絶対に絶対です
「こっちがマクド○ルドで、こっちが本屋、むこうに――」
街中。
そこは地球と同じような店が並んでいて異世界に来たって実感がないものばかり。
しかし、店で使っている火や電気はなどは魔法で動いているらしい。
車も魔法で動いているらしい。
つまり空気が地球と比べてとてもおいしい。
街中なのに。
……魔法って地球温暖化対策になると思います。
全員が使えないのがタマの傷ですね。
「こんな感じかな~。わかった?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます」
「いいよ~。ウチがしたくてしただけだもん」
もう一度だけありがと、と礼を言って、自分の家――正確には雑賀さんの家だけど――のある方に向かっていく。
そこで見知った顔を見つけたので声をかけた。
「グレンさ~ん」
グレンは顔を左右に振って手を振っているボクを見つけたのか、こちらを見て走ってきた。
「リクちゃんじゃないか。こんなところでどうしたのかな……? こちらの人たちは?」
「は、初めまして! ウチ、篠桜マナっていいます」
「仙道キリだ」
「これはどうも。僕は彰楼グレン。二年生にあたります。よろしくね。篠桜さんに仙道さん」
丁寧に自己紹介をするグレンの格好はとても似合っていて、しかも制服姿であることからも、かなり美系になっている。
なんだかできるサラリーマンって感じだ。
「二人とも今日できた友達なんです。今、家に帰りながら街を案内してもらってるんです」
「なるほどね。よかったら僕も同行してもいいかな? 今から行くとこあるんだけどそんなに急いでないし、家に帰りながらって事は雑賀先輩の家に向かってるってことだよね。だったら近くもなるから。一人で向かってるとそれなりに寂しいしね」
と、グレンが同行許可を求めると、
「も、もちろんです! こちらこそよろしくお願いします!」
と、マナが慌てながら言った
さっきまで素の言葉を捨てて、かしこまっているマナに疑問を抱く。
キリを見ると、そんなに変わっていないと思いきや、ちょっと機嫌を損ねている。なんで?
そんなことを考えていると、マナはボクに近づいてきてコソコソと喋り出した。
「なんでグレン先輩と友達みたいなノリなの!?」
「え? みたいじゃなくて友達だよ? 昨日から」
「友達!? だってグレン先輩だよ!? 優しくて強いグレン先輩に憧れてるけど、なかなか話しだせなくて、いない扱いにしちゃうような人がたくさんいる人だよ!?」
……グレンさんが影薄い理由がこんな理由だったとは……。
あまり知りたくなかった。
「強さゆえ、ジーダスから入ってくれって頼まれた人だよ!?」
……意外とすごい人なんだ……グレンさん。
でも確かにグレンさんは学生なのにジーダスに入っている事はすごい事だと思う。
左胸のところにバッチついてるしね……今気づいたんだけど。
つまり、二年生で一番強いってことだよね。
「あの……グレンさん」
「どうかしたの?」
「バッチって校舎外でも付けていなきゃいけないんですか?」
付けていない方がボクにとってはいいなぁ……。
などと思ってみるが、叶わない夢であった。
「ああ。バッチの事は聞いたんだね。そうだよ。制服でいる間はずっとつけていないといけないんだ。……そういえば仙道キリさんだったよね?」
「ああ。なんだ?」
「僕が聞いたところ、君がバッチを持っているって聞いたんだけど……どうしたの? 付けていないといけないよ?」
「あぁ? 俺はもってねぇよ。今さっき戦って負けた」
「え!? そうなの? 一匹狼っていえば二年でも有名なのに……誰に負けたの?」
「そこの小さいのだよ」
ボクの方を見ながら言ってきた。
「誰が小さいのですかキリさん!!」
「だれもリクとは言ってねぇけどなぁ」
「う……でも思いっきしボクの方を見て言ったじゃないですか!!」
「なんのことだ?」
そっぽを向く。
追求しようとしたらグレンが説明を求めてきたのでやめざるをえなかった。
「リクちゃん……一匹狼倒したの? う、嘘だよね……? だってまだ魔法ならって一日目だよ? 一日もたっていないはずだよ?」
震えるグレン……ちょっと混乱している。
どうしようか。ボクが勝てたのはルナがいたから。
そしてボクの魔法をキリさんは知らなかったから。
二回目は……うん。普通に負けそう……。
「え……と……」
どうしたものか。
「いいじゃん。見せちゃえば。勝ったのは事実だし~」
「……はぁ。わかりましたよ……」
そういってポケットからバッチを取り出す。
「……ほんとだったんだ……」
グレンが呆けた。だからあまり見せたくなかったのに……。
雑賀に見せても同じ反応かな?
……ちょっと見てみたいかも……。
そして呆けた顔がみたい……。
いつもヘラヘラしてそうな、あの変態に!
少しでも復讐をしてみたい!!
「リ、リクちゃん? どうしたの? 右手を握りしめて……」
「ん? なんでもないよ♪」
「その笑顔が怖いんだけどな……」
ボソッとキリが何か呟いていたが無視した。
しばらくそんなくだらなくとも面白く話をしながら歩いて行くと、ある十字路で、まずマナが「家こっちだから」といって別れた。
グレンもちょっと先に行くとある事務所に入っていった。
おかげでいま一緒に歩いているのはキリさん、ただ一人だった。
「キリさんって家遠いんですね」
「ん? ああ。俺は街外れに住んでるからな」
「家族は一緒に住んでるの?」
「いや。俺一人だ。なんなら今から確かめるか?」
「……どうしましょう?」
「いや。普通に断われよ。おまえ、今は女なんだぞ?」
む……確かに断る場面か……。
しかし……。
「キリさんはそんなことしないって信じてるから」
と、言っておいた。
言葉はきつくても基本いい人だし、帰るの困ってたら助けてくれたし。
「わからんぜ? 俺が何するかなんてな」
まだ言うか。
よし。この際ハッキリ言っておこう。
ボクは右手をピストルの形にし、説明をするときのように顔の横に持ってきて、説明した。
「ボクが一度大丈夫と言ったら大丈夫なの。これは絶対に絶対なの」
「絶対に……絶対……だと?」
「うん♪」
「――ッ! …………それは反則だろ……」
ボソッと何かをつぶやくキリ。
それと同時にそっぽを向いた。
キリは耳まで顔が赤くなっているのだがリクは気がつかなかった。
「キリさん? よくそっちを向いているけどそっちには話している人はいませんよ?」
「い、いや。別にいいだろ。そんなこと」
ふられたくない事なんだろうか?
まぁ、いいや。家に着いたし。
「それじゃあキリさん」
「んあ? ……ここなのか?」
「まぁね。今は雑賀さんのとこに住んでるから」
「……もうついたのかよ……」
またボソッと言ったけど、よく聞こえなかった。
キリは意外と独り言が多いのかな? と、考えていると、天童家の、家の目の前に黒い車が止まった。
ガチャッと運転手の席から黒いスーツを着た女の人が出てきて、後方の席のドアを開けた。
そしてボクはその女の人の顔に見覚えがあるのを感じ、引き寄せられるようにしてその車に近づいた。
「どうした、リク? あの車がなんかあったのか?」
「まさか……いや……。こんなに早く帰ってきたことが今まで無かったのに……。しかもヒスティマに来るって……どうやってここに?」
その後方の席から出てくる人を予想した。
そしてその予想は良くも悪くもあたってしまった。
「リクちゃ~~~~~~~~~~ん♪」
「うわぁ!?」
ドアが完全に開くちょっと前で中から銀髪の少女が飛び出してきた。
狙いは――
ボクの腕の中――
見事に――
まっすぐ――
跳んできた――
――ものすごい速さで。
「グフッ!!」
お腹にダメージ。うん。とても痛かったです。
しばらく動けなかったがなんとかモチベーションを持ち直し、ボクはその飛び出してきた人物に向かって声を放った。
「――ッ、たぁぁ…………。なんでいきなり飛び出してくるんですか! ――母さん!」
「母だぁ!?」
キリがキャラに似合わずに声を上げた。
無理もないだろう。
ボクの親を見て驚かない人がいるだろうか?
むしろ妹だと勘違いされるのに……。
ボクに母と、呼ばれた人物。
つまり赤砂カナが顔を上げた。
「早めに仕事が終わったから帰って来たのよ~♪ ホントは半年ぐらいかかるはずだったんだけど~♪ 私が一日目にして早く帰りた~い♪ って言ったら一日で終わっちゃった♪」
「ちょ、ちょっと待ってください! 仕事!? 家出じゃないの!? そして仕事の内容は!? どうしてここに!?」
ボクの口を人差し指で抑える母さん。そして楽しそうに答えた。
「質問は一つにして頂戴♪ だれも家出だなんて言ってないわ♪ 内容は言えないわ♪ ここにいる理由なんてなんとなく気づいているはずよ♪」
結局全部言うんだ……。
確かに家出って言ってなかったね。
ボクの早とちりか。
内容とここにいる理由……なんだろ……。
まったく見当がつかないのですが……。
「お~い。リク~」
そうこうしていると、後ろからボクの義兄としている、雑賀の声がした。
ボクは振り向いて確認した。
雑賀と……もう一人?
女の人が雑賀と一緒に歩いてこちらに向かってきている。
ふと気になって、キリを見ると、固まっている。
意識あるのかな? ボクが母さんと言ったときからこんな感じだ。
母さんはボクの腕の中から雑賀さんを確認しようと――雑賀さんのいる反対側で抱きついていたので――顔を出したら……、
「な――ッ!」
雑賀が驚きを隠せないほどの驚愕の顔をした。
隣の人も声こそ出していないものの、顔は雑賀と同じ顔だった。
「あ~ぁ♪ バレちゃった?」
母さんはどこか楽しそうにそんなことを言ったのでボクは嫌な予感を覚えた。
だいたい母さんが楽しそうにすると――ほぼ毎日だが――ろくでもないことが起きる。
しかし、今回の悪い予感はボクが一番の被害者というより、この周りにいる人たちのようだ。
「お、おまえ……まさか……。いや、そんなはず……」
雑賀と女の人は足を、体ごと向いたボクの前で止めて、母さんと対面する形になった。
いまだにボクに抱きついたままだけど……。
と、そこで雑賀は青ざめた顔で、母さんを見ておそるおそる口にする。
「じ、じじ自由な白銀……。ふ、フリーダムシルバー……か……?」
「「え?」」
キリは意識を取り戻し、ボクと一緒に声を上げた。
しかし、その声に含まれた感情は少し違う。
ボクはその二つ名をマナちゃんから聞いたことがあるだけ。二つ名だけを。
キリはそれ以外にも、たくさんの事を知っていそうな感じ。
だから声を上げたのは、ボクは二つ名を母さんに言ったことに驚き、キリはおそらく、その二つ名自体に驚いたといったような言葉だった。
母さんが口を開く。
「今は都市伝説程度にしか覚えられて無いはずなのになぁ♪ 正解♪ 私は赤砂嘩来♪ リクちゃんと、ユウちゃんの母親で♪ 二つ名、自由な白銀で♪ 英名だとフリーダムシルバーなカナちゃんです♪」
母さんは堂々と、自己紹介を三人の前でした。
そしたら、キリと雑賀と女の人は、しばらくピクリとも動かなくなった。
ボクも混乱の間にずっといた。
母さんだけは元気にニコニコ笑顔でいただけだった。
絶対に絶対って言う言葉、定番だけど好きなんですよねぇ。私がw




