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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第五章 自由という名の者による襲来
39/96

 Intermission 赤砂ユウ


「…………」


 暗い部屋。

 そこは石畳に石の壁。

 しかもその壁には、先ほどと同じような魔法陣が刻まれている。

 つまり魔力吸収部屋。

 儀式の部屋……。

 先ほどの部屋とは別にあるところ。

 そして死刑部屋といってもいいような部屋に――


 ――ユウはいた。


「ったく。こんな映像を母さんに送ってどうするのかな?」


 ユウは一人、誰にともなく話しかける。返事が返ってくるはずもな……くは無かった


『見せるのだろう?』


 実はこの、ユウの中にいる炎帝の武装神だったりする。

 名前はエングス。ユウはエンって読んでる。

 付き合いは、魔法を知ってからの十五年。

 つまり、生まれた時からである。


「多分お兄ちゃん……って言うか雑賀に見せたんだろうけど」

『それ以外に何がある?』

「う~んと……さぁ?」


 特にないかなぁなど笑い話のように話し、この部屋を後にする。

 これ以上ここにいて見つかるのは避けたい。

 別に今の格好はジーダスの衛兵の格好だからすぐには気付かれないだろうが、それでも完璧に気づかれないためにはカメラと人をなるべく避ける必要がある。

 そうしていると、前からコツっ、コツっと一定のリズムを刻みながら足音が近づいてくる。

 その足音はユウの目の前で止まった。


「ん? 君はどこの隊だ? ここには開かずの扉以外にはないだろう? 何をしにここへ来たんだ?」


 話しかけてきた男には写真でだが見覚えがあった。


(やばっ。よりによって副幹部長に会うだなんて……)


 そう、目の前にいるこいつが副幹部長、地粛(ちしゅく)(ひつぎ)

 幹部に支給される白いコートを羽織り、見下した目でユウを見るのが特徴な男だ。


「まさか中を見れたんじゃないだろうな?」


 答えなかったからだろうか? 疑いの眼差しをかけている。


「いえ、見れませんでした。ここに配属されたのが最近で、噂を聞いて来てみただけですから……」


 でっちあげだ。だけどこれは仕事で設定されたのだから、これを貫き通せば何とかいけるかもしれない。


「ほぅ……。新人か。顔に見覚えがないのも納得だ」


 そう言いながら手に持っていた紙をペラペラとめくる。

 名簿だろうか? 名前がたくさん書いてある。


「なんていう名前だ? どこの隊かも答えろ」

(!?)


 名前は言えるけど隊は言えない! ユウは隊までは聞いていないことにいまさらながら気づく。


「えっと……楽涯(らくがい)悠里(ゆうり)。隊は……どこだったかな~?」


 はははっと笑いながら誤魔化そうとして見るが……。


「隊を忘れるバカ者がいる訳ないだろう。入社とともに手帳を貰ったはずだ。出せば載っているだろう?」


 初耳です……。にしても手帳も持っていないんですけどーーーー!!

 どうしたら……。ここでやってしまおうか……?

 そう考えたユウの行動は迅速だった。右手を見えないように虚空に伸ばす。それだけで武器を呼び出し、斬りつけることが簡単だ。


「どうした、言えないのか? 言えなければスパイとみなし、今すぐここで縛りつけ、ボスに献上する」

(今しかない!)


 ユウは手に魔力を収縮させて――、


「待ってください!」

「え?」

「…………」


 声を上げたのは白衣を着ていて、眼鏡をつけている。

 ごく一般的な風貌の男だった。


「なんだ?」

「彼は私の隊の者です。しっかりと働いており、一部始終見ていましたが、()のうっかりは日頃からです」

「……どこの隊だ」

「はい。第九番隊です」


 そう言われると、パラパラとめくって九番隊のところを見ているのだろう。


「…………。確かに名前が載っている。写真も同じ。魔力気配も同じ……。良いだろう。行け」

「は~い」


 棺の顔が険しくなる。


「り、了解です!」


 男がユウの手を引いてそそくさと棺の前から一緒に消えた。

 引かれていくまま、九番隊の地区に入ってもまだ手を引いて行く。


『いいのか? こいつ、明らかにおかしいぞ? ユウがここへ来たのは昨日だ。そうそう……』

(う~ん。まぁ良いかなって。男装バレ無くてよかった~)


 男装をしている理由としてはジーダス本部には女が一人を除いておらず、女で潜入するとかなり怪しがられる可能性があるからである。

 一人の女に今のところ遭遇はしていないのだが……。


『男装の問題か? ユウは元々むn――何でもない。何もしなくても可愛い系の男子と捉えられる事も無くは無いからな』


 そうしていると、いつの間にか部屋に連れられていた。別にユウの部屋ではない。おそらくこの男の部屋だろう。

 何を話すべきか……と考えていると、男の方から話しかけてきた。


「あの……大丈夫でしたか?」

「!?」


 そっか……なるほどね。

 わかってしまったユウは口元を緩ませた。

 彼は心配する言葉ともに、机から引き出しを開け、紙を取り出してきたのだ。

 その紙に使われているハンコが自分の組織のハンコだったのだ。

 つまり彼はユウと同じ、スパイ。


「大丈夫。もう少しでやってしまうところだったけどねぇ♪」

「あははは……それは何よりです」

「にしても、どうして自分が君と同じだって気づいたの?」

「えっと……。追加任務でもう一人、白銀の髪をした少女を向かわせるって聞いたものですから……」


 ユウは何も聞いていなかったけど。……さてはさぼったな?

 内で上司に怒りを表すユウ。それに彼は苦笑をする。何に怒っているのかわかったのだろう。

 とすると彼も同じ『会』か。


「あなた。名は?」


 さきほどより興味を持ったので聞いてみた。


「な、名前ですか? その……。行橋(ゆくはし)雁也(かりや)って言います」

「そう……。雁也君、何歳?」

「えっと……今年で19ですね」


 高校を卒業したばかりか……。


「好きなエ○本は?」

「そりゃあもうきょ――って何言わせようとしているんですか!?」


 そういえばこの部屋って他の部屋と違う感じがする……。

 ん?

 雁也の言葉をスルーした理由?

 だってユウの敵じゃん。大きい物のどこがいいのかね。


『心の涙が流れておるぞ?』

(なんか言った?)

『…………』


 雁也は疲れ気味にため息をついて聞いてきた。


「あなたは何ていう名前なんです?」

「ユウ?」

「なぜ疑問形なのですか……?」

「? ああ。今のは自分? って意味だよ?」


 何も考えずに言うとやっぱり自分の事をユウって言っちゃう……。

 これだからスパイって嫌いなんだよなぁ。身を隠すのにユウは敵してない。


「そ、そうですか……。ユウさん……。あれ? どこかで聞いたことがあるような……」

「まぁ良いでしょ♪」


 同じ組織で働いててしかも同じ『会』で働いてるのに聞いてなかったら逆にこっちが驚くよ……。

 まぁ今は思いだせなくて好都合だしね。思いだして騒がれても困る。


「わかりました。ところで報告があるのですが」

「? どうしてそこまでかしこまってるの?」

「いえ、これが性分なんで……。ダメでしょうか?」


 いつの間にかオドオドした感じが無くなっている彼。ちょっと人見知りだったのかもしれないね。


「ううん。別にいいよ。ところで報告って?」

「はい。表の報告書ではジーダスは基本人助けをしておりますが、裏の報告書の方が表よりも多く、何度も儀式で人の命を奪っているようです」


 裏って言うと……殺しの方か……。

 しかもそっちの方が多いってどういうことよ。


「しかし、裏の報告書は9年前から突如始まったようで、それまでは表の報告書しか載っておりません」


 ……ん? どういうこと?

 確かジーダスの創立って今から40年前ぐらいからだったような……。

 つまり31年目にして何かがあった……?


「31年目の記録は全部調べた?」

「はい。調べたのですが……特に怪しい物は見つからず、9年以上前から働いている人に聞いたところ、特に大きなことは無かったとのこと」


 そうかぁ。じゃあ誰もいなかったときにボス自身に何かがあったとしか言えない。

 それも9年間ばれることなく……。


「って聞いて回って怪しまれたらどうするの?」

「さりげなく聞いていますから」

「じゃあ逆に嘘をつかれているって可能性は?」


 そう言うと、雁也はそれを待っていたかのように自信満々にして言った。


「私の魔眼(、、)、〈レアリーダウト〉の前では嘘を見抜くことなど簡単です。見抜くことしかできないのが欠点ですが……」

「ふ~ん。魔眼ね~……? 魔眼保持者!?」


 小声で驚く。


 魔眼保持者……。それは目に元々宿る魔力を使う者たち。

 数がもとから少なく、見られることなど滅多に無いが、魔眼の力は保障される。

 一人につき右目、左目と左右で一つずつ能力を持つ。


 そのため、魔眼保持者は基本オッドアイ。

 オッドアイではないと左右両方とも同じ能力ということだ。

 だからといって油断はならない。

 その分強くなるということなんだから。

 雁也はおそらく、カラーコンタクトを入れているのだろう。

 よく目を凝らすと、眼の色が微妙に違う事がわかる。

 まさか魔眼保持者がユウと同じ会にいたなんて……。


「そういうことで、私の話は信じてもらえたでしょうか?」

「う~ん。無理」

『そこは信じるところではないのか……?』


 嘘。ユウは彼を試した。ホントにそんな力を持っているのか、と……。

 そして彼は見事に嘘だと見破った。


「信じてもらえて何よりです」

「嘘つけない人の前じゃとってもやりにくいね~♪」

「ところで……ユウさんは……」

「? 何?」


 彼は一間(ひとま)置く。

 そして真剣な瞳で聞いてきた。


「あなたは人殺し、又は殺す予定ですか?」


 その質問にユウはためらいなく……。


「ジーダスの親玉は殺す予定ね~。後、人殺しなんてこれまで何度もしてきたよ♪」

「……なぜ……嘘をつくのです?」


 彼は困惑している。当然だろう。

 嘘でこんなことを言うのだ。

 嘘で最低な事を言うのだ。

 そして嘘を見抜ける人の前で言うのだ。

 だからユウは迷っている彼に、こうやって言葉を使った。



「否定の否定だから強い肯定ってこと♪」



 ユウは彼に向って笑顔で言った。


『おまえの口癖だな』

(まぁね♪ エンはよくユウのことみてるな~)


 彼は、顔を赤くしながら言った。


「そう……ですか。よかったです……」

「あ、そうそう。一つ頼まれてくれないかな? 内容はね――」


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