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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第五章 自由という名の者による襲来
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黒き舞姫(ブラックダンサー)


 真陽に連れてこられた場所は、雑賀の家から離れて数十分のところの平地であった。

 周りにはなにもなく、雑草が少し生えている程度で十分に走り回れる広さだ。

 もはや日は完全に落ち、かわりに月明かりだけであるが、少し暗いと感じるだけで結構明るい。

 それを感じさせてくれるのは、真陽の持っている黒剣だ。

 月明かりを感じて、異様な力が見えるような感じがする。


「私が教えられることには限りがあるからねぇ。まず、リクがどのように戦うのか見させてもらおうかぁ。教えるのは明日からにしようかねぇ」


 真陽はそう言って高らかに手を空へと向ける。


「〈認識阻害・フィールド型〉」


 魔法を唱える。

 するとどうだろうか?

 膜のような何かがこの平地を横から上、すべてをドーム状に包み込んだ。


「これでよしっとぉ。存分に暴れてくれていいよぉ。結界をしたから外には音や衝撃や私たちが見えないからねぇ」


 つまり全力を出せ……ということか。

 元からそのつもりです。

 ボクは戦うためにルナを呼び出す。


「ルナ」


 すると横に出てくるルナ。

 ボクと真陽さんを一瞥して、ふむっと、うなる。


「戦闘か? 主」

「うん。模擬戦だけど、全力を出すよ」

「模擬戦とな。よかろう」


 真陽さんは黒剣を抜く。

「少し……。本気を出さないといけないかもねぇ。神の断片が相手だと……。カナちゃんも、神を使っている(、、、、、)からなんとなく力はわかるけどねぇ。しかしぃ、あの神の断片がもしかして……」


 真陽さんの声はボクのところに届かず、消えてしまっている。

 ボクはルナに武器になるように言って戦闘態勢をとる。

 といっても右足を少し前に、左足を少し下げて、腰を少し落とす程度だけど……。

 手の中には一刀の刀が握られる。


 ……あれ?

 昼間に使っていた時と少し違うような気がする。

 刀身から淡い光(、、、)が漏れているから気づかないはずがなかった。

 昼間は明るかったから気づかなかっただけ?

 でも淡い光が漏れていたら気づくはずだけど……。

 明日ぐらいに調べてみようと思った。


 今は真陽。ここに来るまでに、真陽の二つ名や英名のことも聞いておいた。

 英名持ちは魔法使いの最強に立つ者達だ。初めから本気でやらないと、本気を出す前にこちらがやられてしまう。

 ならば……。


「初めから使うよルナ! 〈スノウ〉」


 雪を散らす。

 真陽との戦闘が始まった。


「……戦闘には向かない魔法。つまり布石か。夜には寒いが特にそれ以外には問題ない」


 真陽の言葉が真剣そのものになっている。

 夜だと雪が溶けるスピードは落ちる。

 それまで持つかな……?

 いや、持たせよう。


「属性は氷か。カナちゃんの子だね。しかし、雪属性には程遠いか……。まぁ一日目だしねぇ」


 真陽さんはまだその場を動かない。

 というよりも自然体でいるため、隙だらけに見える。

 でも異様な魔力が集まっていて迂闊(うかつ)に近づけない。


 そうこうして時間が経つと放った粉雪が解けてきて、水がどんどん宙に浮いてきた。

 ……いくら夏だからってこんなに早く解けるもの?

 その状態におかしいと思いつつも、ボクは準備ができた事を知る。


「ルナ。いける?」

『うむ。いけるぞ。しかし、気をつけろリク。あやつ、迎え撃つ気じゃ』

「ありがと……〈一の太刀 鏡花水月〉。やらなくちゃ始まらない。行きますよ真陽さん!!」


 真陽は口元を少し緩ませて、自然体の態勢から、武器をかまえた。


「本気で来い。じゃなければケガをするぞ?」


 彼女は眼を細める。

 風が吹いたと思ったら少しづつだが白髪だった髪の色がだんだん、黒く染まっていく。

 黒く染まっていくことにより、先ほどよりも高い魔力を真陽から感じる。


『なるほどのぅ』

「え? なに? 色が変わったことに何かあるの?」

『うむ。魔力を完全開放したということじゃ』


 完全開放?

 つまり自分の魔力を完全に開放しているということか……。

 そのまんまだね……。


 今日の午前中で習ったところだからちょっとは知っていた。

 たしか、完全開放すると外見の何かが変わるって言うけど、真陽の場合、髪色が変わるのか。

 だがそれだけではなかった。

 真陽の服もまた変わっていたのだ。

 学校に居た時の服から和をイメージする黒き舞姫の姿へ。

 でもボクは恐れない。

 一度やると決めたんだ。

 最後まで真剣にやって見せる!


「はあぁぁぁ!!」


 真正面から突っ込む。

 もちろん幻影が。


「正面から来てはすぐやられるぞ? 〈真影弾〉」


 黒に近い丸い玉がボクに当たる。

 ボクの幻影は揺らぐ。だが完全には消えていない。

 もちろん鏡花水月を使っているため、ボクはそんなところにいない。

 ちなみに鏡花水月は相手が見えている場所とボクがいる場所は全くもって違う魔法。

 魔力は発動している空域全土にあるため、魔力でボクを探すことはできない。

 真陽はどうやってこれを見破るのだろうか?


「……厄介な魔法だねぇ……。だが……」


 ボクは真陽さんに切りかかった。

 それを彼女は――



 ――腕で止めた。


「え!?」

『なんと!!』


 驚くボクらと対照的に真陽は……。


「魔力を切り裂きながらの斬撃か……。しかし、刀身を切り裂けないようにすれば魔力は切り裂けないと……。なるほどねぇ」


 彼女は冷静に解析、打開策を見つけた。

 始まってすぐで……。

 でもまず、おかしいのがこちらの動きが見えていなかったのにどうやってこちらの動きを見切ったのか。

 これを掴めなければ刀を止めることは一の確率も出てこない。

 と、そこまで考えたのは一瞬。

 次にはすでに彼女の剣が横振りに放ってくるからである。ボクはそれを後方に跳んで避けたが服がかする。

 そしてそこで彼女が追撃してくる。その場を動かずに。


「〈ブラックスネーク〉」


 複数の黒い蛇が襲ってくる。ボクはそれを刀で切りはらう。


「少し剣術も教えた方がいいかもしれないね。基本はできてることに驚きだけど……」

「くっ。どうしよ……やっぱり強いな~。真陽さん」

『主』

「ん? なに?」

『距離をとるのはまずいと思うぞ? なにせこちらには遠距離魔法が……』

「ないの?」

『うむ。妾が刀のときは妾自身が魔法を発動できぬからのぅ。主はまだ、魔法はほとんど知らんじゃろ?』


 ほとんど知らないって言うか、知りません。

 使えるのだって〈スノウ〉と〈一の太刀 鏡花水月〉しかしらないし、だからといって刀で応戦しても技量は明らかに向こうのほうが上だ。

 勝てる要素が見当たらない。

 どうしたものか……。

 ん? ちょっと待って。


(ルナ。元の姿に戻って、遠距離魔法でボクは近距離魔法で攻撃ってできないかな?)

『……いい案じゃが、真陽は主を試しておるのじゃろ? 妾は元には戻らない方がよいと思うぞ?』


 明らかに考えてボクの方がいいと思ったのでルナの案は何か変だと考えて、メリット、デメリットを比較して、一つの答えを導き出した。

 その答えとは……。


(ねぇルナ)

『……なんじゃ?』

(もしかして……。いや、もしかしなくても……。人間の姿になって戦うの、めんどくさがってる?)

『……なんのことじゃ?』


 ルナが横を向きながら口笛を吹くという絵が見えてくる。

 おそらく図星だろう。


 そういえばルナは緊急のときのみしか人型になって戦うようなこと言っていた。

 ……これが理由ですか。


『し、仕方ないであろう!! 妾がリクの体から外に出ると、なぜか妾の魔力の消費量が激しいのじゃ!! それゆえ妾はあまりリクの体から外にでとうない!』


 魔力の消費が激しい? なんで?

 なにか別の力が働いているってこと?


『じゃからその……。このままでよいか? 別に命の危険がある訳ではないのだ』


 仕方ない……か……。

 ボクだけでもなんとかしてみる事とした。

 こちらは戦闘初心者。向こうは熟練者。しかも英名持ち。勝てる見込みは無いがせめて一歩だけでも動かしたい。

 そう……。一歩でも……。

 彼女は一歩も動かないままボクを追い込んだ。

 それだけ力の差があるということだ。

 それは彼女は本来、舞いながら剣を振るう姿から【黒き舞姫】と、世間一般に知らされていると聞いた。

 今、彼女は一歩も動いていないし、剣も振るっていないからこそ言えること、だったら――。




「一撃で決める。正々堂々、真正面から」


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