……頑張って
「あの……思ったのですが……」
さっきの質問をするのは今しかないと思ったので聞いてみることにした。
「アキさんとハナさんは似た者姉妹に見えるのですが……。血縁関係なのですか?」
すると笑っていた一同はポカーンと口を開けた。
今、ボク言っちゃいけないこと言っちゃったかな?
するとアキさんが口を一旦閉じて、話し始めた。
「えっと……確かにハナとは従姉妹なんだけど。いつから気がついたの?」
「いつからですか? ……自己紹介したぐらいからでしょうか?」
「そんなに早くから!? あたしは眼鏡かけてるのに……。体系とか顔の輪郭とか違うし、胸なんてあたしの方が大きいのに……」
「にゃにゃ!? それは効き捨てならないんだけど!?」
「どうやって気づいたの?」
ガン無視である。
ハナは語尾を捨ててまで言ったのにガン無視である。
(ハナちゃんかわいそう……)
でも、確かにアキの方がその……数倍は大きいと思う。
あくまでハナと比べてという話だ。
一般的に見れば、大きさは普通ぐらい。
「う~ん。雰囲気……でしょうか? なんか似てるな~って」
「わたくしでも気づいたのが最近でしたのに?」
「……私も」
「リクちゃんって観察力がすごいのね! アキちゃん! こういうのってなんて言うのね!?」
「スクープ!!」
「いや、それはなんかおかしいです」
二人が詰め寄りながら言ってきたのでたじろぐ。
その二人の首襟を、二人のそれぞれの影が持ちあげる……って、えぇ!?
「……リクちゃんいじめちゃダメ」
白夜の魔法のようだ。
属性は……闇属性なのかな?
「ありがと、白夜さん」
「……いい。……この二人はよく詰め寄りすぎるから。……いつも私が止める。……もう馴れた」
さいですか……。
ところで属性ってなんなのかな?
やっぱり気になる。
「白夜さんって何属性なのですか? 闇……だと思うのですが……」
「……闇じゃない。……陰」
陰?
昨日ルナから聞いたような……。
たしか闇属性の上位属性だよね。
……それってあれじゃない?
あんまり知られてない属性だったよね?
白夜さんってかなり強いのかな……?
「白夜ちゃんの属性はホント珍しいからね! 全くいないんだよ? 陰属性なんて使える人!」
「将来有望なのね!」
「…………」
二人の言葉に白夜は無言で注がれていたコーヒーを飲んでいた。
表情が読めない彼女が何を考えているかがわからない……。
「レナさん」
「? なにかわたくしに?」
「あの、昨日の事でお礼を……」
「その事ですの。別にわたくしは……」
「でも、なんかお礼しないとって思って……」
「まぁそれでリクさんが落ち着くなら……。リクさんも変な義理を持っているのですわね」
『も』? レナも何か変な義理を持っているのだろうか?
それとも誰か知っているのかな?
ボクは考えてもわからないと思い、レナの言葉に笑いながら返す。
「あはは……。まぁボクの直感がレナさんにお礼するために家に招けって言ってるようなものですけど」
「? それってなんですの? センちゃんを倒した力と何か関係がありますの?」
「え? センちゃん?」
えっと……そんな名前の人ボク倒したっけ……? ――と。
「き、気にしないでほしいですわ! わたくしとしてはリクさんと話すいい機会ですし! お受けしますわ!」
大きな声で、かなり焦ったように返したレナはもちろん注目される。
なんか最後焦ってたけど……一体何が?
センちゃんがかなり引っかかるんだけど……。
そこでレナはハッとし、咳払いをして静かにボクに顔を近づけ、小さな声になった。
「放課後。ベクサリア平原の湖のほとりにいますわ。他に来る方はおりますの?」
他に来る人……? マナちゃんと……キリさんは来るだろうから。
「いちお、マナちゃんとキリさんはきます。あとは向こうで待ち合わせです」
「そう。仙道キリならば湖のほとりがどこかわかるでしょうし……」
確かに、マナやキリに聞けば湖のほとりがどこかわかるだろう。
ボクはそれに頷くと、ふと、昨日の夜の事を思い出した。
「えっと、きっと騒がしいと思いますのでそこの事は初めからわかっていただけると……」
「騒がしい? 子供がたくさんいますの?」
「たくさんと言う訳ではないですけど……。子供のような大人が二人いますので」
それしか言いようがない。
雑賀も母さんももっと大人しくしてくれるといいのだが……。
それは無理だろう。主に母親が。
あの人は黙っても何かしてくるのだから無意味に等しい。
逆に無言な方が母さんの悪戯を見破れなくなるのでやめてもらいたいが。
「子供のような大人? 自由な白銀のような方がいるのですね」
あれ? ボク、母さんが自由な白銀だって話したかな?
「自由な白銀の事知ってるんですか?」
「当たり前ですわ。自由な白銀はわたくしの憧れですもの」
「母さんにファンなんていたんだ……」
「だって自由の象徴ですのよ? わたくしのような行動が制限されている人はたいてい……?」
そこでレナは言葉を区切り二、三回まばたきを繰り返す。
そして改めてボクに顔を近づけ……。
「……母さん?」
確認するかのように言ってきた。
「あ、えっと……。ボクの母さんがそうなので……」
「……う、嘘でしょう……? 伝説的なあの方が……。そ、そういえば銀髪……。母親からの遺伝?」
と、そこまで言ったところで横槍が入ってきた。
「なに二人で内緒話してるの!?」
「私たちも混ぜてなのね!!」
「……のけものにするの。……禁止」
三人が問い詰めてくる。
「い、いえ! 別になんでもないです!」
「放課後なに!? あたしも行きたい!!」
「今日は、別に遅く帰ってもいいんだよね!!」
「……私は一人暮らしだから。……問題無い」
「聞こえてたんですか!?」
「【情報師】であるあたしは読唇術が使えるのよ!! ……放課後のとこしか見ていなかったけど……」
ヤバイ! この人たちこのままだと来そうなんだけど!?
別に連れてきても良いけど……なんか嫌な予感がするんだよね……連れて行くと。
レナが連れて行きたいと言えばボクも簡単にいいって言えるのだけど……。
「リクさん。あまり自由な白銀の事を言わない方がいいですわ。特にアキには。これからの学校生活に平穏が欲しいならば特に」
耳打ちしてきた内容は、ボクに取ってとても重要なことだった。
ボクの平穏を守るためと考えた時、ボクの答えは決まってしまった。
嫌な予感とは多分このことを刺していたんだと思う……。
いよいよ彼女らには残ってもらう必要が出てきた。
「さぁ! 言っちゃいなよ!」
「楽しそうなのね!」
「…………(コクコク)」
どうすれば……と手詰まりになった瞬間。
キーンコーンカーンコーン
!? ナイスタイミング予鈴!!
これまで空気が読めて無いとかいってごめんね!!
「予鈴なっちゃったから早く教室行かないとね!!」
「そ、そうですわ!! それでは、ごきげんよう!」
ダッシュ。
ボクとレナは人の目など、お構いなしに教室まで走っていった。
その間、三人とも魔法をいろいろ使ってボクたちを捕まえようとしていたが、先生に見つかってしまい、三人とも職員室に連行された。
なんとか逃げ切れた……。
走っていたところは先生には見られていなかったみたい。
「では放課後に。必ず行きますわね?」
「うん。放課後に」
そういってお互いに席に着き、SHRが始まった。
余談。
「あなたたち! 校内での魔法の使用は緊急時のみ許されているはずです! いまは緊急時ですか!?」
「緊急時でした!!」「緊急時だったのね!!」
「……そうでもない」
「こ、この……創立始まって以来のおバカさんども……」
先生はこめかみを押さえながら言っている。
ちなみにこのときのおバカさんはアキ、ハナのことである。
「生徒指導室に来なさい!!」
「「!? あそこはいやぁああああああああああああ!!」」
「……なんで私まで?」
「あぁ、白夜さんは魔法を使ってないのでいいです。教室に戻りなさい」
「……わかった」
「ちょ、白夜!?」
「卑怯だと思うのね!!」
「早く来なさい!」
「先生! 首襟をもって引っ張らないでくださいよ!!」
「そ、そうなのね! って引きずってほしくな――」
「……頑張って」
白夜はいつもは表情を崩さないのにこの時ばかりは不敵な笑みを浮かべた。嘲け笑ったような……。
「「この裏切り者ぉおおおおおお!!!!」」
「早く行きますよ」
「「いやあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッ!!」」
朝のSHRの時間。
二人の少女の悲鳴が、桜花魔法学校に響き渡った。




