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ヒスティマⅠ(修正版)  作者: 長谷川 レン
第五章 自由という名の者による襲来
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儀式



「天童さん。人が入ってきました。あれは……ボス?」


 妃鈴が映像に移った男の人を指差す。

 ボクは当たり前のようにジーダスを統治する人を知らなかったのでその男を記憶する。

 そしてキリはその男を見て言葉を漏らした。


「こいつ……ちょび髭に髪の一部がハゲでまぶしいな……おもしれぇ奴」

「ちょ、何言っているんですか、キリさん!!」

「俺も初めて会ったとき、そう思ったところだ」

「雑賀さんも!?」

「はずかしながら私も……」

「妃鈴さんまで!? 失礼じゃない!?」

「私は最近あれに馴れちゃったからあれだけじゃ笑えないわね」

「そういう問題ですか!?」

「そういう問題よ?」

「さも当然と言わんばかりに聞き返さないでくださいよ!」


 ソウナもまさか笑いの方面で捉えていたことに内心以外と思いながら、映像を見ていると、何やら、ボスの人以外にももう一人、男の人が入ってきている。


「おい。これからこいつは何をする気だ? 人を連れているぞ? 」

「この魔法陣も気になります」

「ああ。そして連れているこいつは俺の事務所から卒業仕事を請け負った奴……? 卒業仕事? ……たしか――」


 ブツブツ言い始めた雑賀。

 そしてその表情は少しずつ悪くなっていった。

 そして怖々とした声で口にした。


「ま……まさか……ユウちゃんが言っていた、ヒントの……卒業仕事を請けた人がそのあと会えなくなるって……!!」

「雑賀さん。多分あなたの考えている物であっていると思うわ。最後まで見てけば嫌でもわかると思うけど。今からでは間に合わないわ」

「――ッ!」


 ソウナの正解宣言とともにダッシュで出ていこうとする彼をキリがとめた。


「そこをどけ!! 今すぐにいかなくては!!」


 こんなに焦る雑賀……見たことない。


「どこにだよ。今そこでソウナの言葉聞いたか? 見てけよ。もう、手遅れなんだろ?」


 雑賀に思いっきし引っ張って止める。


「お前はあれが何か――」

「分かったから止めてんだよ。今から行ってもおせぇと俺もわかった」


 雑賀の言葉を途中で切るキリ。

 その言葉で雑賀は少し大人しく……。


「クソッ!!」


 ガァンッと壁を蹴る。

 いつもは冷静にしてそうなのに感情がかなり揺らいでしまっている。

 一体どうしたんだろ?

 あれに何かあるのかな?

 妃鈴もボクと一緒になって首をかしげる。


「キリ君も、わかったの?」


 ソウナが雑賀さんが止まったのを見計らってキリに質問した。

 それをキリは指をさしながら、冷静に答える。


「ああ。それは儀式だ」

「儀式?」

「まさか!!」


 妃鈴は分かったようだ。

 ボクはまだわからない。

 母さんが出した映像のような物の中で男の人とボスが話し合って男の人が激怒してボスに襲い掛かったが、一瞬にして地に崩れ落ちた。

 意識が失ったようで、横に倒れた。

 そこで四肢を鎖で結ばれて体に無数の傷を負わされた。

 出てきた血は彫られていた線に流れ込んだ。


 その後、ボスが口を動かし、魔法陣が赤い血色で不気味に光った。

 それと同時に一人が目をさまし、のたれうちまわる。

 苦痛に顔を歪ませて、焦点の合わない瞳を見開いて、手足をばたつかせ、口を大きく開ける。

 おそらく苦痛の声を発しているだろう。

 しばらくその状態が続くと魔法陣の輝きが消えて儀式が終わったことを知る。

 儀式が終わった後、男の人はピクリとも動かない。


「あの……あの人は?」


 動かない男の人を不思議に思い、聞いてみると……。


「死んだ」


 と簡潔な言葉が帰ってきた。


「え!? 仲間じゃないの!?」


 だってそうだろう。

 普通仲間にそんなこと――


「見ていれば嫌でもわかっただろ。するらしいぜ。あいつは」


 キリの言葉で思考を阻まれる。

 顔は今でも笑顔でいるが、言葉が重かった。

 正反対のことが二つ同時に現れて、その言葉が印象付けられる。


「う……嘘……。ひどい……仲間の……はずなのに……!!」


 この感情は、到底、隠せるものではなかった。


「天童さん……」


 妃鈴が雑賀の側に寄り、肩に手を乗せる。


「……すまない、妃鈴。まさか、こんなことで……。俺の、部下が……」

「天童さんの所為ではありません。私も、彼の卒業仕事をする理由には納得してしまいましたから……」

「卒業仕事の事を調べる事が出来ていたら……。初めから送りはしなかったのに……」


 手を取りあう二人。

 ソウナが言うには雑賀は自分の部下たちを端から端まで全員を可愛がっているらしい。

 そんな中、何もできずに自分の部下を殺されたのはこたえたのだろう。


「雑賀さん……」

「あの野郎……」


 ボクは雑賀に同情を、キリはボスに対して怒りを感じていた。

 どうしてこうなったのか。

 全ての元凶、ボスがいまだに映像の中に居る。

 別段笑っているわけでもなく、だからと言って沈みもしていない。

 どちらかと言うと口元を緩ませてにやにやとしている。

 人の命を奪っておいて……。


「…………」

「?」


 そうしてボスを見ていると、ソウナがそのボスに向ける目線に気がついた。


「ソウナさん?」

「…………」

「あの、ソウナさん」


 気づいていないソウナの肩触れると、


「ひゃっ!」


 驚いたようで体をビクッと振るわせた。


「あ! ご、ごめんなさい……」


 ボクはとっさに謝る。悪気があってやったわけじゃないから……。


「あ……リク君? 大丈夫よ。ちょっとビックリしただけだから……。それで、何かようかしら?」


 ソウナはするに気を取り直してボクに聞いてきた。

 ボクはそれに感謝をして、聞いてみた。


「あの、ボスと何かあったんですか?」

「何か? 何かって……何のことかしら?」

「えっと……。なんて言うんでしょう? なんか見る目に感情が入っていたって言うのかな? 敵意とかじゃなくて、もっと別の……」


 温かい目だったような……。


「!? えっと……そ、そんなことは無いわ。私は普通に見ていただけだから」


 見ていただけ……か。

 ソウナが言いたくないならボクも聞かない事とする。

 いつか話してくれると信じて。


「リク君……。ありがと」

「何の話です?」

「ふふ。なんでもないわ」


 微笑むように笑うソウナにボクは少しドキリとする。


「? どうかしたの?」

「い、いえ! 何でもないです……」


 ソウナの目線から逃げるように周りを見ると、キリが消えて行った映像を見ながら言った。


「なぁ。こいつ。俺達でブッ潰さねぇか?」

「ほぅ……」


 雑賀が感心したような目でキリを見る。


「ですが、あなた達のような学生に手を貸していただく訳には……」

「そうだな。悪いがこれは大人の仕事だ。君たちには参加しないでほしい」


 キリの言葉を否定して、学生の参加を拒否する二人。

 だけどキリには引けない理由があるそうで……。


「悪いな。俺は俺で別の用事がある。だから嫌でも一緒に行かせて貰う」


 そういうキリの瞳は雑賀を思いっきり見据えていて……。


「……ったく。わかったよ。だが、こちらの命令は全て聞いてもらう」

「嫌と言ったら?」

「何?」


 雑賀の目がキリの目を鋭くとらえる。この部屋に冷たい空気が流れ込む。

 二人の睨み合いが部屋を凍らせる。

 火花が散っている訳ではない。それが逆に部屋を冷やすことになっているのだが……。

 まるで冷戦だ。


「つまり逆らうか? 仙道キリ」

「いつでも相手になってやるぜ? 天童雑賀」


 どちらも引くつもりは無いらしい……。

 ならば第三者であるボクが止めないと。


「さ、雑賀さん! キリさんはボクが見てますから安心してください」

「だが……これは命にかかわる。ましてやリクちゃんは俺達が守る身。関わっているとはいえ、リクちゃんに危険の疑いがあるキリを任せる訳には……」


 雑賀はまだキリの事を信用していないようだ。


「そうだぜリク。俺はリクのお守をする気は……ねぇから」


 どうして今、間があったのだろうか?

 やっぱりキリは優しいと言うか……。

 ボクはそのことにキリの顔を見てにこりとするとキリは気まずそうにして顔を逸らした。


「…………ッ」

「天童さん。これは逆手にとれるのでは?」

「わかっている。わかっているが……」


 声が震えている雑賀。妃鈴はなんとかなだめている。

 椅子の上で手を握って振るえている雑賀の反応がよくわからないが、妃鈴はそれを何とか説得しているようだった。


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