トラブルメーカー
母さんの爆弾発言らしい言葉から意識を取り戻した三人は一旦雑賀の家に入ってもらってボクと母さんも後に続いた。
母さんの乗ってきた車の運転手さんはカナの後ろにずっと控えていた。
「おかえりなさ…………」
・・・・・・。
「随分と人数が多いのね」
「あははは……。でも悪い人達じゃないから」
「そう。リク君が言うならそうなのかもしれないわね」
ソウナは初め白い目でボクを見てきたが、なんとか納得してくれたみたいだ。
リビングに集まると、最初に雑賀が説明を求めてきた。
「どうしてここに……あなた様のような人が……?」
母さんは相変わらず楽しそうにしていてソファーで遊びながら返してきた。
「家族がいるところにはどこにでも現れるわ♪」
(母さん……ホントにありそうなのでやめてください……)
心の中で強く思うと母さんがジーっと見てくる。
「な、なんですか……?」
「ま、いいわ♪ それよりリクちゃ~ん♪ この人たち紹介してよ~♪ 私こわ~い♪」
「嘘つかないでください!! 母さんに怖いものなんてないでしょ!?」
「あるわよ~♪ 例えばヤクザのおいちゃん達~♪」
「ボクがからまれていたときに普通に倒しちゃう人が言う台詞じゃありません!!」
「う~ん♪ ほかには~♪ ルール♪」
「守ってください!!」
「いや♪」
「いや♪ じゃないです!!」
「早く紹介してよ~♪」
「母さんが変なこと言わなかったらもうとっくに紹介していましたよ!!」
「はやく~♪」
雑賀が写真を撮っていたから手短にあった鉄の棒を――
「まて!? 鉄の棒はそこらへんに落ちているはずぐふぁ!」
投げておいた。
撮っていた理由?
それは母さんがまるで子供のようにボクの袖をグイグイ引っ張っているからです。
……年……考えてください。
「リクちゃん♪ 地中に埋まりたい?」
笑顔で言う母さん。怖いです。かなり怖いです……。
「ごめんなさい……謝るから、やめてください……」
「そう♪ じゃあ紹介してよ♪」
「わかりましたよ……。まず、こちらはちょっと訳ありだけど……。ソウナ・E・ハウスニルさん。こっちの男の人はボクのクラスメイトの仙道キリさんで、二つ名は【一匹狼】です。ソウナさん。キリさん。こちらはボクの母さんです。名前は赤砂カナって言うんです」
「よろしくね♪」
「よろしくお願いします」
「ああ」
ソウナと母さん、キリと母さんが握手をする。
キリと母さんはなんか……かなり合わない二人にみえる……。
客観的に見て。かなり……変。
「こっちに倒れているのが雑賀さん。二つ名は変態でいいです」
「おい。どんな紹介だ! 俺の二つ名は【疾風の英知】だ!! それに俺だけはぶられてるよ!?」
……復活……早いんですね。
次は投げるものもっと重いのにしなきゃ……。
「ちょっと待って! 今考えたでしょ!? もっと重くしなきゃって考えたでしょ!?」
「そうですけど?」
「何当たり前です的な感じの顔で言ってるの!? どう考えても俺はしんでしまうぞ!?」
「あははは。雑賀さんはそれくらいで死なないって信じてますから」
「そんな信用のされ方は絶対に嫌だぞ!?」
そして……変態のくせになんかかっこいい二つ名だね。
英知? 雑賀がそんなに頭いいとは思えないです。
「よろしく♪ 変態さん♪」
「家族一家にほとんど変態呼ばわりされた……。これでリクの父親にまで言われたらコンプリートだな……」
父さん?
「そういえば、私はリク君の父親に会ったことは無いわね」
「ボクもあったこと無いです」
「そうなの?」
ソウナが意外そうな顔をする。
ボクが物心ついたころからいなかったし……。
どんな人なんだろ?
かっこいい人?
かっこ悪い人?
怖い人?
優しい人?
まさか……ね。
父さんまでこの世界にかかわっているわけじゃいないよね……。
絶対ない。
絶対ないったらないの!
「お父さん? ふふん♪ あの人ほどカッコよくて強い人なんていないわ♪ 今だって有名でね♪ いつも家を開けちゃってるのは正直言ってムカつくけどあの人はフラフラ病のような物だからしょうがないって思ってるし、そういうところも含めて好きなんだもん♪ あぁ、今どこに居るのかしら♪」
なんか惚気言いだした……。
母さんのこう言う反応を見るとまるで恋する乙女に見えるが、残念ながらそんな年でも――
「あは♪」
「あ、あの……。その鉄の棒って……?」
「リクちゃん? 命が欲しくないのかしらぁ?」
「待って! 謝ります! 謝りますからそれ下してぇ!!」
片手に凶器を持って、満面の笑顔で言う母親ほど、怖い物は無いだろうと知ったのはこの日がはじめてだった……。
ボクは話を逸らそうと、もう一人いる自己紹介に移らせた。
「雑賀さん。そちらの人を紹介してもらえませんか? ボク……そちらの人のこと知らないので」
「ん? ああ。こいつは俺の秘書。今回は別の用事があってきたんだが……それどころじゃなくなったな……。名前は長城妃鈴。二つ名は【鉄の盾】だ」
「よろしくお願いします。リクちゃんにカナさん。キリさん」
かなり礼儀正しい人……。ボクの第一印象はそれだけで十分だった。
母さんは礼をした後、考え込み……。声を漏らした。
「それにしても……」
カナは一度、ボクをマジマジと見る。
「あ、あの……母さん? どうかしたの……?」
「む~……」
今度はボクに少しづつ近づき――、
「えい♪」
揉んできた。――胸を。
「ひゃッ」
こそばゆい神経を刺激する。
それはくすぐったくて、だけど不思議な感覚。今までに感じたことのない感覚だった。
「や、やめ……ふにゃあ! ……はぁ……はぁ。なにするんですか!? いきなり!! ……?」
カナは胸を揉んでいた手を離して、その手を自分の胸の前まで持ってくる。
そして二、三回グーパーを繰り返すと、母さんがボクを見てくる。
そして両手で顔を隠す。まるで泣いているように……?
「その胸はひどいわ! リクちゃん!!」
「はい!? 何言っているんですか!?」
「どうして私の娘なのに私よりあるのよ~。しくしく」
「しくしくって口で言っちゃった!! そしてボクは娘じゃありません!!」
「いつでもリクちゃんは娘として育ててきたわ♪」
「いつの間にか機嫌直った!? っていうか娘としてですか!? 確かに小学校のときとかスカートをはかされそうになったりしましたね!! そういう理由だったんですか!?」
「単純でしょ♪」
「単純とかそういう問題じゃないです!!」
「今もあるのよ~♪」
「なんで!?」
「一回足を通したことあるから~♪」
「はい!? 記憶にありませんよ!?」
「うん♪ 寝てるときにね?」
「はかせたんですか!? やめてくださいよ!!」
「写真もあるわ♪ ここに♪」
「もらえないだろうグハッ!!」
「何やってるんですか!?」
「ユウも持ってるわ♪」
「ユウも!?」
こうしてボクと母さんの口喧嘩――周りはカナは漫才などと思っている――が続く中……。
「リク君。かなり生き生きしてるわね……」
「……入り込むすきがねぇ……。入り込みたくもねぇけど……」
「ツッコミがすごい人って聞いていましたが……こうやって鍛えられたんですね……」
三人とも(順にソウナ、キリ、妃鈴)目の前の光景をみてそれぞれ思ったことを口にした。
三人ともが感心していた間、ボクはというと。
「はぁ……はぁ……」
母さんの変な発言の雨にずっと対抗していたため、疲れて果てていた。
(一部雑賀さんを蹴飛ばしてるけど……)
すると母さんが笑顔で言ってきた。
「うん♪ やっぱり、リクちゃんはそうでないとね~♪」
「え?」
母さんが自分の胸にボクを包み込むようにして、ボクの頭を押しあてた。
「母……さん?」
「あなたは考えすぎよ。いつもそう。今さっきもずっと考え込んでいた目だったわ。リクちゃんが契約した〝それ〟でしょう♪ 考え込んでばかりいたらいけないわ♪ 少しはユウちゃんを見習いなさい♪ そして、誰かを頼りなさい♪」
……母親ってなんでこう子供のことわかっちゃうんだろ……。
これが母親の懐ってことなんだろうか……?
親は子供の事をなんでもわかっちゃうんだね……。
「うん……」
卑怯だよ。ボクは母さんのこと全く知らないのに……。
いつも、ボクがなにか欲しいときに、欲しいものをくれる。
母さんはホント、すごい人だよ。
ボクの憧れだな……。
優しくて、人を引き付けていて、それでいて人を包み込むような人で、いつもボクたちを見守っているような気がして……。
胸は無いのに……。
「リクちゃん♪ 今から空飛んでみる?」
「え、遠慮しておきます……。ご、ごめんなさい!」
「しょうがない子ね~♪ じゃあぁ♪ リクちゃん♪ 今度私と個人レッスンね♪ 魔法の使い方を教えてあげるわ♪」
勘弁してください。ボクの頭の中で、母さんと二人っきりになって、まともなことはこれまで一度もありませんでしたので遠慮したいです。
「母さんがなあに♪」
「だから思考を読まないでよ!!」
「「「……普通無理じゃね(ない)?」」」
ちなみに雷属性をかなり極めると〈テレパシー〉を使うことができることが確認されているが、一方的に聞くことはできない。
つまり、話そうと思わないと声を出さずに話す事が出来ない。ロピアルズ魔法研究会(通称RMK)
え!? 今なんか変な説明入った!?
まぁ、いいですね。
細かいことは気にしないほうがいいです。
「にしても……俺以外みんなビップじゃねえか……」
「え? そんなこと無いと思うけど……。だってボクだって普通でしょ?」
「おまえルナいるだろ。普通じゃねぇよ」
ちょっと落ち込むキリ。
ボク自身もそんなことを言われるとは思ってもいなかったですけど。
ところで話は変わるけど自由な白銀の意味をそろそろ教えてもらえないだろうか?
「母さん。自由な白銀でなんでみんな驚くの?」
「え!? リク君の母は【自由な白銀】って言う二つ名なの!?」
ソウナが驚いてボクを見る。
ソウナも母さんの二つ名がどんなものかを知っているようだ。
すると母さんはボクに振り向いて、
「それはね♪ 私が可愛いからよ♪」
(さすが母さん……。自分の事を普通に可愛いという……)
おそらくこれは本気で言ってると思う。
当然だよね……。特に気にした風も無く。
「リクちゃん。それは妃鈴が説明してくれよう」
「わかりました。それでは……」
妃鈴さんが説明を始めてくれた。




