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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第一章 青髪の少女
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出会い


 変な人、略して変人から逃げた銀髪の少女――いや少年。

 もちろんリクだ。

 理由は簡単。

 鼻息荒かったので背筋が凍った。

 しかも人をお嬢さんって言って呼んだのだ。ボクはれっきとした男だ。

 もっとも、前者の理由よりも後者の理由の方が逃げた理由になるのだが。


「はぁ……はぁ……。ここまでくれば大丈夫でしょ」


 前に学園で体力テストがあった時、五〇m走は高校一年生で一番速かった6,3だった。

 全速力で走ったので「ふぅ」と一息つき右腕で汗を拭きとる。

 先ほどの変人(リクの中ではもう決まっている)を振り払って家の近くまで来る。


「あ~。そういえばここら辺って夜は幽霊が出るから行かないほうがいいよって幽霊スポットバカが言ってたっけ? ま、いないと思うけどね」


 角を曲がる。すると……。


「え? うわぁっ!」


 驚いた元凶は幽霊……ではなく、そこには血まみれで倒れている人がいたのだ。

 電灯の弱い明かりに照らされていて、今も血が流れていて傷口が開いていることが分かった。

 服は少し破けていて肌があらわになっていた。

 暗くてよく見えなかったが青髪の少女ということは何となくわかった。


「大丈夫ですか!? 聞こえてますか!?」


 血で汚れることを恐れずに抱きかかえながら聞くとかすかな声で何かをつぶやいている。


(まだ意識はある!)


 ボクはそのことに安堵して、彼女に呼びかける。


「待ってください! 今救急車を呼びますからね!」


 そう言ってポケットから携帯を取り出そうとするとその手は血まみれの手で阻止された。

 そしてその青髪の人は口を動かす。


「……め……奴等が……来ちゃう」

「え? なんですか!?」


 口元に自分の耳を近づける。

 呻く彼女は今にも気絶しそうなほど正気を保っているとは思えなかった。

 しかし、そのあとの言葉が聞こえた時、ボクは信じられないものを見た。


「もうすぐ……治るから……私の……〝治癒の光(、、、、)〟で……」

「え……?」


 するとどこからともなく光が現れる。

 その光は青髪の人をまるで子供を守るような母のように包み込み、拡散した。


「…………」


 何も言えない。

 ただ唖然としてその現象を見ることしかできなかった。

 青髪の人――いやよく見るとその人は僕と同じぐらいの年齢の少女だった――は傷一つない体になったようで、血が流れ出ていない。

 しかし体についた血は拭いきれていないようだ。

 おかげでボクも少女も血だらけだ。


「あの……」


 ボクがなんて言っていいかわからなくて、とりあえず大丈夫ですかと言おうとした時、彼女の方から話しかけてきた。


「あなた、そこまでびっくりしないのね。ちょっとショック」

「え、そこ!? おかしくないですか!?」

「ごめんなさい」

「あやまった!? え? 今謝る所ありました!?」

「なかった?」

「こっちが聞いているのですけど!? いや、まぁ普通ないと思いますけど……」

「そう。つまり私は普通ではないと?」

「あ……えっと……ごめんなさい」


 人に対して普通じゃないなんてどうして言ってしまったのだろうか?

 そんなに親しい間柄じゃないのに……。


「否定はしないのね。でも、確かに私は普通ではないわね」

「自分で確信してた!?」

「でも私にとっては普通ね」

「もうどうにでもなれです……」


 これ以上続くと永遠とループしそうな感じになってきたので妥協する。


「普通ってなんなのかしらね」

「哲学いっちゃったよ……」

「哲学なんていつ言ったのかしら?」

「今さっきですよ!?」

「ダメじゃない、哲学なんて私は苦手よ?」

「ボクは始めてないですよ!?」

「ふふふ。あなたって面白いのね。こんな冗談に付き合ってくれる人はあなたがはじめてよ?」


 じ、冗談……?

 そう言って笑う青髪の少女の瞳は蒼くて、顔立ちは整っていて、体は細く、小柄な女性だった。


(ボクよりは背が高かったけど……)


 そのことに内心で涙を流す。

 とても綺麗な少女でこんなハプニングがないと近づけないような人ではなかろうか?

 ただ、こんなおかしな状況なのに結構マイペースっぽいと言うか何と言うか、そう。ズレている、だ。

 ボクもそれに乗せられているのだが……。


「こっちから声がしたぞ! 例の罪人かもしれん! すぐ向かうぞ!」

「あ~あ。見つかっちゃった。どうしてくれるのよ」

「え!? ボク!?」


 ボクの方を見て話す彼女。

 ボクが悪い所ってあっただろうか?


「というか罪人?」


 そう言って少女を見る。

 罪人と呼ばれた彼女は結構マイペースだった。

 なれているんだろうか……。


「気のせいよ。ところで私、血が足りなくて立っているのがやっとで、動けないのだけど……。どこでもいいから運んでくれないかしら? 女の子にこんなこと言うのもなんだけど……」


 完全に他力本願だ。


「なんか急いでない感じがする……? 女の子?」


 聞き間違いだろうか?


「女の子がどうかしたの? 何か悪いこと言ったかしら?」


 どうやら聞き間違いではないらしい。

 リクは右手で拳を作り、プルプルと振るわせる。


「ボクは……ボクは……ぼくは……」

「?」



「男の子ですっっっっっ!!」



 今日何回目だろうか?

 さすがに怒った。

 何より、ボクはそこまで我慢できる方ではない。

 このことに関しては。

 他の事にはそれなりに我慢できるけど……。

 きっちり三十秒後、やっと理解ができたのか、少女は言葉を発する。


「……え……? そんなに女の子っぽい顔なのに……?」

「こっちから声がしたぞ!」

「わかった! すぐに向かうぞ!」

「「あ……」」


 言葉がなくなる二人。

 しかしすぐに口を開いた。


「と、とにかくあなたの家でいいから私を運んでくれないかな?」

「わ、わかりました」


 そう言って彼女を背負う。背中に柔かい物があたるが気にしていられなかった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ――バタンッ 玄関のドアを開きすぐに閉める。すると奥からパタパタパタとスリッパでかけてくるのはユウ。


「お兄ちゃんお帰り~♪ …………ッ!?」


 笑顔で出迎えてくれたユウ。

 しかしすぐに驚愕の顔に変わった。理由は名目だ。


「お、お兄ちゃん……。その背中に背負っている人のような物は……? そして全身血だらけなのはなんで……?」

「とりあえずボクの話を――」

「お兄ちゃん!」


 話を聞かせる前に、ユウはボクに駆け寄り手を握る。

 そして瞳とともに訴えかけてきた。


「大丈夫! お兄ちゃんは私が守るから! 今から証拠隠滅するよ!」

「ちょっと待って! 証拠隠滅を手伝ったらユウまで警察入っちゃうよ!?」

「お兄ちゃんと一緒なら何処へだって行くよ! たとえ火の中水の中! どんな場所にもひそかについて行くよ!」

「どうして『ひそかに』を付け加えたの!? それはある意味ストーカー宣告だよ!? そんなことよりまずこの人死んでないから!」


 なんとか弁解するがユウは「ほえ?」とした様な顔になる。


「そんな血だらけなのに?」

「傷口はもうふさがってるよ……」

「そんなわけ……」

「そうそう、もうふさがってる」

「死体がしゃべった!?」

「だから死んでないって!!」



 そしてかれこれ一時間。

 場所は台所。

 玄関でとりあえずあらすじを話して体中べっとり付いた血をシャワーで流す。

 もちろん先に青髪の少女を入らせる。いまだに体が動かないのでユウと一緒に入ってもらった……狭いと思うが。

 そのあとにボクが入った。

 正直、少女が一緒に入ろうと言った時は大変だった。

 ユウは騒ぐし……少女は真顔でなんで? って顔するし……。ボクは男なのに……。

 そのことに落胆しながらも、説明したら思いだした様な顔でした。

 少女がユウとお風呂に入っている間にボクは血で濡れた床や玄関の掃除をした。


 そして少女が出て、ボクが入る。

 中はお湯の方は別に血塗られていなかったが、タイルの血が目立ったのは言うまでもない。脱衣所の床に敷いてあるカーペットも血で汚れていたが……。

 そして今に至る訳です。

 テーブルにはユウ特製ヤキソバが並んでいる。


「お兄ちゃん……。つまり混乱しているところをうまくのせられちゃったってことだよね?」

「面目ないです……」


 当の本人はヤキソバをつついている。

 そして……、


「このヤキソバおいしいわね。はじめて食べる味……」


 と言ってそれについついのせられてしまうユウ。


「そうでしょ♪ そうでしょ~♪ お兄ちゃんを想って作ったんだから♪ おいしくならないはずがないもん♪」


(ユウ。さっきまでの話はどこに……?)


 するとユウはこちらにビシッとお箸を突き付ける。


「まぁ夕ご飯にその話は無しにしよ♪」

「思考を読まないで……」


 どうして我が家の家族はボクの考えがわかるのだろう……。

 するとそれを見ていた少女が感心していた。


「すごい……。思考が読めるんだ……」

「お母さんにお兄ちゃん思考回路言葉を教えてもらったんだよ♪」

「へぇ。そんなのがあるんだ」

「ないよ! 断じてそんなの無いよ!」


 現実にあったら怖いからね!?


「実際読んでいるのだからあきらめなさい」

「え!? あきらめたくないんだけど!?」

「あとで私にも教えてくれないかしら?」

「ちょ、教わろうとしないでよ!」

「う~ん♪ 無理かな♪」

「それは残念ね」

「残念がるな! そして諦め早くないですか!?」

「あはは♪ ……?」


 ボクが少女の反応に突っ込んでいると、いきなり首をかしげたユウ。


「どうかしたの?」


 リクはユウに言ってみたけど、返ってきた言葉は……。




「自己紹介して無くない?」




…………あ。


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