
五階? 魔力解放しなくては死んでしまう?
普通はそうだろう。
だがしかし、そんなものボクには関係ない。
なぜなら下には――ガシッ
「…………。なんで空から落ちてくんだよ……。リク。あんなとっから落ちて、死んだらどうするつもりだよ」
キリが見えたからである。
ボクも正直、五階だと助からないな~、とか思ってたけど下にキリがいたため、そんな考え捨てました。
「だってキリさんいたから」
「おまえ……俺が受け止めてなかったらどうする気だよ」
「あれ? 前に言わなかったっけ?」
「? 何をだよ」
キリが全然知らないといったふうにリアクションする。
ボク、確かに前行ったと思うけどなぁ……。
「キリさんを信じてるって」
いつかのような笑顔で言ってみた。
「バ……ッ、テメェこんなとこで言ってんなよ!」
こんなとこ?
よくわからないがそんなことより……。
「いつまでこのかっこでいればいいですかね?」
そうなのだ。
キリがボクを受け止めてから今までずっとそのままである。
その……いわゆるお姫様だっこの状態。
正直、少し恥ずかしい。
そのことを察知してくれたのか、キリは慌てた様子でボクを立たせると、そっぽを向いた。
顔が赤かったような気がしたが気のせいだと感じた。
すぐに赤かった顔は元に戻って少し真剣になっていたからだ。
「そういえばお前。今触ってみて、なんだか少し冷たかったんだが……。寒くねぇのか?」
「冷たい?」
「ああ。言っちゃあ悪いが、生きてんのか? って一瞬思っちまったほどだ」
「え?」
別にボクは寒いわけじゃないんだけど……。
自分を触って見る。
別に冷たいとは感じない……ってダメじゃんボク自身だと。
自分が冷たいんだからわかんないか。
ボクはそんなことを思い、キリに触れる。
「? なんだよ?」
「いえ。キリさんがボクのこと冷たいっていったのでキリさんに触ってみたんです。でも……キリさんを触ってみでですが、そんなに熱くは感じないです」
「そうか? 俺は今も冷たいって感じたぞ?」
う~ん。
ボクはそんな感じしなかったのだが……。
家に帰ったら体温度計で測ってみるかな?
「まぁいい。風邪とか引かれても困るからこれ着てろよ」
そう言って肩にかけられたのは男子制服のブレザーだった。
ちょっとあったかい。
「ありがとうございます」
心配してくれてだろうキリにしっかりと礼を言っておく。
そういえばキリにレナと合流して家に行くこと言ってなかった。
「キリさん。少し寄り道しましょう。レナさんが待ってるんです」
「レナぁ? ああ、昨日のあれか。しかたねぇ、どこだ?」
「ベクサリア平原の湖のほとりって言ってました。……場所わかります?」
キリは「ああ」とだけ言って、歩きはじめた。
なんだか周りは静かでこちらを見ているように見えたけど、そんなに気にせずに歩いて行った。
ボクもその後に続き、途中で偶然マナんと合流し、湖のほとりの方に向かった。
「……え? 何? 何今の!?」
「今リクちゃんが空から落ちてきたって思ったら下に居た一匹狼が受け止めんて!?」
「しかもなんか一匹狼が制服のブレザーをリクちゃんの肩にかけて!?」
「どうなってんの!?」
「一匹狼……ゆるさねぇぞ!」
「我らが女神の守護者! リクちゃんファンクラブとして会長に報告し、今すぐ打開策を!!」
リクやキリが去って言った場所では周りの生徒たちが慌てふためき、混乱の渦に巻き込まれてしまった……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ついた湖のほとりはそんなに離れておらず、比較的、近い場所にあった。
「ごきげんよう。リクさん、マナさん、【一匹狼】。リクさん。先ほどの戦いは見事でしたわ」
「あ、ありがとうございます」
急に褒めてきたので、またボクの言葉が戸惑ってしまう感じになってしまった。
白夜もその隣にいて、レナの言葉にコクンと頷いていた。
レナは「そして……」とつなげて、
「【一匹狼】仙道キリ。あなたまで居るとは思いませんでしてよ? どうせリクちゃんに負けたからついて回っていつか下剋上を果たそうとしていらっしゃるのでしょう?」
「どこの情報だそれは。悪いが俺はそんな趣味はねぇ。第一そんなことしても何の意味もねぇだろうが」
「あなたが……下剋上をしない……? 頭を打ったのですか? 仙ちゃん?」
「あぁ!? 誰が仙ちゃんだ!! やんのか!?」
「ええ、良いですわよ? 仙ちゃんの頭が直るならばこれくらい造作も無いですわ!」
バチバチと火花が散る。
ボクとマナと白夜は知り合いらしい二人を見て、呆然とするだけだった。
それよりも、朝言っていた『センちゃん』って『仙ちゃん』でありキリの事だったことにボクはビックリしていた。
「いつまで争ってるんだろ……?」
「さぁ? ウチはそんなことよりもレナさんとキリさんが知り合いな事に、驚き、桃の木、山椒の木なんだけど~」
そうだよね。
ボクもかなり驚いているもん……。
キリ、いたんだ……友達……。
「……どう考えても友達と言うよりも、悪友」
そうとも言いますね~。
そして白夜……ボクの考えを読まないで……。
「言い度胸だなぁ? あぁ!?」
「それはこっちの台詞ですわ! わたくしとしては野蛮なあなたと一戦交えるのは嫌ですけど、この際、仕方ありませんわ」
『我が名は――』
それぞれ自分の魔力を解放して喚ぶための呪文を唱え始める。
「――ってちょっと待ってください!! ダメですよ! こんなところで!!」
ボクはとっさに二人を止めようと走って行ったところで――ガッ。
「へ?」
足に木の根を引っかけて――。
「きゃ!」
――倒れた。バシャァン。
しかも湖の中に……。
結構浅かったので衝撃がきたが、そこまで痛くは無かったが全身がビショビショだ。
「ん……ッ」
しかもちょっと静電気がピリピリとめぐったおかげで変な声が出てしまった。
それだけでなく、声を出しながら転んでしまったので少し水を飲んでしまった。
ピリピリとした水を……。
「ごほっ、ごほっ……。いたたた……」
ボクはその異変に気づく。
下は水と地面なハズのところから声が聞こえたことにより。
「……さ、さっさと……どけよ……」
目を開けるとそこは、顔を真っ赤に染めたキリさんの顔がアップで写されており、キリをボクが押し倒した形になっていた。
しかも顔の距離はかなり近く、背景など、全く見えない。
ボクはそれを認識すると、顔が熱くなっていくのを感じ、そのまま――
「いやぁあああああ!!」
「ちょ、まてリ――ッ!」
ド、バシャァァァァンッ。
キリをとっさに身体強化魔法を使った体で、盛大で、強烈な、パンチをお見舞いしてしまった。
キリは耐えられず、少しづつ、力が抜けていくのだった。




